デーモン閣下|長年の夢がついに実現、閣下の心揺さぶったAlice提供シングル

デーモン閣下がニューシングル「NEO」をリリースした。

このシングルの表題曲は、デーモン閣下が“世を忍ぶ仮の姿”の中学生時代から大ファンだったというAliceが提供した。ある番組の収録でAliceと共演したデーモン閣下は、谷村新司に楽曲提供を直接オファー。谷村がその場で「面白そうだ!」と快諾し、「もし叶うのならAliceとして皆さんで」というデーモン閣下の希望に沿う形で、Alice史上初となる他アーティスト曲のプロデュースが実現した。「NEO」では谷村が作詞、堀内孝雄が作曲、矢沢透が編曲を担当。さらに3人はコーラスとしても楽曲に参加している。音楽ナタリーはデーモン閣下に「NEO」の制作過程やAliceに対する思いなどを語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 映美

Aliceらしい曲であればなんでもいい

──今日のコスチュームは、「NEO」のために新調されたんですか?

デーモン閣下

そうだ。ジャケットを着ているパターン、脱いでいるパターンがあって、「NEO」のCDジャケットの写真は脱いでいるほうだな。デザインのテーマとしては歌詞に「その鱗が翼に変わってゆく」というフレーズがあるので、それを表現したことが1つ。あと、曲が“新しい自分に挑んでみろ”という内容なので、なるべく今までにないパターンにしてみたのもポイントだ。

──なるほど。新曲「NEO」はAliceが楽曲提供し、プロデュースも担当しました。ドキュメント番組で共演した際、閣下が直接オファーしたそうですが、具体的な制作はどのように始まったんですか?

まず、谷村新司氏と食事をしながら「どんな感じの曲がいいか?」という話をさせてもらった。それで希望を聞かれて、「Aliceらしい曲であればなんでもいいです」というのが吾輩の最初の回答だった。さらに谷村氏は「Aliceっぽい曲にもいろんなパターンがあるけど、どんなのがいい?」と聞いてきたのだが、「こんなのもいいし、あんなのもいいし……」と絞ることができなくて、そのときは「8ビートを主体とした、Aliceの中でもロック寄りの曲」というところで話が終わった。そして後日届けられたデモ音源を聴いたらそれが素晴らしかったのだ。とにかくカッコいいし、すごくAliceらしい曲で、大満足だった。きっと、どんな曲でも大満足だったと思うがな(笑)。

──現在のAliceのサウンドになっていますよね。

「NEO」のレコーディングは、Aliceの新曲の制作と同じタイミングだったからな。全国ツアーの合間の制作で、レコーディングに参加してくれたミュージシャンは皆Aliceのツアーメンバー。それが現在のAliceサウンドに聞こえる理由だと思う。ただ、デモ音源の段階では完成形ほどはロックっぽい感じではなかったのだ。アレンジの段階でドラムの矢沢透氏を中心にいろいろと変更を重ね、イントロのリフのパターンが変わったり、リズムにシンコペーションが加わったりして、現在の形になったというわけだな。

絶対に間違えられない仮歌

──仮歌を録るときは、今までにない経験をされたとか?

仮歌であれほど緊張したことはなかった。最初の仮歌はこちらで録ったのだが、Aliceのメンバーが聴くと思うと、どうしても緊張してしまって。キーによって歌の印象が変わるのも興味深かった。最初のデモのキーで歌ったときは、吾輩が歌っているにも関わらず、完全にAliceの曲のようだったのだ(笑)。Aliceの曲は“世を忍ぶ仮の中学生”だった頃から聴いていたし、カラオケでモノマネもしていたせいか、どうしても似てしまって。それで半音上げてみたら今度は35年くらい前のAliceのような雰囲気になり、全音上げたところで吾輩自身の特徴もしっかり出て、やっと自分らしい歌になったのだ。

デーモン閣下

──高音のロングトーンなどは、まさに閣下らしさが全開ですよね。2度目の仮歌はAliceの3人とバンドメンバーと一緒に録ったのだとか。

そうだ。「バンドによって、こんなにもやり方が違うのか」と思ったね。というのも、録音する当日に現場で「ここのアレンジはどうする?」という話をしているのだ。バックのミュージシャンもそうだが、アレンジを決めている間、矢沢氏もずっとドラムを叩いていたことに驚いた。我々の制作ではプリプロダクションは打ち込みで制作して、本番に向けてなるべく体力をロスしないように録るのが常だが、そこが全然違っていたね。

