「せっかくだからササノも歌おうよ」

──新曲「スタンダロン」は、Dios初のたなかさんとササノさんがツインボーカルをとる曲になりましたが、この曲は「＆疾走」のツアー中に作られた曲なんですよね？

たなか　そうですね。ササノが「これ買ったんだよね！」ってウキウキ顔でAbletonのPushという機材の話をしていて。「これ、スタンドアロンで動いて、いいんだよねー。ぐふぐふ」と言っているのを聞いて、そのときは「ふーん、そうなんだ」と聞き流していたんですけど、「スタンドアロンなものっていいよね」という気持ちは僕の中にもあるんです。スタンドアロンでも起動するけど、組み合わせるとさらに楽しく遊べるって、Diosが目指すべき形だよなと。そういうことを歌った曲ですね。「せっかくだからササノも歌おうよ」と、Ichikaが言い出しました。

Ichika　ずっと「ツインボーカルやってほしい」と思っていたし、「そろそろ……」と思って。ササマリはそもそもコーラスの人ではなくて、ササノマリイというシンガーソングライターなわけだから、それをずっと控えにしているのはもったいない。というわけで今回、メインとして投入しました。

──ササノさんは今回Diosでメインボーカルをやられて、いかがでしたか？

ササノ　最初は恐れ多かったです。たなかとは歌のキャラクターが違うし、「その違いは相性としてどうなんだ？」と思う部分もあるし。そもそも、声の通り方の差が大きいんです。僕とたなかの声を比べると、たなかの方が圧倒的に声の通り方がいいんですよね。僕の声はサイン波に近い。倍音がすごく少ないんです。

たなか・Ichika　確かに。

ササノ　どうやっても、たなかの声のほうが抜けて聴こえる。そんなたなかとボーカルとして一緒に並ばなければいけない……そうなったとき、「自分が歌手として劣っていると思われたくない」という気持ちもあるし、「Diosとして楽しませるうえで、たなかはうまいけどササノは微妙だな、と思わせたくない」という気持ちもありました。僕はライブや音楽は聴き手を楽しませるべきだと思っているから、下手なものは聴かせられない。なので「レコーディングでボーカルをディレクションしてもらうとき、自分の歌に対して言ってもらったことは否定しないようにしよう」と思ったんです。

たなか　いい話！

ササノ　「自分の耳や自分の感情はこうあるべきだ」というものは、絶対に自分から出さないようにしようと思いました。第三者が聴いたほうが、いいものを「いい」と判断できるはずだから、それに従ってみようと。なので、今回は今までの自分が意図的に避けていた発声の仕方、「俺には太すぎるかな」と思っていた声の出し方をあえてやってみたんです。もともと、僕は自分の声が好きじゃなくて、コンプレックスがあったんですけど、そこを取っ払わなければいけないタイミングが急に来た。作為的にならず、素で歌うということの恐怖もありましたが、その恐怖よりも「楽しんでもらわなければいけない」という思いを優先しました。結果的に、その判断は間違っていなかったと思いましたね。あとから曲を聴き返してみても、僕の声も抜けて聴こえてくるし、ライブで聴いてくれた人の反応も僕が見た限り悪いものはなかった。「もしかして、自分をもうちょっと出してもいいのかな」とも思いましたね。

たなか　そうだよ。

ササノ　なので、「スタンダロン」という楽曲を経て、自分自身のマインドはかなり変わったと思います。僕はデビューしたての頃にライブで大失敗をしたことがあって、ライブで歌うことが完全にトラウマだったんですけど（笑）、それを6年以上ぶりに払拭できた。本当にDiosに人生を助けられているなと思います（笑）。

たなか　よかったねえ（笑）。僕は僕で、「スタンダロン」を通してIchikaのギターの作り方がやっとわかってきた感じがあったんですよね。1つの答えが見えてきた。

ササノ　確かに、「スタンダロン」はツインボーカルという部分にフォーカスされがちだけど、前に出ているのは、あくまでも3人なんですよ。Diosの3人が初めて、前後なく、横並びになった曲なんですよね。

