DJ和「あの頃みたい、と君が笑った。」特集|相田翔子と振り返る、キラキラ輝いていた80年代 (2/2)

「ごまかしがきかない」という緊張感

相田 なるほど。それと、今回のアルバムで当時の楽曲を一気に聴いて感じたのは、歌う人の個性がすごく出ていますよね。浅香唯さん、南野陽子さん、原田知世さん、薬師丸ひろ子さん、斉藤由貴さん……声がセリフみたいに感じることがあるんです。その人じゃないと成立しない歌なんですよ。

 今はPro Toolsとかの機械で修正できる時代だから、そういった部分も関係しているんじゃないかなと。相田さんがWinkでレコーディングしていたときは、アナログのテープを回して録っていたんですか?

DJ和

DJ和

相田 回していましたね。もちろんパソコンなんてなかったですし。レコーディングでは、まずダーッと最後まで2回くらい歌ってみるんですよ。そのあと、「ここはもっと強めに歌ってみよう」とかディレクターさんにアドバイスをもらいながら、ブロックごとに録り直すんです。それで最後はみんなで歌を聴きながら「ここは1chを使おう」とか決めていく流れ。(鈴木)早智子も含め、編集作業の最後、トラックダウンまで一緒に参加していました。

 今はレコーディングに関わる技術も向上して、ものすごく便利な世の中にはなっているけど、逆に不便だったからこそ出る味わいが1980年代の音楽にはあったのかもしれないですね。

相田 「ごまかしがきかない」という緊張感はありましたね。Winkはユーロビートで世に出たユニットだったから、「歌い上げる」とか「熱唱する」という感じではなかったんです。だけど実際は歌うのがけっこう難しいんですよ。カラオケとかで友達に「ひさしぶりにWink歌ってよ」って言われることもあるけど、ボロボロになりますから(笑)。

WAVEでCDを買うのが何よりの楽しみだった

──音楽を聴く環境自体も、1980年代とは大きく変わりました。

 今はサブスクや配信が中心で、CDすらも懐かしい対象になっていますもんね。ちなみに今回のアルバムは、CDのほかにカセットテープでもリリースするんですけど……(※現物を相田の前に差し出す)。

相田 うわあ、懐かしい! これはかわいいからアイテムとしても欲しくなりますね。最近はカセットが若い人たちの間で流行っているらしいじゃないですか。今は音楽をスマホで聴くのが主流になっているみたいですけど、私はやっぱりCDに思い入れがあるんですよね。

 「デッキに盤を入れて、操作する」という作業工程がいいんですよね。ジャケットとかを眺めながら。

相田 そうそう。それこそWink時代は事務所の前に六本木WAVEという大型ショップがあって、そこでCDを買うのが何よりの楽しみだったんです。音楽は昔からずっと一貫して大好きだったし、一度に何枚も買っていましたね。私は洋楽も聴くので、当時はリチャード・マークスとかデビー・ギブソンとか、キラキラしたエレピの音がたくさん入っているものを選んだりして。封を開けながら「1曲目はどんな感じなのかな?」とワクワクする感覚……あれこそが私の青春時代だったのかもしれません。

“肌感覚”で選んだ36曲

──今回のアルバムには36曲が収録されていますが、同時代で活動していた相田さんが印象的だったアーティストはいますか?

相田 たくさんいますね。中山美穂さんや工藤静香さんは本当に毎週のように歌番組でご一緒させていただきましたし。今回の36曲には残念ながら入っていないんですけど、BARBEE BOYSは本当にシビれましたね。スタジオのひな壇で観ていると、大人の恋愛を歌った歌詞、迫力あるバンドの生演奏、スカートをひらひらさせる色っぽいパフォーマンス……本当にカッコよくて。あとは鈴木雅之さんも素敵でしたね。このアルバムに入っている「ロンリー・チャップリン」はもちろんですけど、入っていない「ガラス越しに消えた夏」が大好きなんですよ。「ガラス越しに消えた夏」と「そして僕が途方に暮れる」が、個人的には1980年代の2大巨頭かも(笑)。というか、和さんは36曲をどういうふうに選んでいったんですか?

 実を言うと、そこはけっこう悩んだポイントなんです。単純に売れているものから順番に並べたわけじゃないんですよね。僕たちが当たり前のように知っている1980年代の超有名曲って、CDやレコードのセールス面だけでは意外に測れないものも多いんです。これが1990年代に入るとCD売上が飛躍的に伸び、オリコンの順位が評価軸になるんですけど……。それで最終的に重視したのは「世間にどれだけ浸透しているか?」という点。いわば肌感覚みたいな部分です。

相田 「これは選ぶの大変だっただろうなあ」と思ったんです(笑)。36アーティストのラインナップを見ると、本当にそうそうたる面々ですもんね。

 いえいえ! 相田さんも堂々とその中にいらっしゃったわけで……!

相田 いえ、いきなりチェッカーズの前で歌うとか、緊張しすぎて意味がわからなかったです(笑)。チェッカーズのほかにも中森明菜さんとか松田聖子さんとか大スターが目の前にいるものだから、毎回ガチガチに固まっちゃって。そもそも私、歌手志望じゃなかったんですよ。

 そうだったんですか!

