今年9月に結成30周年を迎えるthe pillows。そのフロントマンである山中さわお(Vo, G)が主宰するDELICIOUS LABELも、このたび設立20周年を迎えた。それを記念してリリースされたコンピレーションアルバム「Radiolaria」には、the pillowsはもちろん、noodles、HERMIT、シュリスペイロフ、THE BOHEMIANSというDELICIOUS LABEL所属5組の新曲を収録。これに加えて、HERMIT以外の4組のボーカリストが、それぞれ別のバンドの曲を歌った“ボーカルチェンジ”楽曲も4曲収められている。そのリリース後には、4バンドで回るツアーも予定されている。
そもそも、DELICIOUS LABELとはどのようにして生まれ、どんな変化を遂げながら現在に至ったのか。そして、現在所属している各バンドとの出会いと、彼 / 彼女たちが奏でる音楽の魅力とは。音楽ナタリーではDELICIOUS LABELの主宰者である山中さわおに、この20年の軌跡を改めて振り返ってもらいながら、さらには今後の展望に至るまでを語ってもらった。
取材・文 / 麦倉正樹 撮影 / 吉場正和
何か不思議なアニバーサリーイヤーだな
──現在、the pillows結成30周年のアニバーサリーイヤーの真っ最中ですが、これまでのところどんな感じですか?
うーんと、自分の年齢的なものなのかバイオリズム的なものなのかわからないんだけど、もともとの自分は、すごく感情の振れ幅が大きいというか、すごい怒ったり、すごい喜んだりする人間だと思うんだよね。だけど最近は、自分でも「俺、どうしたのかな?」っていうぐらい穏やかと言えば穏やかな、冷静と言えば冷静みたいな感じがしていて……。
──わりと精神的には凪いでいる感じというか。
そう。最近の話で言うと、こないだ「ARABAKI ROCK FEST.」のトリで、the pillowsの30周年記念で「CARNIVAL OF BUSTERS」っていうセッションをやったんだけど、昔の俺だったら絶対そうじゃなかったなっていうぐらい冷静だったんだよね。まあ、緊張はしているんだろうけど、本人はあまり自覚してないという。そういう意味で、よくも悪くも穏やかなんだなと思って。
──ほう。
もちろん、その当日というか、実際本番を迎えたときは、30年間のいろんなことを振り返って……30年よりもっとかな? そのセッションには佐野元春さんにも出ていただいたので。佐野さんといえば、俺が中学生の頃から聴いている、俺の憧れの頂点の人だから。それはもう、the pillowsの山中さわおではなく、まだ何者でもない、ただ音楽が好きでギターが好きな、小樽の山中さわお少年まで振り返るような……。
──まさに、走馬燈のような。
ホント、そうだね。でもそのときは、目の前で起きている状況が自分の頭の中で整理整頓できていないから、わけのわからないタイミングで泣きそうになったりとかして(笑)。で、そこから日にちが経って、そのときのことをファンクラブの会報にちょっと書いてみようと思って改めて、ゆっくり自分の中で考えたときに、今言ったような「ああ……あれは、the pillowsよりもさらにさかのぼった、小樽の山中さわお少年まで戻って、自分の音楽人生を振り返るような体験だったんだな」っていうのが、ようやくわかってきたっていう。
──なるほど。
あと、これはちょっと先の話になるけど、10月には横浜アリーナで、結成30周年記念ライブが控えているわけじゃない? それもなんか、全然緊張してないんですよ。もちろん、その当日は緊張するというか、「やってやるぞ!」っていう闘志が湧くだろうし、結局俺は人一倍、感極まったりするんだろうけど、今はすごく落ち着いているというか。何か不思議なアニバーサリーイヤーだなって、自分では思っていて。少なくとも、武道館をやった20周年のアニバーサリーのときとは、ちょっと違う感覚があるんだよね。まあ、単純に年齢的なものかもしれないけど、自分ではよくわからないや(笑)。
「オルタナ好きはデリシャスを聴けば間違いない」というものを作りたかった
──そんな中、さわおさんが主宰するDELICIOUS LABELも今年20周年ということで、今回コンピレーションアルバム「Radiolaria」のリリースと、その後のツアーを予定しています。これは、the pillowsのアニバーサリーイヤーの一環みたいなニュアンスもあるのですか?
いや、DELICIOUS LABELのことは、正直全然忘れていて(笑)。去年、noodlesのyoko(Vo, G)ちゃんに「来年、レーベル20周年だけど、何かやんないの?」って言われて、「おお、なるほど。じゃあ、ツアーでもやろうかね」って答えたら、THE BOHEMIANSの誰かが「コンピレーションアルバム出しましょうよ」みたいなことを言ってきたから、「じゃあ、出そうか」っていう(笑)。だから、これに関しては正直なところ、その入り口はわりとふんわりした感じだったかな。
──そうだったんですね。とはいえ、せっかくのタイミングなので、ここで改めてDELICIOUS LABELの成り立ちから振り返っていきたいのですが。そもそも、さわおさんがレーベルを立ち上げた理由というのは?
ええと、DELICIOUS LABELというのは、もともとはnoodlesを世に出すために俺が作ったレーベルで。だから、最初から「レーベルをやるぞ!」と思って始めたわけではないんだよね。noodlesのレコーディングをして、それを出す際にレーベル名と品番が必要だという話になって……で、俺はその頃から「DELICIOUS BUMP SHOW!!」というイベントをやっていたので、じゃあレーベル名は「DELICIOUS」で、品番は「BUMP-001」でいいじゃないっていう(笑)。そんな感じだったんですよ。
──ちなみに、DELICIOUS LABELがスタートした1999年というのは……。
99年は、the pillowsのアルバムで言うと、「RUNNERS HIGH」と「HAPPY BIVOUAC」という2枚のアルバムを出した時期で。
──さわおさんが、相当みなぎっていた時期ですよね?
そう、みなぎってた(笑)。その頃、世の中の流行りとはちょっとずれているんだけど、NirvanaとかPixies、The Breedersとかを好きになって、何かオルタナティブロックというものがすごく面白いというか、こんなに楽しいものがあったんだって興奮しているときだったんだよね。それで……あ、思い出した。Sonic YouthがNirvanaやDinosaur Jr.とかと一緒にヨーロッパを周ったツアーのビデオを友だちの家で観て……。
──「1991:The Year Punk Broke」ですか?
そうそう。Nirvanaは売れてしまったから、厳密に言うとオルタナティブとは呼べないのかもしれないけど、Sonic YouthとかDinosaur Jr.なんていうのは、わりとはみ出し者というか、本来ならばライブハウスでひっそりやっていたようなバンドだったわけじゃないですか。にもかかわらず、それがいろんな人たちのエネルギーとか時代的なものとかで、一気に爆発して。その3バンドが一緒にツアーを回ったんだけど、バックステージでもすごく仲がよさそうに見えたり、そこに来ているお客さんも全バンドのことを楽しみにしていたり、みんな喜んでいるみたいな感じがあって。それにすごく憧れを抱いたんだよね。
──なるほど。
自分もそういうものを作りたいと思ったというか、仲よくしてくれるバンドはいくつかいたけど、オルタナティブロックの匂いがするバンドは、当時メジャーにはあんまりいなかった。であるならば、ここはちょっと一発、日本でオルタナティブロックのレーベルを立ち上げて、「オルタナ好きはデリシャスを聴けば間違いない」というようなものを作りたいという理想が……というか、途中からそういうスイッチが入っていったんだよ。最初はただ、noodlesを世に出したいがために作ったレーベルだったんだけど。