増子直純(怒髪天)×佐々木亮介(a flood of circle)対談|愚直な男たちのロック談義 (2/2)

とにかく働きたくない佐々木亮介のロック観

──a flood of circleは今年メジャーデビュー15周年ですが、今のバンドの状況をどう捉えていますか?

佐々木 自分はずっと“どっちつかず”だったし、ロックミュージックをやるべき生い立ちとかでもなくて。メジャーメーカーから「ぜひウチから出してほしい」と言われたわけでも契約金をもらったわけでもなく、「やらせてください」とお願いして所属させてもらってるんですよ。メンバーが失踪するとか、事務所がなくなりかけるとか、いろんなことがありましたけど、それも全部過去の話で。それを「つらいことがあって」と引っ張るのも違うなと。まあ、根本の理由としては「単純に音楽が好き」ってことと、あとはとにかく働きたくない(笑)。

増子 そりゃいい理由だな(笑)。

佐々木 要するに「これしかない」というカッコいい感じではなくて、ほかのすべてがイヤという。「そういう自分から出てくるロックってなんだろう?」ということを本気で突き詰めたいんですよね。なので自ずと歌詞の言葉数が多くなって。本当は「Johnny B. Goode」(チャック・ベリーの代表曲)みたいに、反射神経で出てくる言葉で歌ったほうがロックだと思うんだけど。

増子 あとはギターウルフだね。

佐々木 はい。でも、それは俺がやることではなくて、グジグジしたことをフルボリュームで歌うというか。それに共感する自分と同じような人もいるだろうし、そこに甘えてCDを売り付けてる感じです。

増子 そういう意味ではちゃんと働いてるし、人の役に立ってるんじゃない?

佐々木 そう言ってもらえるとありがたいです。

左から増子直純(怒髪天)、佐々木亮介(a flood of circle)。

左から増子直純(怒髪天)、佐々木亮介(a flood of circle)。

増子 俺にとってバンドは、枠というか柵なんだよね。もともと自分は音楽の人じゃないし、バンドじゃなくても、ラクに金が入ればそれでいいという人間だから。実際、何やったって食ってけるし(笑)。

佐々木 すごい(笑)。

増子 それはカッコいいことでもなんでもなくて、そういう自分に対する嫌悪もあるんだよね。そんな自分を柵の中に入れてくれるのがバンドというか。

──バンドをやってることで、真っ当な人でいられる?

増子 それはあるね。「バンドやってハジけよう」じゃなくて、人に迷惑をかけず、ちゃんと生きるためにバンドをやってるという(笑)。だから年々バンドのことを大事に思うようになってきたね。

“怒髪天の増子直純”というキャラを演じちゃダメ

──怒髪天は結成40周年を迎え、全国ツアー「ザ・リローデッドTOUR 2024」の真っ最中です。今年2月にベーシストを解雇。増子さん、上原子さん、坂詰さんにサポートベースという体制でツアーを回っているところですが、手応えはどうですか?

増子 楽しいよ。3人になったわけだし、いろいろあるけど。新曲(「エリア1020」)も出すんだけど、3人になってから一発目の曲じゃない? その気持ちがどの程度含まれてるのかな?と思っている人もいるかもしれないけど、正直まだ曲にはできなかったね。

佐々木 それもリアルですね。

増子 このタイミングでそういう曲を作ってもしょうがないし。ただ、今回のツアーをやってる中で思ったことがあって。今はコロナが明けて、「ここからどうなるか」という状況でしょ? その中でお客さんが何を求めてるのかな?って考えると、やっぱりライブしかないんだよね。幻みたいなものだけど、ライブとかでミラクルを生み出せるのがロックバンドのすごさだなと。「奇跡の1つも起こせないなら、ロックバンドなんてやめちまえ」って誰かが言ってたけど、本当にそうだと思う。特にツアーだと、それをダイレクトに伝えられるからね。こうやって年齢を重ねてもライブに来てくれる人は、ちゃんと音楽を聴いてくれてるわけじゃない? 「がんばらなきゃな」って思うよ。まあ、ロックバンドががんばるって、何を?っていう話だけど(笑)。

