デジナタ連載 Technics×「レコードの日」|所有する楽しさ、針を落とす瞬間の緊張感 中島愛×豊崎愛生が語るアナログレコードの魅力

ファンの「初めてのレコード体験」に携われた喜び

──お二人ともご自身のベスト盤をアナログでリリースされていますが、共通して「アナログになることを意識した選曲」にしているあたりがさすがですよね。ベスト盤をそのまま収録するのではなく、音質やアナログ盤の特性を踏まえた上で選曲を絞り込んで曲順を練り直しているという。

豊崎 ……自分の作品の話になると急に恥ずかしくなって言葉数が少なくなっちゃう(笑)。

中島 口ごもっちゃいますね(笑)。でも、デビューしたときからずっとレコードを出したいと思っていたし、デビューした頃はまだ今ほど新譜のアナログ盤リリースが活発じゃなかったんですよ。そのあとレコードブームが来てから「……今なら出せるんじゃ?」って(笑)。「時が来た」という感じでしたね。

豊崎 私も「ソニーミュージックというレコード会社に所属しているからにはレコードが出したい」と夢に見ていて(笑)。そしたら、ちょうどベストアルバムを出すタイミングで、ソニーがアナログ盤のカッティングを自社で再開することになったんです。だったら「一番乗りだ!」という気持ちでお願いして、カッティングはナタリーさんの取材で見学もさせてもらえました。それで……ホントにおこがましい&恥ずかしいのを大前提で「せっかくアナログを出すなら、顔面ジャケにしたい」とお願いして(笑)。やっぱりアナログ盤といえば、松田聖子さんの「SQUALL」とか「ユートピア」とか……いつか自分で出すならこのサイズで、と思っていたんです。

中島 正面どアップジャケは正義ですよね。

豊崎 レコードができたあと「やはり1回は……」と思って、聖子さんのジャケットと自分のジャケットを並べてみたんですよ。

中島 いいですね!

豊崎 いやいや、並べてすぐに「ごめんなさい!」みたいな(笑)。

中島 この正面の画角、背景の色味、髪型のスタイリング、完璧じゃないですか。

豊崎 まめぐちゃんが大好きな80年代のアイドルさんたちが日本のポップスシーンを作ってくださったわけで、アナログを出すならそのリスペクトを込めてオマージュしたかったのですが……本当にすみません、という感じで(笑)。

──実際に自分が30cm角に収まったお気持ちはどうですか?

中島 ファンタジーの世界ですよね。今、目の前に自分のレコードがあるんですけど、いまだに若干信じられないような気持ちです。私も巨匠・小鐵徹さんのカッティングを見学させていただいて……。

豊崎 すごい! 今年の「レコードの日」で再販される細野(晴臣)さんのアルバム(HARRY HOSONO & THE WORLD SHYNESS「FLYING SAUCER 1947」)も小鐵さんですよね。

中島 間近で見せていただきました。「本当に私のレコードができるんだ……刻まれちゃうんだ……」みたいな。

豊崎 この溝に音が刻まれているって、いまだに信じられないですよね。サブスクにも日々たくさんお世話になってますけど、このアナログならではの「いっぱい生産されているんだけど、私が持っているこのレコードはこの世に1枚だけ」という特別感、宝物感には代えがたいものがあるんですよね。それは私の音楽を聴いてくれるお客さんにも同じように感じてもらいたいなという思いがあって。アルバムを出したあと、学生の方とか若い方から「豊崎さんのアルバムで初めてレコードを買いました。このレコードのためにプレーヤーも買っちゃいました」とか「初めてレコードショップに行きました」とか、さらには「初めてレコードを持ったんですが、重いんですね」とか、いろんなメッセージがラジオに届いたんです。それがすごくうれしかったし、レコードを出したことで誰かにとっての「初めてのレコード体験」にダイレクトに携われたことが何よりも光栄で。アナログが出せたことには感謝しかないです。

本領発揮した音が聴きたいを叶える「SL-1500C」「SC-C70MK2」

豊崎 (「SC-C70MK2」を見て)これはターンテーブルから直接つなげるんですか?

