堂本剛「奉納演奏2024」インタビュー|14回目の平安神宮「奉納演奏」に懸ける思い

今年の春、“人生の新しいフィールド”へと歩みを進め、自身のクリエイティブプロジェクト.ENDRECHERI.としての活動を精力的に展開している堂本剛。45歳の誕生日を迎えた4月10日に行ったバースデーライブ「Birthday Premium Live」を機に、5月から6月にかけてライブツアー「.ENDRECHERI. LIVE TOUR 2024『RE』」を行い、その合間には音楽フェス「KOBE MELLOW CRUISE」に参加するなど、これまでにないほど活発な動きを見せている。

また秋には「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN」「LIVE AZUMA」「テレビ朝日ドリームフェスティバル」「GFEST.」など全国各地のライブイベントに出演。10月公開の映画「まる」では主演を務めているほか、「.ENDRECHERI./堂本剛」のダブルネーム名義で劇伴を手がけている。

八面六臂の活躍ぶりは「水を得た魚のよう」という表現が一番しっくりくるかもしれない。そんな堂本が2010年より行ってきた京都・平安神宮での奉納演奏が、今年は8月30日から9月1日にかけて行われる。堂本が平安神宮で奉納演奏を行うのは今回で14回目のこと。神社や寺院で執り行われる奉納演奏とは、神様に音楽を捧げること。堂本は2009年に故郷の奈良にある薬師寺で奉納公演を行ったことを皮切りに、2010年からは平安神宮で、2019年には奈良・東大寺で自らの音楽を捧げてきた。なぜ堂本はこれほどまでに奉納演奏に力を入れるのか。そこには、尽きせぬ平和への思いが関係していた。

取材・文 / 中野明子撮影 / 小暮和音(CONTRAST Inc.)

ライブ情報

平安神宮 奉納演奏2024

「平安神宮 奉納演奏 2024」ビジュアル

「平安神宮 奉納演奏 2024」ビジュアル

  • 2024年8月30日(金)京都府 平安神宮
  • 2024年8月31日(土)京都府 平安神宮
  • 2024年9月1日(日)京都府 平安神宮

公式サイト

※公演は台風のため中止となりました。

スイーツくらい世の中に平和と愛があふれていたら

──前回ナタリーにご登場いただいた際は新しいフィールドに向かわれる直前でしたが(参照:堂本剛が“人生の新しいフィールド”へ向かう心境とは)、いざ新しい環境の中で活動してみていかがですか?

素直に楽しいですね。今までに比べて、あまり多くの人を介することなく物事を進められるようになって、自分の思いがまっすぐに届くようになったという点ですごく気持ちいいです。コミュニケーションをするうえでもすごくポジティブになりましたし、その延長線上に自分のエンタテインメントがあるので、ピースフルな気持ちでステージに立てています。

堂本剛

──それは6月まで開催されていたツアーでも感じられました。加えてファンの方とのコミュニケーションが密になりましたよね。ファイナルではフランクに言葉を交わしたり、自由でアットホームな空気が漂ってました(参照:命の匂い立ち上る.ENDRECHERI.ファンクショー、10代未満から80代まで圧倒したツアー千秋楽)。

もちろん会場ごとにルールはあるので好き放題というわけにはいきませんし、参加される人の大きな協力が必要ですが、あのツアーでは自分なりに自由な場所を作れた実感があります。実際に僕自身が自由な姿を体現することで「ライブって自由に楽しんでいいんだ」と感じてもらえると思うんです。それが結果的に「人生は一度きりだし、自由に生きていい。自分を生きていいんだ」というメッセージにつながればいいなと考えてました。

──一方で、自由には責任が伴うとも言われますよね。

そうですね。自由って、ただ好きにしていいということではないんで。例えば隣の席の人にご迷惑をおかけしてるのに、自分だけが楽しんでいる状態というのは違う。そういう意味では、僕も一見するとステージ上で好き放題自由にやってるように見えて、ルールはちゃんと守っています。これはいいのかな? 大丈夫かな?とか神経を張り巡らせてますね。なんというか、僕はライブの空間においてはパーティの幹事みたいなもんなんです。

──幹事ですか。

好きに楽しく遊べる平和な空間を用意はします。「あの人飲み物足りてないな」「追加でごはんを頼んだほうがいいかな」とかいろいろ思いを巡らせて、場が楽しくなるようにする役割。その中でそれぞれが責任を持って楽しんでもらう。あと僕の“方程式”でいくと、自分が楽しんでいたら自ずと周りも楽しくなるんですよね。そして自分がポジティブに前に進んでいれば、誰かの勇気や力になる。その姿が全然響かないと言われたら仕方がないんですが。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

──その中で大切にしていることは?

