電波少女が9月27日、メジャーデビューアルバム「HEALTH」をリリースした。配信シングル「ME」「FOOTPRINTZ」「NO NAME.」に加え、新曲「未来は誰かの手の中」「クビナワ feat. ぼくのりりっくのぼうよみ&ササノマリイ」などを含む本作は、カラフルな音楽性とポップ感を備えたトラック、そして葛藤、妬み、不安などリアルな心象風景を映し出すリリックが1つになった、電波少女の真骨頂とも言える作品に仕上がっている。
音楽ナタリーでは、アルバム「HEALTH」のリリースを記念して、電波少女のハシシとぼくのりりっくぼうよみの対談を実施。ぼくりりがネットラップシーンで活動をスタートさせた2012年頃から交流があったという両者に、お互いの活動に対する思い、「クビナワ」の制作などについて語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 小原啓樹
ぼくりり、電波少女のファンを公言
──ぼくのりりっくのぼうよみさんは、以前から電波少女のファンであることを公言してますね。
ぼくのりりっくのぼうよみ そうですね。
ハシシ ホントに好きなの?
ぼくりり 好きです、実は(笑)。
ハシシ ありがと(笑)。
──ぼくりりさんが電波少女を知ったきっかけは?
ぼくりり 中学3年か高校1年くらいのときにニコニコ動画に曲を投稿し始めたんですけど、最初はニコラップがどんなシーンなのか全然わかってなくて。どういう人がいるんだろう?といろいろ聴いてるうちに「そうか、今は電波少女の時代なのか」と思って。(電波少女の1stアルバム(「BIOS」)の収録曲がニコ動に上がり始めた頃なんですけど、「蝸牛」とかめっちゃ好きだったんですよ。あの時期、ダントツでしたよね?
ハシシ (笑)。何組か目立ってる人たちがいて、その中の1つという感じだったけどね。狭いシーンの話だし。ぼくりりがキャリアをスタートさせた当初から、自分も曲は聴いていて。遊びみたいな感じでレーベル(ハシシが主宰していたレーベル「idler records」)を立ち上げた時期だったから、声をかけたんです。で、シングル(2015年発売の「Parrot's paranoia」)を出して。ジャケットのイラスト、俺が描いたんですよ。
ぼくりり そうそう! 鳥のジャケットですよね。「ジャケットのことはよくわからないんで」って、ハシシさんにお任せしちゃったので。
ぼくりりの才能を見抜いていたハシシ
──ハシシさんが自身のレーベルからぼくりりさんの作品をリリースしようと思ったのはどうしてなんですか?
ハシシ そうですね……その頃は僕らも含めてみんなアマチュアだったし、リリックの内容や楽曲の構成力はまだまだ足りなかったんですけど、ぼくりりにはすごい伸びしろを感じたんですよね。“ラップの筋肉”という言い方をしてるんですけど、韻をうまく踏めるとか、早口言葉がすごいというだけではなくて、ラップを聴き込んでいる人にしかわからない“ラップネイティブ感”があったので。ちょっとした発音のよさとか、すごく細かいことなんですけどね。「こいつは絶対にラップを聴き込んでる」と思ったんだけど、話してみると「全然知らないし、見よう見まねで最近始めました」とか言ってて。すげえなって思いましたね。
ぼくりり そうなんですか?
ハシシ うん(笑)。
ぼくりり でも、ラップの筋肉というのはわかりますね、やってる側の人間として。ある程度筋肉が付いていて、その動かし方がわかっていれば、どんなスポーツも最初からそこそここなせたりするじゃないですか。それと近いことかなって。
──実際、ニコラップに出会うまではまったくヒップホップを聴いてなかったんですか?
ぼくりり はい。その前はニコニコ動画のVocaloid曲とか“歌ってみた”のカテゴリーにいたので。と言っても、好きで聴いてたり、ちょこっとアップしてただけで、特に有名だったわけではないんですけど。そのときにニコラップの動画を見つけて衝撃を受けて、「自分でやってみよう」と思って。それ以外のラップはほとんど聴いてなかったですね。テレビで触れることができるアーティスト……例えばRIP SLYMEの曲を少し知ってるくらい。
──その当時からハシシさんは、ぼくりりさんの才能を見抜いていたと。
ハシシ 先見の明ですね(笑)。まさかここまでブレイクするとは思ってなかったけど。
ぼくりり 当時はそこまで活動もやってなかったんです。そもそも「音楽は趣味でやろうかな」くらいの感じだったし、ハシシさんと出会った頃はイベントとかにも出ていたんですけど、そのあと、ちょっと音楽に飽きていた時期があって。1年くらい何もやってなくて、大学受験もあったし、フェードアウトするっぽい雰囲気を出してたんですよ。
ハシシ でも、最初のCDを出した直後から、音楽業界の大人たちがすげえ食い付いてきたんですよね。いろんなレーベルや事務所から俺に連絡がきて、話を聞いて、それをぼくりりに伝えて「どう?」みたいな。ただ、ぼくりりは全然やる気がなくて。俺がぼくりりに「お前若いんだから、とりあえずやってみればいいじゃん! めったにないよ、こんなチャンス」みたいなこと言ってましたからね。「人生経験だと思ってやってみたら? ホントに飽きたらやめればいいし」とか。
ぼくりり そうでした(笑)。
ハシシ 別に説得しようと思っていたわけではないし、アドバイスできる立場でもなかったんですけど、ぼくりりも「どうしようかな?」という感じだったから。俺もぼくりりに対して「こいつの音楽は面白いな」と思って声をかけたわけじゃないですか。だから、できるだけフェアな立場で音楽業界のことを説明しようと思って。「俺、別に変なこと考えてないから。お前をだましても何の得もないし」って言いながら(笑)。
ぼくりり それもめっちゃ覚えてます。周りに音楽業界に詳しい人もいなかったし、「とりあえずやってみたら?」と言ってくれる人もハシシさんだけだったんですよ。ほかの人……家族とかなんですけど「デビューとか、大丈夫? 受験勉強したら?」という雰囲気だったから。でもハシシさんと話しているうちに「デビューできる人のほうが少ないんだから、この機会にやらせてもらおうかな」と思うようになって。
ハシシ 俺は「受験勉強もやれよ」とも言ってましたけどね(笑)。何かあったらこっちの責任になっちゃうから。
ぼくりり いえいえ(笑)。僕の根底には「ハシシさんはめちゃくちゃいい人」というのがあって。優しさって人間にデフォルトで備わっている能力だと思うんですけど、それがアビリティとして挙げられるくらい卓越している人がたまにいて、ハシシさんはその1人なんですよ。だって、普通そこまで親身になって話したりしないじゃないですか。当時も「どうしてここまでしてくれるんだろう?」って思ってました。
