DEZERT 千秋ソロインタビュー|「生んだからには責任を取ろう」我が道行く“凡人”フロントマンの意識改革

やっとスタートラインに立てた

──以前のようなグロテスクな表現がなくなったのも、伝えたいという気持ちの現れですか?

以前、後輩の子とたまたま会ったときに、「DEZERTのあの世界観、好きなんですよ」って言われて、「どういう世界観?」って聞いてみたら僕が本当に伝えたいことが伝わってなかったんですよ。僕としては、グロテスクな表現は引っかかりがあるから、そこをきっかけに歌詞を理解しようとがんばってくれると思ってたんですけど、世間はそう甘くはなくて、「グロテスク、以上!」なんですよ。スナッフフィルム(殺人映画)を観るような感じ。

──そうなんですね。

Sacchan(B)

グロいホラー映画でも、例えば「ソウ」(※2004年公開のサイコスリラー映画)は少なからずメッセージ性があるんですよ。「人生を適当に扱うなよ」っていう。僕はこれまでそういうテーマをわかりやすい言葉で表現できなかった。確かに言葉のチョイスは面白かったかもしれないけど、僕はそれを通じて伝えたいことがあったのにそれが伝わらなかった。グロい言葉にして伝わるなら、今回のアルバムにもそういう歌詞はあったのかもしれないけど、現時点では誤解されると思ったから、なし。次のアルバムではどうなるかはわからないけど、少なくとも今はない。もともと、グロいことをやりたいって思ってたわけではないし。

──その影響なのかどうかはわかりませんが、今作は作品全体を通じて温かみを感じました。

まあ、パパだからね(笑)。少なからず愛があるから。だから、これをライブでどうやって再現するのか楽しみですね。難しさを感じながら、丁寧にやってみようと思います。

──なるほど。

いいか悪いかは別として、あるライブで「なんで人のライブってこんなに言葉が聞こえないんだろう」って思ったんですよ。カッコいい曲はいっぱいある。だけど、何を言ってるのかわかんない。しかもライブで何言ってるわからないまま盛り上がってるの見ると、「それで盛り上がるなら歌詞がある意味なくない?」って思う。なんとなくいい曲っぽく聴こえても、言葉が聞こえないともう一度聴く気にならない。

──確かにそうですね。

曲の合間で言いたいことを吐き出したりしてたけど、「なんでこれを歌にしないんだろ?」っていう違和感が自分の中にあって。人はそれを煽りと呼ぶのかも知れないけど、それはあくまでも曲を生かすためのものだし。僕は人からは「煽りがうまい」ってよく言われるけど、それって寿司のネタはよくないけど、挟まってるワサビがすげえいいって言われてるようなもんじゃないですか。

──(笑)。

だから、「すごく大変だけど、米やネタについてもちゃんと考えよう、ワサビはいいんだから」って。ワサビだけ食う人なんていないでしょう? ライブの煽りだけで食ってる人もいないでしょう?

──言わんとしていることは伝わります。ヒップホップのライブを観てても、トラックがいくらカッコよくても言葉が届かない曲は心に響きづらいですもんね。

僕はヒップホップは聴かないからわからないけど、すごく支持されてるアーティストって言葉をちゃんと届けられる人たちだと思うんですよ。例えばエミネムも僕は何言ってるかはわからないけど、ちゃんと何かを伝えてそうだもん。だから僕は歌が下手でもいいから、ちゃんと言葉が届くようにライブで歌おうと思ってますね。そういう点で、やっとスタートラインに立てたのかもしれない。

「こんな自分なんて」ってあきらめたくない

──前々作「最高の食卓」は40曲ぐらい作った中から選んだそうですが、今回はどれくらい作ったんですか?

今回もそんな感じですね。ただ「Hello」はシングル(「撲殺ヒーロー」)の収録曲で、「おはよう」と「おやすみ」は2016年にライブで無料配布した曲なんですけど。2016年の無配をアルバムに入れるってヤバくないっすか? 一体いつの話だよって。しかも僕、「おはよう」が大嫌いなんですよ。「前だけを見て走り続けることが僕は正しいと思えない」っていう歌詞がカスだなと思って。歯を食いしばってみんながんばってるのに、それを言っちゃうって間違ってると言うか。そんな曲を今回あえて入れたのは自分に対する戒め。

──それはすごい。

それ以外はみんなで「今、ステージで歌いたいのはこういう曲だよね」とか「こういうことを言いたいんだけど、どうやったらうまく人に届くかな」っていうことを考えたり、曲の意図をメンバーに説明した結果、こういう曲たちが選ばれたって感じですね。

SORA(Dr)

──結果的にそうなったんですね。

激しい曲もあったんだけど、今の自分のスキルだと曲調だけしか伝えられないから止めました。激しい曲は好きだから次は全部そういう曲になるかもしれないけど、今はこれかなと。

──今回からMAVERICKというレーベルに移ったことで、環境は変わりますよね。責任のようなものが生まれたりしましたか?

