DJ和が8月10日に新作ミックスCD「あの頃みたい、と君が笑った。 mixed by DJ和」をリリースした。
DJ和のミックスCDシリーズ第32作目となる今回の作品は、1980年代のヒットソングをノンストップミックスしたもの。令和の今を生きる若者の間でリバイバルブームが巻き起こるなど、再評価される“80年代カルチャー”を彩ってきたヒットソングの中からDJ和は36曲をピックアップし、懐かしくも新しい聴き心地の1作に仕上げた。
リリースを記念し、音楽ナタリーではDJ和と相田翔子の対談をセッティングした。今作に選曲されているWink「淋しい熱帯魚」を歌う相田は、1980年代後期の音楽シーンを輝かせた中心人物の1人。DJ和と相田、それぞれが語る当時と現代の音楽シーンの印象とは? 相田が振り返る1980年代の思い出も満載のクロストークを楽しんでほしい。
取材・文 / 小野田衛撮影 / 須田卓馬
あの……本当にWinkも聴かれているんですかね?
──DJ和さんの最新作「あの頃みたい、と君が笑った。 mixed by DJ和」には、数多くの1980年代ヒットソングとともにWinkの「淋しい熱帯魚」も収録されているということで、今回は相田翔子さんとの対談をセッティングさせていただきました。お二人は初対面ということになりますか?
DJ和 はい、「はじめまして」の状態なんですけど、正直、今ものすごくふわふわ高揚した気持ちでいます。なんというか、レジェンド特有のオーラがあって……。一応、僕はソニーミュージック所属だから有名なアーティストとお会いする機会もあるんですけど、相田さんは本当に別格だなと感じました……!
相田翔子 本当ですか(笑)。でも和さんって、世代的にはWinkが活動していた時代を知らないはずですよね?
和 いやいや、知らないってことはないです! 確かに僕は1986年生まれなので、音楽を聴き始めた小中学生の頃は1990年代……具体的にはSPEEDとかTRFとか、小室(哲哉)ファミリー全盛の時代だったんです。
相田 ああ、じゃあWinkよりは少しあとの世代ということになるのかな。
和 だけど、テレビで昔の音楽を振り返る番組がよく放送されていて。そういった番組でWinkは必ず取り上げられていた記憶があります。年号でいうと僕は昭和61年生まれで、そうなるとほぼ平成に青春時代を過ごしたことになるんです。平成世代から見た昭和は、それほど遠くは感じないし、懐かしい空気感も少しある。おそらく令和世代が平成を見る感覚と似ていると思うんです。
相田 なるほど。最近は「両親がWinkを聴いていました」じゃなくて「おじいちゃん、おばあちゃんがWinkを好きでした」って声をかけられることもあるんですよ(笑)。「えっ、孫の世代なの!?」ってびっくりしちゃいますよね。
和 今、1980年代の音楽が再発見されるという動きが世界的にもあると思っているのですが、相田さんご自身は、そのことをどう思われていますか?
相田 すごく不思議。実感が湧かないです。「Winkの曲がアジアでまた注目されているよね」とか言われることはあるんですけど、半信半疑というのが正直なところ。韓国のNight Tempoさんがリミックスしてくれて拡散されたりとか、ものすごくありがたい話ではあるんですけど、なんだか自分の話じゃないみたいで(笑)。例えば荻野目(洋子)さんの曲がリバイバルしているのは理解できるんですよ。高校生のダンスで使われるという目に見える形になっていますから。あの……今さらですけど、本当にWinkも聴かれているんですかね?
和 リアルに実感が湧いていらっしゃらないのですね(笑)。今の若い子はTikTokとかを通じて昔のカルチャーに接する機会も多いから、そういったところは違和感なく受け入れていると思います。
相田 そういったSNSにも私は疎いものだから、いまいちピンとこないんですよ。
和 僕はDJをやっている関係からシーンを俯瞰で眺める傾向があるんですけど、流行る音楽って10年、20年周期で繰り返していくと思っているんです。ちょっと前は2000年代や平成初期の音楽が再評価されていたけど、今はそれが1980年代後半になっている。もちろんそこには両親の趣味に影響された子供が興味を持つといった背景もあるだろうし、動画サイトやSNSの影響も大きいでしょうけど。
相田 ああ、でもその話はすごく納得できますね。
あの時代の空気感がどうしようもなく懐かしくなる
相田 今回、和さんがミックスされた1980年代の楽曲を聴いて改めて気付いたのは、歌詞の恋愛模様が今とはまったく違うなって。ドキドキ感が強いというか……。
和 興味深いですね……! ドキドキ感とは、どういうことでしょうか?
