DISH//|「猫」の先に見つめるもの 今4人の手で刻む、DISH//のアイデンティティ

DISH//|「猫」の先に見つめるもの 今4人の手で刻む、DISH//のアイデンティティ

自分らしさを出せなくなるのはイヤだ

──緑黄色社会の長屋晴子さんとコラボして「ニューノーマル」を制作した昌暉さんはいかがですか?

矢部 僕は同世代のバンドで、対バンもしたことのあるリョクシャカさんと、同世代に向けた曲を作りたいなと思って進めていきました。いろいろとお話をしたんですけど、自分の伝えたことに共感してもらえて、曲もスムーズに上がってきて。僕がまさにイメージしていた通りのものができたなという感覚です。

──「らしさを取り戻せ」と歌っていますが、これは大智さんとGLIM SPANKYによる「未完成なドラマ」ともつながるメッセージですよね。

矢部 23歳から25歳くらいの僕らの年代って、上からも下からもいろいろ言われる、挟まれる年代だなっていう話になったんですよ。そういう板挟みがあったり「普通」という言葉に囚われたりして、自分らしさを出せなくなるのはイヤだなって。そんな思いを伝えたかったんです。長屋さんは長屋さんらしい言葉で、力強いメッセージを乗せてくれました。

 俺はギターリフが印象的なGLIM SPANKYさんの世界観を前面に出しつつ、サビはポップに、キャッチーな要素も入れてくださいとリクエストさせてもらいました。歌詞については、 DISH//は今回のアルバムでフラストレーションを爆発させるような挑戦をしたい。音楽的にトガっていてもいい、いろんなことを試したいんですということをお伝えして。そうしたら、この楽曲が上がってきました。すごくカッコいい楽曲になっているし、歌詞にも思っていたことが反映されているし、改めて一緒に制作できてよかったなって思います。

──どんなところに反映されていますか?

 全体的にですけど、「型にはまる必要はない」っていうことですね。みんなまだ若いから失敗しても全然いいと思うし、自由にやるべきだっていう。これまでの俺らは保守的にやってきたところもあると思うので、挑戦的な思いが感じられるところがいいなと思いました。

北村 3曲とも楽曲の主人公の人格が全然違うから、歌う自分もそれぞれに違いますね。だから今回は全曲、まるっと通しで歌っています。部分的に歌入れするのではなく流れで歌うことで、感情の流れやライブを想像しながらレコーディングできた。それは役者もやっている自分の持ち味だと思うし、すごく自由にやらせてもらえたので、楽しかったですね。

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“寂しい曲”を作りたい

──そんな匠海さんがディレクションした「君の家しか知らない街で」は、ボカロPのくじらさんによる打ち込みのナイトグルーヴな曲になっています。

北村 くじらさんは生きているベースのテンションが一緒だなという感覚がありました。世代も近いし、いろんな話をしましたね。僕、悲しい曲や切ない曲はわかりやすく涙を誘うしいろんなパターンがあるけど、“寂しい曲”ってあまりないなと思っていて。寂しい感情って繊細で、誰しも感じたことがあるんだけど、あんまり肯定したくなかったりする。例えば1人でいることに対してなんとも言えない気持ちになる……僕自身、自粛期間には特にそんなことを感じていたので、そういう“寂しい曲”を作りたいってお願いしたんです。そのときに「浅野いにおさんの世界観のイメージなんですよね」って話したら、くじらさんは「浅野いにおさん、僕も好きなんです」って言ってくれたんです。「主人公が報われない感じで、スケール感も、単館上映の映画のようなミニマルな感じで」と、すっごい抽象的なイメージを伝えてできあがった曲なんですけど、この曲が一番“芝居的”だったかもしれないです。

──芝居的な曲というのは?

北村 転調が2回あるんですけど、わかりやすく感情を引き上げてくれるんですよ。音楽の力で歌っている自分の感情をグッと引き上げてくれるし、物語も進む感じがする。あと、くじらくんの言葉のセンスというか、言葉が詩的で好きですね。自分で物語を書いて、その物語の主題歌のイメージで曲を作るという感覚が一緒だったので、気持ちも乗せやすかったです。エレピとグルーヴだけ、みたいな曲で、これまでのDISH//の歌にはないくらい音数が少ないし、新しい挑戦もできたなと思います。

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僕らは戦っている姿勢を見せ続けなきゃいけない

──こうしてお話を聞いていると、皆さんそれぞれがDISH//の音楽に真摯に向き合って制作してきたことが伝わってきますが、今回はこれまでの作品にあったような“おふざけ曲”がないですよね。

 おふざけ曲は過去に目一杯やってきているので、今はお腹いっぱいかもしれないですね(笑)。

北村 でも、またふざけるタイミングは絶対に来るんですよ。

 今回は、ふざけるベクトルが今までと違っているのかもしれない。

矢部 それで言うと「Seagull」ですよね。この曲は今までのふざけ方と違う、今の僕らが肩の力を抜いて歌える曲になるかなっていう印象です。

北村 僕もこの曲、めちゃめちゃ好き。ライブのキラーチューンになる予感もします。

──タオル回し曲になりそうですよね。今回の新曲の数々をライブで聴くのも楽しみです。

 そう。コロナ禍以降、僕らは有観客のライブやイベントに出てないから、「猫」のヒットの反響がどれくらいあるのかをまだ直接確かめることができていないんです。僕らがフラットでいられるのは、そんな現状があるからかもしれない。だから、まずはワンマンライブがしたいですね。「猫」でDISH//を知ってくれた方だけじゃなく、ずっと僕らを応援してくれている方たちが、どれくらい僕らのことを待ってくれていたのかっていう熱量も、ライブで感じたいです。

北村 ライブ、したいよね。エンタメ界がここからどう動いていくのかはわからないですけど、去年一番うれしかったのって、ライブや映画館に行くのが不要不急とされてしまう世界の中で、僕らは「猫」という曲を通して、世の中を元気にすることに貢献できたっていうことだったんですね。だから今後はもっと、ちゃんと自分たち発信で、とにかくライブをたくさんしていきたい。配信なのか、有観客なのかはわからないけど、どんな形であれ届けることが一番大事だなと思います。

矢部 「猫」でたくさんの方にDISH//を知ってもらえた今、このアルバムを皮切りに僕たちがインプットしてきたものをどんどんアウトプットしていくことが大事だと思っていて。この4人でずっと音楽を続けていきたいし、今度は自分たちが作った曲で、また年末の番組に出演できるようになれたらなと思ってます。

 DISH//ならではの音楽をもっと作っていくべきだし、自分たちが世の中に対して思っていることや、日々感じていることをどんどん発信していくべきだし、僕らは戦っている姿勢を見せ続けなきゃいけないなと思ってます。2021年はアウトプットすることが大切な年でもあるので、このアルバムを持って、さらにいろんなことに挑戦していきたいです。

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