ナタリー PowerPush - 電気グルーヴ

卓球と瀧が歌う理由

中心に何もない歌詞

──「電気グルーヴでインストをやる必然性がない」とのことですが、とはいえ今までの歴史の中ではインスト中心のアルバムを作ったり、ライブをインスト主体でやっていた時期もありましたよね。当時とは何が違うんでしょうか。

卓球 そういう曲をやりたい気持ちは個人の活動である程度満たされてるから。毎週DJもやってるし。

ピエール瀧

 そもそも当時インストをメインにしてたのは、電気グルーヴのキャラクターの部分ばっかりにフォーカスが当たっちゃって、なかなかサウンド面に注目してもらえないっていう歯がゆさもあったと思うんですよね。まあ「お前が言うな」って感じかもしれないけど(笑)。だから自分たちの音楽面をアピールするには、インストっていいカードだったと思うんです。でも、もう今はそういうことを考える必要もなくなったので。

──電気グルーヴのキャラクターを決定付けた初期の歌詞と、今作っている曲の歌詞では考え方に違いはありますか?

卓球 うん。昔は物語性があって、具体的な情景描写とともにストーリーが作られるような歌詞だったけど、そういうのはもう完全になくなったね。そういう歌詞はイメージが限定されちゃうから、もうあんまり興味がない。「わけがわからない脈絡のない歌詞に見えるかもしれないけど、ちょっと踏み込んで考えるとそこにストーリー性を感じる」みたいな聴かれ方のほうが面白いし、それだと同じ人が聴いても時期によってぜんぜん印象が違ってくると思うので。

──ということは、今の歌詞にも何か意味が込められてるんですね。

卓球 いや、意味があると言えばあるし、ないと言えばない。これをテーマにしようっていう話し合いがあるわけじゃないし。今回は最初に何も考えずに入れた仮歌を生かして、なるべく近い発音の言葉を当てはめて空耳的に作っていったんです。

 「歌詞に込める」っていうのは、まず確固たる思いやテーマが中心にあって、それをいろんな言い回しで翻訳して散りばめるやり方のことですよね。じゃなくて今回は、中心に何もなく、気持ちいい単語をただ積んでいって、でも曲を全体像で見たときにぼんやり何かの形に見えるという作り方。そのほうが実は本質を突くんじゃないかっていう。

卓球 自分たちもわかってない無意識の部分が透けて見えてくる場合があるので、そこを生かそうと。

ゴミの山とオブジェは違う

──歌詞制作がそのスタイルになったのは何かきっかけがあるんですか?

卓球 明確に何かあったからってわけじゃなくて、長い間歌詞を書いてきて「これはやめよう」って消去法を続けているうちにこの形になってきたという。

──単に「韻を踏むために言葉を音として扱う」というのともまた違うわけですね。

卓球 もしそのつもりなら、もっと支離滅裂な、自分で作った単語とかでもよくなっちゃうから(笑)。実際、それをやりかけてた時期もあったんだよね。でもそれを始めちゃうと、聴く人がもう意味を考えることを放棄しちゃって、自分たちの中から生まれた無意識のイメージすら関係なくなっちゃうから。

 ゴミ捨て場と一緒になっちゃう(笑)。ゴミの山とオブジェは違うんですよ。そこの差は明確にあって。「じゃあそれはなんなんですか?」って言われても、なかなか説明はしにくいけどね。

──電気グルーヴの歌詞には「N.O.」しかり「虹」しかりナイーブな部分があって、そういうところを愛してるファンは今もかなりいると思うんですけど。

卓球 そうですね。でもあれは作ろうとして作れたわけじゃないから。

 本当にそう思う。

卓球 意図的にやろうとするとそれはもう偽物だから、そんなことは恥ずかしくてできないですよ。昔からそういうのは嫌いなパターンというか、「嘘じゃんそれ」っていう。もし実際にそういう気持ちになってるんだったら書くかもしれないけどさ。中年の悲哀とかね(笑)。「そういう方向でいこう」って考えることは絶対ないですね。

──今後そういう曲がアルバムの中に入る可能性はありますか?

卓球 もちろんもちろん。別に今回もないとも思わないんだけど。形が変わってきてるだけで。「N.O.」とかは具体的にわかりやすく出た曲だっていう話で、今の曲にそれがまったくないとも思わないけどね。

 これが実はナイーブなんだって、45歳のおっさんになったらわかるかもしれないですよ(笑)。

歌手だと思ったことは一度もない

──今こういう作風なのに、最近は過去の曲もライブでガンガン歌ってますよね。そういう曲をライブで歌うのはどういう気持ちなんですか?