相田 男女の距離がちょっと離れていて、もどかしかったり、戸惑ったり、恥ずかしがったりする中、デートに出かける感覚。「そして僕は途方に暮れる」(大沢誉志幸)なんて、いかにも1980年代の恋愛観だなって思うんですね。シチュエーションの全部がキラキラしているイメージがあって。もちろん2022年の世の中も素敵な恋愛があふれているんだろうし、キラキラしたラブソングもたくさんあるとは思います。でも今の男女って知り合ったらすぐにLINEの連絡先を交換して、その日中には肩を組んで仲良しになる……みたいなところがあるじゃないですか。当たり前かもだけど、社会が違うんですよ。
和 それはあるかもしれないですね! 1980年代といったら、携帯やメールはもちろんだけど、まだポケベルも出回っていない時代ですよね……。電話ボックスも普通に使っていたでしょうし。家電が中心にあった時代だから、当然、ラブソングの歌詞も変わってきますよね。
相田 父が電話を取ったら、その恋は終了。私の学生時代は、まさにそんな感じでした(笑)。でも、たまにあの時代の空気感がどうしようもなく懐かしくなるんです。相手と電話がつながったものの、たまに訪れるシーンという無言の時間。そんな中で相手の鼓動が微妙に感じられたり、「向こうも私のこと好きでいてくれるのかな」と思ったり、自分の声がいつもより少し上ずっているのがわかったり……。
和 たまらないですね……!
相田 おそらくLINE世代の子たちは理解できないと思うんですよ、こういったもどかしい恋愛模様や微妙な感覚は。スタンプが送られてきても、ドキドキ感までは伝わらないでしょうし(笑)。
和 今の若い子は好きな相手へのLINEの文章を打っては消し……とモジモジすることもあるらしいですよ! 送ったあと、慌てて送信取り消しするとか。でも、確かに歌詞になりづらいかもしれないですね(笑)。
Winkのサウンドは太い
──サウンドの質感も今聴くと新鮮ですよね。当時はレコーディング環境もまったく違っていたでしょうし。
相田 私大好きなんですよ、1980年代の音が! Winkの活動休止後にソロを始めたとき、すでにそのときは1990年代に入っていたにもかかわらず、“あの音”を追求していましたからね。シンセが全体にバーッと入っていて、少しでも隙間があったらキラキラ音で埋めていくようなサウンドメイク。実際、あの音を再現するアルバムも1枚作ったんです。1980年代に活躍された角松敏生さん、大江千里さん、尾崎亜美さんに曲を書いてもらいましたね。それ以外はほぼ自作曲だったんですけど、やっぱり全体のテイストはあの音で統一しました。
和 シンセも最高だし、あとはドラムのスネアですよね。ズバーンと響く1980年代特有のスネアがめちゃくちゃいいなと思っていて。単純にスネアの音がデカいですし。今はキックのほうがどんどんデカくなっていますからね。
相田 あのスネア、私も大好きなんですよ! Winkのツアーはバンド編成だったんですけど、あのスネアの音が聞こえてくると「よし、始まるぞ!」って気が引き締まるんです。その感覚は今でも頭の中に残っていますね。
──Winkのバックバンドは腕利きのミュージシャンぞろいで、演奏もタイトでしたよね。今のアイドルはライブだとオケが中心だから、隔世の感があります。
和 昭和の歌番組を観ると、1曲のためにバンドをビシッとそろえているんですよね。予算的にぜいたくするなあと驚きがあります。演奏力やクオリティが高いのはもちろんだけど、ラグジュアリー感が尋常じゃないなって。今は1人でパソコンを使って音楽が作れる時代だから、そういう生演奏の豪華さもまぶしく見えるんです。
相田 確かに、今考えると恵まれた環境だったと感じます。
和 打ち込みとバンド演奏では根本から音が違うと感じていて。もちろんマスタリングの違いなども大きいんでしょうけど。僕自身も今回の作品制作を通じ、1980年代楽曲の再発見をしたことがいくつもありました。例えばWinkの楽曲はキラキラしたイメージが先行していたんですけど、意外にサウンド自体は太いと思いました。
相田 サウンドが太い……ですか?
和 バンドの音がリッチなんです。ベースのロー部分もしっかり鳴っているし、上のキラキラもしっかり主張しているし。ひょっとしたら今の若い子に1980年代の音楽が刺さっているのは、そのへんも大きいのかなと思いました。これが例えば1970年代の音だと、もうちょっと音の空間が目立つんですね。遠くで音が鳴っている感覚があると言いますか。若い子からすると、そういった音像に距離感を感じるのかもしれないですね。
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「ごまかしがきかない」という緊張感