世界各地のレコード店で展開されてきた年に一度のアナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY」。「地元や各地域にあるレコード店を大切にすること」「より多くの人にレコード店に足を運んでいただくこと」を基本理念に、アナログレコードを手にする喜びや音楽の魅力を共有するイベントとして、毎年4月の第3土曜日に行われている。今年は4月20日にアナログレコードのプレスメーカー・東洋化成の主催、Technicsの協賛で「RECORD STORE DAY JAPAN 2024」が実施される。
音楽ナタリーでは「RECORD STORE DAY JAPAN 2024」の開催を前に、今年のアンバサダーを務め、自身も1stアルバム「猫猫吐吐」と、本作の収録曲「普変」「ちゅ、多様性。」の「THE FIRST TAKE」のバージョンを収録した「From THE FIRST TAKE」で同イベントにエントリーしているanoにインタビュー。レコードの豊富な知識を持つI'sのキッチン前田(B)、畝狹怜汰(Dr)、中山卓哉(G)にも指南役として参加してもらった。取材を行ったのは東京・下北沢駅にほど近いレコードショップ・ディスクユニオン下北沢店。あのたちは時間を忘れるかのように店内を見て回り、お気に入りのレコードを見つけ出す。そしてTechnicsのターンテーブル「SL-1200MK7」で試聴したあと、それらの盤を選んだ理由やターンテーブルでの聴き心地、レコードへの思い入れについて語った。
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取材・文 / 西廣智一撮影 / 平間至
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Technics「SL-1200MK7」
⻑きにわたって世界中のDJに愛されているターンテーブル「SL-1200」シリーズの最新バージョン。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどをすべて一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトを踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。
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RECORD STORE DAY JAPAN
毎年4月の第3土曜日に世界で同時開催されるアナログレコードの祭典。2008年にアメリカでスタートし、現在世界23カ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明している。日本での運営は東洋化成が担当。レコードショップで数多くのアーティストのアナログレコードの限定盤やグッズなどが販売される。また世界各地でさまざまなイベントも行われ、毎年大きな盛り上がりを見せている。
多忙なあのにレコードを
──あのさんは今年の「RECORD STORE DAY JAPAN」のアンバサダーを務めることになったそうですね。おめでとうございます。
あの ありがとうございます。すごく光栄です。僕はバラエティ番組にたくさん出ているから、そっちのイメージが強いかもしれないですけど、anoとしてもI'sとしても音楽活動を真剣にやってきたつもりなので、「RECORD STORE DAY JAPAN」のアンバサダーに選んでいただけたということはアーティストとして評価してもらえた気がして、すごくうれしかったです。
──あのさんが初めてレコードに触れたのは?
あの 昔、アイドルをやっているときにここ(ディスクユニオン下北沢店)でイベントをやったことがあって。そのときにレコードを目にしたのが、最初に意識したきっかけです。そこからはファンの人からレコードをもらうことが増えて、よく聴いていました。あとは、バンドメンバーが誕生日にプレゼントしてくれたりとか。自分があんまり音楽に詳しくないから、「これを聴きたい」と思って選ぶよりは人にオススメされて聴くことが多いです。
──レコードではどういった音楽を聴くんですか?
あの 日常に溶け込む系の、ゆったりした曲が多いかもしれないです。たまには激しめな曲も聴くけど、比較的リラックスできるものを聴きがちです。
──ご自身でレコードを選ぶときは何か基準があるんですか?
あの ジャケがかわいかったら買いたいと思います。
──I'sの皆さんは、あのさんにレコードをプレゼントするとのことですが。
中山卓哉(G) 主にこの2人(前田、畝狭)ですね。
畝狹怜汰(Dr) 最初はあのちゃんの誕生日プレゼントは何がいいかなと考えたときに特に思い浮かぶものがなくて。そこで僕が昔、人からレコードをもらってうれしかったのもあって、あげようかなと思ったのがきっかけです。
──最初は何をプレゼントしたか覚えていますか?
