音楽ナタリー PowerPush - DIR EN GREY

3年4カ月ぶり新作が示すバンドの“根源”

自分に対してあんまり自信がない

──アルバムタイトルの「ARCHE」はギリシャ語で「根源」を意味する言葉です。DIR EN GREYにとっての“根源”というと、結成初期から痛みや負の感情を音楽で表現することですが、そのスタイルは今作でも変わってません。

はい、そうですね。

──すでに結成から20年近くになりますが、薫さんはどうしてそのスタイルを貫いていられるのでしょうか?

それは……自分に何もないからですかね。

──何もない、ですか?

はい……さっき曲を60も70も作ったって言いましたけど、本当に俺、曲がなかなかできないんですよね。だからいつも「なんとかしてやる!」っていう気持ちだけで乗り越えてるというか。「2、3日もらえたら1曲作ってくるよ」なんてこと、俺は絶対に言えないし、いつ1曲完成させられるかもわからない。自分に対してあんまり自信がないんですよね。だからいつも曲を作り始めると自己嫌悪に陥って、自分のことが情けなくなる。そういう部分を逆にパワーにする……というと変かもしれないけど、「自分に負けたくない。絶対になんとかする」という気持ちだけで作り上げてるというか。そういう負の感情をパワーにするというか、絶対に負けないという気持ちでしか曲を作れないんです。本当に昔からそうなんですけど、それが一番のパワーになってますね。

──そうだったんですね。でも実際にはすごい曲数を用意してくる。それって相当力を振り絞らないとできないですよね。しかもそれを10数年にわたって……。

ライブツアー「TOUR14-15 BY THE GRACE OF GOD」11月17日の神奈川・CLUB CITTA'公演の様子。(撮影:小松顕一郎)

なんとかやってきてますけどね(笑)。

──変な話、つらくならないですか?

つらいです、ははは(笑)。でも自分に負けたくないっていう気持ちと、DIR EN GREYは絶対にカッコいいバンドでいないとダメなんだっていう、その2つの思いでここまで続いてるのかな。正直何がカッコ悪いとかもわからないですけども、自分の中で許せないものは絶対に作りたくないっていう。

──その「自分の中で許せないもの」を作りたくないからこそ、制作にじっくり時間をかけている?

かけたいというか、どうしてもかかっちゃうんですよね。やっぱり自分はそんなにスラスラ進められるほうでもないので。

──特に「DUM SPIRO SPERO」発表後は京さんの喉の故障による活動休止もありました(参照:DIR EN GREYが当面の活動を休止)。そういうトラブルがあったとはいえ、日本の音楽シーンにおいてアルバムの間隔としては3年4カ月って長い印象がありますよね。

ミニアルバム(2013年4月発売の「THE UNRAVELING」)も作ってるんで、それを省けば2年くらいで出せたのかもしれないけど。それを抜きにしても、次のアルバムに向かう態勢がなかなかできてなかったのも大きいかな。ツアーをやりながら、「DUM SPIRO SPERO」を通じてやりたいことがまだあったから、次のフルアルバムに気持ちを持っていけなかったんだと思います。

「今」を反映した音が出せないとやってる意味がない

──2014年は1stアルバム「GAUZE」リリース15周年という節目で、あと数年するとバンド結成20周年ですよね。正直な話、DIR EN GREYを結成した頃はここまでバンドが長く続くと考えてましたか?

バンドの持つ説得力というのは長く続けないと出てこないものだと思っていたので、何年続くとかそういうことは考えてなかったですけど、長くは続けたいし、続けようとは思ってました。

──改めてバンドの歴史を振り返ると、DIR EN GREYってとてもユニークなバンドだなと思うんです。サウンドの変遷もそうですし、バンドが歩んできた道のりもそうですし。見ていてハラハラすることも多くて、目が離せなくなるんですよね。

そうなんですかね……みんな、これが普通なんじゃないですかね?(笑) そう言ってもらえるとありがたいですけど、自分たちとしては普通にやってるだけですよ。特に際立ったことをしてるわけでもないし、純粋に自分たちがやりたいことだけをやってる。それ以外はもう、本当に普通ですよ。

──純粋にやりたいことをやってるから、その都度変化もするわけですし。

ライブツアー「TOUR14-15 BY THE GRACE OF GOD」11月17日の神奈川・CLUB CITTA'公演の様子。(撮影:小松顕一郎)

そうですね。それができてこそアーティストなのかなって。毎回同じものを作るのも違うし、その都度自分たちの「今」を反映した音が作品なりステージなりで出せないと、やってる意味がないと思うんです。

──なるほど。あと、バンドを長く続けるとそれだけ年齢も重ねます。DIR EN GREYを続ける上で、老いとはどう向き合っていこうと考えてますか? 例えば歳を取ることが恐いと感じることは?