卓球 曲によってはやっぱり歌ってて恥ずかしい部分もあるけど、それはもうファンサービスですから。ドーランの下に涙ですよ(笑)。

 みんな喜ぶんならやるよね。

卓球 でも「N.O.」とかに関しては、ぜんぜん恥ずかしくないしむしろ気持ちがいいくらいで。単純にあのキーで歌うのが気持ちいいんですよ。

 あと、歌い出しの部分が気持ちいいからそこだけ歌いたいとか、ひと言言いたいだけとか、そういう曲もあるんですよ(笑)。それはフルコーラスやんないでサビだけ歌ったりとか。

卓球 ポップミュージックの体をなすために3コーラス目まで作ったけど、本当は3番いらないよねっていう曲はかなりあるんですよ。自分で作った曲なのに3番の歌詞で苦しめられることがよくあって、「じゃあ最初から作んなくていいじゃん」って話なんだけど(笑)。

──歌い手として、どういう意識で歌に臨んでいるんでしょうか。

卓球 自分が歌手だと思ったことは一度もないんで、シンガーとしてどうこうっていう意識はまったくないですね。それは瀧も同じだと思うんだけど。

 シンガーよりもボイスっていう感じかな、どっちかっていうと。

卓球 俺は曲を作るときキーボード弾くけど、別にキーボーディストではないじゃないですか。それと同じですよ。

──でもけっこう歌ってますよね。

卓球 うん。でもけっこうキーボードも弾いてますよ(笑)。同じことです。

 むしろキーボード弾いてる量のほうが多いですよ。

卓球 時間的なことで言ったらコンピュータプログラマーのほうが多いな(笑)。

──それは一貫して昔から同じ考えですか。

卓球 うん、だってプロの歌手ってもっとそこに対して努力もしてるし、その自覚もあると思う。けど自分にはそこまでのテクニックもないし、おこがましいって感じかな。

 「卓球さんけっこう歌うまいんで、そのへんはどうなんですか?」ってことが聞きたいんだと思うんだけど、歌ってる内容を伝えようだとかよりは、うちらにとってはシャウト一発でお客さんをガッと捕まえる瞬間のほうが大事というか。意味がわかんなくてもぜんぜんいいし、だから「歌」っていうよりも「声」っていうほうがしっくりくる。

卓球 もちろんイヤイヤ歌ってるわけではないですよ。ただ、それがメインの仕事だと思ったことは一度もないですね。

ニューアルバム「人間と動物」 / 2013年2月27日発売 / Ki/oon Music
「人間と動物」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3990円 / KSCL-2200/1
通常盤 [CD] / 3059円 / KSCL-2202
アナログ盤 [アナログ2枚組] / 3990円 / KSJL-6165/6
CD収録曲
  1. The Big Shirts
  2. Missing Beatz(Album version)
  3. Shameful(Album version)
  4. P
  5. Slow Motion
  6. Prof.
  7. Upside Down(Album version)
  8. Oyster(私は牡蠣になりたい)
  9. 電気グルーヴのSteppin' Stone
初回限定盤DVD収録内容

電気グルーヴ LIVE at WIRE12 2012/08/25

  • Hello! Mr. Monkey Magic Orchestra
  • SHAME
  • SHAMEFUL
  • Shangri-La
  • キラーポマト
  • 誰だ!
  • wire, wireless
電気グルーヴ (でんきぐるーぶ)

電気グルーヴ

前身バンド・人生での活動を経て、石野卓球とピエール瀧を中心に1989年結成。テクノ、エレクトロを独特の感性で構成したトラックと、破天荒なパフォーマンスで話題になる。1991年にアルバム「FLASH PAPA」でメジャーデビューを果たし、同年に砂原良徳が加入(1998年に脱退)。1990年代の音楽リスナーに本格的なテクノを啓蒙する役割を担いつつ、1994年の「N.O.」や1997年の「Shangri-La」などではシングルヒットも記録する。2001年から2004年の活動休止期間を経て、2005年にはスチャダラパーとのユニット「電気グルーヴ×スチャダラパー」としても活動。その後、2008年にアルバム「J-POP」「YELLOW」、2009年に結成20周年記念アルバム「20」を立て続けにリリースし、その存在感を見せつけた。2011年4月にはベストアルバム「電気グルーヴのゴールデンヒッツ~Due to Contract」とPV集「電気グルーヴのゴールデンクリップス~Stocktaking」を同時リリース。2013年2月に通算13枚目のオリジナルアルバム「人間と動物」を発表した。