DIR EN GREY|司令塔・薫が思い描く行く末

俺らがやってる音に近付ける人は日本にいない

──エンジニアとは音源をオンラインでやりとりをしての作業になったと思うのですが、目の前で作業しているところを見ながら一緒に作りたいという気持ちはありましたか?

全然ないです。自分がいつも音楽を聴いている環境が一番いい環境ですから、音の判断をしやすいんです。なじみのないスタジオの雰囲気でモニターの音で聴いて判断なんかできないですよ。エンジニアと一緒にミックスなんてもう何年もやってないですけど、やってた当時は家に持って帰ってから聴くとスタジオで聴いてたのと違うなあと思うことがよくありましたね。結局完成した曲ってスタジオではない場所で聴くので、スタジオで聴いている音とは違って聞こえてしまう。それじゃ意味がないんです。それにエンジニアと直接やりとりしてその場の感情が入ってくると、偏った曲に仕上がっちゃう恐れもあるので、単純に音だけを自宅で聴いてこの曲をどうすればいいのか考えながらやったほうがいいです。

──やっぱり日本のご自身のスタジオで作ってるのが、薫さんにとって一番いい環境ですか?

海外のスタジオに行ってもいいですけど、冷静に判断できる場所に戻れるのがいいですよね。スタジオの爆音で聴いていると、何がいいのかだんだんわからなくなってくるので、家に持って帰って冷静に聴いて判断することができれば、別に外のスタジオでも大丈夫です。でもミックスに関しては、スタジオから持って帰ってきて聴き直してダメだとなったときに効率が悪いので。でもそれはバンドによるんじゃないですかね。うちらの音だったらそうしたほうが細かいところまで判断できるということです。

──いい音の基準はご自身の中でありますか?

ふくよかさ、とかですかね。奥行きというか。やっぱり経験していくうえで変わってくるものもあるので。若いときは尖ってる音が気に入ってましたが、今は尖ってないけど、すごく太い音が好きです。

薫(G)

──DIR EN GREYは海外のエンジニアにミックスやマスタリングを頼むことが多いですよね。

俺らがやってる音に近付ける人が日本にいればいいですけど、いないので。たぶん海外のエンジニアは耳の大きさとかも含めて、聞こえてる音が違うと思うんです。ここ20年ぐらい音楽をやっていて、10年ぐらい「こういう音にしたい」とエンジニアに言い続けてますけど、そういう音を作れる日本人ってまだいないですもんね。ことバンドものに関しては、自分たちが求めているような音を出してる人がいないというのが現状です。

──ご自分でやろうとは思わないですか?

思わないですね。そこに時間を取りたくない。ミックスまでするとなるとだいぶ勉強しないといけないですよ。そこに時間を取るんだったら曲作ってるほうがいいやって思いますよね。自分でミックスまでやったら、当分アルバムは出ないですね(笑)。

──じゃあ、自分の思う音を実現してくれるエンジニアと巡り合えるかどうかがDIR EN GREYにとって大きな問題なんですね。

だと思います。結局そこは自分たちではできない部分なので、最終的な出口で変わっちゃうんで。その点で今回はすごくうまくいきました。

「?」が付くぐらいのほうがいい

──楽曲としてもDIR EN GREYの王道をいく見事な出来映えでした。手応えはいかがですか?

もちろん手応えがあるからリリースするんですけど、自分が「キマった!」と思うものって世の中的にはもう古いんじゃないかって思う価値観も自分の中であるんですよね。自分の中で完璧に決まったものは自分の物差しでしか見ていないので、自分の中で「?」が付くぐらいのほうが曲としてはいいんじゃないかと思ってるんですよ。

──ああ、なるほど。そういう考え方をするアーティストってけっこう珍しいような気がします。

そうじゃないと自分が面白くないんですよね。「よし100%決まった!」ってなっても、「もしかしてつまんないかなこれ?」とか思うし。

──完璧なものができると、その時点で進化が止まってしまう感覚もありますよね。伸びしろがそれ以上ないというか。

そうなんですよね。余白があったほうがいいというか、自分ではわからない部分があったほうがいい。

──例えば今回の曲についてはどの部分が“余白”にあたるんですか?

展開は多いけど、サビが単調であるところ。本来だったらもっと違うメロディをつけて、もうちょっと展開を付けてエンディングに持っていくのがいつものやり方なんですよね。でも、そういう展開はもういいかなと思うところもあって。本当はもっとドラマティックにしたい部分もあるけど、今回はあえて違う感じにして、匂わせて終わっちゃおうみたいな。

──それは歌詞の内容にも関係していますか?

全然関係ないですね。

──関係ないですか(笑)。今回の歌詞はメッセージ色が強く、ミュージックビデオもかなり強力なのでそのあたりはどうお考えなのかなと。

歌詞は見てないです。できあがってから読みました。

──京さんとは、なぜこういう歌詞にしたかという話し合いもしていない?

ないです。今までもしたことがないですね。たまに「こういう感じの歌詞だから、こういうふうにしてほしい」というやりとりをすることはありますけど。今回もキーワードは聞きましたけど、それはここで言っていいのかわからないので言わないです。あんまり彼は歌詞についてしゃべりたくないみたいですね。歌詞は歌詞で完結してるものなので、説明すると蛇足になってしまうんだと思います。まずは聴いてほしいっていうことじゃないですかね。でもデジタルだと歌詞が付かないんですよね。

──ストーリーミングサービスでも歌詞の表示はできませんでしたっけ?

いや、デジタル配信では歌詞出さないと言ってました。

──聴いて判断してくれってことですね。

ええ。でも、ぴあアリーナの払い戻しをしない方への返礼品としてパッケージ盤を用意していて、それには歌詞を掲載したブックレットが付きます。

──なるほど。今後決まっている予定や、向かっている目標はありますか?

とりあえず今はアルバムを完成させること。そのために毎日曲を作ってますね。

──言える範囲でけっこうですが、どんなアルバムにしたいですか?

そうですね……いつも思ってることですけど、DIR EN GREYを代表するアルバムにしたいと思ってます。どのアーティストにも、「とりあえずこれを聴いとけ」っていうアルバムがあるじゃないですか? のちのちそういうアルバムになればいいなと思っています。

薫(G)