──怒髪天の新曲「エリア1020」では、世界に居心地の悪さを感じている人たちが「今夜この瞬間だけ生まれるこの理想郷」に集まる姿が描かれています。

増子 うん。自分では最低限のことしか望んでないつもりなんだけど、それも満たされない。だから自分たちの居場所を作るしかないんだよね。

佐々木 素晴らしい。俺は“ごっこ”でしかバンドをやれない人間だと思ってるんですけど、だからこそライブのときは本気の集中力とスピードがないとやる意味がないというか。

増子 そうだと思うよ。俺、映画とかドラマに出てるんだけど、あれって役を演じてるでしょ? バンドは逆で、“怒髪天の増子直純”というキャラを演じちゃダメだと思ってんの。そういうバンドマンが多いんだけどね、世界的に見ても。

増子直純(怒髪天)

増子直純(怒髪天)

佐々木 確かに増子さん、めちゃくちゃ“そのまま”ですよね。

増子 キャラを決めて演じたほうが売れやすいんだろうけど、そんなの見たらわかるからね。葛藤がないというか。

佐々木 それはすごくわかります。いくらカッコつけても、自分がカッコいいと思えないので。酒を飲んでないと自己嫌悪が出てきちゃうんですよ。楽しみたいというより、悩んじゃうから飲むという。人のライブを観てても、完璧にカッコいい人よりも、カッコいいか微妙なラインまで踏み込んでるような人のほうが好きなんです。

増子 そっちのほうが面白いよ、パーソナリティが出てて。ボロが出るのもいいし。

──増子さん、MCもめちゃくちゃ正直ですよね。国民年金が高くて払えないとか。

増子 そうだね(笑)。一応、ライブの前は「行くぞ! オー!」って気合い入れだけはやってるんだよ。そうじゃないと楽屋のテンションのままでステージに出ちゃうから。ただ、スイッチが入るのも早くて。バカみたいな話のあと、急にシリアスな曲に入るからお客さんがついてこれない。

佐々木 ハハハハ。

増子 よく「どういう気持ちで聴けばいいかわからない」って言われるから、ちょっと気を付けてるんだけどね。

佐々木 お客さんにツッコまれてるんですね(笑)。

恥をかいてもいいから、武道館でライブをやる

──a flood of circleのニューアルバム「WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース」は、11曲のうち5曲を山小屋で録音したそうですね。

佐々木 はい。増子さんがさっき「柵の内側にいるためにバンドをやってる」みたいな話をされていましたけど、自分はもともと柵の内側で育った人間だし、いつも“外”を想像していて。新しいアルバムのことを考えているときに、「スタジオで録るのはイヤだな」と思ったんです。ミュージックビデオの撮影とかって、爆音を鳴らしながら外で撮ったりするじゃないですか。柵の外に行くためには「外でアルバムのレコーディングをする」くらいのことをやらなきゃダメかなと。池内さんに何か頼んで「無理」って言われたことはないので、これも甘えなんですけど「外で録りたいんですよね」と言ったらノリノリで受けてくれて(笑)。といっても、自分は東京出身で、故郷もないので、「生まれ育った場所で録る」みたいなことでもないんですけど。

増子 どんなところで録ったの?

佐々木 コテージというか、納屋みたいな場所ですね。池内さんの録音技術がすごすぎて、めっちゃキレイに録れたんですけど。

増子 せっかく山小屋に行ったのに(笑)。

佐々木 はい(笑)。俺としては音よりも態度の問題なんですよ。TikTokで流行りそうなものを作ってもマジでしょうがないし、誰もやってない場所で誰でもやりそうなロックをやるっていう。苦し紛れの答えですけど……ちょっと前にナベちゃんと「これからバンドどうしようか?」という話をしたとき、「40歳のときにこのままだったら、続けるのはちょっと無理かもしれない」みたいなことを言われたんです。俺のやりたいことは“働かない”ってことで、要は死ぬまでバンドをやろうと思ってるけど、ナベちゃんは意見がちょっと違う。ナベちゃんのことはもちろん好きだから、まずは40歳までに何か形にしたいなと。そのときに出てきたのが、恥をかいてもいいから、武道館でライブをやるってことだったんですよ。

