1人でやってたら20年もやれなかった

──ちょっと大きな話になりますが、このバンドが目指すものってどこにあると思いますか？

京　うーん……別にゴールが見えてるわけじゃないし、答えもないんですけど、常に刺激的でいたい。刺激や新たな発見を求めているって言うか。新たな表現をしたいとか。その探究心が途切れないからやってると思うんですよね。

──「これでいいや」とか「これで十分」みたいな充足感みたいなものがない。

京　たぶんメンバーの中にもないんじゃないですかね。だから詰まることがない。常に何かしらやりたいことがある。どんどんやりたいことが出てくるし、そうである限りはずっとバンドをやっていきたい。

──薫さんはバンドとしての目標とか、個人としてたどり着きたいところってありますか？

薫　目標……って感じじゃないですよね、もはや。もとからそういうものはあまり作らないタイプなんですよ。目標って決めた時点で、超えなくちゃいけないから。むしろ目標なんて作らないで、そのときそのとき全力でいくしかない。

──自分が音楽を作っている、バンドをやっている一番のモチベーションってなんですか？

薫　うーん……やっぱりメンバーと言うか仲間がいるからじゃないですかね。1人ではやっぱりきついですよ。ゼロからものを作るのはしんどいし、1人でやってたら、ここまで20年もやれなかったと思う。みんながいるからやってこれた。

──DIRは全然メンバーチェンジがありませんが、お互いまだ刺激を与え合って、力を分け合っているという実感がある。

薫　そうですね。でもまあ……今更メンバーと話をしたいとかなくなってきましたけどね、20年も経つと。わざわざコミュニケーションを必要以上には取らなくなりました。

──あまり仲良しこよしってイメージでもないですからね。

薫　（笑）。そうですね。

──ふだん音楽以外のことをメンバー同士で話す機会は多いんですか？

薫　多くはないですね。

京　ライブのときに楽屋でちょっと話すぐらいですかねえ。あとは……まったくない。

──まったくない！

京　データのやりとりをする連絡方法しか、僕知らないですし。でも全然それでいいって言うか。

──へえ。それはお互い深く入り込まないほうがいいってことですか？

京　それもありますし……メンバーのそんな深いところまで知りたいって、ちょっと気持ち悪いじゃないですか（笑）。それはそれで楽しそうではありますけどね。みんなで遊びに行ったり。

──じゃあメンバーのことを知るのは、相手が作ってくる曲であったり出す音であったりだと。

京　うん、それがいまだに新鮮だから。

──DIR EN GREYの音楽には常にピリピリした緊張感がありますよね。それは音楽がそういうものだから、というだけじゃなく、馴れ合いや仲良しこよしごっこを許さないメンバー同士の関係性もある。

薫　そんな仲が悪いわけじゃないですよ（笑）。でも一定の緊張感のある中で曲を作ってるとは思います。なあなあな感じではないと思いますね。

──メンバー同士がなあなあな関係だったら絶対できない音楽だと思います。

京　そこだけは、はい。

5人で完結してるほうが挑戦しがいがある

──今回のアーティスト写真もそうだし、シングルのジャケ写も衝撃的ですね。

京　ジャケ写はミュージックビデオと一緒に撮ったんですよ。MVのワンシーンみたいなカットなんですけど。「違う人間になりたい人たち」みたいなイメージで。近未来な世界観だけどやってることはすごくアナログで、みたいな。

薫　でもまだMVが完成してないので、僕らも観てないんですよ（笑）。

──楽しみですね。あと、今作は特に録音が素晴らしいと思いました。

薫　わりとドラムの音からシビアに作っていきましたね。

──まさにそのドラムの音がすごくいいと思いました。そこはこだわったところですか？

薫　そうですね。以前まではちょっとアタック重視の感じで作ってたところを、もうちょっとどっしり構えて、芯がしっかりするように。全体的に重心を下げたかったので、そのへんからしっかり作っていかないと、というのはありました。

──重心を下げようと思った理由は？

薫　うーん……自分たちの好みですかね。あまりジャカジャカしているよりは、もっとどっしり構えた、ぶっとい音を出したいなという感じです。録りの時点からそれを想定して。

──なるほど。じゃあ今後制作するアルバムでも、その方向性で？

薫　そうですね。その方向になる……と思います。気が変わることもあるかもしれないけど（笑）。

──スタジオはいつも使ってるところですか？

薫　いや、今回は違うところで。あまりアンビエンスも広く取れない、ちっちゃなスタジオで録って、そこからいろいろ手を加えて太い音にしてみました。今回リズム隊が重要だと思ったので。さっきも言ったようにドラムがアタック気味になると、ベースもアタッキーになって、音がドンシャリ気味になっていくんです。そのへんを押さえ込んで、ベースもアタッキーというよりはふくよかに、どしっとしててもらうような。それでも存在感が見えるように、しっかり音を組み立てていく。なので以前よりもベースがしっかり前に出てきてると思います。

──各楽器の音がしっかり鳴っていて、バンドを取り巻く空間と言うか空気感のようなものもちゃんと伝わってくる。その結果、楽曲のよさやバンド感のようなものがより明確になっている気がします。

薫　あと、音数をあまり増やさないように、ギターとか上に乗ってくるものを、あまり多く入れないように心がけました。いろんな音が鳴ってる曲が……好みではあるんですけど、今はちょっと違うかなと。なるべくシンプルな音で、多彩に聴かせるみたいな方向で。

──ギターも2本いるし、音楽のスタイルから言っても、音の壁をベタッと塗り込めるようなサウンドになりがちですけど、それは避けたかったということですか？

薫　そうですね。極力シンプルに、でもすごく深く聞こえるように。

──ああ、それはこの曲に関しては見事に達成されてますね。

薫　でもね、これ作ってから少し時間が経ってるので「まだもっとできたかな」というのはあります。今アルバムの曲をずっとやってるので、削ぎ落としたい感じはより強まってますね。

──それは前作を作ったあとに考え方が変わってきたということですか？

薫　うん、ドラムとベースとギターと歌の絡みが、音がたくさん入ってくるとかりづらくなるんですよ。その絡んでる感じをうまく表現できればと思うので。なるべく5人で完結してる、5個の音で完結してるぐらいのほうが、個人的に挑戦しがいがあると言うか燃えるし。パッと聴いて曲のイメージがわかりやすくどんと入ってくるような音にしたいと思うと、そういうところに行き着くと思うんですよ。最近の海外のポップスとか聴いても、シンプルじゃないですか。音が1音鳴ってるだけで、あとは歌があれば大丈夫、ぐらいのシンプルさで。バンドも音が「ドン」と出たところで勝負が決まるぐらいの感じまで持っていければ、今回のアルバムはいいのかなと思ってます。