ナタリー PowerPush - DIR EN GREY
薫が語る海外ツアーの裏側とバンドの現状
海外ではライブは来るのに新しいCDは持ってない人が多い
──映像の中で、皆さんは海外ツアーを進めるごとに新曲の数を少しずつ増やしていったと言ってました。海外で新曲を初めて演奏するのと、国内で初披露するのでは反響に違いはありますか?
実はここ3作くらい、毎回アルバムが出たら海外からライブを始めてるんですよ。海外の場合は、なんて言うのかな。ニューアルバムのツアーなのに、そのアルバムの曲が一番盛り上がらないんですよね。ライブは来るのに新しいCDは持ってないっていう人が結構多いんですよ、向こうでは。音源は買うもんじゃないとか、曲を聴きたかったらYouTubeで観るとか、そういう意識が強いみたいで。海外ではVIPチケットというのがあって、限定何人かがメンバーと握手することができるんですけど、そういう高いチケットは買ってるのにCDは持ってないっていう人が半分くらいいるんです。「これだけ好きだったら、CD買うでしょ?」って思うんだけど(笑)。ちょっと変わってるんですよね、向こうの文化は。だから、最初はニューアルバムの曲をやるつもりで用意していっても、ツアーが終わる頃にはその曲数が半分くらいに削られていて。新曲への反応も薄いし、結局昔の曲を引っ張り出して演奏するほうが多いです。
──日本でも過去の曲が盛り上がるっていうのはもちろんありますけど、やっぱり新作のツアーに行く前はみんな予習をしてからライブに行くっていうイメージがあるんですが。
海外じゃないですね、そういうの。「まだあの曲やらないのかよ!」みたいな感じで。で、YouTubeにPVが上がってるような曲は全部盛り上がりますね。
──海外では映像を観ると、有名な曲はお客さんもみんな大合唱してますもんね。ああいう映像を観ると極端な話、言葉の問題ってそこまで関係ないのかなって感じさせられました。
まあ俺たちがそうだったじゃないですか。子供の頃に海外アーティストの曲を聴いて、英語がよくわかんないけどカッコ良かったっていう。だから、別に日本語とか英語とか最初から関係ないと思ってましたね。でも、まだ海外で日本の音楽が自然と流れている状態ではないので、日本の音楽を聴こうって一歩踏み込まない限りは聴ける機会がまずないし。そういう意味ではまだまだこれからだと思うんですけど、こういう日本の音楽が存在するんやって事実は、向こうの文化に少しずつ伝わってるんじゃないですかね。
ちょっと負荷があるほうがライブで良いものが生まれる
──そういえば、ロンドンでの暴動のタイミングに現地でライブをやったんですよね。そのときの映像も入ってますが、ちょっと落ち着いた雰囲気がありつつも、物々しさが映像から伝わってきました。
ちょっと沈静化した頃だったんで「もう大丈夫だろ?」って思ってたんですけど、スタッフは何かがあった場合のことを想定して、ギリギリまでライブをやるかやらないかを考えていて。本当はライブの前日にロンドン入りする予定だったのを、ギリギリまで別のところに待機して、当日ロンドン入りしてライブをして、終わったらすぐ次の街へ移動したんです。ライブ会場の周りは結構危なかったところだったみたいですけど、そんな事故に出会ったわけでもないんで「別に大丈夫やな」って感じでしたね。街中の至るところに壊れた箇所があったりはしたんですけど、普通にお客さんも来てくれたし。たまたまそういうタイミングに自分たちがその場所にいるのなら、キャンセルせずにぜひライブはやりたいと思ってました。
──毎年訪れる国で、たまたまそういうタイミングにかち合ってしまっただけというか。現地のファンからしたら、ずっとDIR EN GREYのライブを楽しみにしていたわけですし。
まあ何もない平和な環境でやったライブと、ああいう状況でやったライブとでは、記憶に残る度合いはやっぱり違いますね。そういう意味では、とても印象に残ってますよ。
──なるほど。それとDVDの中で特に印象的だったのが、ヨーロッパツアー序盤にDieさん(G)が言った「まだ余裕がない、(ライブを)楽しめてない」という言葉だったんですが。実際にツアー序盤は薫さんも同じような心境でしたか?
