電気グルーヴ|真剣にふざけ続けて30年

アレンジを変えて歌い直しただけじゃ作る意味がない

──では、「大事な曲」と言われて思い浮かぶものは何かありますか?

 「FLASHBACK DISCO」。

石野 ああ、そうそうそう。あれに今の電気グルーヴの要素が全部入ってるもんね。

──2人編成になって初めてのシングルですね。

石野 そうですね。たぶん、まりんがいたままだったら、もっと間口を広げて「方向性なんでもあり」って感じにしてたと思うんだけど、あの曲によってまりん脱退後の方向性がバッと定まった感じがするんだよね。そういう意味ではすごい大事。あれがなかったら「Baby's on Fire」とかも作ってないだろうし。

石野卓球

 最近の形にはもしかしたらなってないかもしれない。

石野 そうだね。あれがなかったら電気グルーヴは続いてないかもしれない。なぜなら仲悪いから。今日もこのスタジオに入ってから2時間ぐらい口をきいてないですもん。ねえ? 瀧。

 なあ!

──すごく仲がよさそうですね(笑)。その「FLASHBACK DISCO」は今回のアルバムには「Flashback Disco(is Back!)」として収録されています。

石野 この曲はオリジナルバージョンの段階でもういじるところはないなと思ってたんです。でも「クラーケン鷹」でもセットリストに入れてないし、去年出した「DENKI GROOVE DECADE 2008~2017」っていうアルバムにも入れなかったし、今回入れないとどこにも入るところがないので。

 今入れないとすげえ意味ありげになっちゃうっていうね(笑)。

石野 そうそう。なんで今回、実はそんなに変えてないんですよ。構成を変えたり、歌を録り直したり、ギターを重ねたりとかはしたけど、基本的な部分はまったく変わってなくて。でも聴くと印象は変わってるんだよね。

 「土台と骨組みだけ残してリフォームしました」みたいな。

石野 と言うよりも「形も一緒だけど素材を変えた」みたいな感じですかね。例えば「富士山」はいくらでも別バージョンを作ることができるんだけど、「Shangri-La」とか「FLASHBACK DISCO」の場合、お客さんもオリジナルに思い入れがあるし、ウチらも「こういうものだ」ってイメージが固まってるところがあるから、なかなかいじりづらいんですよ。いじらなくていいところをいじって違うバージョンにするのは、別にやろうと思えばできるんですけど、なんでそれを今までしなかったかって言うと、元の音源が完成形に近いものだったから。いじって元よりよくなるイメージが湧かなくて。

──なるほど。

石野 「Shangri-La」に関しては、前までそんなにライブでやってなかったから、古臭くてもあんまり気になってなかったんですよね。だから最近ライブでやるようになって「あ、これは作り直したほうがいいな」って気付いて。あとはインガ・フンペ(2raumwohnung)さんに歌ってもらえることになったのがデカかったです。「もしOKもらってなかったら作ってたかな?」って感じ。

──インガ・フンペさんのボーカルであることが重要だったんですね。

石野 ってか、そうしないと変えようがないんですよ。ただアレンジを変えて歌い直しただけじゃ作る意味がないので。まあ「Shangri-La」は歌い直してもいないんですけど。

──オリジナルバージョンのボーカルトラックをそのまま使ってるんですか?

石野 うん。あれよりうまく歌いたくないし、「Shangri-La」は加齢がプラスに作用する曲じゃないので。みんなの思い入れがあまりにも強いから、歌い直してもきっと「老けたなー」ってとこしか目立たないと思う。これが「N.O.」だったら今の自分が歌う面白さみたいなものが出るけど、「Shangri-La」は年齢が関係ない曲だから。

──別に今も卓球さんの歌に加齢は感じませんけどね。

石野 いやいや、今こんなにうまく歌えないですよ。聴いたら絶対感じますって。歳取ってキーが下がってるのも自分でわかるし。カラオケで俺よりうまく歌える人いっぱいいますもん(笑)。瀧の声は新しく録って重ねたんですけど、それは原曲には低いパートがなかったからで。瀧は当時よりも低い声がちゃんと出るようになったんで、それは加齢がプラスに作用してます。

なんにも知らない人は“変なの”呼ばわりするんですよ

──いわゆるリミックスのように大胆に改変されているわけではないものの、どの曲も完全に今の電気グルーヴの音にアップデートされていて、とても聴き応えがあるアルバムでした。

石野 でしょ? でもこれ買って「うわ! 聴いてたのと違う!」って怒るバカがいるんだよな(笑)。

 「これハズレだー」って(笑)。

ウルトラの瀧

石野 なんの曲だか忘れたけど、うちの母親が友達と一緒にヒット曲のCDを買ったんだって。「すごくいい曲だね」っつって。それを車の中で聴いたらウクレレでカバーしたやつで、母親が「なにこれ? 変なのだよ! 変なのだよ!」ってすごい言ってたの(笑)。それ聞いてて「ああ、こういうおばさんにとっては、これは“変なの”なんだ」って思った。ウクレレのバージョンは意図して作られたものじゃん? でもうちの母親みたいになんにも知らない人は“変なの”呼ばわりするんですよ。バージョンが違うっていうのをプラスに取れない人にとっては、ウチらの今回のアルバムも“変なの”でしかないんで(笑)、そのへんは難しいんですよね。

──でも電気グルーヴのファンは、そのへんのリテラシーはある気がしますが(笑)。

石野 もともとウチらが“変なの”だからね。変なのを期待して買った人が「電気なのに変じゃない!」って怒ることのほうがあるかもしれない(笑)。