ほかの人に足を踏み入れてもらったほうが面白くなるんじゃないか
──では、ここからは新作の話を。去年リリースされた1stフルアルバム「CASTLE」の楽曲をさまざまなアーティストを招いてリミックスした5曲入りEP「Re:CASTLE」がリリースされますが、本作のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
たなか 普通に「自分たちの楽曲をいろんなアーティストにリミックスしてみてほしい」とずっと思っていて。「CASTLE」は「城」という意味で、要は「場所」であり「建築物」じゃないですか。建築物の面白いところは、多くの人に歩かれれば歩かれるほど、複雑性が増していくところで。同じ建物でも、例えばできてから3年経って、その間に人の出入りがあっただけで、最初と比べると印象が全然違うと思うんです。人の息づかいが建築物には保存されるというか、空気のようにうっすらと堆積していく。そう考えたときに「CASTLE」というアルバムも、ほかの人に足を踏み入れてもらったほうが面白くなるんじゃないかなって。
──去年「CASTLE」をリリースされて、人に聴かれたり、ライブで演奏を重ねてきたりしたことで、作品の意味合いがご自身たちの中でもより深く理解されていく、という部分もありましたか?
たなか そうですね。音楽はそこが面白いところです。繰り返し、自分たちの中で解釈し続けていく。そういう意味では、自分にとっての「CASTLE」というアルバムの意味合いもだいぶ変わったかもしれないです。そもそもは、聴いてくれている人1人ひとりの中に城を建てたいという思いがまずあって、だからリリック自体は内省的というか、「自分と向き合う」というニュアンスの強いアルバムだったんです。聴いてくれる人それぞれの中にお城ができあがると面白いなと思っていた。でも僕らの中でも心の中に建っている城の在り方が徐々に変わりつつある。今はそういう感じがしますね。
──「Re:CASTLE」には国内外問わないリミキサー陣が参加されていますが、人選はどのようにされていったのでしょう?
たなか 僕ら3人で選びつつ、スタッフの意見もありつつっていう感じですね。
ササノ 「この曲はこの人が合うだろう」という考えもありましたけど、完全な私欲もありますね(笑)。
──私欲で選ばれた方というと?
ササノ Tennysonのルーク(・プリティ)さんなんですけど、これは完全に僕の独断で。ずっとファンなんですよね。MacBook Proにサインしてもらいました(笑)。
──直接対面されたんですね。
Ichika たまたま日本にいたんですよね。
たなか 「日本好き」って言ってたよね。なぜかササマリよりも僕のほうが仲よくなっていて、よく一緒にボルダリングに行っています。
──面白い関係性ですね(笑)。
ササノ Diosの中で、僕だけ英語がしゃべれないんですよ。2人は英語がしゃべれるのでコミュニケーションが取れるんですけど、僕は全然できなくて。「悔しい!」と思ってました(笑)。
たなか コミュニケーションはバイブスでいいんだよ。適当でいいんだって。
それぞれが思うリミックスの魅力
──Tennysonは「断面」のリミックスをされていますが、聴いた印象はいかがでしたか?
たなか 「断面」って、もともとは重たい感じの曲なんですけど、それが軽やかになってて、いいよね。
Ichika リミックスの醍醐味だよね。完全にリビルドというか、ぶっ壊して建て直しているくらいの感じだから。
ササノ 僕は「うれしい!」って完全にファン目線で受け取っちゃっているんですけど(笑)。Tannysonって、電子音楽なのにとても有機的な音を作る方なので、そこが「断面」といい形で化学反応を起こしているなと思います。
たなか そうだね。「断面」は、生々しい人間の質感に触れることができるようになるっていう曲だから。すごくいいアプローチだと思う。
Ichika あと、ほかのリミックスで言うと、僕はTomgggさんが大好きだったので、参加していただけてうれしかったです。大学の頃、しょっちゅう聴いていたので。
たなか 個人的に春野さんというシンガーソングライターの方の曲を「いいな」と思って聴いていたんですけど、IchikaがTomgggさんの名前を出してお願いしたあとに、春野さんの曲のクレジットにTomgggさんの名前を発見して。「やったー!」と思いましたね(笑)。
──先ほどIchikaさんから「リミックスの醍醐味」という言葉も出ましたが、改めて皆さんはリミックスという表現にどのような魅力を感じますか?