恐怖は感じないですね。まあ死ぬことが恐いか恐くないかと考えても……変な言い方ですけど、人間死ぬときは死ぬわけですし。ただ、何があっても悔いは残さないようにしたいとは思います。老いていけばその影響は体にも出てくるけど、考え方を変えればいろいろなことをしてきた今だからこそできることもたくさんあるわけで。正直昔よりもいろんなことに興味があるし、いろいろ可能性を感じて面白くなってきてるんで、変にマイナスに感じてはいないですね。例えば10年後、速い曲ばかりやれるのかとなったら、別にやりたくなかったらやらなきゃいいぐらいの感じです。

──そうなんですね。

DIR EN GREYは常に変化をし続けて、今回のアルバムではまた新たなスタートにたどり着いたと思ってます。もしかしたら次のアルバムはアコースティック作品になるかもしれないけど、それもDIR EN GREYなわけで。そこであまり不安にはならないですね。俺たちはこうだとあまり決め付けずに続けていければなと思います。

ニューアルバム「ARCHE」2014年12月10日発売 / FIREWALL DIV.
完全生産限定盤 Blu-ray [Blu-spec CD+CD+Blu-ray] 9720円 / SFCD-0136~8 / Amazon.co.jp
完全生産限定盤 Blu-ray [Blu-spec CD+CD+Blu-ray] 9720円 / SFCD-0136~8 / Amazon.co.jp
完全生産限定盤 DVD [Blu-spec CD+CD+DVD] 8640円 / SFCD-0139~41 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [CD2枚組] 3672円 / SFCD-0142~3 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3240円 / SFCD-0144 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. Un deux
  2. 咀嚼
  3. Phenomenon
  4. Cause of fickleness
  5. 濤声
  6. 輪郭
  7. Chain repulsion
  8. Midwife
  9. 禍夜想
  10. 懐春
  11. Behind a vacant image
  12. Sustain the untruth
  13. 空谷の跫音
  14. The inferno
  15. Revelation of mankind
完全生産限定盤 特典CD収録曲
  1. and Zero
  2. てふてふ
  3. Sustain the untruth [REMIX]
  4. Unraveling [REMIX]
  5. 咀嚼(Acoustic Ver.)
  6. 鱗(Crossover Ver.)
  7. Behind a vacant image(Acoustic Ver.)
完全生産限定盤 特典Blu-ray / DVD収録内容
  • Un deux(Shot In One Take)
  • Chain repulsion(Shot In One Take)
  • TOUR14 PSYCHONNECT -mode of “GAUZE”?- 2014.08.30 SHINKIBA STUDIO COAST(「かすみ」「蜜と唾」「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」)
  • BEHIND THE SCENES OF ARCHE
初回限定盤 特典CD収録曲
  1. Sustain the untruth [REMIX]
  2. 咀嚼(Acoustic Ver.)
  3. 鱗(Crossover Ver.)
DIR EN GREY(ディルアングレイ)

京(Vo)、薫(G)、Die(G)、Toshiya(B)、Shinya(Dr)からなる5人組バンド。1997年に現メンバーが揃い「人間の弱さ、あさはかさ、エゴが原因で引き起こす現象により、人々が受けるさまざまな心の痛みを世に広める」という意志のもとに結成。ミクスチャー / ヘヴィロック的な要素をゴシック的な様式美の中で表現する世界観が評価され、日本のみならず海外でも大ブレイク。2002年にアジアツアーを成功させたのを機に、アメリカ、ヨーロッパ各国にも進出し、熱狂的なファンを多数獲得する。2000年代後半からは海外でもアルバムを発表しており、2008年のアルバム「UROBOROS」はアメリカのBillboard Top 200で114位にランクインした。2011年には約3年ぶりのアルバム「DUM SPIRO SPERO」をリリース。発売直後からヨーロッパや北米、中南米などで海外ツアーも行った。2012年2月からは京の声帯不調を理由に表立った活動を休止していたが、同年10月よりライブ活動を再開。2013年6月には2年ぶりとなるヨーロッパツアー、10~11月には同じく2年ぶりの北米ツアーも実施した。2014年3月8、9日には4年ぶりとなる日本武道館公演「DUM SPIRO SPERO」を敢行。同年夏には1stアルバム「GAUZE」を携えて1999年に行われたツアーの続編「PSYCHONNECT -mode of "GAUZE"?-」も開催された。そして12月10日、3年4カ月ぶりとなる通算9作目のフルアルバム「ARCHE」をリリース。