ほかのメンバーがどう感じていたか自分にはわかんないですけど、俺の場合はライブを楽しむっていう意識はちょっと違うかな。ライブはもちろん好きなんですけど、楽しくないっていうか、ちょっと負荷があるほうが良いものが生まれる気がして。だから、あまりに楽しいとちょっと余裕が出てきて、逆に面白くなくなっちゃうかなと思ってしまうんです。
──ちょっと緊張感があるくらいのほうが、良い状態でライブに臨める?
ええ。バランスが悪いくらいのほうが自分は好きですね。でも、Dieが言ってるような感じで言えば、ツアーの最初の頃は曲が体に慣れてないんで、ストレスもちょっと抱えていて。結局は練習したりライブの本数を重ねたりして解消されるので、そういう意味ではツアー前半はしんどかったですね。
一度やった企画ライブは二度とやらないつもりでいる
──約1カ月にわたるヨーロッパツアーが終わり、9月から国内ツアーに突入。日本での1発目となる川崎CLUB CITTA'でのライブ「TOUR2011 AGE QUOD AGIS Ratio ducat, non fortuna -Zombie-」では皆さん特殊メイクをしていました。
「DIFFERENT SENSE」という曲のPVでそのメイクをしたんで、「それでライブをやったら面白いんじゃない?」っていうだけで。まだこのライブが決まる前にその話をしていて、ツアー中にやるのがいいのか、海外でもやってみようかいろいろ案が出たんですけど、話を進めていくうちにちょっと企画っぽくしたほうが面白いかなと思ったんです。このライブはアルバムを買ってくれた人を対象とした無料ライブだったので、そういうイベントっぽいのもいいんじゃないかと。
──国内ツアー「TOUR2011 AGE QUOD AGIS」のスタート前にその特殊メイクライブがあり、11月にはシンフォニックアレンジを施したライブもありました。今回は特にそういう、ツアーからのスピンアウト的な企画ライブが続いた印象があります。
そうですね。個人的にはもっとやってもいいかなと思ってるんですけど。
──手の込んだ内容だけに、たった1回だけっていうのがもったいない気がしますが。
まあ、どう考えるかですよね。今の時代はなんでもかんでも簡単に手に入るじゃないですか。でも、そこに来ないと感じられないものっていうか、1本1本を大事に感じてほしいなっていう思いを込めて、一度やったことは二度とやらないつもりでいます。もちろん普通のライブもそうなんですけど。そういう信頼関係がひとつずつ積み重なって、このバンドが存在するから。じゃあ半年後にまた同じ企画ライブをやりますなんて言ったら、最初に感じた興奮が薄らいでしまうんじゃないかと思うし、だったら最初に感じた興奮を大事にしてあげたいなと思うんです。
ドキュメンタリー映像作品「TOUR2011 AGE QUOD AGIS Vol.2 [U.S. & Japan]」/ 2012年7月18日発売 FIREWALL DIV.
ドキュメンタリー映像作品「TOUR2011 AGE QUOD AGIS Vol.1 [Europe & Japan]」/ 2012年6月20日発売 FIREWALL DIV.
DIR EN GREY(でぃるあんぐれい)
京(Vo)、薫(G)、Die(G)、Toshiya(B)、Shinya(Dr)から成る5人組バンド。1997年に現メンバーが揃い「人間の弱さ、あさはかさ、エゴが原因で引き起こす現象により、人々が受けるさまざまな心の痛みを世に広める」という意志の元に結成。ミクスチャー/ヘヴィロック的な要素をゴシック的な様式美の中で表現する世界観が評価され、日本のみならず海外でも大ブレイク。2002年にアジアツアーを成功させたのを機に、アメリカ、ヨーロッパ各国にも進出し、熱狂的なファンを多数獲得する。2008年にアルバム「UROBOROS」を世界16カ国で同時期にリリース。同作はアメリカのBillboard Top 200で114位、インディーズアルバムチャートBillboard "TOP INDEPENDENT ALBUMS"で9位、新人アーティストを対象としたチャートBillboard "Heatseekers Chart"で1位という快挙を達成する。その後、2008年末から2010年にかけて「UROBOROS」を携えたライブツアーを国内外で展開。2010年1月に日本武道館公演を2日間にわたり開催し、ロングツアーを締めくくった。2011年8月には約3年ぶりのアルバム「DUM SPIRO SPERO」をリリース。発売直後からヨーロッパや北米、中南米などで海外ツアーも行った。2012年1月には大阪城ホールで「UROBOROS -that's where the truth is-」と題した一夜限りのライブを敢行。しかし2月からは京の声帯不調を理由に、当面の活動を休止している。