ササノ 個人的には、自分たちの曲を土台にして、各アーティストのいいところが出るというのがリミックスの醍醐味だと思っていて。リミキサーである人たちのよさが出ない状態で違うものにされたら、それはただのリアレンジでしかないと思うんですけど、今回のリミックスはどの曲も、聴いたら「あ、あの人だ」と思える形になっていると感じるので、それを楽しんでほしいなと思いますね。
Ichika 僕はリミックスに触れるときって、今の音楽の形が「データ」なんだと、改めて強く感じる瞬間でもありますね。生演奏みたいなその場限りの音楽じゃなくて、リミックスはデータを使って、データを切り刻んで新しく曲を作る。僕は生楽器で録るところから曲作りを始めるから、リミックスというデータの想定から作り始める音楽の形は興味深いです。
たなか 僕はもうちょっと抽象的な話になりますけど、映画や小説では描かれていなかったシーンを見ることができるような、そういうよさがリミックスにはあるのかなと思っていて。それこそ、Tomgggさんにリミックスしてもらった「Bloom」って、原曲はサビで盛り上がる感じもあるし、物語で言うところのクライマックス感があると個人的には思うんです。でもTomgggさんのリミックスには、物語が始まるときの電車に乗り込むシーンのような、新しい景色を予感させるものがあって。電車の発車ベルのような音が入っているし、「旅が始まるぞ」感がすごくある。「Bloom」という物語の冒頭を見せてくれている感じがするんですよね。そういうところが、すごく面白いです。
「城」というモチーフを出すのはつまらない
──「Re:CASTLE」の豪華装丁版には、たなかさんが執筆されたストーリーに、「CASTLE」のジャケットも手がけた画家の山口洋佑さんによるイラストを添えたブックが付属するそうですね。ストーリーはどのように書かれたのでしょう?
たなか 絵本みたいにしよう、小説を通じて、主人公が変化していくものにしようと思っていました。物語って、主人公が変化していくことにカタルシスが生まれるものが多いと思うんですけど、自分で作品を作るぶんには、そういうものは好きじゃなかったんです。でも、僕自身変化していかないといけないし、そういう作品を作ってみようかなと。あと、「城」というモチーフを出すのはつまらないからやめようと思って。その分、山口さんのイラストに森っぽさを感じたし、「CASTLE」のデモを作っているときも「森っぽいのにしよう」とIchikaに言いまくっていた時期があったので、森を舞台にしようと思いました。Ichikaの音は、森とか、森の中にある湖畔のイメージがあるから、そこに引っ張られてきているものもあると思うんですけどね。ササマリの音は、あまり森っぽくないんだよね。
Ichika 確かに屋外感はないね(笑)。
ササノ そうね。小部屋です(笑)。
たなか それか、異国の街並みみたいな。どっちにしろ、ササマリの音はちょっと都会的だと思うんだよな。
ササノ そうなんだ。個人的には、神社の林から見る夕焼け、みたいな気持ちで作っていたこともあるけど。何にせよ必ず孤独というものがそこにあるっていう。
──山口洋佑さんのイラストには、皆さんはどのような魅力を感じていますか?
ササノ アナログの強さを感じますね。全部アナログで描いていただいているので。僕自身、音楽一筋になる前は絵の道に進みたい気持ちもあった人間なので、デジタルじゃないもので描き切る大変さは、少しはわかっているつもりなんです。山口さんには、この1つの作品のために、とんでもないことをしていただいたなと思います。
Ichika ありがたいよね。色の重なりに隙間があって、そこから見えないものが見えるような感覚がある。そこがすごくいいなと思います。僕は「Virtual Castle」のジャケットがすごく好きなんですけど、舞踏会の様子を描きながら、1つひとつの宝石が輝いているようにも見えるし、夜空にも見えるし。見る人によって見えるものが変わる。それはある意味、見る人の心を映しているようなものなんだろうなと思う。
たなか あと、引き算がとんでもなくうまいよね。情景を描きつつ、描きすぎない。それって、熟練された温度感がないとできないと思うんです。めちゃくちゃ緻密に描き込んで、解釈の余地を減らしながら、とにかくパワーで殴る、美しさで殴る、精密さで殴る、というやり方もあると思うんですけど、そうじゃない。例えば、「劇場(Kan Sano Remix)」のジャケットは、完全に見る側に解釈を投げてきているし。
Ichika 「劇場(Kan Sano Remix)」のジャケットをはじめ、今回のリミックス楽曲のアートワークには、僕はすごく芥川龍之介を感じたんだよね。
たなか あー、確かに!
