Diosインタビュー|1stアルバムの楽曲を5人のアーティストがリミックス、徐々に変化していく“城”の在り方

たなか(前職ぼくのりりっくのぼうよみ)、ギタリスト・Ichika Nito、トラックメイカー / シンガーソングライターのササノマリイの3人によるバンド・Diosのリミックス音源集「Re:CASTLE」がリリースされた。

この作品では、昨年6月にリリースされた1stアルバム「CASTLE」の収録曲のうち5曲に、Tomggg、banvox、Kan Sano、Tennyson、NYKという国内外5名のアーティストがリミックスという形で新たな命を吹き込んでいる。本作のリリースを記念して、音楽ナタリーはDiosにインタビュー。バンド結成以降の3人の関係性の変化について話を聞きつつ、初のリミックス音源への思いを語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 入江達也

この3人で数年後に作る音楽は、本当に素晴らしいものになる

──SNSを見る限り、今年に入ってからDiosは合宿に入られていたようですね。

たなか はい。雁首そろえて箱根に行っていました。けっこう和やかな合宿だったよね?

Ichika Nito そうだね。終始、穏やかに曲を作ってた。僕らは一緒に曲を作るということを今までしてこなかったんです。そういう意味では、同じ場所で一緒に曲を作るというのは新鮮でした。

ササノマリイ はかどりましたねえ。

──そもそも、合宿をすることに決めたきっかけはなんだったんですか?

たなか 僕らはそれぞれの活動もあるので、Diosをやりながらも「あっちの案件もやらなきゃ」みたいな感じになってしまうこともあるんですよね。なので、頭の中がDios一色になるタイミングをまとめて作ったほうが、やりやすいのかなと思って。それで、「3日くらい合宿をやってみましょう」という話になったんです。

たなか

たなか

──今おっしゃったように、Diosは3人それぞれがソロアーティストとしての顔も持っているわけですが、こうして3人そろってお話しされているところを見ると、想像以上にバンド然とした佇まいを感じるんですよね。

たなか おっ、ありがとうございます。

Ichika うれしいね(笑)。

──皆さんにとって、バンド表現の醍醐味はどのような部分で感じられますか?

たなか ソロ活動との比較になるんですけど、やっぱりステージにいるときに一番感じますね。「楽しそうにしているな」というメンバーに対する思いを、平等に分かち合えるのが面白いです。

Ichika 僕は、自分1人じゃまったく届かない領域に、ほかの人という異分子が入ることで届くことができるのが醍醐味だなと。あとは、時間をかけて3人の関係性や音楽のノウハウを培っていけることですね。今はまだ芽が出始めたところですけど、この3人で数年後に作る音楽は、本当に素晴らしいものになると思う。

ササノ まさにIchikaが言ったことと近いと思うんですけど、バンドは新しいものを生み出していく過程を楽しむことができるんですよね。そもそも自分にとって創作活動はすごく身を削るものなんですけど、Diosでは心身ともに削らずに創作活動をできている感覚があるんです。ものを作るうえで「よくしていこう」と思えば思うほど終わりはないものだと思うんですけど、3人で作っていると、その終わりなき迷路で迷っているのが1人じゃないという感覚もあって。

Ichika ほかの2人からパッと答えが出たりするからね。

ササノ そうそう。作品はどこかで完成させなきゃいけないし、それは「どこかであきらめなきゃいけない」ということでもあるんだけど、この3人だと、いい方向に向かいながら、いいあきらめができているというか。さっき話した合宿でも、3人でデモを作っていくスピードがものすごく速かったんです。そういう部分は、バンドをやることでいい経験ができているなと思います。

Dios

Dios

Ichikaはギャルの科学者

──3人はDios結成前から親交があると思うのですが、改めてDiosのメンバーとして接していくことで気付いたお互いの人間性もあるのかなと。例えばIchikaさんとササノさんから見た、たなかさんの印象はどうでしょうか?

Ichika ……出会った頃の印象、もう忘れちゃった(笑)。

たなか ははは。

Ichika 今の関わりが濃すぎて、最初の頃が思い出せない(笑)。でも、無邪気ですよ、たなかは。無邪気な少年。これは最初の頃の印象と変わっていないかもしれないです。

ササノ あと、怖いくらいに裏表がないよね。

たなか ないねえ。

ササノ どこでもこの状態なので、すごいなって。僕は人に会うときと、1人でいるときの差がひどいんです。1人でいるときは、本当にだらしなくて。でも、たなかは人によって何かを変えるということが本当にないように見えて。完全に自然体。あとステージ上でのパフォーマンスも、僕自身も一応シンガーソングライターとしてやっていますけど、「勉強になる」と言うのもおこがましいくらい、すごいんですよね。「これがタレントってやつか」っていう……。

たなか なんなの(笑)。

ササノ もともと僕はたなかのファンでもあったんですけど、一緒にバンドをやるようになって輪をかけてすごいなと思っています。

Ichika 作っているものもだんだん変わっているよね。Diosを始めた頃って、暗くて鬱々とした感じの歌詞やメロディが多かったけど、今はもうちょっと明るいもんね。

たなか そうね。その時々の自分の中のブームだけど、根本的に飽き症だから、同じものを作り続けることができないというか。人に提供するときは別だけど、Dios然り、自分のもの作りをするときは新しくないとなという思いがあって。だから変化はあるよね。2人も変わっていっていると思うし。

Ichika 変わっていかないとダメだよね。1本通っている芯を持ちながら、外側は柔軟に変わっていかないと。

Ichika Nito

Ichika Nito

──では、たなかさんとササノさんから見たIchikaさんはどうですか?

