2024年に結成13年目を迎えたDEZERTが、1月10日に日本クラウンよりメジャーデビューアルバム「The Heart Tree」をリリースした。
昨今のヴィジュアル系シーンの中でも抜きん出た存在感で着実にファンを獲得している彼ら。2023年9月には東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演をソールドアウトさせ、ライブ中にメジャーデビューと東京・日本武道館で単独公演を行うことを大々的に発表した。
DEZERTはなぜこのタイミングでメジャーに進出することを選んだのか。そしてどんな青写真をバンドとして描いているのか。メンバー4人に話を聞いた。
取材・文 / 森朋之
メジャーデビュー=制服一新
──バンド結成13年目にしてのメジャーデビューですが、皆さんはこの状況をどう受け止めていますか?
SORA(Dr) 今までやったことがないことに挑戦するというか、がんばっていきたいなと思ってますね。これまで千秋が作った曲をバンドで表現してきたんですけど、それを信じて「一緒にやっていきたい」と言ってくれる人がいて。これまでのバンドの規模感では実現できなかった提案ももらってるんです。実力に伴っていないことはやりたくないという思いは根底にあるし、結局は僕ら次第なんですけど、レーベルの方と一緒にがんばっていきたいという感じです。
──地に足が着いてますね。
SORA 「もっと大きな露出をしたい」という気持ちはありますけどね。こっちも期待してるし、僕らにも期待してくれてると思うので、何ができるかお互いに探していく感じです。スタッフと深夜2時までLINEでやりとりすることもあるし、小さいところからコミュニケーションを取って新しいことに挑戦していきたいと思ってます。
Sacchan(B) 自分としては、とにかくバンドの雰囲気を変えたいという気持ちがあったんですよね。「TODAY」というアルバム(2018年8月発表)から今の事務所にお世話になって、その後、「black hole」(2019年11月発表)を出して。で、「RAINBOW」(2021年7月発表)はインプットのアルバムだったんですよ。アレンジャーを入れたり、エンジニアのチームを変えたり、新しいことをいろいろと試した。そのあとシングルを出したんですけど、ちょっとバンドの雰囲気が落ち着いてきちゃったなという悩みを持っていたんです。曲ができるまでのアプローチとはまた別の話ですけど、新しい作品をリリースするにあたっては何か変化が欲しいと思っていたし、聞こえ方は悪いかもしれないけど、そのための手段を探していて。「メジャー」というキーワードがバンド内で出てから、少しずつ変わってきてますね。レーベルのスタッフの方の発言もそうだし、今までとは違うことが何か1つでも増えれば、十分に変化なんです。
Miyako(G) いい意味で気持ちの切り替わりの1つと言うのかな。長くバンドをやっていると、やってること自体はそのときによって違いますけど、音源を出して、ライブしてというループじゃないですか。メジャーデビューは1回きりだし、今はちょっと緊張感もあって。周りの雰囲気もかなり違いますね。
──刺激や変化を感じられるタイミングでもあると。千秋さんはどうですか?
千秋(Vo) 僕はあまり考えてないんです(笑)。そもそも僕らがバンドを始めた頃って、バンドがメジャーデビューをすることに対する価値が消滅していた時代だったので。今はもっとそうで、配信なんかも自分たちでできるし、CDを出さなくても活動が成立する。その中であえてメジャーデビューする意味もあると思っていて、ほかのメンバーが言ってた通り、環境や雰囲気を変えたいという思いや、武道館でライブをやることを含めて、わかりやすい分岐点になったのかなと思います。例えるなら制服が新しくなったイメージなんですよ。制服を着ている人は変わってないんだけど、見た目はちょっと違うという。もしかしたら「昔のほうがよかった」ということもあるかもしれないけど(笑)。
目標があればメンバーがひとつになれる
──メジャーデビューと日本武道館公演の開催は、2023年9月に行われたLINE CUBE SHIBUYA公演で発表されました。どよめきと歓声が混じったファンの皆さんの反応が興味深かったです(参照:DEZERTが渋公リベンジ完遂 メジャーデビュー&武道館ワンマンにファン驚愕)。
SORA 意外だと思った人もいたんじゃないですかね。でも3、4年前から千秋がステージ上で「絶対、武道館をやる」という発言をし始めてから、お客さんの間にも「応援してるよ」「がんばろう」という雰囲気があって。発表に感動している子もいたでしょうし、そんなに熱心じゃない人は「へー、そうなんだ」と感じたり、「まだ早くない?」と思ったりしたかもしれない。無事に発表できたことはよかったけど、反応に関してはそこまで気にしてないです。
千秋 武道館公演は映像を使って発表したんですけど、映像の準備を始めたのはライブの2、3日前なんです。最初は「MCでサラッと言えばよくない?」「ここでカッコつける必要ある?」という感じだったんです。ただそういう発表もエンタメの1つだし、チケット代に入っていると思って(笑)。その場にいたら絶対覚えてるじゃないですか。
──メジャーデビュー、武道館決定って、バンドにとってはすごく大きい出来事ですよね。バンドが大きくなっていくのがわかりやすく見えるので。
千秋 デカくなってる実感は、12年やってて1回もないんですけどね(笑)。時代が変わっていく中で自分たちもかなり揉まれてきたし、バンド単体でデカくなるというより「みんなで一緒に行こう」という意識が強いんです。それに、昔は「進むためには何かを切り捨てなくちゃいけないんだろうな」と思っていたんだけど、今はそうじゃなくて。武道館という目標があることで、昔からのファンも最近のファンも一緒に進める感じがある。
──目標を打ち立てたほうが進みやすいと。メンバーの皆さんのモチベーションも時期によって変化しているんですか?
