ナタリー PowerPush - DJやついいちろう
“やつい流”ミックスCDとフェスの作り方
やついいちろうが主催する「YATSUI FESTIVAL!」が、今年2014年も渋谷を舞台に行われる。回を重ねるごとに規模が拡大しているこのフェス。今年は10会場で展開され、出演者も150組以上と過去最大規模での開催となる。
フェスと連動したやついによる最新ミックスCD「PARTY」も先日発売されたばかりだ。今回ナタリーはやついを直撃し「PARTY」や目前に迫った「YATSUI FESTIVAL! 2014」について聞いた。
取材 / 遠藤敏文 文 / 中野明子 インタビュー撮影 / 小坂茂雄
コンセプトは「楽しい」「テンションが上がる」
──「PARTY」はやついさんにとって6枚目のミックスCDになりますが、いつもどんな流れで作ってるんですか?
自分で曲を選んで、許可を各所に取って、それを構成していく流れですね。曲が決まったあとは、実際のDJセットで曲をつないでから細かい調整をパソコン上でしてという感じです。
──選曲にあたってコンセプトは設けるんですか?
カッチリは決めてないんですけど、楽しいっていうかテンションが上がるような曲を選ぶようにはしてます。
──今作で新しく何かチャレンジしたことはありますか?
今回に限らないんですけど、なるべく入れたことのないアーティストを入れるようには心掛けました。特に今回は過去の作品に比べて、大幅に変わったかも。自分では今まで以上に新しいアーティストの曲が多くなった気がします。あとね、何気に「Sex On The Beach」みたいな洋楽アーティストの曲を入れるのは初めてなんですよ。この曲は邦楽なんじゃないかってくらい浸透してますけど(笑)。
──やついさんの中で、この曲が今作のキーポイントだっていう曲はありますか?
うーん、起点はMAXの「Tacata'」じゃないですかね。
──それ本編の中では最後の曲じゃないですか(笑)。
ははは(笑)。でも、今回は「Tacata'」で終わるっていうのだけは決めてましたから。イベントでも何度かかけてて、“いいとき”にぴったりなんですよね。あとこだわったのは、銀河鉄道の「想い出してごらん」。突然びゅっと入ってくる感じで唐突だけど、いいじゃんと思って。テンションが上がる曲が基本ではあるんだけど、1曲ぐらいは趣味を忍ばせたろうと。この曲のあとに人間椅子の曲を持ってくるっていう度肝を抜く感じとか。
──途中まですごいテンション上がってるのに、いきなり真顔になるっていう(笑)。そのほかにやついさん個人がこだわった曲ってありますか?
ブッチャーズは大好きなのでいつか入れたいっていうのがあって、今回念願叶った感じですね。あとは中盤の米津玄師さんの曲あたりからはカリブ感というか、リズムに雰囲気のある曲を入れてみたり。いつか「リズムが面白いもの」っていうテーマでミックスCDを作れたらと思ってます。
──ミックスCDの1曲目をどの曲にするかってすごく大事だと思うんですけど、今回はどういう基準で選びましたか?
今回は単純に「ジャズィ・カンヴァセイション」だなって思ったんですよ。今まで1曲目はだいたい、しゃべりやSEだったんですけど、自分で作ったパターンを崩したくて。あと、決め手は歌詞です。「ジャズィ・カンヴァセイション」自体がSOIL &“PIMP”SESSIONSとRHYMESTERの“異種格闘技”で、ジャンルとか、能書きとかいろいろ言ってくる人はいるけど音でコミュニケーションしようっていうメッセージが込められてて、その通りだなって。自分のミックスCDもジャンルとか関係なく入れてるし。
学生の頃のミックステープの感覚
──今作も若手アーティストの曲がたくさん入ってるんですが、普段どうやって新しい音楽と出会うんですか?
今回、CDのブックレットにライナーを書いたんですけど、すべてが偶然の出会いなんです。ゲスの極み乙女。とかは名前が面白いから聴いてみたらよかったとか、フェスの裏でオオカミいるなと思ったらMAN WITH A MISSIONだったとか。グッドモーニングアメリカはスペシャで一緒に番組やってたり。tricotに至っては台湾で小龍包食べてたら隣で食べてて知り合った縁だったりして。KANA-BOONは楽屋が一緒で知り合ったとか、Base Ball Bearは同じ美容院だったり。Dragon AshはフェスのDJで曲をかけたら、Kjさんが飛び入りで歌ってくれたんで、その感謝も込めてお返ししなきゃと思って入れましたね。身近なところで知り合ったアーティストばっかりなんですよ(笑)。
──自然と知ったアーティストばかりだと。
そう。日常で接したアーティストの曲ばかりですね。あんまりミックスCDを作る上で、僕は能書きはいらないなとは思っていて。こうこうこうだから、こういう選曲になっているとか。時代を反映したとか……。自分がまず楽しいっていうものを示さないと、誰も楽しくないし。「おめーが楽しいのなんて見たくねえよ」って人もいると思うけど、楽しいことが前提だと思うんです。それを全身で表現して笑顔になってたら、人もつられて笑うと思うんですよ。そういう連鎖を生みたいんですよ。
──選曲基準はやついさんにとってのグッとくる曲で、みんなで楽しめるっていう、その2個が満たされたものなんでしょうか?
