モノを所有する感覚で妄想が働く
──その頃はそんな感じでみんなDJをやっていて、アーティストもよくレコードを出していましたが、2000年以降はレコードのリリースはかなり減っていったと思います。でもくるりは、以降もレコードを出し続けている印象がありました。
佐藤 はい。それまでの作品を全部レコードで出そうという企画で、3枚くらいずつ出していましたね。
岸田 それもやっぱりビクターにいたからですね。近いところにすごい技術があるうちはあやかりたい。
──その後、2010年代半ばくらいからレコードがまた盛り上がってきて、そのまま今も伸びています。そうなってくると、くるりのレコード作品もまた反響が大きくなってきたのかなと思いますが、それについてはどんなふうに感じていますか?
佐藤 今、またお店でCDと一緒にレコードが並んでるのはいいなと思うんですけど、変な話、タピオカブームみたいなもんやと思うんですよ。タピオカって昔も流行ったことがあったし、最近もまた流行って。でもそうなることは悪いことじゃなくて、何回も流行るってことはずっと好きな人がいるからやと思うんですよね。レコードで音を聴くのが好きという人は一定数、ずっといますから。今レコード買ってる人のうち、実際に音を聴いている人がどれくらいいるのかはわからない。でも、それも悪いことじゃないと思います。自分たちのようなレコードを出す側の人間からしたら、ジャケットが大きくなって、音もアナログの音になるので、宝物みたいな感覚なんですよね。だからアイテムとして欲しくなる感覚もわかります。それにCDしか聴いたことない人がアナログを聴いたらびっくりするとは思うし、その感覚がずっと残って続いていくことはいいことだなと。
──ブームの中でレコードと出会った人の一部が、本当にレコードを好きな人になるから、レコード文化が残っていくのかもしれませんしね。それに僕も家でレコードを飾ってますけど、レコードって飾りたくなるものですよね。
岸田 うん。アナログはデカいのがいいですよね。邪魔にもなるけど、「何かを1つ買う」という感じがして、すごくいいと思います。The Beatles「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を買ったときの“買った感”はすごいですからね。
佐藤 2020年に自分たちが出した「大阪万博 / Tokyo OP」の12inchレコードなんて、各面1曲ずつしか収録されていなくて。それを45回転で聴けて、「すごい贅沢してるな」と自分で思いました。それを聴いて、同じような感動を味わってくれている人がいることもうれしいですし、そこがレコードのよさですよね。
──レコードは個人の所有物としてだけじゃなくて、のちのち中古市場に出て、いろんな人の手を渡っていく共有財産的な感じもありますよね。だからこそ再発見されることもある。くるりみたいなタイムレスな音楽をやっているバンドのレコードはタイムカプセル感があって、夢があるメディアなんじゃないかなと思います。
佐藤 確かに。レコ屋にくるりのアナログを売りに来た人がいるという話を聞くと、次の人に行き渡るんだと思えるのは不思議ですよね。
岸田 アナログを掘ることを“救出”と言ったりしますもんね。
──不思議な愛着を持たれるメディアというか。
佐藤 大学生の頃にゴミ屋さんのバイトをしていたんですが、その中に家を解体する仕事もあったんです。で、そこで出たゴミを回収していたら、Van Halenの「Diver Down」のレコードが出てきて、それを救出して持って帰りました。
岸田 ヤバいな。「Diver Down」ってのがまたええな。
佐藤 もうね、2曲目くらいからずっと針が飛ぶんですよ。でも、あの赤地に白い線が入ったジャケのね……あれだけで1個のアイテムになるから、捨てていないですもん。今も実家のどこかに置いてありますよ。
岸田 「Diver Down」を持ってるだけで、炎属性の魔法が使えそうやもんな。そういうふうに、モノを所有する感覚で妄想が働きますから。持っているだけでお守りになるみたいなね。だから、本当に持っているだけでもいいんですよ。
今のアナログってこんな音やったんや
──ところで今回の「RSD Drops」で、最新アルバム「天才の愛」と2020年に発表された「thaw」のレコードがリリースされるんですよね。レコード化に際し、こだわったポイントがあれば教えてください。