Sacchan どうですかね? 個人的には、音楽をやるモチベーションみたいなものは変わらないタイプかもしれないです。「バンドをやってるから音楽をやってる」という理由のみかも。
千秋 そこはメンバーそれぞれ違うと思いますね。Sacchanは生きるための手段としてバンドをやってると思うし、SORAくんは憧れてた人に近付きたいという感じがあって。みーちゃん(Miyako)は楽しいからやってる気がする。ギター、そんなに興味ないでしょ?
Miyako 興味あるよ! なかったらヤバいでしょ(笑)。
千秋 そうか(笑)。
SORA 僕は小さい頃から楽器を弾きたいというより、派手なバンドをやりたくて、そこに執着してきたんですよね。今も執着中です。
千秋 ……面白いなあ。ちなみに自分はいまだに探し中です。
──千秋さんはバンドをやる理由を探し続けている?
千秋 そうですね。今は武道館がモチベーションですが。目標があればメンバーがひとつになれるし、揉めずに済む(笑)。価値観が違うとしても一緒にステージに立つことは間違いないので。
「僕らはこういうバンドです」
──では、メジャー1stアルバム「The Heart Tree」について聞かせてください。まず1曲目が「Hopeless」というのが素晴らしいですね。DEZERTの世界観が表れているし、どう考えても今の社会に希望はないので。
SORA 最近何かあったんですか?(笑)
──(笑)。今の世の中で希望は見つけづらいと思うんですよ。話を戻して、前作「RAINBOW」以降にリリースされたシングル曲も収録されていますが、アルバムの制作にあたってはどんなイメージがあったんですか?
千秋 聴き手に近いアルバムを作りたいというイメージはありましたね。「RAINBOW」はあえて距離を遠くしたんですよ。コロナ禍でライブができなかったというのがその理由なんですが、ようやく以前の感じに戻ってきた中で自分の心もいい形に変わってきて。今「希望がない」とおっしゃいましたけど、それは昔からずっと変わってないと思うんです。みんながそのことに気付いただけで。だけど考え方次第で人生が楽しくなる部分もあるし、僕らには「ライブに来た人たちと、その日だけでもいいから同じ気持ちを共有したい」という思いがあるんです。「DEZERTの音楽を聴いて、人生が変わればいい」なんて大それたことは思ってないですけど……変わったと思っても、朝起きたらどうせ元に戻ってるので。それでも僕らはライブをやり続けるし、会場に来てくれた人に何かを持ち帰ってほしい。アルバムもそういう気持ちで作りました。メジャーから出るアルバムだけど、不特定多数に向けたものではなくて、ファンや近い人たちを意識しましたね。僕的には「これで一旦告白した」という気持ちなんです。「結婚してください」と伝えて、返事を待ってる状態(笑)。
──そういう心境になれたのは、千秋さんにとってはすごくいいことですよね?
千秋 どうなんですかね? 周りはどう思ってるかわからないけど、僕自身は昔に比べてかなりマシになったと思っていて。心のささくれだったり、世界が濁って見える感覚は消えないですけど、それらと向き合うことに慣れてきた。そうなれたのはSORAくんが仕切ってくれた2022年末の武道館イベント(「V系って知ってる?」)の成功も大きかったですね。僕は「開催はやめたほうがいい」と言ってたんだけど(笑)、しっかり成功させて。ヴィジュアル系は先輩たちが作ってくれたシーンだし、僕らはその恩恵を受けているわけで。そのジャンルのイベントをやったら武道館に人を集められる。だったら自分たちが引き継いでいかないとアカンなと。ちょっと話が大きくなっちゃいましたけど、そういうことはたぶんメンバーも考えているんじゃないかな。
──なるほど。このアルバムの手応えはいかがですか?
SORA 手応えか……相変わらず悩みに悩んで、メジャー初のアルバムなのにいろいろ締切を過ぎてしまって。
千秋 締切が早すぎるんですよ(笑)。
SORA でも、12年このバンドをやってきた中で、レコーディングが終わってからライブで披露するまでにこんなに時間があるのは初めてなんです。この前、初めてメンバー4人でアルバムの曲を合わせたんですけど、すごくいい感触があって。それぞれ曲の理解度が高いんですよね。さっき千秋が「制服を変えた」と言ってましたけど、新しい制服を着るためにはそれなりに身だしなみを整えたほうがいいじゃないですか。その準備がちゃんとできてるんじゃないかなと。胸を張って「これが今のDEZERTです」と言えるアルバムだし、演奏していて「これはキたな」と思える曲ばかりなので、ライブがすごく楽しみです。結局、ライブが好きなんです。というか、レコーディングが嫌いなんで。
千秋 俺も。似た声の人に歌ってほしい(笑)。
SORA レコーディングで演奏しても誰もキャーキャー言ってくれないし、周りに文句ばっかり言われるじゃないですか(笑)。途中から録り直すのも得意じゃないし、やっぱりライブのほうがいい。聴いてくれれば何かを届けられると思うし、「僕らはこういうバンドです」と伝えられるアルバムですね。
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千秋による“DEZERT仕様”アレンジ