分かち合うことですね。愛と一緒で、一方的に求めるのではなくお互いに与え合うことが大切。そのことを音楽で体感できる場を作るのが僕の役割なんです。皆さんが音楽を聴くことで解放されて、会場を出るときには平和な気持ちになって、ライブ前よりも少し大らかに現実を受け入れられるようになっていたらうれしいです。平和と言うとすごく大きなメッセージに受け取られてしまいますけど、僕が言ってることはごく当たり前のこと。僕は勇者でもないし、救世主でもないし、みんなで笑いながら平和に楽しく生きようよと言ってるだけ。今は多くの人が自分のことに忙しすぎて、愛や平和について考える時間を持ちづらいのかなと思うと寂しいですよね。日常に愛と平和が根付いてないので小難しいもののようにとらえられてしまっている。

──それはあるでしょうね。高尚なもののように感じて避けてしまう。

僕はスイーツが好きなんですけど、スイーツは多くの人が好きだし、話題にするじゃないですか。スイーツくらい世の中に平和と愛があふれていたら、みんなもっと身近なこととして話せると思うんです。そうすれば僕が大きな声で言う必要だってなくなるはずで。まずは自分の友達や仲間、大好きな人たち、応援してくれる人たちと1秒でも長く平和を思い、実現することが大事なんです。

「自分は奈良人でいいねんな」

──堂本さんは何年も前から一貫して「愛と平和」をご自身の活動のテーマとして掲げていますよね。

平和が好きなんです。人が揉めたりケンカしたりしているのを見るのも好きじゃないし、誰かのせいにして責任を押し付け合うのも本当に嫌いで。小さい頃からそんなことを考えながら生きてきました。幼少期はこんな話をすると「達観してる」と言われましたけど(笑)。

──そういう考え方に至ったのには、生まれ育った奈良という土地の影響があるんでしょうか?

それはあると思います。どんな環境で育ったかというのは、その人を作る重要な要素なので。ただ、僕も昔は純粋だったので、東京の人も奈良と同じだと思ってたんですよ。なのに東京に来てみたら様子が違う。自分が持ってる優しさとか愛では太刀打ちできないような瞬間があって、たくさん傷付いたし、同時に勉強にもなった。そんな中で、もう一度故郷のことを知ろうというタイミングが訪れて、日本的な心や昔の人の生き方を学ぶ中で救われた部分があったし、自分の生き方や考え方を信じていいんだと思えるようになりました。その体感が自分の歌や音楽になってます。僕の音楽を聴いてくださった方が「自分のままでいいんだ」と感じてもらえたらと願いながら曲を書いてるところがある。そういうことを通して、「自分は奈良人でいいねんな」と思ったんですね。東京に行ったら東京に染まることが重要と考えていた時期もあったけど、本来の自分じゃないから本当につらくて。でも30代になった頃に開き直って、自分のまま、奈良の人としてエンタメをやろうという心境になれた。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

──その“奈良の人”の特徴を言語化できたりします?

多くを求めないというか、商売っ気がないんですよ。プレゼン能力が低いとも言われちゃったりするんですけど、自分からアピールするようなことはあまりない。人の心の中にズケズケと入っていかないし、「俺はこう思うから、こうしたらええやん」と押し付けずに相手に「どうされます?」って聞いちゃう。昔、奈良が日本の中心だった頃、周辺国と異文化コミュニケーションを取っていたこともあって、聞き入れる力が強いのかもしれない。自分の意見ももちろんちゃんと入れるんですけど、まずは周りの人の意見を聞く。それが結果的に平和につながる。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

「平安神宮 奉納演奏 2023」の様子。

──多くを求めない、つまり「足るを知る」の精神が根本にあるわけですね。

ええ。地元を思えば優しくも強くもなれるし、その気持ちでなんとかがんばってきました。東京でのミーティングはなかなか平和的に進むことがなくて。「これをやってください」「こうしてください」と一方的に指示されることが多くて、「あれ、僕の気持ちは?」と感じることがたくさんあったんです。そんな中で家に帰って、奈良の食材を食べたり、生まれ育った故郷の言葉で話したりすることで、どうにか自分を保ってましたね。

2024年8月29日更新