デジナタ連載 Technics×「RSD Drops」CD世代のくるりが語るアナログレコードの趣

懐かしい光景がよみがえる

──では実際に「SL-1200MK7」でレコードを聴いていただきましょう。今日は「天才の愛」と「thaw」のサンプル盤を持ってきてもらったので、そこから1曲ずつ。

岸田 じゃあ、(「天才の愛」から)「I Love You」と。

佐藤 (「thaw」からは)「鍋の中のつみれ」にしようかな。

──(試聴を終え)2曲聴かれてみて、いかがでしたか?

佐藤 今日のシステムって、ターンテーブルだけじゃなくてスピーカー、アンプもTechnicsなんですね。このシステム自体、体験するのが初めてだったんですが、違和感なく聴けてすごくよかったです。「I Love You」は、年代物のレコードとはまた別の、自分が思い描いている通りの新品のレコードの音がしていいなあと思いました。

岸田 「天才の愛」は、特にサラピンのアルバムなのでね。サラピンの機材にサラピンの音って感じがして、そのままの素直な音がしました。「鍋の中のつみれ」のほうは年代物の機材を使ったレコーディングだったので、その雰囲気もしっかり出ていたし、Technicsといい感じにマッチしているなという印象でした。なじみがいい。

佐藤 ミックスした音がそのまま鳴っている感じがして、僕も「そういえばこんな音で録っていたな」とスタジオの空気感を思い出しました。この曲はニューヨークのThe Magic Shopという、今はもうなくなっちゃったんですけど、デヴィッド・ボウイが最後の作品をレコーディングしたような由緒あるスタジオで録ったので、そのときの懐かしい感じがよみがえりましたね。

岸田 ……でもこういうときって、自分らの曲を論評しているみたいで、ちょっと気が引けますね。「俺のオカンめっちゃ美人やねん」って言ってるみたいで(笑)。

佐藤 「やっぱりこの黒髪が最高なんですよ」みたいな?(笑) でもこれはアナログの話やからね、大丈夫。

岸田 うん。すっきりとしたシステムで聴けたのでね。堪能いたしました。

──「SL-1200MK7」は操作されてみていかがでしたか?

岸田 いつも使っているTechnicsって感じで安心感がありました。

レコードを再生中の「SL-1200MK7」。

──新作でもボタンの配置や使用感は変えずに、中身をアップデートしているモデルでして。

岸田 いやあもう、素晴らしいですね。どこに何にあるかすぐわかるのはいい。

佐藤 今日触ったのはシルバーですけど、「最新機種のMK7ですよ」と言われなければわからないし、戸惑うことなく操作できました。あと自分のターンテーブルにはたぶんDJ用の安い針が付いているんで、「SL-1200MK7」にはリスニング用の高級針が付いていていいなと。

「SL-1200MK7」のターンテーブルを外した様子。

──特徴としては、78回転にも切り替え可能でSP盤も聴けるというポイントもあったり、中身も進化していて。従来のモデルはアナログ回路を使って回転を制御していたんですが、クオーツを使いつつデジタル回路も稼働しているので、回転の精度がアップしました。

岸田 (ターンテーブルの内側を覗き見ながら)へえー!

佐藤 なるほど、すごい。ちゃんとアップデートされている……。

岸田 外見はオーソドックスやけど、中身はガンガンに進化してるんですね。

くるりのお気に入りレコード5作品

──今回はお二人に3つのテーマに沿ってお気に入りのレコードを選んでもらいました。それぞれお話を聞かせてください。

テーマ① 自分の人生にとっての1枚

岸田 ヴァン・モリソンの「Moon Dance」が好きで、なぜか4枚くらいCDを持っていて、アナログもアメリカ盤、イギリス盤、国内盤みたいな感じで持っています。やっぱりアナログで音楽を聴きたいなというときには、ヴァン・モリソンみたいな音質や声質が合いますね。この中に「Into The Mystic」という曲がありまして。その中でおっさんが痰吐くみたいな感じでヴァン・モリソンが歌ってるんですよ、「げぇ」「ぎゃー」って。あれをアナログで聴くとちょうどいい感じがするんですよね。角が取れるというか。彼に限らず、吐き捨て系のシンガーはアナログで聴くとすごい落ち着きますよ。昔の友達みたいな感じがします。趣味的に好きですね。

佐藤征史がセレクトしたMedeski Martin & Wood「Combustication」。

佐藤 僕の人生の1枚はMedeski Martin & Woodの「Combustication」です。1998年くらいに、CDで擦り切れるくらい聴いた作品なんです。さっきのStereolabじゃないですけど、「アナログもあるんやったら、こっちも買って聴いてみよう」と思って、初めて両方買った作品やと思います。鍵盤のジョン・メデスキのライブとか、ベースのクリス・ウッドがお兄ちゃんとやってるThe Wood Brothersというバンドの公演もニューヨークまで観に行って、自分らのCDを渡したことがあるくらい好きだったんです。それくらい大好きでCDを聴き込んでいたからこそ、アナログで聴くと音の違いもわかったりする。そういう楽しみ方ができるのがいいなと思います。

