世界各地のレコード店で毎年展開されるアナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY」。“レコード店を大切にすること”“より多くの人にレコード店に足を運んでいただくこと”を基本理念に、アナログレコードのプレスメーカー・東洋化成の主催、Technicsの協賛による「RECORD STORE DAY JAPAN 2023」が4月22日に開催される。
音楽ナタリーでは「RECORD STORE DAY JAPAN 2023」の開催を記念し、今年のミューズを務め、自身もひかりとだいち love SOIL&"PIMP"SESSIONS名義の楽曲「eden」で同イベントにエントリーしている満島ひかりにインタビュー。東京・幡ヶ谷のレコードショップ・Ella recordsにて、レコードとの出会いやその魅力を聞いた。また満島には自身のコレクションからお気に入りのレコードを持参してもらい、Technicsのターンテーブル「SL-1200MK7」で試聴しながら、それぞれの盤への思い入れも語ってもらった。
さらに特集の後半では、「eden」の演奏およびアレンジを手がけたSOIL&"PIMP"SESSIONSの社長(Agitator)を迎えて、満島とのインタビューを実施。ひかりとだいち love SOIL&"PIMP"SESSIONS始動の経緯や、「eden」の制作秘話などを聞いた。
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取材・文 / 三宅正一撮影 / 平間至
ヘアスタイリング / 新宮利彦メイクアップ / MICHIRU
取材協力 / Ella records
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Technics「SL-1200MK7」
世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。
満島ひかり ソロインタビュー
レコードをきっかけにまた歌い始めた
──まずは「RECORD STORE DAY」のミューズ就任おめでとうございます。この催しについて、どのような印象をお持ちですか?
2017年に、大沢伸一さんのプロジェクトであるMONDO GROSSOにボーカルで参加させてもらって、「ラビリンス」という曲を発表したんですけど、この曲はその年の「RECORD STORE DAY」でリリースすることを前提に作られた作品だったんです(参照:MONDO GROSSOの14年ぶり新曲、ボーカルは満島ひかりだった)。まず、ボーカルが私であることを伏せてラジオでオンエアをして。「RECORD STORE DAY」でリリースした「ラビリンス」の12inchレコードにも私の名前はクレジットされていないし、ジャケット写真も写っているのが誰なのかわからないデザインになっていて。楽しい企画でした。舞台や映画の役で歌うことはありましたが、歌唱することからはずっと離れていたので、ある意味ではレコードをきっかけにまた音楽を始めたような感覚があるんです。
──なるほど。それは忘れがたいですよね。
はい。あと、もともと私はCDでも紙のジャケットのほうが好きで。今でも手元にあるCDはほとんど紙のジャケットです。手触りがいいんですよね。その感覚はレコードとも通じるところがあると思っています。それにレコード屋さんに行くと遊びの効いたデザインのジャケットだったり、意味のわからないジャケットだったりにたくさん出会えるのも面白い(笑)。
──ではレコード屋でジャケ買いをしたりもする?
紙ジャケットのCDもそうだし、レコードもジャケ買いします。家に帰って聴いてみたら「想像していたのと全然違う!」みたいなことはよくありますよね。むしろハズレだったかも、ということも(笑)。逆に周りの人たちも誰も知らない、すごく好みのレコードを見つけることもあったり。
──ストリーミングサービスでは聴けないような音源にもレコードでは出会えたりしますしね。
そうそう。以前、弟と一緒に1カ月くらいニューヨークに行ったことがありまして。そのときにレコード屋さんにふらっと入ったら、ずっと欲しかったレコードが置いてあって。レゲエおじさんみたいな店員さんに「え、これ欲しいです!」と伝えたら、「これは俺の私物だから売れない」と言われて、「本当に欲しいんです!」って食い下がってもダメでした(笑)。「値段が付けられないからダメだよ」って。いまだにそのレコードを探してるんですけど、なかなか見つからないんです。
──それは誰のどの作品なんですか?
ジュディ・シルの「JUDEE SILL」という2枚組のアルバムです。でも、そのレコード、峯田(和伸)さんがアンバサダーをされたときの「RECORD STORE DAY」のポスターに写ってたんですよ(※2020年開催時のポスター。撮影場所は東京・ココナッツディスク 池袋店)。あれは峯田さんの私物なのかな? いいなあと思って見てました(笑)。
音の聞こえ方が変わった
──満島さんは普段からレコード屋にはよく行かれるんですか?