たなか ガチで科学者だなと思います。ギャルの科学者。

Ichika (笑)。

たなか 世界の見方を陰と陽で分けたときに、Ichikaは完全に陽の人なんですよね。それは性格が明るいとかそういう話でもなくて、「世界は自分の手で獲得可能なものである」と思えているかどうか、ということなんですけど。陰の人は、「世界は自分の手から零れて失われていくものであって、それをどうやって守るのか?」と思うもので、そこは根本的な世界を見る目の違いだと思うんです。僕は陽の人のことを「ギャル」と呼んでいるんですけど、そういう意味でIchikaはギャルであり、それを実践していく方法論が科学者なんです。大学もそっちのほうだもんね?

Ichika うん、理系だった。

たなか で、その科学者的な気質にアート性が加わっているところが、一番面白いところだなと思う。科学者気質なだけだと、今のIchikaみたいにはならない。むしろ商業作曲家みたいなところに落ち着くと思うけど、Ichikaには偏愛があるというか、狂っているところがあるし、それがギターと結び付いている。

ササノ Ichikaはものすごい脳筋であり、ものすごく理屈で考える人でもあるんですよね。1日中ギターを弾き続けて練習するところとかは脳筋なんですけど、「どこに向けて曲を作るのか?」とか、そういう考え方は理系だなって思うし。その両方の資質がバラバラにならず、共存しているのが「すげえ……」って思う。

たなか Ichikaって、実は2人いるんじゃない?(笑)

Ichika そこは、実は意識してる。自分の中の感受性と情感による選択と、理論による選択があるんだけど、結局、情報を組織化する能力がすべてなんだなって思う。それができれば大抵のことがうまくいくんじゃないかって思ってるかな。いろんな人格を統合する、そのチャンネルのリンクさえしっかりできていれば、大丈夫だなって。

異分子と関わることで歪められた自分の常識

──では、たなかさんとIchikaさんから見たササノさんについてはどうでしょうか?

Ichika 偏愛の塊ですね。

たなか そうね。自己愛みたいなものの究極形だなって思う。

Ichika 本人はネガティブで自信なさげに見えますけど、そんなことないですからね。自分大好きな人間(笑)。

ササノ そ、そうね……(笑)。

たなか 自分のことを無限に見つめているせいで、いいところも悪いところも見えている、みたいな。

Ichika Diosを始めて一番変わったのは、ササマリだよね。今まで、あまり積極的に人と関わっていくタイプではなかったと思うけど、こうやって異分子2人と関わるようになって、これまでの常識が歪められていっているというか(笑)。引っ越しも決意したし。

たなか 素晴らしい! 最近のササマリは、マジでいい感じ。あとは、食生活と健康を心がけよう。

ササノ (笑)。……でも、変化は本当にびっくりするぐらい実感していて。もともとのササノマリィとしての活動の中で、「自分はこうでなくてはならない」みたいな像が、ものすごく頑固にあったというか。これは120%自分のせいなんですけど、提案してもらったことに対しても「それは自分には向いていないから」って、作らずに断ったりもしていたんですよね。そうやって「こうでなければ」というものに憑りつかれて、何も作れなくなってしまって。事務所にお世話になりながら、5年くらいまともに曲を作ることができていない、みたいな感じになってしまっていたんです。そういう中で「バンドをやりたい」と声をかけてもらったんですけど、最初は「無理だよ」と即答で断ったんですよ。「自分がバンドの一員なんて、そんな権利ないでしょ」みたいな。

たなか 権利?(笑)

Ichika そういうところはネガティブなんだよなあ。

ササノ でも、ずっと足踏みしている状態だったので、「ここで始めたら変われるかもしれない」と思ってバンドを始めてみて、今に至るんです。曲を作るうえでの変なこだわりとか、捨てたほうがいい偏った考えが本当に消えたなと思います。まだあるのかもしれないけど、もっと自由に音楽と向き合うことができるようになったかなって。

ササノマリイ

ササノマリイ

Ichika 柔らかくなっていっているよね、ササマリは。

ササノ そうだね。昔は人前に姿を晒すことが嫌だったんですよ。SNSも怖いし、可能な限り自分の写真は上げたくない、みたいな。でも最近はこっちが知らないうちに勝手に上がるようになったので(笑)。

たなか 上げてまーす。

ササノ 自分の素の状態はよくないものだとずっと思っていたし、ちゃんと作り込んだ姿で外に出なきゃいけないと思っていたけど、素の自分がふいに表に出るようになったんですよ。そうしたら、素の自分に対して意外と否定的な意見がなかったんですよね。「自分はもっと素の状態で人前に出てもいいんだな」って、すごく気が楽になりました。Diosを始めて、人間として前に歩き出せたというか、ちょっとに人間に近付けたような気がします。感謝です。