壁を壊さず、どうやって手をつなげるのか

──EPに収録された3曲について改めて聞かせてください。「The Heart Tree」は「この場所があなたの居場所になりますように」という歌詞が印象的です。

この曲は歌詞を書くのに半年くらいかかったんですよね。先に音ができて、どういう言葉を乗せようかずっと考えていて。これは前からなんですけど、僕、基本的に歌詞に使う言葉をメモしないんですよ。メモをしなくても覚えていれば“本当の言葉”なんだろうなという感じで。「この場所があなたの居場所になりますように」という歌詞は去年の夏にやっと出てきた。自分たちの立場とライブに来てくれるお客さんの立場って違うじゃないですか。「僕等の夜について」の歌詞でも書いたんですが、その壁を壊さず、どうやって手をつなげるのか？というコンセプトをもとに作詞しました。

──バンドとオーディエンスには壁があったほうがいい、と？

なくすのは簡単ですけど、そうなったらつまらないと思うんです。壁って言うと冷たく聞えるかもしれないけど、ライブハウスのステージも一段上にあるじゃないですか。段差がほとんどないハコもあるけど、確実に一線を画しているわけだし、それが素敵なところだと思っていて。その中でつながる、重なり合うためにどうするべきかについてはここ数年ずっと考えているし、「The Heart Tree」はその答えを一度出してみた曲ですね。

──特にヴィジュアル系バンドのお客さんは、ライブハウスに自分の居場所を見出している人が多い印象があります。

どうだろう？ そこは変わってきてるのかな。選択肢が多い時代だし、ライブハウスに居場所を求める人は少なくなっていると思いますけどね。「2曲しか知らないけど連れてこられた」みたいな感じでも全然よくて。だって、そういう人もライブに来ることを選択したわけじゃないですか。ライブハウスに行くのは勇気が必要だし、自分たちとしては「ここを選んでくれた人たちをどう愛そうか？」というだけなので。ただライブはムラがある。どれだけこっちがいいライブをやったとしても、その人が立っていた場所や隣にいる人によって「今日はつまらなかった」と思われるかもしれない。

──確かに。

もしつまらなかったとしても、もう1回来てほしいんです。それは動員を増やしたいとかではなくて、自分たちとしてはずっと最強のライブを提示しているつもりなので。ただ僕はライブにおいては独裁者でもあるので、できればDEZERTの世界を理解して来てもらいたいですけどね。国にそれぞれ文化があるようにライブハウスのルールは僕らが決めるので。それをわかったうえで来てくれた人たちはしっかり愛そうと思ってます。

DEZERTコンプレックスと向き合うために

──「僕等の夜について」を作ったときの状況、心境はどうだったんですか？

「僕等の夜について」は……メンバーの中で“DEZERTコンプレックス”と呼んでいる現象があって。「TODAY」というアルバムに「オレンジの詩」という曲が入っているんですけど、その曲ができたときは「めっちゃいい曲じゃん！」ってテンションが上がってたんです。だけどライブでやってみるとお客さんとの間に違和感があって。「オレンジの詩」って一般的にはかなり激しい曲だと思うんですけど、DEZERTにはもっと激しい曲、速い曲もあるので、お客さんが「この曲って歌モノなの？ そうじゃないの？」と困惑しちゃって。そのときSacchan（B）と「これってDEZERTコンプレックスだよね」って話したんです。ただ、僕らとしてはそういう従来のタイプとは違う曲が必要だと思っていて。「僕等の夜について」もその流れにある曲なんです。歌詞についてはそのときの自分の心情をポエムにしたというか。

──「最後の夜に何を歌おう 『僕等は君に出会えてよかった』と」という歌詞もそうですが、すごくストレートですよね。

そうですね。この曲はツアーの中で成長を感じた曲でもあって。アルバムツアーの「PHASE_1」ではセットリストの真ん中に置いたんです。以前は最後に置くことが多かったんだけど、場所を変えることで楽曲の違う側面が見えてきた。バンドとしても「もう一歩違うところに進めるんじゃないか」という感覚もあったし、大好きな曲になりましたね。ただ、この曲を作ってたときは恋を煩ってたのかなと思いましたけど。