そうですね。誰もが知ってるシングル曲とか推してる曲を入れる選択肢もあるんでしょうけど、僕の場合、ライブを観て、みんなが一番楽しそうにしてた曲とかを選んだり。例えばグッドモーニングアメリカの「アブラカタブラ」はシングルのタイトル曲ではないけど、自分がいいなって思ってるから収録をお願いしたって感じで。でもこう言ってて、1人で聴く“いい曲”っていうのもあると思うんですよね。だから自分のためのミックスCDを作ったら、まったく違うものになると思います。
──「YATSUI FESTIVAL!」をイメージしたり、やついさんが出演されるロックフェスをイメージして作ってるとは思うのですが、それ以外ではどんなシチュエーションで聴いてもらいたいですか?
掃除してるときとか。家事とかやってるときかなあ。
──意外ですね(笑)。
単純作業を楽しくさせたいっていう思いもあるんですけど、普段から家庭の中で聴いてもらえたらっていう思いがあるんですよ。主婦の方とか。
──ちなみにやついさん、ほかのDJの方のミックスCDってお聴きになりますか?
ほとんど聴かないですね。DJ KAORIさんもお名前を知ってるくらいで。
──ではライバル視している方とか……。
いやいや! なにせ僕のはたまたま6回続いた企画モノなんで(笑)。
──でも「やついフェス」が続く限りは、ミックスCDも続いていく感じですよね。
だといいなとは思うんですけど。感覚的には、学生の頃に自分の好きな曲を入れたミックステープを作って、友達に渡して聴いてもらってる感じなんですよ。で「あの曲よかった」とか言われたときにうれしくなるみたいな。単純に自分が聴いていいなとか思った曲を詰め込んでるだけなので。
- ミックスCD「PARTY」 / 2014年6月4日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+グッズ] 3240円 / VIZL-683
- 通常盤 [CD] 2592円 / VICL-64172
- CD収録曲
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- ジャズィ・カンヴァセイション / SOIL &“PIMP”SESSIONS feat. RHYMESTER
- キラーボール / ゲスの極み乙女。
- distance / MAN WITH A MISSION
- アブラカタブラ / グッドモーニングアメリカ
- 爆裂パニエさん / tricot
- トラベリング / KEYTALK
- ないものねだり / KANA-BOON
- 17才 / Base Ball Bear
- everybody feels the same / くるり
- 方位 / bloodthirsty butchers
- I DON'T WANNA DIE FOREVER / 銀杏BOYZ
- でんぱれーどJAPAN / でんぱ組.inc
- ドリームビート / Wienners
- 首なし閑古鳥 / 米津玄師
- JAMAICA JUMP UP feat. YOUR SONG IS GOOD / CUBISMO GRAFICO FIVE
- Velvet Touch / Dragon Ash
- The Cosmos / YOUR SONG IS GOOD
- 夜の踊り子 / サカナクション
- 虹 / フジファブリック
- Sunny Day Sunday / センチメンタル・バス
- 天文学的夏休み / 夜明ケマエ
- ミラクルをキミとおこしたいんです / サンボマスター
- にんげんっていいな / ガガガDX
- SAD GIRL / The SALOVERS
- 想い出してごらん / 銀河鉄道
- 針の山 / 人間椅子
- フィーバー / パスピエ
- 聖槍爆裂ボーイ / りぶ
- Sex On The Beach / SPANKERS
- Tacata' / MAX
- そりゃそうよ / DJやついいちろう feat. tofubeats
DJやついいちろう(ディージェイヤツイイチロウ)
お笑いコンビ・エレキコミックのメンバー。芸人としての活動の一方で、DJとしても活躍しており「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「COUNTDOWN JAPAN」といったロックフェスに出演し、人気を博している。自身でもお笑いと音楽を融合させたフェス「YATSUI FESTIVAL!」を主催するほか、フェスと同時期に毎年ミックスCDも発表している。