「じゃあさよなら」のアルバムだったベスト盤

──まず素朴な疑問を解消させてください。なんで2014年になろうとしている今、2012年までのボカロ曲をまとめたベスト盤を？

今年10月にDECO*27としてニコニコ動画に動画を公開し始めて5周年を迎えたっていうこともあって今までの活動をまとめようと。あと、本当はこのベストは“さよならアルバム”にするつもりだったんです。

──ええ。もしかしてボカロPとしての活動に区切りを付けるのかな？って気はしてました。

あっ、違います。

──へっ!? じゃあアーティスト活動自体をやめるつもりだったとか？

はい。DECO*27としてもうやりたいことを全部やりきったな、っていう気がしていたので。ボカロ曲をたくさん書いたし、すごい再生もしてもらったし、その一方で柴咲コウさんや中川翔子さんとコラボもさせていただいた。ボーカロイドとボーカリストの両方と音楽を作れたし、アルバムも3枚出せた。改めて「自分のやりたいことってなんだろう？」って考えたら、空っぽな感じになっちゃって「じゃあやめようかな」って思ってたんです。だから最初のアルバムタイトル案には「VOCALOID」の文字がなくて。「DECO*27 COLLECTION 2008～2012」。5年間のすべてをまとめて、さよならしてしまおうと思ってました。

「これからもよろしくね」のアルバムに

──「思ってました」ということは今は「さよなら」っていう気分では……。

ないです！（笑）

──ホッとしました（笑）。思い直したきっかけって？

今年の6月、バルセロナの「Sónar 2013」っていうフェスでトッド・テリエのステージを観たんですけど、2万人くらいのお客さんがみんな手を振って盛り上がってるのを眺めていたら、ふと「あっ、ミクでもう1回曲を作ろう」って思っちゃって。で、帰国してから新しいボカロ曲を作り始めたんですけど、ちょうどその時期に横浜アリーナで「マジカルミライ」っていうライブイベントがあったんです（参照：マジカルミライライブ、ボカロと技巧派バンドに横アリ興奮）。

──アンコールでDECO*27さんの「ゆめゆめ」がプレイされましたよね。

ええ。で、僕の曲でお客さんがすごく盛り上がっているのを見たら、スペインで見た光景と重なっちゃったんです。「Sónar」で「本当に音楽っていいな」って気持ちになれて、「マジカルミライ」で「自分の曲で楽しそうにしてくれる人もこんなにいっぱいいるんだ」っていうことを知ったら、改めて「オレはもう1回曲を作るぞ」っていう気持ちが固まって。このベストアルバムが「さよなら」から「これからもよろしくね」のアルバムに生まれ変わったんです。

──それもちょっと面白いですよね。「マジカルミライ」のライブってボカロPは登場しない。ステージにいるのはスクリーンに投影されたボカロキャラと箱バンだけというイベントで。そのDECO*27不在のステージで流れるDECO*27楽曲をDECO*27さんが聴いて気持ちを新たにしている。

DECO*27っていう人の形がいい意味で曖昧になったというか、ものすごく拡張されてる感じがしたんですよね。客席の上のほうに座ってたんですけど、1万人のお客さんの向こうでミクが自分の歌を歌ってる状況を客観的に眺めたら、なぜか「あっ、オレDECO*27なんだ」って実感できたんです。自分が作った曲がかかっててみんな盛り上がってっていう様子に、自分がステージに立ったりするとき以上に感動したというか。「なんかオレ泣きそう」みたいな（笑）。

──あはははは（笑）。

「やっぱりボーカロイドプロデューサーなんだなあ、オレは」って感じました。

ボーカロイドの世界でどんどん活動していきます！

──さっき「ボカロP引退か？」って誤解した理由の1つにはそのボカロPであることに対する思いを読み違えていたこともあったんです。最近ナタリーで紹介したDECO*27さんのニュースってMEGさんのアルバムの楽曲を女王蜂のアヴちゃんと共作したというもので（参照：MEG新作よりtofubeats、アヴちゃん×DECO*27曲先行配信）。そして柴咲さんや中川さんにも楽曲提供している。エッジィな人たちとたくさん仕事をしているから、ボカロよりもそっちが面白くなったのかな？って。

特に今はまったく逆の気持ちですね。実際9月以降「妄想税」「愛言葉II」「音偽バナシ」っていう新しいボーカロイド曲を毎月公開していて、あと実は今ちょうど4枚目のオリジナルアルバムも作っていて。来年の3月リリース予定なんですけど、それは全部ボーカルが初音ミクなんですよ。だから今となってはベストアルバムには「次のアルバムを作るためにこれまでの曲をまとめた」っていうすごく前向きな意味もあって。「僕はもう1回ボーカロイドの世界でどんどん活動していきます！」っていう意思表示のためのベストアルバムなんです。

──ネクストステップを踏み出すための1枚ということ？

ネクストステップというよりも「いったんゼロに戻る」って言ったほうがいいのかなあ。次のオリジナルアルバムはある意味1stアルバムを作るような気持ちで作ってますから。