何を伝えたいのか知るために歌詞カードを見るって、すごく古い楽しみ方だと思う
──新曲の「電気グルーヴ30周年の唄」や「電気グルーヴ10周年の歌 2019」は、本当に歌詞が素晴らしいなと思いました。
石野 でしょ? そうなんですよ。今、日本語の歌詞と一番戦ってるのはウチらですよ。
──冗談じゃなく本当にそうだなと思います。
石野 ほかの人の歌詞って、文章として書いても通じるじゃないですか。ウチらの曲って文字で読んでも意味がなくて、聴かなきゃわからないんですよ。そして、聴いたうえで文章として読むと別の発見ができる。
瀧 聞き間違いも込みで歌詞、ってとこがあるからね。
石野 あとは「日本語がわからない人が聴いても楽しめる日本語詞」というのは意識してます。ウチらは若い頃、ジャーマンニューウェイブを聴いてたときに、それまであんまり耳にすることがなかったドイツ語の歌を、楽器の1つと捉えて響きを楽しんでたところがあって。そういう歌を母国語で作れたら最高に面白いじゃないですか。
──実際、日本語がわからない人からも受け入れられてる実感はありますか?
石野 ドイツ人の友達が、語感が近いでたらめな日本語で歌ってることがあって、そういうのって一番うれしいですね。
瀧 確かにね。
──とは言え、ただ音感だけを重視した歌詞というわけではなくて、言葉にいちいちインパクトがありますよね。いったいどうすればこんなフレーズが書けるのか不思議です。
石野 普段こうやって話してる言葉に対して自覚的になることですね。例えば、相手が話してる言葉が偶然ダジャレになってても、みんな流すでしょ? 俺は流さないんですよ。全部拾うの。そうやって言葉に接していくと、何気なく使ってる言葉が、見方を変えることによって全然違う意味に感じられてくる。そういうのが好きなんですよ。日常的に着てる服を、裏返して着てみたら別の側面が見えてくる、みたいな。
瀧 言葉には“伝えたい言葉”だけじゃなくて“発声したい言葉”っていうのがあるんですよ。意味はないけど言い放ちたい言葉。
石野 ある!
瀧 そういうのが実は大事で。ウチらはそういう、口に出したときの単語のリズム感を文脈より大事にしてるんです。
石野 「単願入学」とかな(笑)。外国人にも、意味はわからなくても言葉の響きの面白さはわかるんですよ。
瀧 「リズムのパターンが気持ちいい」とか「発音の混ざりっぷりが面白い」とかね。
石野 そしてそれに加えて、普通の人が歌詞に使わない単語を使いたいんです。「マニア向けビデオ」とか「サニタリーショーツ」とか。
──絶対使わないですね(笑)。
石野 サニタリーショーツっていっても「生理用品に準ずるもの」っていう意味を相手に伝えたいわけではないし、別に不快感を与えたいわけでもないんだけど、誰も歌詞に使ってない言葉を歌詞に取り込むっていうことはしたいんですよね。
──なるほど。
石野 「この歌は何を伝えたいんだろう」と思って歌詞カードを見るってすごく古い楽しみ方だと思うんです。歌詞カード見ただけで意味がわかるんだったら曲にする必要ないし、最初からそれを読めばいいだけの話じゃないですか。ウチらがやってるのは音楽なので、聴いて意味がある歌詞じゃないと。
──年齢を重ねて、書く歌詞が変わってきた感覚はありますか?
石野 今回の曲が「今だから歌える歌詞」というのはあります。たぶんサニタリーショーツって言葉は若い頃じゃ出てこなかったと思うし。きっとサニタリーショーツっていうものの存在に目がいかなかったと思うんですよ。
──それはなぜ?
石野 歌う必要がないから(笑)。でも今は、一番歌う必要ないことを歌いたいんですよね。だから「うんこがどうしたこうした」みたいな歌詞ではダメで。そういうんじゃなくて「え? 今こう歌ってるように聞こえたんだけど……まさかそんなこと歌わないよね……?」ってなるくらい、本当に誰が見ても歌う必要がないことを歌いたい。
言っとくけど俺はお前らが言うところのキチガイなんだから、それを忘れんなよ
──昔と比べてもずっと、言葉に対する感覚が研ぎ澄まされているのはよくわかります。歌詞だけでなく、卓球さんのTwiitterを見ても。
タンブラー正和、未消化すみこ、レオナルド被曝量 なども https://t.co/mvyit12Q1K
— Takkyu Ishino/石野卓球 (@TakkyuIshino) 2018年12月19日
未消化~すみこだよ!
— Takkyu Ishino/石野卓球 (@TakkyuIshino) 2018年4月21日
石野 Twitterも電気の歌詞と同じですよ。あれも声に出して読んでみないとわからないことを書いてると思うから。例えば「横尾タンドリー」とか「漏らす・ルイ」とか「未消化すみこ」って、文字面を見るのと口に出したときとで入り方が違うでしょ?目で見ただけでは意外と気付かないんですよ。声に出して初めてわかる言葉に向き合ってるって意味では、Twitterは作詞のブルペンみたいなものです。
──卓球さんのTwitterってフォロワーが28万人いますけど、そのわりにはフォロワーからのコメントが少ないですよね。
石野 させないようにしてるんですよ。どうせ意味わからないでしょ? みんな。
──と言うか、みんなついて来れてないのかなって。
石野 ついて来る必要ないですもん。ついて来られるの嫌だから、別にコメントとかしなくていいし。「なんなんだお前」ってコメントあるじゃないですか。こっちが歌詞の一節を書いたらその続きを書いてくるバカとか。そういうのにいちいち「知ってますけど何か?」「それ面白えのか?」って返事してるから、それ言われるのが怖くてコメントしなくなったんでしょ。こっちはコミュニケーションを求めてやってないからそれでいいんです(笑)。
──卓球さんはTwitterで近付いてくる人たちに厳しいですよね。
石野 だってわかってない人が多いんだもん。お前のネタなんか募集してねえしっていうさ。
瀧 全然関係ない話をし始める奴とかな。「お前よくその武器で今この戦場に上がってきたな」っていうバカはけっこういるよね。
石野 ぬるいやつが多すぎるよ。言葉についてたいして深く考えてもいねえくせに。言っとくけど俺はお前らが言うところのキチガイなんだから、それを忘れんなよっていう。
瀧 特殊ショップに来てコンビニのルール持ち出してんじゃねえよってな(笑)。
石野 そうそう、アダルトショップに「くーだちゃーいな!」って言いながら入ってくるのと一緒。「おい!今そこで踵を返して出て行こうとしたやつちょっと来い!お前ここがどういう店だかわかってるよな!?」って気分ですよ(笑)。
瀧 例えばさ、シンセベースがこういうフレーズだと「おっ」と思うとか、シーケンスのパターンがこういう感じだと好きとか、ギターソロがジャーンって鳴るとグッと来るとか……。
石野 ジャーンはソロじゃないと思うけどね(笑)。
瀧 そういうのが人によっていろいろあるわけじゃん? それと同じことが言葉にもあって、電気の歌詞みたいなフレーズに引っかかる人もいれば引っかからない人もいる。それをふるいにかけてるのがお前のTwitterってことなんじゃないの?
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絶対みんな、ふざけるほうが楽だと思ってるんですよ