ナタリー PowerPush - 電気グルーヴ
卓球と瀧が歌う理由
電気グルーヴがニューアルバム「人間と動物」(英語タイトル:Human Beings and Animals)を2月27日にCD、3月27日にアナログでリリースする。このアルバムは「Missing Beatz」「Upside Down」「Shameful」といったシングル曲のアルバムバージョンを含む、全編歌モノの9曲入り。今回のインタビューでは石野卓球とピエール瀧に、本作を作った理由や、歌詞についての考え方、ボーカリストとしての姿勢といった「歌」についての話題を中心に話を聞いた。
取材 / 大山卓也 文 / 橋本尚平 撮影 / 宮腰まみこ
「ベタ禁止」を禁止
──今回のアルバムはどういうコンセプトで作り始めたんですか?
卓球 「全部歌モノ」「全体で50分以内」「BPMは125で統一」っていう3つのことを最初に決めてました。全部歌モノにした理由は、インストは自分のソロでもやれることだし、瀧のカラーが出しづらいから2人で集まってやる必然性がないし、せっかくだから今回は全部歌を入れようって。50分以内っていうのはLPの尺なんだけど、それくらいが一番集中力が途切れずに聴けて、終わった後もう1回聴こうって思えるくらいの長さなんですよ。あとBPM125、それは今の世界基準みたいなテンポなので、それで統一しようって。
──サウンド的には芯が太いというか。それこそ90年代、なんなら80年代からずっと地続きの、卓球さんと瀧さんの一番基本の部分がすごく出てるなという気がしました。言い方は悪いかもしれないんですけど、やってることあんまり変わんないんだなっていう。
卓球 変わんないです。というのも今回はさっき言った取り決めだけがあって、どういう方向性にしようとかは何も決めてなかったんですね。「歌モノ」「BPM125」という制限の中で思いついたことをどんどんやっていこうって感じなので、そしたら自然と自分たちのルーツ的な部分が手癖として出てきて。今回はそういうものを禁じ手にするのはやめよう、ベタでもいい、「ベタ禁止」を禁止しようって、そんなことを言ってました。
──自分の手癖をあえて避けていた時期もあったんですか?
卓球 うん。あったし、それよりも先にやることがあったって感じですかね。手癖だけで作れるものはいつでも作れるだろと思ってたんですけど、振り返ってみるとなかなかそういう機会ってなかった。いつでもできるって思ってることって、いつまで経ってもできなかったりするじゃないですか。宿題と一緒で。
──ああ。
卓球 あと前回「20」っていうアルバムを作ったとき、すごく楽しんで作れたんですよ。ただ「20」の場合は20周年記念作品っていう大義名分があるので、なるべくバリエーションを持たせるっていう意味でテンポも違えば曲調も違う曲をあえて並べてたんですけど、そこにちょっと制約をつけたら今回みたいな形になったってことです。
──「バリエーション豊か」みたいなのはもういいやと?
卓球 そういうわけじゃないんですけどね。
瀧 今回は今回で、うちら的にはバリエーションがあるにはあるんですけど。
卓球 「20」は曲調が極端に散らばってて、BPMが100くらいの曲もあれば160の曲もあったりしたので、そういうのはやめましょうっていうだけです。あとは、普段だったらやらないようなアレンジにチャレンジしてみるとか、そういうのはナシで。こういうのは別に打ち合わせをして話し合いで決めたわけではなくて、スタジオの中で自然と決まっていったって感じなんです。
すんなりいきすぎて逆に怖い
──制作の手順も、あまり変わらずですか?
卓球 変わらずですね。ただ、瀧が12月に映画のロケがあったので、締め切り直前の最後の追い込みのときにほとんどいないっていうのが事前にわかってたから、その分スケジュールを前倒しにしたんです。だから今までみたいにのんべんだらりとやるのではなく、いろんな可能性を模索しつつ作り上げる感じでもなかったので、すごくすんなりできました。でも結局、そのほうが何度も聴けるアルバムになるんだなって。業が深くないっていうか、念を込め過ぎてないっていうか(笑)。作品の中に入り込んで作るやり方じゃなかったから、客観性がずっと保てた作品になったと思う。
瀧 今の電気グルーヴを全部曲に込めるようなことをやっていくと、それはそれで説得力は出るんだけど、1枚に詰まってる情報量が多くなっちゃって聴く人が2周目にたどりつけないというか。今までのアルバムは細かいタイルをびっちり並べて模様を作るような感じだったけど、それだと建物に入ったときに威圧感があるから、今回みたいな作りのほうがすんなり入ってもらえるかなって気がしますね。
卓球 毎回アルバム制作で必ずある煮詰まる瞬間とか、堂々巡りをしてる瞬間っていうのが今回はぜんぜんなかったんですよ。すんなりいきすぎて逆に怖いなっていう。あとでなんかあるんじゃないかなっていう不安を抱えながら、結局何事もなく完成しました。
──確かに、最後まで聴き終わった後にまた繰り返し聴きたくなるアルバムになったと思います。
卓球 テンポを合わせたこともあって、CDで聴くと全体の流れがよくわかると思うんですよ。ダウンロードだと曲間がなくなっちゃうから、それを感じるのは難しいかな。バラで聴くのと通して聴くのでは印象が変わると思います。
- ニューアルバム「人間と動物」 / 2013年2月27日発売 / Ki/oon Music
- 「人間と動物」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3990円 / KSCL-2200/1
- 通常盤 [CD] / 3059円 / KSCL-2202
- アナログ盤 [アナログ2枚組] / 3990円 / KSJL-6165/6
CD収録曲
- The Big Shirts
- Missing Beatz(Album version)
- Shameful(Album version)
- P
- Slow Motion
- Prof.
- Upside Down(Album version)
- Oyster(私は牡蠣になりたい)
- 電気グルーヴのSteppin' Stone
初回限定盤DVD収録内容
電気グルーヴ LIVE at WIRE12 2012/08/25
- Hello! Mr. Monkey Magic Orchestra
- SHAME
- SHAMEFUL
- Shangri-La
- キラーポマト
- 誰だ!
- 虹
- wire, wireless
電気グルーヴ (でんきぐるーぶ)
前身バンド・人生での活動を経て、石野卓球とピエール瀧を中心に1989年結成。テクノ、エレクトロを独特の感性で構成したトラックと、破天荒なパフォーマンスで話題になる。1991年にアルバム「FLASH PAPA」でメジャーデビューを果たし、同年に砂原良徳が加入(1998年に脱退)。1990年代の音楽リスナーに本格的なテクノを啓蒙する役割を担いつつ、1994年の「N.O.」や1997年の「Shangri-La」などではシングルヒットも記録する。2001年から2004年の活動休止期間を経て、2005年にはスチャダラパーとのユニット「電気グルーヴ×スチャダラパー」としても活動。その後、2008年にアルバム「J-POP」「YELLOW」、2009年に結成20周年記念アルバム「20」を立て続けにリリースし、その存在感を見せつけた。2011年4月にはベストアルバム「電気グルーヴのゴールデンヒッツ~Due to Contract」とPV集「電気グルーヴのゴールデンクリップス~Stocktaking」を同時リリース。2013年2月に通算13枚目のオリジナルアルバム「人間と動物」を発表した。