作品ごとに変貌を繰り返し、常に時代の先端をいくクリエイティブを発信し続けたデヴィッド・ボウイがこの世を去ってから、早くも7年が経つ。後続のアーティストたちに、今なお計り知れない影響を与え続けている彼の人生に光を当てた、初の公式認定映画「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」が3月24日に公開される。
IMAX上映を前提に作られた本作は、没入感のある映像と音響を全面的にフィーチャーした“体験型アトラクション”とも言えるような、新しいタイプのドキュメンタリームービー。彼の生前の姿を知らない若い世代の音楽ファンが増える中、“動くボウイ”を体感できる絶好の機会と言えるだろう。そこで今回は、デヴィッド・ボウイをフェイバリットアーティストの1人に挙げ、彼の人生観や表現に多大な影響を受けたという俳優・タレントのハリー杉山に、映画の見どころについて熱く語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / NORBERTO RUBEN
人生の美しさをも味わえる
──まずは、映画をご覧になっての率直な感想からお聞かせください。
言葉が出なくなるほど見入ってしまいましたね。まるで喜怒哀楽のジェットコースターに乗っている気分になるというか。あらゆるクリエイティブに対し、100%の情熱を持って取り組むボウイの表現を2時間以上にわたって浴び続けているような、そんな圧倒的な映画でした。これを観ることによって、ボウイへのリスペクトだけでなく、人生の美しさも味わうことができると思いますね。熱狂的なデヴィッド・ボウイのファンはもちろん、彼のことを名前くらいしか知らなかった人も楽しめる作品だと思います。ぜひとも映画館の大画面で観てほしいです。
──監督を務めたブレット・モーゲンの、ボウイに対する深い愛情を感じる作品ですよね。今まで彼は、カート・コバーン(Nirvana)を追ったドキュメンタリー映画「COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック」をはじめ、The Policeをフィーチャーした「ポリス サヴァイヴィング・ザ・ポリス」などを撮ってきましたが、今回はそれらとも異なる内容で。
そうなんですよ。本作は基本的にボウイの言葉のみで構成されているので、まるで彼自身が語りかけてくれているような感覚になる。それどころか本人の目を通してこの世界を見ているような、そんな錯覚さえ覚えますよね。彼のライブ映像やミュージックビデオ、未発表映像、彼が出演した映画だけでなく、大島渚「愛のコリーダ」、スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」、「オズの魔法使い」などボウイにインスピレーションを与えた映画のシーンもちりばめられているじゃないですか。もし彼が生きていて、この作品を観たら絶対に喜ぶんじゃないかな。
ボウイってこんなこともできちゃうの?
──ハリーさんがボウイに興味を持つようになったのにはどんな経緯があったのでしょうか?
THE YELLOW MONKEYの吉井和哉さんがソロ名義で「ビルマニア」という楽曲をリリースしたとき、当時僕が司会を務めていたスペースシャワーTVの番組(「SPACE SHOWER MUSIC UPDATE」)で、吉井さんにインタビューをさせていただいて。それをきっかけに吉井さんと仲よくさせていただくようになり、お話をする中でいかにデヴィッド・ボウイが吉井さんの人生を変え、音楽的に影響を与えてきたのかを知りました。それが最初にボウイを意識したきっかけですが、僕自身が本格的にボウイにのめり込んだのは、それから数年後のこと。実は僕、モデルでデビューしてタレントとしてお仕事させていただく間に、音楽活動をしていた時期があったんですよ。
──そうだったんですか!
自分の人生を模索している時期にバンドを組み、1、2年ほどどっぷり音楽の世界に染まっていました。結局それは、自分自身の実力が伴わず何も成し遂げることができなかったのですが、そのバンドのメンバーだったHIROKIくんというギタリストが、ボウイの服装やヘアスタイル、楽器をそのまま真似するくらいボウイに心酔していて(笑)。一緒にボウイの音源を聴いたり映像を観たりしながら、「ほらこれ! これがたまんないんだよ!」みたいに布教してくれたんです。それが27歳くらいの頃かな。
──ボウイの壮大なキャリアを、そのHIROKIさんがナビゲートしてくれたわけですね。
はい。ちなみに僕が、最初にどっぷりとハマったボウイのアルバムは「Earthling」(1997年リリース)でした。このアルバムは、ドラムンベースやジャングルを大々的に取り入れた、ファンの間でもかなりコアな内容で。アートワークもカッコいいんですよ。ユニオンジャックがモチーフのトレンチコートをボウイが着ているんですが、その細いウエストや逆三角形シルエットの後ろ姿が、まるでエディ・スリマン時代のディオールのような、もしくは渋谷109を聖地としたギャル男のようで最高なんです。
──はははは。このアルバムがリリースされた1997年は、ちょうどハリーさんがロンドンに住んでいた頃ですよね。
まさに。当時のイギリスといえばブリットポップ全盛期で、僕自身もそれにすっかりのめり込んでいました。OasisやBlurはもちろんSuedeが大好きでしたね。その後はMuseやThe Strokesにハマったんですが、ドラムンベースがかかっているクラブにもよく行っていたんですよ。「Earthling」はリアルタイムでなく後追いで知りましたが、初めて聴いたときは「え、ボウイってこんなこともできちゃうの?」と驚きました。あとは「Hours...」(1999年リリース)というアルバム。これも商業的には成功したとは決して言えないのですが、「Seven」という収録曲のフォークっぽいアレンジが初期のボウイを彷彿とさせるというか。原点回帰ではないですが、「こんなアグレッシブで混沌とした作品を作っていても、その真髄はすごく優しい人なんだな」と思わせてくれるんですよね。
──ボウイの代表作というと、一般的には「The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars」時代やベルリン3部作の「Low」「Heroes」「Lodger」、もしくは「Let's Dance」の時代が人気ですよね。
僕、ちょっと天邪鬼なところがあるんです(笑)。もちろん「Aladdin Sane」も「ジギー・スターダスト」も、ブライアン・イーノとともに作り上げたベルリン3部作も好きですよ。ちょっとKraftwerkを彷彿とさせる「Low」は特にハマりましたし。とにかく、これらすべてが同じアーティストによって作られたなんて信じられないくらい。あれほどまでに自分のアイデンティティを変化させられるアーティストなんて、ほかにいないじゃないですか。音楽ももちろんですが、日本文化を反映させたクリエイティブ、特に山本寛斎さんと作り上げたスタイリングも大好きです。