──「SL-1500C」はフォノイコライザーを内蔵しているので、ライン端子にケーブル1本でつなげます。「SC-C70MK2」は本体でCDやラジオが楽しめるほか、Wi-Fi、AirPlay 2、Bluetoothを駆使してPC内の音源やサブスク音源も再生できます。

豊崎 ほえー。

中島 (CDのトレイを触って)これかわいいですね。こうやって開くんだ。

豊崎 UFOみたい。

──あと「SC-C70MK2」は部屋の広さに合わせて最適なスピーカーの鳴りをセッティングできるんですよ。

中島 どういうこと!?

──部屋の広さや環境によって音の響きが変わってくるんですけど、テスト音を内部のマイクが拾って反射音から最適な鳴り方を測定するんです(アナログシンセのようなテスト音が鳴る)。

豊崎 わっ。テステス。つまり中にちっちゃいPAさんが入ってるんですね。かわいい(笑)。

中島 最適な音にそろえるというのは、いわゆる音量の問題ではなくて……。

──残響ですね。立派なリスニングルームにスピーカー台を用意して、みたいな聴き方はハードルが高いですけど、「SC-C70MK2」ではこの「LAPC(Load Adaptive Phase Calibration)」機能を使えば、空間表現に優れた音がその部屋に合わせて再生できます。

中島 残響。へえー。残響をデザインするってすごいですね。

豊崎 いいですね。うちはアンプとスピーカーがあって、ターンテーブルがドンと置いてあるんですけど、スピーカーを置くにはそれなりの幅もいるし……裏側の配線がめっちゃ大変なことになっているんですよ。配線をごまかすためにジャケットを立てたり(笑)、いろいろがんばってるんです。でも、このセットならケーブルを1本スッとつなぐだけだし、ボタンもシンプルで。

──本格的なシステムで音楽を聴きたいけど、どこから手を付けたらいいのかわからない、設置スペースにも限りがある……という人に、このセットは非常にシンプルでいいですね。

豊崎 ……欲しい。シンプルにひと言(笑)。

中島 確かに欲しい(笑)。これさえあれば迷わないですもんね。

豊崎 やっぱり音楽を聴くうえで「いい音で聴きたい」って絶対条件じゃないですか。あえてラジカセのレトロでチープな音色で聴くのも楽しいけど、まめぐちゃんがあややのときに言っていた「本領発揮した音が聴きたい」みたいなことを考えたとき、そうは言っても何を選んでいいのかわからないという人は多いと思うんです。そんなときに、このセットはいろんな意味で「シンプルなよいもの」というか。私、レコードプレーヤーはTechnicsさんの古いシリーズを使っているのですが……使い方がすっごく雑で。本当にごめんねという感じなのですが、とてもタフだからずーっと使えているんですよ。

──SLシリーズはそこが本当にすごいですよね。我が家にも1998年代製の「SL-1200MK3D」がありますが現役で活躍しています。

豊崎 タフさでも間違いないのはわかっているうえに、この洗練具合とシンプルさ、おりこうさ加減。最高だと思います。

中島 さっき聴き比べをしているとき、私は「SC-C70MK2」の真正面に座って聴かせてもらって、けっこうな音量を出していたと思うんですけど、うるさくは感じなかったんですよね。体の芯にだけ響いてくれる感じというか。自分でイチからいろいろそろえて、環境を整えて……というのは機械に疎い私にはすごくハードルが高いので、これだけおりこうさんがいてくれたら、音楽をもっと楽しめるんじゃないかと思いました。レコードの丸みをより引き立たせてくれるこのセットは……このまま抱えておうちに持って帰りたいくらいです(笑)。

豊崎 CDのトレイが透けてるのもうれしいですよね。CDの盤面もこだわって作ってるのですが、機械の中に入ってしまうと見えないんですよ(笑)。レコードもCDも、盤面や歌詞カードを手で持つことは、移り行く世の中ではレアケースになってしまいましたけど、「頭はハイテクなのに、アナログみも残してくれてるんだなあお前は」とかわいがりたくなっちゃいますね(笑)。