Ichika　そうだね。今の話はライブを観た人にはより伝わると思う。

ササノ　そういう意味でも、Diosのよさ、Diosの出すべきところをちゃんと出すことができた曲だと思います。

──「スタンダロン」の歌詞の世界観も、「＆疾走」同様、1つの感情というよりは人生全体にフォーカスした、とてもDiosらしいものになっていますね。

たなか　そうですね。まあ……正直、そこには常に葛藤もあるんですよね。「正しすぎねえ？」みたいな。人生ってそんなに正しいことばかりではないじゃないですか。だからこそ、自分たちの曲が持つ“正しさ”に迷ってしまう部分もあるというか。正しさと退屈さって、距離が近いんですよ。だから、難しい。もうちょっと“揺らぎ”を捉えたうえでの表現があるんじゃないか？という……そういう悩みはめっちゃあります。

Ichika　悩みしかないね。

たなか　悩みしかない！

Ichika　そう思うと、アルバムを出して、ツアーを終えて、中国から帰ってきて、「スタンダロン」を出して……今がまさに、次に向けた一手を考えるべき時期なのかもしれないね。

たなか　そうだね。いろいろと整理して、次の打つ手を考えたい。

永久に自己批判の繰り返し

──2024年、年が明けるとまずは1月に台湾と香港でのライブがありますね。そして4月からは、くじらやCö shu Nieをゲストに迎えての東名阪ツアーも控えているという。精力的なライブ活動が続きます。

Ichika　対バン形式でのツアーは初なので、楽しみです。せっかくだから、ゲストのアーティストと一緒に曲を作ったりもしてみたい。

──「＆疾走」のツアーではオオツカマナミさん（B）と山本晃紀さん（Dr）という2人のサポートメンバーを迎えて、一体感のある素晴らしい演奏を披露されていましたが、リズム隊がいる編成でのライブの手応えはいかがですか？

Ichika　やっぱり、めちゃくちゃいいですよ。中国でのライブはドラムレスだったんですけど、やっぱりドラムは必要だなと思いました。

ササノ　ドラムがいないとなると事前にシーケンスの準備をするんですけど、それだと予定調和感が出てしまうんですよね。あと、最終的に音がスピーカーから出るとしても、楽器が生み出す空気の振動って、ライブを楽しんでもらうためには絶対に必要なものだと思うんですよ。

たなか　それはマジでそう！ サポートの2人には本当に助けられつつ、豊かにしてもらっているなと思う。

──今日のお話を聞いて、Diosの次の作品が早くも非常に楽しみになりました。この記事にいろんなヒントがちりばめられたと思うんですけど、それでもやっぱり、Diosのアクションは想像がつかないので。

たなか　一応、今考えている次のテーマとして、「テンパイを崩せ」というのがあるんです。正しいフォームで作り上げた正しい手牌を、崩したほうがいいときがある。……それが今考えている、次の面白テーマ（笑）。

Ichika　それを表現するのはムズいよ？ 下手したら「今まで言っていたことはなんだったの？」ってなるから。

たなか　そう、ムズいテーマなんだけど、「＆疾走」が“レッスン1”だとしたら、“レッスン2”としてそれをやりたいんだよねえ。

──Diosは変化していきますね。破壊と構築を繰り返しながら進んでいくのが、Diosという感じがします。

たなか　そう。永久に自己批判、自己反省をやっている感じなんですよ……。

Ichika　バランスが難しいよね。それは大事なことだけど、それだけだと永久に前に進めない。

たなか　おっしゃる通り！

ササノ　まあ、こういう話を通して、ちゃんと作っている側も葛藤しているということが伝わるといいね。僕らは思想強めだと思われがちだし、「すべて自分たちが正しい」と思っているふうに捉えられるかもしれないけど（笑）、こっちも人間だから移りゆくものでもあるし、そのたびそのたびに、思考をアップデートしていくものだから。

たなか　不安ですよ、不安。

ササノ　それすらも楽しんでいけたらいいよね。