Ichika 芥川龍之介の作品って、最後に何も言い切らない作品が多くて。例えば「秋」という作品は、崩壊していく人間関係をそのまま言葉で表現せずに、秋の情景描写だけで描くところがすごく好きなんです。決定打を言わないというか。本人的には、書き切っているんだろうけど。
たなか わかる。あとシンプルに、山口さんは白黒でもここまで表現できるのが怖いよなあ。
Ichika 見る人が歩んできた人生や経験によって、見える色は違うだろうね。
「アナログなシステムで殴る」というイメージ
──3月には横浜、大阪、東京の3カ所のBillboardで「Dios Billboard Live 2023 "CASTLE/Re:BUILD"」が開催されます。今回のライブは、編成が少し変わるそうですね。
たなか そうなんです。ベースとドラムを入れた編成でやろうと思っていて。
Ichika 今までのDiosのライブとは違う雰囲気の公演になると思うし、自分たちも今回のライブで学ぶことは多いだろうと思います。
ササノ 本当の意味での“バンド”を体験するのかもしれないね。リズム隊が入るというのは、本当に楽しみだなと思う。
たなか 僕はこのツアーのテーマとして「アナログなシステムで殴る」というイメージがあります。弦を弾くとでかい音が出て、それが体に響いて、心臓がグラッとする、みたいな。そういうことの1つひとつを楽しんでもらいたいなと思う。あと、僕は今まであまり歌の練習をしたことがなかったんですけど、最近はちゃんと練習しようと思っているんです。“自分という楽器”の精度を上げたくて。表現するときに、すでにある絵の具のどれを使うか?という選択は、僕はもううまくできると思うんです。でも、絵の具の種類を増やして、色を繊細にしていきたいという気持ちが今すごくあって。今回のツアーは、それにトライできるいい場だなと思っています。
──「アナログなシステムで殴る」というイメージがあるということですが、たなかさんの今のモード的に、アナログに魅力を感じているんですか?
たなか なんというか、「原始的なものってすげえな」というフェーズにいるような気がしますね。もちろん、デジタルなものも積み上げてきた歴史はあるけど、やっぱりアナログは長さが違うじゃないですか。人間には何千年前からやってきた営みがあるわけで、音楽だって、手の筋肉が与える衝撃で音を出したり、人間の呼吸を音に変換したり……そういうことって、やっぱりすごいなと思うんです。一歩間違えれば子供の幼稚な遊びでしかない、本質的に生存には関係ないのかもしれない児戯スレスレの営みが、今にまで続いてきている。そういう人間の営みや文化全体に、最近は興味があります。今回のライブで、そういうものに回帰できればいなって思うんですよね。
ライブ情報
Dios Billboard Live 2023 "CASTLE/Re:BUILD"
- 2023年3月18日(土)神奈川県 Billboard Live Yokohama
[1st]OPEN 15:30 / START 16:30
[2nd]OPEN 18:30 / START 19:30 - 2023年3月22日(水)大阪府 Billboard Live Osaka
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00 - 2023年3月27日(月)東京都 Billboard Live Tokyo
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00
プロフィール
Dios(ディオス)
たなか(前職ぼくのりりっくのぼうよみ)、ギタリスト・Ichika Nito、トラックメイカー / シンガーソングライターのササノマリイによって2021年3月に結成されたバンド。同年3月に1stシングル「逃避行」をリリースし、翌2022年6月に1stアルバム「CASTLE」を発表した。2023年2月に「CASTLE」の収録曲を国内外5名のアーティストがリミックスした音源集「Re:CASTLE」をリリースした。
Dios (@_d_i_o_s_info_) | Twitter
衣装協力
たなか
ジャケット:FNNL / MATT.
シャツ:SEVESKIG / Sakas PR
パンツ:YUKI HASHIMOTO / Sakas PR
ichika
ジャケット:LES SIX / MATT.
パンツ:LES SIX / MATT.
シャツ:SOSHIOTSUKI / MATT.
スニーカー:BALMUNG / ESTEEM PRESS
ササノマリイ
ジャケット:LAD MUSICIAN / LAD MUSICIAN HARAJUKU
柄シャツ:SOMARTA / ESTEEM PRESS
レイヤードシャツ:ETHOSENS
メガネ:金子眼鏡 / OPTICIEN LOYD
パンツ:WIZZARD / TEENY RANCH