中島 あはは。音楽が好きで、アイテムが好きな人が作ったんだろうなと思いますね。ただカッコいいだけじゃない。

左から中島愛、豊崎愛生。

「新しい一歩を踏み出す楽しさ」を味わってもらいたい

豊崎 レコードプレーヤーやステレオ機器は、買うきっかけが難しいですよね。レコードは「ジャケを飾るだけでもかわいい」みたいなとっかかりもあるけど。プレーヤーを持っていないところからだと、どうやって行き着くんだろう。

中島 でも、サブスクでボタン1つでピッ、みたいなものではない、ある意味不便なものが恋しくなる気持ちというのは絶対にあると思うんですね。

──確かに、物心ついたときからスマホがあったような10代の子がフィルムカメラにハマったり、アナログなものに新鮮な気持ちで接する機会も増えているようです。レコードが好きなお二人が、レコードの楽しさに触れる後押しをするとしたら?

中島 手間を愛おしいと感じる気持ちを伝える……難しいですね。きっと誰にでもその根っこや芽はあると思うんですけど、自分の中学生の頃を思い出すと、やっぱりレコードプレーヤーに手を付けるのは難しいと思うので。

豊崎 サブスクでいろんな音楽が聴ける中で、レコードはやっぱり簡単な買い物ではないものだと思うんです。聴くまでにそろえるものは多いし、敷居が高いと感じる人は多いかなと思いますけど、自分だけの宝物にもなり、素敵な趣味にもなり、ハマり込んだら沼になり……新しい世界なんです。今まで聴いていた音楽も、大好きなアーティストさんも、レコードになった瞬間に「はじめまして」みたいな世界が広がるというのが、私にとってはたまらない感動だったので、ぜひみんなにもこの「新しい一歩を踏み出す楽しさ」を味わってもらいたいです。もし1曲でも自分にとってかけがえない曲があったり、ずっと応援しているアーティストがいたりして、その人がレコードを出しているのであれば、絶対にレコードで聴いてみてほしい。針を落とす瞬間の……私はいまだに下手ですけど(笑)、この緊張感もね。

中島 所有する楽しさを少しでもほかの何かで感じたことがある人は、絶対にレコードにハマる素質があると思います。いろいろそろえるのは手間だなあと思うかもしれないけど、1枚でもレコードを手にすると絶対にプレーヤーが欲しくなりますから、深く考えずに好きなアーティストや好きなジャケット、好きな1曲があったらとりあえず1枚買ってみるのがいいと思いますね。私もずっとプレーヤーがないままレコードを買い続けてましたけど、絶対に我慢できなくなりますもん(笑)。

豊崎 ベッドの下に隠してるだけじゃ満足できない(笑)。

中島 あの頃の私は孤独でしたけど、今は「レコードが好きだ」と言えばいっぱい仲間が見つかるはずですから。

豊崎 あとね、(「ブルース・ブラザーズ」サントラを手にして)このレコードが出たとき私はまだ生まれてなかったけど、これが発売されて何年も経った今、私は当時の人と同じことをして同じように聴いていることに、とてもロマンを感じるんです。自分が生まれる前の時代に生きていた人と同じ聴き方で、もしかしたらまったく同じところで感動しているのかもしれない。それは私の人生の中で大きな革命だったのです。自分のレコードができたときも、もしかしたら何百年後かの未来人がたまたまこれを手にして、今の私と同じ音を聴いてるかもしれないと思うと……やっぱりそれが起こるとしたらアナログなんですよね。どれだけデジタルで世の中に曲があふれていても、モノとして残っているのは最強だなって。

今年の「レコードの日」は全142作品がラインナップ中島愛×豊崎愛生の気になるタイトルは?

中島愛

岡本舞子「Fascination」

紙ジャケのCDを持っているんですが、この機会にレコードも必ずゲットしたいですね。山川恵津子さんをはじめ素晴らしい作家陣による洗練されたサウンドと、岡本舞子さんの奥行きのある声が絶妙にマッチしたアルバムです。

ともさかりえ「カプチーノ / エスカレーション」

女優さんの歌って独特の魅力があって大好きなんです。ともさかりえさんの歌声をレコードで、というだけでワクワクするし、繊細なニュアンスや揺らぎもより感じられると思うので、じっくり聴きたいですね。