──「僕等の夜について」は恋煩いの歌？

僕は経験ないですけど、恋してるときってキモいこと言うみたいじゃないですか（笑）。去年のDEZERTにはそんな感じがあったのかなと思って。「The Heart Tree」もそういうところがあるんですけど、気分が盛り上がっちゃってるというか。

──武道館に向けて、バンドもファンもテンションが上がっている状態ですからね。

それが今はちょっと違っていて。恋愛でいうと「PHASE_1」で安定期に入った感じなんです。

武道館は結婚式

──3曲目の「Hopeless」はアルバム「The Heart Tree」の1曲目に収録されている楽曲です。

「Hopeless」はこのEPにも絶対に入れなきゃいけないという強迫観念みたいなものがありました。「The Heart Tree」もそうですけど、アコースティックバージョンにすることで、ちゃんと自分たちの根っこの部分を見つけないといけないというか。この曲を書いたときは一番“無”だった気がするんですよ、俯瞰で自分たちを見たときに。ただ、決してネガティブなことを歌っているわけでもなくて。僕ら、希望を探すのがマジで得意なんです。自分たちが中学、高校の頃に好きだったバンドって、結成から10年以上くらい経つと活動休止したり、メンバーが脱退したり、とにかくピークを過ぎてることが多くて。でも自分たちは全然そうじゃない。「13年目なのにどうしてこんな勢いでやれるんだろう？」と思うけど、それはたぶん小さい希望を見つけ続けてきたからで。

──なるほど。

どうしても希望を見出せなかった時期もあるんですけどね。2ndアルバム（「最高の食卓」）を出して、Zepp公演をやって、そのあとどうすればいいかわからなくなって。感情の起伏が激しくなって、すべてのことにイラついてたし、メンバーの仲もよくなかったんじゃないかな。実際、辞めたいと思ってたメンバーもいたみたいだし。そういう経験もあって、なおさら希望が大事だなと。それはバンドだけじゃなくて、誰にでも言えることだと思うんです。

──「Hopeless」には「生きてる理由を確かめたい」というフレーズもあります。

はい。生きてる理由を確かめるために希望を一度なくそうと思ったんです。少なくとも僕の中では、一旦「希望なんてない」と思うことが必然だった。自分に期待したいから希望があるわけで、周りには期待しないというか……。この曲に対するメンバーの反応もすごくよかったんですよ。「Hopeless」でミュージックビデオを撮ったのもメンバーの意思が同じだったのが大きいですね。それと「希望なんてないんだよ」という言葉をどう伝えるかですよね。例えば10代の不良が「希望なんてないんだよ」って言ったら、誰もが「そんなことないよ。がんばれよ」と思うじゃないですか。でも13年やってるバンドですからね。どういう表情、どういうテンションで歌うべきなのか、そこは自分としてもすごく考えているところなんです。そういうことも「Hopeless」を今回のEPに入れた理由かもしれないですね。

──最初にも話に出ましたが、現在はアルバム「The Heart Tree」のツアー中です。12月27日の日本武道館公演に向けて、メンバーの団結もここからさらに強まるのでは？

団結はしてますね、すでに。さっきの恋愛の例えを続けるとしたら（笑）、武道館は結婚式なんですよ。世の中の結婚式がすべてハッピーだとは思わないし、よくない結婚式もあるはずなんですけど、武道館に関してはかなり自信があって。それは「もし結婚式がよくなくても、結婚生活は大丈夫」ということなんですけど。

──面白い（笑）。つまり武道館公演のあともDEZERTは大丈夫だ、ということですよね。

はい。マリッジブルーというか、もしかしたら武道館の前に「やりたくない」と言い出すかもしれないけど（笑）、そのときはまたインタビューしてください。ただ、そうなっても大丈夫だと思うんですよね。俺の場合、どんなことがあっても曲にできるんで。

──もし「武道館やりたくない」と思ったとしても、それを曲にして表現できるはずだと。

はい。タイトルは「ブルー」ですね（笑）。