電気グルーヴ|真剣にふざけ続けて30年

電気グルーヴが結成30周年記念アルバム「30」を1月23日にリリースした。このアルバムには「Shangri-La」「富士山」「FLASHBACK DISCO」といった過去曲のリメイクバージョンを中心に、町あかり、ザ・クレイジーSKB(猛毒)、日出郎らがゲスト参加したアニバーサリーソング「電気グルーヴ30周年の唄」などの新曲も収録。現代的なサウンドに更新された過去曲は今もなお色褪せない魅力を放ち、新曲からは彼らの言語感覚がますます冴え渡っていることが伺える。このアルバムは電気グルーヴのこれまでの30年間を振り返りながら、今の彼らのモードを感じ取ることができる1枚だ。

音楽ナタリーでは石野卓球とウルトラの瀧に、今作についてのインタビューを実施。彼らの曲や歌詞が常に唯一無二であり続ける理由に迫った。また最終ページでは、アルバム「30」に参加したゲスト陣から寄せられた電気グルーヴ結成30周年の祝福コメントも掲載する。

※ピエール瀧は、2019年の電気グルーヴの活動においては“ウルトラの瀧”として活動中。

取材 / 大山卓也・橋本尚平 文 / 橋本尚平 撮影 / 吉場正和

来年は31周年もやりたいです

──今回のアルバムは企画モノでありながら、今の電気グルーヴの実力をすごく感じさせるアルバムだなと思いました。「力まずに軽く振ってホームラン」と言うか。

石野卓球 このアルバムは作曲に30年間かけたようなものだから、そりゃいいに決まってますよね(笑)。まあ新曲も少しありますけど、メインはこれまでの曲のアレンジだから、作曲っていう作業はほとんどなかったんで。

──意外とアニバーサリーの企画はきっちりやってますよね。電気グルーヴって。

電気グルーヴ

石野 20周年で「20」、25周年で「25」を出したのに、30周年で何も出さなかったらお客さんが変に思うじゃないですか。ウチらは不仲説が根強く流れてるので(笑)、それを払拭するためにも出さなきゃいけなかった。だからもう次のアルバムがほぼできてるのに、先にこっちを出したんですよ。

ウルトラの瀧 「20」も「25」もそうだったけど、アニバーサリーのときって、いつもできないアプローチのことをやる言い訳になるというか、自分らの好きなようにやれるいい機会なんですよね。無礼講が使えるじゃないですか。

石野 あ、もしかして「30周年なんて本当はやりたくないけど仕方なくやってる」って思ってらっしゃいません? 違いますよ。ウチらはやりたいんですよ。来年は31周年もやりたいですもん。

──ははは(笑)。では、そのアニバーサリー企画として、昔の曲を作り直すことにしたのはどうしてですか?

 昔の曲って、最近のライブだとアレンジとか構成が変わってたり、歌詞が足してあったりするのもあるんだけど、“清書”みたいな音源は今まで作ってこなかったので。

石野 ウチらは一旦レコーディングした曲が、ライブでやってるうちにだんだん変化していくので、最初にリリースしたものが必ずしも完成形じゃないんですよね。まあリメイクとかリミックスは今まで、ほかのグループ以上にやってるとは思うんですけど。

 オリジナルの時点で完成形の曲もあったりするけど、ライブとかでやってるうちに「この形じゃ今はもうハマらないな」って感じて変えていくことが多くて。その新しいアレンジを音源としてお客さんが手に入れる機会はなかったし、ウチらも今一番いいものを完パケさせたいと思ってたし、それをできるのがアニバーサリーだから、やらない理由はないですよね。

「Shangri-La」はSoft Cellの「Tainted Love」と一緒ですよ

──2018年のワンマンライブ「クラーケン鷹」の音源はライブアルバムとしてリリースされましたが、ライブ盤も同じように「今の完成形を聴いてもらいたい」みたいな気持ちで作ったんですか?

石野 そうです。「30」に入ってる「Shangri-La」「富士山」は「クラーケン鷹」のライブアルバムには入れてなかったので、いい機会だと思って今回収録することにしたんです。

──「クラーケン鷹」で披露した「March」もそうですが、ここ数年の電気グルーヴは昔の曲を積極的にやっていますよね。個人的にはそれが意外でした。

石野卓球

石野 ウチらは昔から一貫してずっとふざけてるんで、昔作って今やれない曲ってあんまりないんですよ。でも、昔と今ではふざけ方の方向性が違ったりするので、説明的すぎたり偽悪的だったりするのは今の感じじゃないから、「昔はこういうふうに作ったけど、本当はここはいらないとこだよね」みたいに手直しをするんです。あと、ウチらには「本心でないものは歌えない」っていうポリシーがあるので、歌いながら照れちゃうような歌詞は恥ずかしくならないようにアップデートしてるし。そうやって今でも添削ができるのは、ウチらのいいところだと思いますけどね。

ウルトラの瀧

 「今は年齢的にちょっと歌いにくい」っていう曲もあるからね。

石野 50歳で金婚式の歌とかやっぱ歌いづらいじゃないですか(笑)。

 あと3人組だった時代に、ほかのメンバーがいたから成立した曲っていうのもあったし。もうこの2人になってからのほうが長いのに、当時のモードのままの曲を今歌うのはちょっと違いますよね。

石野 「Shangri-La」も「富士山」も、レコーディングはまりん(砂原良徳)がメインになってやってたんで、その印象が強くって今まであんまり変えてなかったんです。それに、自分らの中で「ヒットした曲にあんまり頼りたくない。そればっかりの人になりたくない」っていう気持ちから避けてきた部分もあったんですよ。それもあって今までタッチしてこなかったんだけど、今回はアレンジについての明確なアイデアもあったのでやってみようという。

──アーティストによっては「昔の曲は青臭くて歌えない」みたいな人もいると思いますが、電気グルーヴの場合はそれがないかもしれませんね。

石野 うん。例えば「N.O.」とかは青臭い歌詞なんですけど、そこで歌われてるのは若いからこそ持っていた青臭さじゃなくて、歳を取っても持ってる未熟な部分でもあったりするから。自分の成長に合ってないことはするべきじゃないんです。昔買って、成長して着れなくなった服を、無理やり着てパツパツになってるのとか恥ずかしいじゃないですか。今回のアルバムでやってることは、袖が合わなくなってきた昔の服をちょっと直す、みたいな作業なんですよ。

──今「Shangri-La」のヒットの話が出ましたが、もしあんなにヒットしなかったとしても、これはお二人にとって大事な曲であり続けたと思います?

石野 また違う立ち位置になってたと思いますよ。だって自分たちの曲じゃないから。もちろん半分は自分の曲だけど、半分はシルヴェッティの曲ですもん。Soft Cellの「Tainted Love」と一緒ですよ。あれはカバーじゃないですか。T. Rexのマーク・ボランの愛人(グロリア・ジョーンズ)の。でもSoft Cellの曲としてヒットして、今は誰もがSoft Cellの曲だと思ってる。それと近いと思いますよ。

 うん、そうだね。

石野 もちろん大事な曲ではあるんだけど、どこかで「やっぱ人のもんだな」って感覚があるんですよ。だからそれを代表曲って言っちゃうのは、なんか引っかかるんですよね。100%自分たちの力で作った曲がいっぱいあるのに、結局人の力を50%借りなければ代表曲は作れないの?ってなっちゃうのはちょっと癪と言うか。

 ただまあ、あの曲があったのとないのとじゃ、今の状況とは全然違ってたでしょうからね。

石野 うん。「Shangri-La」によってその後の電気の活動をやりやすくなったのは間違いないし。