いや、逆に今、責任はない。信じて入ったレーベルだし、子供のような楽曲たちに対してモンスターペアレントになりたくないから。さすがに横暴な教師がいたら「ちょっと!」ってなるけど、ここで育ててもらうって決めたから。これまでみたいに自分の家の中だけで育てても、大きな海を知らずにいたら何も変わらないじゃないですか。

──名門に入ったからには、先生を信じて任せるっていう。

でも、いいレーベルに入ったから売れるとかではまったくないし、自分に対してこう思ってほしいっていう感覚も今はなくなっちゃったんですよ。例えば衣装に関しても、ちょっと前はおしゃれな白シャツとか格好いいジャケットを着させられたりしてたんですけど、今は全部邪魔。ピアスも「なんだこのチャラついたやつは。取ってしまえ!」と。今はそういうモードです。

──すべてむき出しで。

このままの姿を愛してもらうためにはあの手この手を考えるしかない。それを赤裸々って言うならそうなのかもしれない。今回、自分の歌にびっくりしたんですよ。「こんなに歌下手だったの?」って。前までは声を作ることで違う自分を演じようとしてたんですよ。でも、それでは物足りなかったから、自分と向き合った。その結果として「こんな自分なんて」ってあきらめたくない。

──うんうん。

だから今回の曲もどうぞ自由に受け取ってもらえたら。「自分はこの曲についてこう思うんだよね」って言うなら、それはそれで。

──すべての感想を素直に受け止めると。

そういうふうに届いてるってことだから否定はできないよね。直接話すことで全員に曲の意図を理解してもらえるならそうするけど、それが無理だからCDを出すわけで。

──「TODAY」っていうアルバムタイトルは、今日話してきたこととつながるような気がします。

めっちゃ考えた結果、このタイトルになりました。「TODAY」って言葉についてそんなに深く考えることってあります? 例えば「テレビが消えた!」ってタイトルだったら「え!?」ってなるけど、「TODAY」ってありふれた言葉だし、みんなが知ってる言葉じゃないですか。だからこそ付けた感じですね。

──あえてシンプルにしたと。

これまではバンドが知られてなかったから、人の耳に引っかかる単語を使ってきた部分はあります。だから、今回も変なタイトルを付けてもよかったんですよ。だけど、そうすることによって不純物が混じって、結果として自分たちのメッセージが届きづらくなるのが嫌だった。だから「今、自分が考えてるのは今日のことだからなあ……“今日”でいっか」って。めっちゃくちゃ考えたけど、最終的にはこれしかなかった。クソつまんないタイトルでしょ? 自分でもびっくりします。「TODAY」の曲たちはみんなへっぽこで、音源ではクズみたいなボーカルだから、ライブではもっとなんとかしてやろうと思ってます。

DEZERT「TODAY」
2018年8月8日発売 / MAVERICK
DEZERT「TODAY」トゥデイ盤

トゥデイ盤 [CD+DVD2枚組]
8640円 / DCCA-67

Amazon.co.jp

DEZERT「TODAY」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / DCCA-70

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. 沈黙
  2. おはよう
  3. 蝶々
  4. 浴室と矛盾とハンマー
  5. 蛙とバットと機関銃
  6. Hello
  7. insomnia
  8. オレンジの詩
  9. 普通じゃないIII
  10. おやすみ
  11. TODAY
トゥデイ盤 DVD DISC 1収録内容

DEZERT LIVE TOUR 2017“千秋を救うツアー2”TOUR FINAL at 中野サンプラザ LIVE映像

  1. 「おはよう」
  2. sister
  3. 「誤解」
  4. 「排泄物」
  5. 「教育」
  6. 「変態」
  7. 「おやすみ」
  8. 「脳みそくん」
  9. 「ピクトグラムさん」
トゥデイ盤 DVD DISC 2収録内容
  • 「TODAY」レコーディングドキュメント映像
ライブ情報
DEZERT LIVE TOUR 2018「What is "Today"?」
  • 2018年8月18日(土) 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2018年8月19日(日) 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2018年8月25日(土) 福岡県 DRUM Be-1
  • 2018年8月26日(日) 福岡県 DRUM Be-1
  • 2018年9月1日(土) 愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2018年9月2日(日) 愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2018年9月15日(土) 宮城県 darwin
  • 2018年9月16日(日) 宮城県 darwin
  • 2018年9月23日(日・祝) 北海道 cube garden
  • 2018年9月24日(月・振休) 北海道 cube garden
  • 2018年11月18日(日) 東京都 Zepp DiverCity TOKYO
DEZERT(デザート)
2011年に結成された千秋(Vo)、Miyako(G)、Sacchan(B)、SORA(Dr)による4人組。2012年より音源を発表し始め、2013年8月に1stアルバム「特製・脳味噌絶倫スープ~生クリーム仕立て~」をリリースした。2013年にはhideのトリビュートアルバム「hide TRIBUTE III -Visual SPIRITS-」で「D.O.D.(DRINK OR DIE)」をカバー。2017年にはMUCC、D'ERLANGERのトリビュートアルバムに参加している。2018年に入ってからは主催ツアー「DEZERT Presents 【This Is The "FACT"】 TOUR 2018」を実施し、アルルカン、NOCTURNAL BLOODLUSTらと各地で対バンを繰り広げた。2018年8月にMAVERICK D.C. GROUPの新レーベル・MAVERICKより2年半ぶりのアルバム「TODAY」をリリース。同月よりライブツアー「DEZERT LIVE TOUR 2018『What is "Today"?』」を行う。