──アレンジとレコーディングが同時進行なんですね。

昔からそのスタイルらしい。一番いろいろ試したのは間奏に入る前のアレンジで、「どれがいい?」と聞かれたので吾輩も意見を言わせてもらった。そうやって試行錯誤して、ある程度アレンジが固まったあと、2度目の仮歌を録って。「仮歌なんだけど、本チャンに使うこともある」と言われていたし、吾輩がミスすると矢沢氏にムダな体力を使わせてしまうので、絶対に間違えられないという……あとで谷村氏に聞いたら、「歌も一緒に録ったほうがいいグルーヴが出る」という理由だったのだが、コンサートと同じような状況というか、本気で歌うしかない状況だったね。そして自分で言ってしまうと、そのときの歌がすごくよくて、実は音源には本番のテイクより仮歌のテイクのほうが多く使われているのだ。

いろんな思いが交錯した「NEO」の制作

──歌詞のテーマについては?

基本的にはお任せだったのだが、「どんな方向性がいい?」と聞かれたので、「普段の吾輩のスタイルとは違うほうが面白いと思うので、説教臭くないものがいいかもしれないですね」と答えた。吾輩が書くとどうしてもそっちの方向にいってしまうので(笑)。なんなら“ラヴソング”でもいいなと思っていた。上がってきた歌詞は実にAliceっぽくて、素晴らしかったね。谷村さんは映画「マトリックス」の主人公・ネオをイメージしていたそうだが、吾輩はその映画を観ていないので、その意味はよくわからなかったな(笑)。

──(笑)。「ラストリゾートに向かう 羅針盤」なんて、めちゃくちゃキャッチーなフレーズですよね。

デーモン閣下

吾輩だったら絶対に浮かんでこないな(笑)。しかも、すごく覚えやすいのだ。繰り返すフレーズの入れ方が絶妙なんだろう。

──そして「Wow Wow Woo」というコーラスには、谷村さん、堀内さん、矢沢さんのお三方が参加されました。閣下を含めて4名で一緒に歌っている映像は、今回のコラボレーションを象徴していますね。

実はコーラスのレコーディングは、ドキュメント映像のために録ったものなのだ。カメラを回して、「じゃあ、4名で歌いましょう」と歌い始めたのだが、そのテイクを聴いたAliceのお三方が「コーラスのテイクはこれでいいんじゃない?」と言い出して。吾輩は「ミックスのときのバランスも考慮して録ったほうがいいのでは……?」と思ったのだが(笑)、完成したものを聴いたらまったく問題なくて。むしろ臨場感があってよかったのだ。

──楽曲提供という関係だけではなく、Aliceの制作現場に入り、密にコミュニケーションを取りながらの制作だったんですね。

いろんな思いが交錯したね。もちろん喜びや感動が底辺にありつつ、多少の戸惑いや新鮮さもあって。貴重な体験をさせてもらったと思っている。

──「NEO」は11月10日に東京・Zepp DiverCity TOKYOで行われたコンサートツアー「DEMON'S ROCK “DKR(うたどくろ)” TOUR」のファイナル公演で初披露されましたが、手応えはどうでしたか?

今回のツアーは「うた髑髏」(10月発表の劇団☆新感線とのコラボレーションアルバム「うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-」)の曲が中心で、当初「NEO」を披露する予定ではなかったのだ。やろうと決めたのは11月2日の名古屋公演の直前で、公演日のリハーサルで初めてバンドと合わせて。あとは東京公演のリハーサルでもやって本番に臨んだのだが、ほぼノーミスで歌うことができた。客の反応も面白かったな。「NEO」をやることがわかった瞬間にザワザワしはじめ、曲が始まっても「一体、どうなるんだ?」と固まっていて(笑)。「Wow Wow Woo」のところで「君たちも歌ってもいいんだぞ」というマイクを客席に向ける動作をしたら、2番から一緒に歌い始めて、最後はすごく盛り上がった。