DIR EN GREY|司令塔・薫が思い描く行く末

DIR EN GREYが先日、キャリア初の配信シングル「落ちた事のある空」をリリースした。

結成以来、パッケージ盤にこだわり続けていた彼らが、作品を配信のみで発表するというニュースは多くのリスナーを驚かせた。なぜこのタイミングで従来の方針を変え、配信に踏み切ったのか。今回の特集では薫(G)への単独インタビューでその真意を聞いたほか、コロナ禍における活動方針、コンポーザーとしてのこだわり、制作中のアルバムへの思いなどをじっくり語ってもらった。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 後藤倫人

ライブがないとバンドをやってる意味はない

──年頭には想像もしていなかったような事態になり、今なおまったく収束する見通しもない状況です。DIR EN GREYもツアーが中止になるなど影響を受けていますが、薫さんは自粛期間をどのように過ごされてましたか?

1月、2月にヨーロッパツアーがあったんですけど、行きと帰りで状況が大きく変わってましたね。行くときはコロナウイルスが感染拡大し始めた頃でそんなに危機感はなかったんですけど、帰ってくる頃にはだいぶ騒がれていて。その頃からバタバタと世の中が動かなくなっていった感じですかね。ヨーロッパに行っていたときは、自分たちは基本マスクをして街中を歩いてましたけど、向こうはマスクをしてる人は誰もいなかったし、「コロナなんて関係ないでしょ」と他人事に受け取っている人が多いように感じました。

──こうやっていろんな活動が止まってしまった現在、どういう心境ですか?

俺ら音楽業界だけ食らってるんだったら、オイオイ待てよ……ってなるんでしょうけど、コロナの被害を受けていない人なんていないですからね。しょうがないことではあるから、今はこの中でやるべきことをやっていて。音源制作をしている間はいつもと同じなので、制作をしてるという毎日ですね。

──心境的にはわりと落ち着いている?

そうですね。別に荒立ててもしょうがないというか。とりあえず先に進もうっていう感じですね。

薫(G)

──今回のシングル「落ちた事のある空」のレコーディングは、これまで通りに都内で行われたんですか?

はい。普段から基本的にメンバーとは会わずに楽曲制作を行っているので、本当に何も変わらなかったですね。これまでも、レコーディングはスタジオでメンバーがパートごとに録って、そこからは会わずにオンラインでデータをやりとりして仕上げていくっていう感じだったんです。スタジオに入って録ったのが5月頃ですけど、それまでの間に1回無観客でライブをしたほかは、メンバーとは一切会ってないですね。

──なるほど。ライブができないことによる影響はなかったですか?

ありますけど、ライブ自体ができないからバンドとしての活動ができないとか、ストレスが溜まるとか、創作活動に影響が出るとか、そういったものはないですね。この先どうなっていくんだろうということは置いておいて、現状で言うと、ただライブができないだけで、できないなら今できるほかのことをやろうっていうだけですね。

──ではDIR EN GREYが音楽活動をするにあたって、ライブはどういう存在、位置付けなんでしょう?

もちろん、ライブがないとバンドをやってる意味はないですね。実際問題ライブができないと食っていけなくなると思うので、この先はしんどくなるだけだと思うんですよ。だからそのためにこれから何をしていくべきかということは考えます。今は曲を作って、とにかくファンに届ける。前に進んでることを発信していくことしかできないですよね。

──音源作りは常に行っているんですよね。メンバー同士で、現状とこれからの見通しについて話す機会はありましたか?

軽く話すことはありましたね。今のままの価値観ではいられなくなるかもしれないから、ちょっとずつその時々でできる柔軟な考え方をしないといけないね、と。ライブができないことによって、今までの活動とはまったく違うことをしないといけなくなるかもしれないし、「こういうことはやりたくない」という頑なさだけでは片付かなくなってくるかもしれないという話をしました。変な言い方かもしれないけど、なんとかして生き延びるしかない。自分たちが人の前に立って動くことが何もできない現状なので、ミニマムに動いて今を耐えるしかないという感じです。

無観客ライブのしんどさ

──ところで、3月に開催された配信ライブは、結果的に現在の主流になっている配信ライブの先駆けのような形になりましたね(参照:DIR EN GREYが横浜の新ライブハウスで無観客ライブ生配信、全世界のファンがひとつに)。

バンドにとっていい経験にはなったとは思いますね。この状況下で自分たちのライブや曲がどのように伝わるのかというのが、配信ライブを決めた一番大きな理由だったので、それは感じ取ってもらえたんじゃないかとは思ってます。なので、その点ではやってよかったなと。

──目の前にお客さんがいないライブはどんな感覚でしたか?

しんどいですよ。何に向かってやっているのかわからなくなりますし。でも、観てくれている人がいることを感じながらやってました。

──配信ライブは今後もやる予定ですか?

どうですかね……面白いことができそうなアイデアが浮かべばやるかもしれないですけど、基本的にはやっていくつもりはないですね。やっぱり配信ライブみたいなものって、いずれ飽きてきちゃうと思うんです。だから簡単に何度もやるのもどうかなと。

──DIR EN GREYはライブでやることを前提として曲を作っていると思いますが、特に今のような状況だと曲を作るときの基準点を設定するのが難しくなりそうですね。

そうですね……でもそことは関係なく、年々曲ができなくなってますね。曲が完成するまでに時間がかかるようになりました。いろいろ頭を巡るというか。

──求める基準がどんどん高くなってるということですか?

なってるし、着地点が見えない。どこに持っていくのが一番今の自分たちらしくて、かつ先を感じられるのかとか。いろいろ考えて作ってると「こないだもこんな感じの曲があったなあ」とかそういうところに陥っちゃうので、どんどん時間がかかるようになりますよね。

──同じことを繰り返すわけにもいかないし、当然作品の質も上げていかないといけない。

ええ。ちょっとしたアイデアがどう面白くなっていくかで、いつ正解にたどり着くかという感じです。自分自身があまり先を決めないタイプなんですよ。メンバーにも曲の方向性に関してこういう感じにしようってことはあまり言わないですし、言われても聞かない。なんとなくぼんやりしたところをさまよいつつ、最後はちゃんとしたところにギュッと寄る形で作っているので、メンバーからすると無駄にボヤーっとしてることが多いと思います。いつ曲が仕上がるの?と思われてるかもしれない。