ハシシ 責任感もあったかも。自分には資金があるわけでもないし、特に力になってあげられるわけでもなくて、「電波少女のお客さんがぼくりりの曲を聴くようになればいいな」くらいだったから。
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“ネットラップっぽい”作り方をした「クビナワ」
- 電波少女「HEALTH」
- 2017年9月27日発売 / アリオラジャパン
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3800円 / BVCL-823~4 -
通常盤 [CD]
2800円 / BVCL-825
- CD収録曲
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- INTRO
- ME
- FOOTPRINTZ
- 21世紀難民 feat. れをる(from REOL)
- 先天性ハートブレイク
- 花火 feat. NIHA-C
- MONEYCLIP feat. Jinmenusagi
- SKIT1
- 未来は誰かの手の中
- クビナワ feat. ぼくのりりっくのぼうよみ&ササノマリイ
- SKIT2
- NO NAME.
- A BONE feat. Jinmenusagi & NIHA-C
- OUTRO
- 初回限定盤DVD収録内容
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電波少女 ワンマンライブ“EST.”at Shibuya WWW X(2017.06.18)
- INTRO
- FOOTPRINTZ
- オルタネートエラー feat. トップハムハット狂
- Mis(ter)Understand
- Earphone feat. Jinmenusagi
- RY feat. Jinmenusagi
- オーバードーズ feat. NIHA-C
- MO feat. NIHA-C
- ME
- 笑えるように
- COMPLEX feat. Jinmenusagi, NIHA-C
MV&Short Movie
- ME MV
- FOOTPRINTZ MV
- NO NAME. -Short Movie-「デイドリーマーA」
- ぼくのりりっくのぼうよみ
「Fruits Decaying」 - 2017年11月22日発売 / CONNECTONE
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初回限定盤A
[CD2枚組]
3024円 / VIZL-1282 -
初回限定盤B
[CD2枚組+DVD]
4320円 / VIZL-1283 -
通常盤
[CD]
2700円 / VICL-64899
- CD収録曲
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- 罠 featuring SOIL & "PIMP" SESSIONS
- 朝焼けと熱帯魚
- Butterfly came to an end
- For the Babel
- SKY’s the limit
- playin'
- つきとさなぎ
- たのしいせいかつ featuring SOIL & "PIMP" SESSIONS
- 初回限定盤A、B付属CD
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- 久しぶりに歌ってみたCD(2tracks)
- 初回限定盤B DVD収録内容
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- ぼくりり Live DVD 2017.05.21 @新木場STUDIO COAST(5tracks)
- 電波少女(デンパガール)
- 2009年に複数のMCおよびトラックメーカーで結成されたユニット。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在はラップ担当のハシシとDJ&パフォーマンス担当のnicecreamという2人で活動している。2013年7月に1stアルバム「BIOS」を、2015年7月に全曲フィーチャリングゲストを迎えた2ndアルバム「WHO」を発表した。12月にリリースしたiTunes Store限定シングル「COMPLEX REMIX feat. Jinmenusagi, NIHA-C」がiTunes Storeのヒップホップ / ラップのシングルチャートで1位を獲得する。2016年5月に7曲入りCD「パラノイア」をリリースし、11月よりヒッチハイク企画「“電波少女的ヒッチハイクの旅”47都道府県ストリートライブTOUR」を実施。2017年1月にヒッチハイクの旅を完遂し、夏にメジャーデビューを果たすことが決定した。メジャーデビューに先駆け6月より3カ月連続で配信シングルをリリース。9月にメジャーデビューアルバム「HEALTH」をアリオラジャパンからリリースした。
- ぼくのりりっくのぼうよみ
- 神奈川県横浜市在住の男性アーティスト。活動初期は「ぼくのりりっくのぼうよみ」「紫外線」名義で動画サイトにオリジナル曲や“歌ってみた”を投稿。トラックメーカーが作った音源にリリックとメロディを乗せていくスタイルをベースとする。高校2年生だった2014年、コンテスト「閃光ライオット2014」に応募し、ファイナリストに選ばれ一躍脚光を浴びる。同年7月には電波少女のハシシが主催するidler records から4曲入り音源「Parrot' s Paranoia」を発表。2015年12月にアルバム「hollow world」でビクターエンタテインメント内のレーベル・CONNECTONEより17歳でメジャーデビューした。2016年7月には4曲入りCD「ディストピア」を発表。紹介限定盤に収録曲をモチーフに書き下ろした短編小説と次作アルバムの構想を記したアイデアノートが封入され話題を集める。2017年1月にはアルバム「Noah's Ark」を発売。発売前にはオウンドメディア「Noah's Ark」を立ち上げた。11月にニューアルバム「Fruits Decaying」をリリースする。