佐藤 CDのマスタリングのときは、マスターデータをWAVの形式で納品するんですけど、今回リリースされる2作は、マスターをわざわざハーフインチのテープに落としてからマスタリングしているんです。アナログ化するために、いろいろ手を施す前の生のファイルからマスタリングしてるので、CDとは聞こえ方が違うと思いますよ。
岸田 96kHz 24bit、つまりハイレゾの状態からアナログに落としたってことですね。だから音はいいんじゃないかなと思います。
──最近はくるりみたいに、アナログに合わせたマスター音源を作ってカッティングにもこだわるという話も増えているので、アナログ好きにとってはうれしいポイントです。
岸田 小鐵さんも、「アナログは突き詰めたらハイレゾや」という話をしはるんですけど、コンプレッサーで音を潰したときに出る、その天井の部分のノイズっていうのがアナログの特性だと。その音は普通CDだと削がれちゃう部分なので、そのノイズ音を聴けるのがアナログならではですよね。
佐藤 自分たちの世代って、音楽メディアがレコードからCDに移行したときの「CDすげー」という感覚が大きかったじゃないですか。音もクリアだし。反面、アナログはかけるとプツプツ聴こえて、ちょっと膜がかかったような優しい音みたいなイメージがあるんです。でも、最先端のマスタリングとカッティングをした、工場に持っていく前のラッカー盤を試聴したら、ホンマにめちゃめちゃ音がクリアで、マスタリングしているときに聴いた音像と遜色がなくて、びっくりしたんです。まさに「大阪万博 / Tokyo OP」のアナログ盤を聴いたときに感じたんですけど、今回出る「天才の愛」「thaw」もそれぞれ2枚組で片面に3、4曲ずつしか入れてないから、最近のレコードを聴いたことがない人にも「今のアナログってこんな音やったんや」と思ってもらえると思います。
──今回はお二人にTechnicsの最新ターンテーブル「SL-1200MK7」を体験してもらうんですが、そもそも「SL-1200」シリーズを使ったことはありますか?
岸田 家で使ってますよ。
佐藤 自分たちのスタジオに置いてあるのもTechnicsですね。
──この「SL-1200」シリーズについてはどんなイメージを持っていますか?
岸田 カッコいいですよね。ロゴもいいし、頑丈で壊れないし。レコードプレイヤーってよく壊れるイメージがあるんですけど、でもこれは壊れにくい。
佐藤 家に置いておくレコードプレイヤーは家具っぽい木目調のデザインが多いイメージですが、Technicsの「SL-1200」はどこに置いてもバランスが取れそうな感じで、安心感がありますね。自分らはDJとかできへんけど、ターンテーブルの上に乗せるスリップマットに憧れて、物販用にTechnics対応のスリップマットを作ったこともあります。あと、見た目のメカメカしさも好きです。
岸田 メカメカしいものはいいんですよ。カッコいい。
──CDが光っていてカッコいいみたいな話と同じですね。
岸田 もう世代やと思いますね。光りもんに弱いんですよ。鯖寿司とか。
佐藤 コハダも大好きですしね。
──これまでボディはブラックのみでしたが、5月には新色のシルバーも出ました。
岸田 いいですね。僕は世代的なものなのか、黒光りしているものよりシルバーのほうが好きなんですよ。仮面ライダーはスーパー1がカッコいいと思う。
佐藤 ははは(笑)。
岸田 そういえば、自分は全然針を変えていないんですけど、レコードにこだわる人は回転数によって針を変えたりするじゃないですか。モノラル用の針とかもあるし、自分もいずれはこだわりたい気持ちがあります。そう考えるとレコードと釣りって似ているところがありますよね。ルアーとか針にこだわる感じが。釣り好きな人はレコードに向いてるんじゃないかな。
佐藤 自分がレコードを聴くときは、真空管アンプの電源を入れたあとの「ボッ」という音が欲しくなりますね。あれとセットで音楽を聴きたい。
岸田 それで思い出した。コロナになってから行ってないけど、1950年代のバップしかかからない、いいジャズ喫茶があるんですよ。有名なレコードもかかるけど、「誰ですか?」みたいなマイナーなレコードもかかる店で。きっと真空管の手入れに命かけてるんやろなという感じで、ホントにいい音で聴けるんですよ。
──いいスピーカーでかけるジャズのレコードに真空管アンプ、という理想の組み合わせですよね。
岸田 そうそう。いいスピーカー、真空管、まあまあなコーヒー、タバコが吸える場所っていうのを守っていきたいよね。文化ですから。
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懐かしい光景がよみがえる
2021年6月11日更新