増子 うん。

佐々木 自分としても、まだまだ挑戦が必要だと思っていて。さっき増子さんがおっしゃったことにもつながってるかもしれないけど、俺らにとって武道館は“手を伸ばす価値がある幻”という気がしていて。最初は「武道館でライブなんて、人が持ってるオモチャを欲しがってるだけじゃない?」と思ってたんですけど、大人になってから先輩たちが武道館をやっている姿を見て自分も思い入れが出てきて。怒髪天はまさに先駆者ですよね。

佐々木亮介(a flood of circle)

佐々木亮介(a flood of circle)

──2014年の怒髪天の武道館ライブは、“ベテランバンドの武道館”という道を開きましたからね(参照:怒髪天、初武道館で男泣き「何やってもグッとくるわ」)。その後、フラワーカンパニーズ、Theピーズ、THE COLLECTORSなどが武道館でライブをやって。

増子 俺はそんなに武道館に興味がなかったんだけどね。

佐々木 正直ですね(笑)。

増子 メンバーがやりたいっていうから、「マジ?」って。結成30周年のタイミングだったし、「やるならここしかない」とも言われたんだよ。でも、その年まで最大で2000人キャパしかやってなかったんだよ? 怒髪天28年くらいやって2000人なのに、あと2年でどうやって武道館やんのよ?って(笑)。

佐々木 怒髪天の武道館は、みんなに悪い幻を見せたのかも(笑)。

増子 (笑)。でも、やってよかったとは思う。1つ勲章をもらったというか、「あのときはがんばった」と思えるから。やったことないことにチャレンジするのは、生きるうえでの工夫だからね。音楽とかバンドに限らず。

佐々木 生きていく楽しさがあったほうがいい。

増子 そう。ちょっとくらい無茶して、自分でハードルを上げるのは楽しいから。俺、ギター弾けないじゃない? いつだったか「高いギターを持っていると練習するようになるよ」と言われて35万くらいのギター買ったんだけど、ケースからまったく出してないから。

佐々木 (笑)。

増子 去年は25万くらいするヘドラのソフビも買ったしね。作った人から新作が出たときに「増子さんに持っててほしいですよね」って言われて。「だったらくれよ」と思ったけど(笑)、しょうがない買うかと。そんなの誰も評価してくれないけど、58歳にもなって25万のおもちゃを買うバカさ加減に勲章1個ってことで(笑)。

佐々木 すごい(笑)。自分たちのライブに来てくれる人たちもたぶん、「意味がないことが美しい」とわかってくれてると思ってて。そういう人がいる限り、長くやっていきたいんですよね。

──そのためには新しい挑戦が必要だと。

佐々木 そうですね。ただ、あんまりチャレンジとか成長とかって言うと、「商社マンかよ」っていう気もするんですよ。

増子 そうだな(笑)。

佐々木 バンドマンに対して「彼なりに成長しました」みたいなことを言わないでほしいんですよね。成長の概念に抗いたいし、「ずっとこのままでいようぜ」という気持ちも強いので。俺らのライブは生き延びる手段にはならないけど、その日がめっちゃ輝くものになる。意味がなくても、それでいいんじゃないかなと。そのことをつい忘れて、金欲しさにいろんなことをやっちゃうんですけど(笑)、ロックバンドとしては一瞬だけ輝ければいいんですよね。

増子 わかるけど、それはバンドに懸けすぎじゃない? 世の中、もっと面白いこといろいろあるよ。

佐々木 (笑)。

増子 尖り続けるのも資質の問題というか、大変じゃない? 俺はさっき言ったように、なるべく柵の中に入っていたいから、むしろ丸くなりたいんだよね。

佐々木 名言だ。むしろ丸くなりたいって、某ビールのキャッチコピーを作った人に聞かせたい(笑)。

左から増子直純(怒髪天)、佐々木亮介(a flood of circle)。

左から増子直純(怒髪天)、佐々木亮介(a flood of circle)。

増子直純、イベントポスターに不満?

