PUNPEE インタビュー
初めての工場見学を終えて
──さっそくですが、レコード工場見学はいかがでした?
レコードの製造工程を見るのは初めてだったので楽しかったです。どの工程も想像していたよりアナログな作業で驚きました。極端な話ですがカッティングの作業中に人が話していると、その振動がカッティングに影響を与えるとか、すごく繊細なんだなと。
──カッティングルームではいろんな質問をされていましたね。かなり専門的な質問で、PUNPEEさんがカッティングに興味を持っているのが伝わってきました。
カッティングについては、いろいろと気になっていたことがあったんです。そのままカットすると音が変わってしまうから、マスター音源に近付けるためにEQをいじるというのを知ってカッティングに対する印象が変わりました。マスターをそのままカッティングすると「さ行」の音が潰れやすいというのも初めて知りました。変な話、いまだにメカニズムが信じられないのですが、物理的に振動で与えた溝の音を増幅して音楽が鳴るってすごいですよね。あまりにも漫画みたいなメカニズムな気がして、この世に実際存在するのかとか思ったりします(笑)。
──カッティングもプレスもデリケートな手作業でしたね。
そうですね。プレスは、その日の温度によって形が微妙に変わるから調整が必要だったり。どの工程もダイナミックさとデリケートさが紙一重というか。
──見学していただいた工程を経て完成した、できたての「MODERN TIMES」のレコードを用意してもらいました。完成品をご覧になった感想は?
思い通りの仕上がりでバッチリです。ありがたいですね。
──「MODERN TIMES」は3枚組でボリュームがありますけど、アナログ化するときは3枚組と決めていたんですか?
いえ、最初は2枚組の予定だったんですよ。同じ「レコードの日」2日目にレーベルメイトであるOMSBさんの「Think Good」のアナログも出るんですけど、それが3枚組だと聞いて、いいなと思ったんです(笑)。1枚あたりの収録時間が短くなる分、音もよくなりますしね。それでミーティングで「自分も3枚にしていいですか?」とお願いしました。でも、3枚組にするとジャケット内側の絵が足りなくなってしまうので、イラストを追加してもらっているんですよ。
──ジャケットの表裏はCDと同じだけど、内側のアートワークは新しくなっているんですね。
本当はジャケットを開くと絵が飛び出す特殊仕様にしたかったんですけど、今回はあきらめました(笑)。
──飛び出すジャケ! それはいつか実現してほしいですね。PUNPEEさんにとって、CDでリリースした作品をアナログで出し直す楽しみはどんなところにありますか?
まずは音の変化ですね。アナログだと迫力が出るし、中音域が痛くない。あと、ジャケが大きくなることでモノとしての特別感も出ますよね。手元に置いておきたくなる。
──ジャケのインパクトは大きいですよね。サイズはCDの倍以上ですし。
ストリーミングの場合、もっと小さくなっちゃうじゃないですか。最近、アナログが人気なのも、モノとしての特別感があるからだと思うんですよ。(「MODERN TIMES」のジャケットを眺めながら)実際に描いてもらったジャケットの絵は、CDよりこっちのサイズに近いんです。だから、今回のアナログ化はオリジナルに近い状態でイラストを見てもらえる機会でもあるんです。
音がスピーカーを殴ってる感じがする
──では、さっそくレコードを聴いてみましょうか。
ああ、やっぱいいですね。音がスピーカーを殴ってる感じがするというか。CDやデータで聴くのとは違いますね。音の重心が下がっていて耳ざわりがいいし、音のドライブ感が出てる。
──「音がスピーカーを殴ってる」という表現はいいですね。音の感じが伝わってきます。
倍音な感じというか。音にアクシデントが起こっている感じが好きなんですよ。ガチャガチャしすぎてもよくないですけど。
──音にアクシデントがある、というのはどういうことですか?
ツルッとしてないというか。デコボコしていて、不協和音もカッコよければアリみたいな。そういう部分がヒップホップには大事だと思っていて。それがアナログになると増幅される感じがするんです。
──カッティングルームの担当者が「ヒップホップやR&Bは突然低音がドンと出るから調整が大変」とおっしゃってましたね。
そうですね。そういう整理整頓されていない感じが魅力だったりするんです。あとは、そこにいい感じでノイズが乗っていてほしい。
──「MODERN TIMES」に収録されている「Scenario」の歌詞には、「時はいろんな形で俺らを傷つけ試してくるけど アナログ盤みたいにね 傷も味になればいい」という一節がありますが、アナログのノイズって不思議と心地いいですよね。
そうそう、あのノイズがちょっとした素材になるんですよね。自分は曲を作ったあとでノイズを足したりすることもあって。昔のアルバムがCDで再発したときに、自分が聴いていたレコードのノイズがないと物足りないって思う人もいるかもしれない。あと、アナログは大きい音を無理なく出せるところもよくて。
──というと?
カッティングルームでも話をしていたんですけど、最近の曲って音がパツパツに入っているんです。それをデカい音で聴くと、音が詰まってるからうるさく感じる。レコードは入っている音が少なくて、音も小さいんですけど、クラブでデカい音でかけるときは音に隙間があるほうが迫力が出たりするんです。最近の作品をアナログにする場合は、いかに音を引いていくのかが重要みたいで。今回もマスタリングを少し変えたりしているんですよ。
レコードのある環境で育った幼少期
──聞くところによると、PUNPEEさんのお父さんは音楽好きでかなりの枚数のレコードを持っているとか。
そうなんですよ、父親はレコードを集めるタイプで。自分より音楽好きだと思います。いまだにレコードを買ってますから。
──特にお父さんが好きなジャンルはあるんですか?
いろいろですね。The Beatlesやボブ・ディランみたいな有名どころも好きだし、ジャンルで言うとジャズ、フュージョン、ソウル、ディスコ、ヒップホップと幅広く聴いてるみたいです。
──ヒップホップも! お父さんの世代だったら、リアルタイムで聴いていたのはどのあたりなんでしょうか。
ロックの流れでアフリカ・バンバータの「Planet Rock」を知って、聴いてみたら「何これ!?」とびっくりしたらしいです(笑)。
──ヒップホップ黎明期から聴かれてたんですね。生まれたときから身近にアナログがあるという環境は、PUNPEEさんの音楽活動に影響を与えていますか?
影響はあると思いますよ。でも、子供の頃はよくわからなかったですけどね。親の趣味だから素直にカッコいいと思えない、みたいなのあるじゃないですか。朝のコーヒーの匂いと、親父の聴いている洋楽がすげえイヤだった(笑)。やっぱり子供の頃ってテレビに映ってるものが一番イケてるように見えちゃう。レコードを聴くより「スーパーマリオ」のほうが楽しい、みたいな(笑)。でも、中学生になった頃に、自分が好きで聴いている音楽と、父親が持っているレコードがリンクするようになったんです。
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レコ屋はひとつ上の職業だった