畝狹 確かSimon & Garfunkelのベストと……。
キッチン前田(B) 渋い(笑)。
畝狹 (笑)。あとはEaglesのアルバム。「激しいのが聴きたいかな」とかいろいろ考えたんですけど、忙しいだろうし家でゆっくりする時間に聴ける音楽がいいのかなと。僕も休みの日の午前中に家でそういう音楽をよく聴いていたので、気に入ってもらえるんじゃないかと思ったんです。
あの Eaglesは親が好きと言っていたから、余計に興味を持って。実際聴いてみたら、さっき言った“生活に溶け込むような曲”ばかりだったから、癒されました。
前田 僕はThe Beatlesの「Revolver」のレコードをあげたことがあったかな。最近だと、それこそ「生活に溶け込むように」と、はっぴいえんどの「風街ろまん」をプレゼントしました。
畝狹 僕はそもそもパンクが好きなんですけど、家で聴くときはパンクのレコードよりもフォーキーでアコースティックなものを選ぶことが多いです。
中山 1人でレコードを聴くときって、結局そういうのを選びがちだよね。
前田 しかも、レコードの音って温かみがあって聴いていて疲れないからこそ、ちょっとリラックスしたいときにちょうどいいんですよね。
あのはジャケ買い
──あのさん自身はレコードショップに足を運ぶことはあるんですか?
あの 最近はまったく行けてないんですけど、以前はちょいちょい当時のグループのメンバーと行ったり、プロデューサーに連れて行ってもらったりしました。
──レコードショップの雰囲気はお好きですか?
あの はい。今日もすごく楽しかったですし、知らないものがいっぱいある中からお気に入りの1枚を見つける楽しさがあるなと思います。
──例えば、その作品のレコメンド文が掲載されたポップが付いていることがあるじゃないですか。そういうのは参考にしたりします?
あの 読まないです(笑)。あんまり目に入ってないです。
中山 たぶん、曲名とかも気にしてないよね。
あの うん。ジャケットを見て好きと思ったら、そこにしか目がいかないので(笑)。
──直感で選ぶ?
あの そう。ジャケットの絵を見て、音を想像したりするのも楽しいですし。逆に、どんな音かまったく見当のつかないものを選ぶのも、新たな発見があって面白いです。
中山 あと、聴くだけじゃなくて飾ったりできるのもレコードの醍醐味ですね。自分がいいなと思ったジャケットのレコードは、最初は中身が好みじゃなくても、だんだんと愛着が湧いてくるんです。
──あのさんはディスクユニオン下北沢店にひさしぶりに訪れたわけですが、今日店内を回ってみた感想はいかがですか?
あの 昔とあんまり変わってないですね(笑)。最初に来てからずいぶん時間が経っているのに、こんなにも変わらないんだと驚きました。古いレコードがたくさんあるところも含めて、その変わらなさがいいなと思いますし、だからなのか安心感があります。
中山 下北沢店はほかのディスクユニオンと比べて、路面店だからか入りやすさもありますね。
畝狹 確かに。地下に降りるとか階段を登るとかないですもんね。
今っぽいジャケだけど……おじさん?
──今日はあのさんに、ジャケットが気になる作品を3枚選んでもらいました。ここからは実際に聴きながら、それぞれ感想を伺いたいと思います。まず1枚目は、ザ・フォーク・クルセダーズのベストアルバム「ザ・フォーク・クルセダーズのすべて」。
あの これは古いグループなんですか?
──フォーク・クルセダーズはのちにサディスティック・ミカ・バンドを結成する加藤和彦さんを中心とする、1960年代後半に活躍したフォークグループです。
あの そうなんだ。ジャケットがすごくおしゃれ。あと2枚組で曲がいっぱい入っている。
中山 ゆらゆら帝国みたいなテイストのジャケットだね。
あの うん、今っぽい。だから最初、もうちょっとテンション高めの音かなと思ったんだけど、聴いてみたら……おじさん?
──(笑)。言いたいことはわかります。
あの すごく落ち着いた音で、予想と違ってびっくりしました。「ひょっこりひょうたん島」とか聴いたことがある曲も入っていたんですけど、僕が知ってるバージョンとは違っていて。全体的にスローでゆったりしていて、怖いというか暗いというか。でも、声のトーンはあったかいから、そのギャップが気になりました。かと思うと、ヨッパライの曲(「帰って来たヨッパライ」)も声が変わっていて、かわいいですし。
畝狹 「帰って来たヨッパライ」みたいな曲は今出したら、コンプラに引っかかりそう(笑)。
あの 確かに(笑)。
おしゃれなものはおしゃれなまま
──続いては、Talking Headsの「Remain In Light」。1980年発売のオリジナルアルバムです。
あの アイドル時代に有名なアルバムのジャケットをよくオマージュしていたんですけど、これもその1つで。それもあってニューウェイブ系はこのアルバム以外にもいろいろ聴いていたから、懐かしいなって感覚が僕の中にあります。
──改めて今聴いてみて、このアルバムの音はどうですか?