テーマ② 家族や子供と一緒に聴きたい1枚

岸田繁セレクトのThe Beatles「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」。

岸田 レコードって基本的には1人で聴きたいけど(笑)。子供はグニャグニャ回して遊びそうやし。でも、それこそThe Beatles「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」は一緒に聴くのにいいかもしれませんね。ジャケも色鮮やかで楽しいし、見た目からしてレコードを聴いている感が強い。レコード自体もA面とB面をそれぞれ意識した作りやし、曲にも子供が面白がりそうな怖い音が入っていたりして印象深い。ビートルズの中でも特にそういう遊びの要素が感じられると思います。盤の色が赤い“赤盤”もあるしね。

佐藤征史セレクトの赤い鳥「What a Beautiful World」。

佐藤 今、“赤い”で思い出したんですけど、この前曽我部くんのところで買って当たりだったレコードが、赤い鳥の「What a Beautiful World」で。1971年リリースの作品やったんですけど、最初はカバーアルバムかなと思ったんですよ。そうしたら全編オリジナルの英語詞で、「こんなバンドが日本にいたんや」って。今聴いたら世界に誇れるくらいの名盤やなと思います。サウンド的にはソフトロックやねんけど、南米感もあって、この時代に日本人がこんなん作ってたんやなと。で、なんで家族でっていうのは、これも赤盤やから。「このレコード、赤いで」って子供に見せてあげたり。赤い鳥のレコードが赤かったのも、印象に残っていました。あと、今日はこの曲を「SL-1200MK7」で聴かせてもらいましたけど、ちゃんと年代モノの音が鳴っていると感じましたね。さっき聴いた「Moon Dance」のアタックがすごくしっかりしている感じや、自分らの曲のすっきりした感じとも全然違う音というか。Technicsのシステムが、それぞれのアーティストの特徴を音としてすごく素直に表現していたので驚きました。ちゃんと声がドンと前に出るところも、すごく聴きやすかったですね。パンチがあるのに、極端ないやらしさがない。

岸田 そうね。アナログをちゃんとしたシステムで聴いたら中音と低音がブーストされんねやろなと思っていたら、この「What a Beautiful World」とかは、アコギの繊細な細かいニュアンスとか、ガットっぽい音とか、倍音もスーッと聴こえてきて。行ったことない中南米の国で、すごく清々しい飲み物を飲んでるみたいな感じがしたな。

テーマ③ レコードビギナーにオススメの1枚

岸田繁がセレクトしたPink Floyd「Dark Side of the Moon」。

岸田 これはPink Floydの「Dark Side of the Moon(邦題:狂気)」。ビギナーが、「俺これ聴いてんねん」と謎に自己陶酔的な感覚に陥って、自己啓発的な世界を探求せざるを得ない感じね。「これようわからんけど、買ったから聴かなあかん」みたいな感覚になる。それにこの「狂気」は、日本人には親和性が高いようで低いサウンドというか、ちゃんと聴かないとわからない音楽やと思う。レコードって、サブスクやYouTube、CDで聴くのとも違って、わりとしっかり音楽と向き合わないといけないじゃないですか。レコードを傷付けないように取り出して、ちゃんと針を落として、いい感じのボリュームにして、回したからにはちゃんと聴こう、みたいな。そうやって向き合って聴くのに適している音だと思うし、ビギナーはちょっと背伸びしたところからレコードに入ったほうがよさそうな気がします。

佐藤 自分はサブスクであれ、YouTubeであれ、自分が一番好きで聴いた作品のレコードを聴くところから始めてほしいかなと思います。僕にとってのMedeski Martin & Woodみたいに、好きやからこそ、何度も聴いた音楽をアナログで実際に聴くとどうなんやというところから、まずは知ってもらいたいな。

左から佐藤征史、岸田繁。

※記事初出時、内容の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

Technics「SL-1200MK7」

Technics「SL-1200MK7」シルバー

世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。ボディはブラックおよび新色シルバーの2色展開。

RECORD STORE DAY JAPAN

「RECORD STORE DAY JAPAN 2021」ビジュアル

毎年4月の第3土曜日に世界で同時開催されるアナログレコードの祭典。2008年にアメリカでスタートし、現在世界23カ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明している。日本での運営は東洋化成が担当。レコードショップでは数多くのアーティストのアナログレコードの限定盤やグッズなどが販売される。また世界各地でさまざまなイベントも行われ、毎年大きな盛り上がりを見せている。今年は世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け開催時期を調整し、「RSD Drops」として6月12日、7月17日の2回に分けて行われる。


2021年6月11日更新