相田 ええ、作詞作曲をやりたいと考えていたんです。だけどひょんなことから早智子と一緒に組んで歌手デビューすることになり、気付いたら表舞台に出るようになり……。ただでさえひどい人見知りなのに、心の準備もできていなかったから、緊張のあまり表情が石みたいに硬くなっていましたね。毎回、社長に「もっと笑え!」って怒られていました(笑)。

 あのクールな表情は一種の戦略なのかと僕は思っていました。なんだったら事務所サイドから「絶対に笑うな」と指示が飛ばされているくらいのイメージでした(笑)。

相田 とんでもない! 単純に人見知りすぎて、早智子以外に心が開けなかったんです。当時はマスコミからも「不愛想」とよく書かれました。それでも工藤静香さんなんかは優しいから、自動販売機のところで声をかけてくださったりしたんですよ。でも私ときたら「はい……はい……」しか言えない有様で。そんな調子だったから、周りも私たち2人には声をかけづらかったと思う。

相田翔子

相田翔子

 文字通り2人だけの世界を作っていらっしゃったんですね。でも、それが魅力につながったのかもしれませんね。

相田 そういえば南野さんとは映画で共演させていただくことがあって、撮影の合間にランチに誘っていただいたんです。そこで南野さんは気を遣っていろいろ話しかけてくださるんですけど、例によってこっちは何ひとつ気の利いたことは言えず……。南野さん、本当にあのときはつまらなかったと思います。

 相田さんにもそういう時代があったというのは、とても意外です……!

相田 今いる事務所は系列でハロプロの子たちがいるんですけど、すごいなって思いますよ。大人に混じりながら、積極的に受け答えができていますから。小さい頃からアイドルを目指していただけあって、私たちの時代より意識が高いんでしょうね。

1980年代の音楽はシティポップがすべてではない

──さて最後に今回のアルバムについて、相田さんのほうから改めて推薦ポイントを教えていただけますか。

相田 私は世代的にドンピシャですからね。高校生のときにテレビで観ていた曲もあれば、なぜか自分がデビューして、歌番組で共演した方たちの曲もあって。今回こうして和さんがまとめてくださったアルバムを聴いて、古いとは感じなかったんです。1970年代の音楽はフォークとかアコースティックの香りも感じられるけど、1980年代はキラキラ派手な印象が強いんですよね。

 ある意味、今よりも派手なところはありますよね。

相田 音楽って時代を超えるじゃないですか。ときめきが詰まった1枚なので、あの頃、ドライブやデート中に聴いていた世代にも触れていただきたいし、令和の若い子にも再発見していただけたらなと。そしてサウンドだけじゃなく、そこに詰まった当時の純粋な男女の思いとか恋愛模様にも注目していただけると、さらにこのアルバムが楽しめるんじゃないかなと思います。

 100点満点のご回答ありがとうございます! もう僕が語れることはないです(笑)。

──そう言わずに、和さんのほうからも最後に聴きどころをお願いします(笑)。

 今はシティポップが世界的に注目されていますけど、1980年代の音楽はシティポップがすべてではないと思っています。これを機にもっと幅広く1980年代の魅力にハマっていただけたらなというのが1つあります。それと今回はノンストップミックスだし、CD収録時間の限界もあるので、曲の一番肝となる部分を自分なりに抽出させていただいたつもりなんです。だけど当然、曲の2番以降も聴いたら違う発見があるだろうし、相田さんも指摘していらっしゃったように「このアーティストの別の曲も聴きたい」というご意見もあると思います。このアルバムを機に、そうやって1980年代の音楽を深掘りしていただけたらDJ冥利に尽きますね。相田さん、今日は本当にありがとうございました!

相田 こちらこそ、ありがとうございました!

左からDJ和、相田翔子。

左からDJ和、相田翔子。

プロフィール

DJ和(ディージェーカズ)

ソニー・ミュージック発のJ-POP DJプロ第1号。2008年の「J-ポッパー伝説」のリリース以降、一貫してJ-POPにこだわり続けており、今までにリリースしたCDの累計が200万枚を突破した。国内では「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「ANIMAX MUSIX」など、海外ではアメリカ、イタリア、インドネシア、シンガポール、タイ、台湾、ベトナムなどで行われる大型フェスイベントに出演している。代表作は「J-ポッパー伝説」、「A GIRL↑↑」、「J-アニソン神曲祭り」「ラブとポップ」「ミリオンデイズ」があり、2018年5月にリリースされた関ジャニ∞のベストアルバム「GR8EST」をはじめ、数多くのアーティストのMIX CD制作も手がけている。2022年8月にミックスCDシリーズ第32作となる「あの頃みたい、と君が笑った。 mixed by DJ和」をリリースした。

相田翔子(アイダショウコ)

1970年生まれ、東京都出身の歌手、女優。1988年に鈴木早智子とのデュオ・Winkとしてデビューし、翌年には「淋しい熱帯魚」で第31回日本レコード大賞を受賞、「NHK紅白歌合戦」への出場を果たす。1996年のWink活動停止以降は女優として映画、ドラマ、CM、舞台などで幅広く活躍するほか、フジテレビ系「笑っていいとも!」や日本テレビ系「メレンゲの気持ち」といった人気バラエティ番組にもレギュラー出演。2013年9月には、オリジナルソロアルバム「This Is My Love」を発表した。