あの さっきの(フォーク・クルセダーズ)はちょっと古いなって感じたけど、こっちはそんな感じが全然しないです。40年くらい前なのに、そう感じさせない新しさがあるような。
前田 当時から新しいことをしようとしていた人たちだった、っていうのもあるのかな。
あの だから、聴いていて楽しくなります。
──パイオニア精神みたいなものが音からもしっかり伝わると。改めて、このアートワークについてはどう感じますか?
あの 見慣れた絵だけど、やっぱりおしゃれですよね。さっきのアルバムもそうだけど、何十年経ってもおしゃれなものはおしゃれなままなんだなって。全然古臭くない。
部屋に飾ってもかわいい
──3枚目は、Teenage Fanclubの「Bandwagonesque」。1991年の作品です。1960年代、80年代、90年代と面白い具合に年代が分かれましたね。
あの 本当だ。
畝狹 このバンドは僕が本当に大好きで。
中山 I'sのミュージックビデオでもTeenage FanclubのTシャツ着てたよね。
──あのさん、このアルバムのジャケットはいかがですか?
あの シンプルでかわいいです。ひと目で気に入ったので、さっきも写真を撮ってもらいました。インパクトもあるし、それこそ部屋に飾ってもいいなって。
畝狹 僕、最初にこのジャケットを見たときに「このジャケットだし、内容もチープなのかな」と思って。1回目はなんとも思わなかったんですけど、2回、3回と繰り返し聴くうちに味が出てきたというか、どんどん好きになっていきました。
中山 このジャケット、資本主義に対する皮肉が込められているのかな。もしくは、素直に「金が欲しい」って意味なのか。
前田 どうなんだろうね。歌詞を読めばわかるのかもしれないけど。
──そういえば、本作はTeenage Fanclubにとって初めてメジャーレーベルからリリースされたアルバムなんですよ。
中山 なるほど。そう考えると、皮肉の意味合いがあるのかもね。
──曲や音に関しては、どう思いましたか?
あの 曲はポップなんだけど、音が尖っていてカッコよかったです。あと、バンド感が強くて、ライブハウスの景色が想像できるというか。どんな人たちが歌って演奏しているかまったくわからないのに、不思議と歌ってる姿が浮かんでくるんです。そういう音だなと思いました。
──ギターの音もすごく生々しいですし。
あの うん。そういうところがすごく好みでした。
I'sは手元に残したい
──「Bandwagonesque」は時代的には完全にCDへ移行したあとの作品なんです。だから、1991年当時もレコードは少数しか発売されていなくて。
畝狹 CDより大きなレコードのジャケットだからこそ、余計にチープさが際立つというか。
あの 300円ぐらいのチープさというか(笑)。
中山 でも、インテリアにはぴったりかも。
前田 レコードのジャケットって絵を買うような感覚も強いから。大きいのがいいんだよね。
──そういう意味でも、CDよりレコードのほうがより所有感が強まるのかもしれませんね。
あの そうですね。今はサブスクが主流だけど、僕は音楽が物として手元に残ることっていいなと思っていて。I'sの4人はみんなそっちタイプだから、I'sとしてもちゃんとCDを出したりしているし。今回選んだ3枚を通して、改めてレコードっていいなと思いました。
中山 以前、「あなろぐめもりー。」という曲を7inchシングルで自主制作したことがあるんですけど(参照:あの率いるI'sのツアー初日においしくるメロンパン、会場限定で7inchシングル販売)、せっかくだからI'sでも大きいジャケットで作りたいよね。
あの うん、作りたい。
──あのさんがおっしゃるように、今は配信が主流だからアートワークもパソコンやスマホの中に小さく掲載されるだけ。でも、レコードジャケットぐらいの大きさになれば、作り手としてアートワークもよりこだわりたくなるんでしょうね。
あの うん、全然違うと思います。
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1台買ったら一生もの