DEZERT千秋ソロインタビュー|裸の歌で表現するバンドの核心

今年1月、結成13年目にして日本クラウンからメジャーデビューしたDEZERT。彼らは年末に控える初の東京・日本武道館ワンマンライブに向け、最新アルバム「The Heart Tree」を携えて各地で精力的にライブ活動を行っている。

バンドにとって追い風が吹く中、突如として3曲入りのEP「The Heart Tree ~unplugged selection~」が届けられた。タイトルが示す通り、このEPには「The Heart Tree」収録曲のアコースティック音源を収録。フロントマンである千秋(Vo)の歌を大きくフィーチャーしている。なぜ彼らはこのタイミングで本作を発表するのか? その意図を千秋に聞いた。

取材・文 / 森朋之

“なんとなく”じゃDEZERTをやれない

──今年1月にメジャー1stアルバム「The Heart Tree」をリリースされましたが、作品に対するオーディエンスの反応を含めて、どんな手応えを感じていますか?

手応えはバンドを始めてから1回も感じたことはないです。俯瞰で見て「まあまあ」って感じですかね(笑)。今ツアー中というのもあるし、アルバムの終着点はまだまだ先だと思ってます。

──アルバムを引っさげたツアー「DEZERT LIVE TOUR 2024 "The Heart Tree"」の「【PHASE_1】 -延命ピエロ編-」が2月から3月にかけて開催されて、現在は「【PHASE_2】 -匿名の神様編-」の真っ最中ですね。

「PHASE_1」の間は珍しく声の調子が悪かったんです。最初が一番よくて、やればやるほど悪くなるというパターンに陥って、まったく納得はできなくて。なんとか終えられてよかったというだけかな。

千秋

──千秋さんにとってはきついツアー前半だったと。

ただ「PHASE_1」ではアルバムの曲を全部披露したんですけど、調子が悪かった中、自分の中で消化できたというか、個人的な部分で「やり終えた」という感覚になった曲もあって。「PHASE_2」ではセットリストも変えているし、より濃いツアーにしたいと思っています。

──そんな中、デジタルEP「The Heart Tree ~unplugged selection~」がリリースされます。アルバム「The Heart Tree」収録曲から「The Heart Tree」「僕等の夜について」「Hopeless」をアコースティックアレンジで再録した作品ですが、このEPを制作するに至った経緯を教えてもらえますか?

けっこう紆余曲折あったんですよ。アルバムのレコーディングは去年の9月くらいに終えていて、その後も曲を作ろうと思っていたんです。ただ、僕はライブをやってないとなかなか歌詞が書けない。オケやメロディは作れるんだけど、「今自分は何を言いたいのか」「これからどうしていくのか」という思いはライブの中でしか基本的に出てこなくて。なので制作が止まっちゃってたんです。一方で「The Heart Tree」の収録曲についてライブでの表現にちょっと悩んでいたところがあったんです。うるさい音に歌を乗せるのも楽しいんですけど、この3曲に関してはもっと根っこの部分を見せたほうがいいんじゃないか?とみんなで話し合って。そこからですね、アコースティックでやってみようかということになったのは。

──歌の内容をさらに強く伝えていきたいという意図もあった?

そうですね。DEZERTの曲はいろんな服を着せているイメージで作ってるんです。「この曲はタンクトップでいっちゃおう」とか「これはジャケット着せたほうがいいよね」「これは冬の曲だからマフラーとダウンジャケットかな」みたいな。今回のEPに関しては「裸になってみない?」という感じだった。アカペラでもいいんですけど、さすがに面白くないと思うから、アコースティックアレンジにして。裸だけどムダ毛処理くらいはしてますという感じかな(笑)。レコーディングはけっこう大変でしたけどね。普段よりもだいぶ時間がかかりました。

──アコースティックアレンジは歌と向き合わざるを得ないですからね。

そこはもう腹立たしいというか……。最近、ちょっと焦りみたいなものを感じてるんですよ。ツアー中も「どうしたらもっとよくなるだろう?」ってぐるぐると考えてたし、小手先じゃどうにもならないなと。今まではレコーディングが終わったら「はい、どうぞ出してください」って晴れ晴れしい気持ちになってたんだけど、今回はそうじゃなくて。

──それは千秋さん自身のボーカルに関することが理由ですか?

歌を筆頭にして、全部ですね。それは不安とは違っていて……バンドとしての焦りについては去年メンバー4人で乗り越えた感じがあったんですよ。不安は消えないけど、それとどう向き合っていくか?というところでバンドがひとつになれた。ただ、パーソナルな部分でそれぞれ考えてることはあるだろうし、それは人に言えなかったりしますからね。僕の場合は歌だったり、“なんとなく”じゃDEZERTをやれないよなという焦燥感だと思います。特にアコースティックだと、自分の悪いところがよく見えるじゃないですか。いつもは着やせする服とかを選ぶんだけど(笑)、裸ですからね。

千秋(撮影:冨田味我)

千秋(撮影:冨田味我)

──すごく生々しいボーカルですよね。まさにむき出しというか。

生々しさは求めてなかったんだけど、そうするしかなかった。よくも悪くも「これが自分なんで」という感じです。

──アレンジとプログラミングは杉原亮さんが手がけています。

杉原さんとの関わりにもストーリーがあるんですよ。昔からときどきライブでやってた「オーディナリー」という曲がありまして。「武道館でライブをやるときは、この曲を無料配布するんだ」と言ってたんですよ。それくらい大事な曲なんですけど、以前レコーディングしたことがあって。そのときに携わってくれたのが杉原さんなんです。アレンジを含めて一緒に制作して、しっかりお金をかけて「せーの」で一発録りしたんですけど、結局僕が出すのがイヤになってボツにしてしまった。そこで杉原さんとは一度お別れしたんですよ。しばらく会ってなかったんですけど、アコースティック音源を作るにあたって、ここはメンバー以外の人にやってもらったほうがいいなと。いくら裸になろうとしても着色しちゃいそうな気がしたので、DEZERTのことをわかってる人にアレンジしてもらおうと。これまでは基本的に自分たちの中にあるものだけで音を作ってきて、そのやり方が8割5分くらいを占めてたんだけど、それがちょっとつまらなくなってきたというのもありますね。外の人を入れて作るのは面白いし、それを楽しんでるところもありました。