──さてお二人は、2025年2月2日にSpotify O-EASTで開催される「テイチクエンタテインメント90周年、怒髪天40周年の共同企画『テイチクよ 今夜も有難う』」で共演することが決まってます。怒髪天、佐々木さんのほか、川中美幸さん、山本譲二さん、根本要さん(スターダスト☆レビュー)、JILLさん(PERSONZ)、渡瀬マキさん(LINDBERG)、はなわさんなどが出演者として発表されています。

増子 俺らがハウスバンドをやって、出演者の皆さんに歌っていただくイベントだね。最初は「演歌チームとロックで分ける」って言われたんだよ。でも、ロック枠の俺らとフラッドの対バンだったら自分たちでやればいいし、いつでもやれる。それよりも合体イベントのほうが面白いでしょ。

佐々木 確かにスペシャルなイベントですよね。

増子 セクションで分けたり、何日かにわたってやるんじゃなくて、一緒のステージに立つっていうのがいいじゃない。それこそちょっと無茶してる感じで(笑)。

佐々木 ポスターもプロレスみたいでいいですよね(笑)。

増子 特に何も言わなかったら、俺らが真ん中でめっちゃデカくなってて。もうちょっと小さくしてほしい(笑)。

「テイチクよ今夜も有難う」告知ビジュアル

「テイチクよ今夜も有難う」告知ビジュアル

左から佐々木亮介(a flood of circle)、増子直純(怒髪天)。

左から佐々木亮介(a flood of circle)、増子直純(怒髪天)。

公演情報

テイチクエンタテインメント90周年×怒髪天40周年共同企画「テイチクよ今夜も有難う」

2025年2月2日(日)東京都 Spotify O-EAST
<出演者>
怒髪天 / 川中美幸 / 山本譲二 / 根本要(スターダスト☆レビュー) / JILL(PERSONZ) / 渡瀬マキ(LINDBERG) / はなわ / 中田裕二 / 佐々木亮介(a flood of circle) / and more

プロフィール

怒髪天(ドハツテン)

1984年に札幌で結成。自らの音楽性をJAPANESE R&E(リズム&演歌)と称し、独自のロックンロール道を確立している。メンバーは増子直純(Vo)、上原子友康(G)、坂詰克彦(Dr)の3人。2014年1月には結成30周年を記念して初の東京・日本武道館公演を開催。楽曲提供、映像作品や舞台への出演、アイドルとのコラボなど、ロックバンドというイメージにとらわれることなく、ジャンルの垣根を越えて活動を展開している。2023年3月に6曲入りのアルバム「more-AA-janaica」をリリースした。結成40周年を迎えたことを記念して2024年1月に配信シングル「ザ・リローデッド」を発表。同年10月に現体制初の楽曲「エリア1020」をリリースした。12月までライブツアー「ザ・リローデッド TOUR 2024」を開催中。

a flood of circle(アフラッドオブサークル)

佐々木亮介(Vo, G)、渡邊一丘(Dr)、HISAYO(B)、アオキテツ(G)による4人組ロックバンド。2006年に結成され、2009年4月に1stフルアルバム「BUFFALO SOUL」でメジャーデビュー。ブルース、ロックンロールをベースにしつつ最新の音楽要素を吸収したサウンドと、佐々木の強烈な歌声や観る者を圧倒するライブパフォーマンスで話題を集める。結成10周年を迎えた2016年には初のイギリス・ロンドン公演や海外レコーディングを行ったほか、主催フェス「A FLOOD OF CIRCUS」を立ち上げた。2021年8月に提供曲のみで構成されたアルバム「GIFT ROCKS」を、12月にオリジナルアルバム「伝説の夜を君と」をリリースした。2024年にデビュー15周年を迎え、その記念公演を8月に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で行った。11月にニューアルバム「WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース」をリリースする。