豊崎愛生

HARRY HOSONO & THE WORLD SHYNESS「FLYING SAUCER 1947」

大好きな細野さんの「FLYNG SAUCER 1947」!
どこかで一度は聞いたことのある名曲達のセルフカバー集とあって、もともといろんな楽しみ方ができるアルバムではあるのですが、一番楽しみなのがボーカルの音!アナログで聴くことで、温かみのある細野さんの声の魅力はさらに増すはずですし、夢のように豪華なゲストボーカルの皆さんの声の聞こえ方も、とても気になります。このアルバムのLP盤はレアで入手できていなかったので、再発売はとても嬉しいニュースでした! 寒くなるこれからの季節ですが、アナログの温かみも相まって、心がポカポカになれる1枚だと思います。

くるり「琥珀色の街、上海蟹の朝」

サブスクでヘビロテしていた「琥珀色の街、上海蟹の朝」。7inchが再発するとあって、ゲットしたい1枚です!
これまでもアナログ盤のリリースはあったくるりさんですが、なんと今回33回転でのカッティングになっているのだとか…。今までとは違う聞こえ方になりそうで、とても楽しみな1枚です。毎回アートワークも素敵なので、ホログラム仕様をキラキラさせながらレコード棚に飾りたいと思います!

左から中島愛、豊崎愛生。

Technics「SL-1500C」

Technics「SL-1500C」

Technicsによる、シンプルなビジュアルと操作方法が魅力のダイレクトドライブターンテーブルシステム。フォノイコライザー内蔵、カートリッジ同梱で初心者でもすぐにレコード再生を楽しむことができる。レコードの再生が終了すると自動的にトーンアームを持ち上げるオートリフトアップ機能付。

Technics「SC-C70MK2」

Technics「SC-C70MK2」

新開発のスピーカーユニットや音響レンズの最適化によって明瞭でスケールの大きなサウンドを堪能できるTechnicsのコンパクトステレオシステム。部屋の広さや置く場所に合わせて最適な音質に自動調整する「Space Tune Auto」機能を搭載している。アナログ音源のみならず、音楽ストリーミングサービス、ハイレゾ音源、CDなどの幅広い音楽コンテンツに対応。「Chromecast built-in」に対応しているアプリを使用してさまざまなサービスが楽しめる。

レコードの日

「レコードの日」ロゴ

アナログレコードの魅力を伝えることを目的として2015年より毎年11月3日に開催されているアナログレコードの祭典。東洋化成が主催、Technicsが協賛している。イベント当日は全国各地のレコード店でさまざまなイベントが行われ、この日のために用意された豊富なラインナップのアナログ作品が販売される。

中島愛(ナカジマメグミ)
アニメ「マクロスF」のヒロインのランカ・リー役に抜擢され、2008年6月に「ランカ・リー=中島愛」名義によるシングル「星間飛行」で歌手デビュー。2009年1月に個人名義で初のシングル「天使になりたい」を発表した。2014年3月より音楽活動を休止していたが、2016年12月に活動再開し、2017年2月には復帰第1弾となるシングル「ワタシノセカイ」、10月には復帰第2弾シングル「サタデー・ナイト・クエスチョン」をリリースする。デビュー10周年を迎えた2019年1月に初のカバーアルバム「ラブリー・タイム・トラベル」を発売。2月には地元茨城での初ワンマンライブ「中島愛 凱旋ライブ in mito LIGHT HOUSE~しみじみ茨城~」を行った。30歳の誕生日である6月5日に初のベストアルバム「30 pieces of love」および初のアナログ盤「8 pieces of love」を発表。2021年2月に5thアルバム「green diary」を発売した。
豊崎愛生(トヨサキアキ)
1986年10月28日、徳島県生まれの声優 / アーティスト。2009年放送のテレビアニメ「けいおん!」で主要キャラクターの1人、平沢唯を演じて一躍脚光を浴びた。同年2月には同じミュージックレインに所属する寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥とともにユニット・スフィアの活動を始め、10月にシングル「love your life」でソロデビュー。以降は、ソロ、スフィア、さらには数々のアニメのキャラクターソングなど幅広く音楽活動を行っている。2017年には初のベストアルバム「love your Best」をリリース。2021年6月に5年ぶりのオリジナルアルバム「caravan!」を発表し、7月にはワンマンライブ「LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2021~Camel Back hall~」を開催した。