たまに行きますよ。このお店も前に近所に住んでいたことがあって一度だけ来たことがあります。ここに必ず行くというレコード屋さんはないけど、散歩ついでにふらっと立ち寄ったりします。あとLittle Nap COFFEE STAND(東京・富ヶ谷にあるコーヒースタンド)は店長のハマちゃん(濱田大介)と知人でよく行くんですけど、レコードも扱っているのでそれを見せていただいたり。ハマちゃんだからきっといいセレクトなんだろうなって(笑)。
──レコード自体は昔から馴染みがありますか?
好きです。ドラマでチェロを弾く機会があったときに神保町だったかな?クラシックのレコードしか置いていないレコード屋さんに聴きに行ったりも。
──そのドラマというのは「カルテット」?
はい。終盤でシューベルトの「死と乙女」を弾くシーンがあったんです。でもそれまで「死と乙女」を聴いたことがなかったから、神保町とかお茶の水あたりのレコード屋さんに行って「いい音でチェロが聴けるレコードを聴きたいです」なんてお願いして。お店を何度か訪ねては3、4時間レコードを聴かせてもらって帰る、みたいな(笑)。クラシックはもともと好きで普段も聴いていたんですけど、チェロをメインで聴いたことはなかったんです。「カルテット」の撮影を通してだんだんとチェロの音が聴き分けられるようになったら、ポップスを聴いてるときもベースの音が耳に入ってくるようになったんです!
──これまでと異なる位相で音が聴こえるようになったときの喜びって特別ですよね。
そうなんです。それからは「ベースがしっかり聞こえたほうが音楽を聴くのが楽しいかも」と感じるようになって。最初はどうしても、ボーカルや楽器の高い音が耳に入ってきやすいと思うんですけど、下の音が入ってくるようになったら音楽の世界がグン!と広がったんです。たまにちょっとトランスするような気分になったりするくらい(笑)。「あ、音が好きって言う人の感覚ってこういう感じなんだ!」と思って、それはとっても新鮮な発見でした。それまでは「なんでみんなクラブとか行くんだろう?」と思っていたから(笑)。
──クラブのフロアで聴く音楽の楽しみ方がわからなかった?
友達に「クラブには低音を聴きに行くんだよ」と言われても「どういうこと!?」って思ってたんですけど、今なら理解できます。世界の裏側が見えた感じ。逆に言うと、小さい頃に歌って踊る活動もしていたのに低音の世界をこんなに知らずに来ちゃったんだなと思いました(笑)。
──低音に耳がいくようになったことで、やはり歌唱表現の在り方も変化しましたか?
変わったかと。もっと言えばお芝居に関しても、音でいろいろと変化することにもっと気付いてしまったんです。「ここでスパッと言葉を切って違う音にしてみよう」とか。
──劇的にセリフをミュートしたり、スタッカートしたりみたいな?
そうそう! そういう音的な変化を自分のフィジカルとさらに交わらせてみたくなって。ヨーロッパの俳優さんはそういうテクニックがすごくうまいんですよ。お芝居のテンションの切り替えが音楽的というか。
音楽の街で育って
──最初にレコードに触れたときのことは覚えてますか?
いつが最初なんだろう……実家の父親のゾーンに古いレコードがいっぱいあったかな。小さい頃それを見てぼんやりと「これどうやって聴くんだろう?」と思っていた記憶があります。基本的に沖縄のおじさんたちは毎晩飲んでるので(笑)、お家に父の友人たちが遊びに来ると、懐かしい話に花を咲かせながらレコードを出して、みんなで語り始めたりしていて。
──ああ、すごく画が浮かぶ原風景ですねえ。
それもあってレコードは、父や母たちの若かりし頃の逸話が語られるときに登場するアイテムみたいな印象がありました(笑)。子供の頃はゲート通りという、沖縄市の嘉手納基地の通りが近くにあって。今はコザ・ミュージックタウンになっている、あの街で暮らしてたんです。もともとそこはアメリカの軍人さんたちが多い街でもあって、周りにたくさんのレコード屋がありました。地元に対して音楽の街だって認識もあったし、誰かのお店に入るとロックと沖縄民謡のレコードが共存しているみたいな感じでしたよ。