韓国から日本語で歌声を届け、注目を浴びる女性ボーカリストがいる。透き通った歌声と、自然でなめらかな発音が特徴のダズビーだ。
彼女は2011年に動画共有サイトでボカロ曲の“歌ってみた”の投稿を開始。2022年3月に1st配信シングル「声の在り処」でメジャーデビューを果たし、その後もコンスタントにオリジナル楽曲を発表してきた。YouTubeで投稿しているカバー動画も軒並み再生数を伸ばし、チャンネル登録者数は110万人を超える。
音楽ナタリーではメジャーデビュー後、初の来日プロモーションとなるダズビーにインタビュー。歌い始めたきっかけは? 海の向こうから日本のボカロ文化がどう見えていた? TOOBOEが提供した最新曲「砂嵐」に込めた思いは? 彼女はやや緊張した面持ちながらも、通訳をほぼ頼らず丁寧に言葉を紡いでくれた。
取材・文 / 満島エリオ撮影 / 竹中圭樹(ARTIST PHOTO STUDIO)
言語のハードルは「難しい」よりも「面白い」
──ダズビーさんがニコニコ動画で“歌ってみた”の投稿を始められたのは2011年ですが、ニコニコ動画を見たり、ボーカロイドの楽曲を聴いたりするようになったのはいつ頃ですか?
中学生の頃だったと思います。韓国に日本の歌が好きな人のコミュニティがあって、そこで初めてボカロの曲を聴きました。
──当時周囲には、日本の歌やアニメが好きな人はたくさんいましたか?
けっこういたと思います。アニメも普通にテレビでやっていたので、小学校の頃から「クレヨンしんちゃん」や「NARUTO」、「犬夜叉」などを観ていました。
──歌い手やボーカロイド周辺の文化は、アニメなどと比べるとよりディープな世界だと思うんですが、周囲にボカロを聴いている人はいましたか?
ちょっとマイナーなイメージはありました。でも、好きな人同士で集まって盛り上がっていましたね。「ワールドイズマイン」や「メルト」が人気で、「初音ミクの消失」のアニメPVは韓国でも話題でした。
──初めてボーカロイドの歌声を聴いたとき、どう思われましたか?
初めは人が歌ってると思って聴いていたので、プログラムだと知って衝撃でした。ボカロだけじゃなくて、そのカバーの“歌ってみた”の音源を聴いたときも、最初はプロがスタジオで録音したものだと思っていたんですけど、自宅の安いマイクでも歌っているとわかって、とても面白いなと。
──聴くだけじゃなく、自分でも歌ってみようと思ったきっかけは?
自分の家でも歌えると知ったので、やってみようかなという簡単な理由でした。マイクを通じて聞こえる自分の声が普段と違って聞こえるのも面白いなあと思って、たくさん録音しました。
──もともと歌うことがお好きだったんですか?
幼い頃はあまり歌ったりはしていませんでした。中学の頃に歌って録音してみるまで、自分が歌えるということを知らなかったです。
──ダズビーさんが日本語の楽曲を歌う場合、言語というハードルもあったと思うんですが、そこは苦労されなかったですか?
難しいという印象ではなかったです。それも面白いと思っていました。
──日本語で歌うときには、どのようなことを意識されていますか?
どう歌えば自然に聞こえるのかについて悩みながら歌っています。歌い手さんの曲を聴くのも大好きだったので、ボカロに限らず日本語の曲をたくさん聞いて、発音もまねしたり。イントネーションを意識してないと外国人っぽく聞こえるので、注意するようにしています。
──実際に投稿して、コメントなどのリアクションを見ていかがでしたか?
日本の方にはどう聞こえるのか知りたかったのがニコニコ動画に投稿し始めた理由でもあるので、その反応を見て「ちゃんと歌えてたんだ」ということがわかりました。聴いてくれる人がいるのって楽しいなとも思えて、そのときに歌う楽しさがわかった気がします。
──聴いている側としては、初期の楽曲からハイレベルな歌声で、発音にも違和感がないのですが、その頃と比べて今は成長したなと感じますか?
はい。もう自分の昔の歌は聴けないです(笑)。
──歌だけではなく、しゃべるのもとてもお上手ですね。会話はどうやって勉強したんですか?
しゃべるのはまだ全然苦手なんですけど、ニコニコ動画の生放送をやっていたのが役に立った気がします。勉強するというより、実際にしゃべっているうちにうまくなってきました。
繰り返しの日々に舞い込んできたメジャーデビュー
──ダズビーさんが活動を始めた2011年頃は、ニコニコ動画が会員数を伸ばし、人気のボカロ曲が次々に出てきたりと、ボカロ文化が一気に成長し始めた時期ですが、それをどのように見ていましたか?
その頃、韓国にはニコニコ動画のようなサイトはなかったので、画面にコメントが流れるのが面白かったです。当時、「ぼからん」というニコニコ動画内のボカロ曲の週間ランキングがあったんですが、それもとても真面目に見ていましたね。新しい曲は何があるかな、とか。
──自分もランキングで上位になりたい!という思いはありましたか?
ありました! 投稿した中で最初に話題になったのは「paranoia」という曲で、ランキング7位だったと思います。そのときは何回もスクショして、友達に自慢したりしました。歌い手ランキングに載ったときもあって、うれしかったです。
──ボカロ系の楽曲や歌い手によるカバーが投稿され始めた当時は、それが仕事になるとは世間からも当事者からもあまり思われていなかったはずです。ダズビーさんも最初は軽い気持ちで投稿を始められたとのことですが、それが実際にご自身の仕事になってみて、いかがでしたか?
ニコ動で活動していたときはあくまで趣味だったんですが、YouTubeで活動を始めて、初めて収益を得たときは学生だったので衝撃を受けました。オリジナルイラストも使い始めた頃で、真面目にやってみたい、という気持ちになりました。
──メジャーデビューの話が来たときはどう思われましたか?
実はその頃、定期的に歌をアップすることを長い間続けていて、同じことの繰り返しにちょっと疲れていたんです。なので、デビューの話をいただいて、「これからまだまだ新しいことをやっていける」というモチベーションができてうれしくなりました。
──デビュー後、生活や気持ちの変化はありましたか?
デビューしてからも、2週に1回というルールでYouTubeに歌の動画を投稿してるんですが、その頻度は守りたくて。それで以前より忙しくなったんですけど、今はオリジナル曲を増やしたい気持ちがあるので、がんばっています。やれることが増えた喜びも強いですし、忙しくても楽しいです。
ダズビーが歌いたいこと
──ダズビーさんといえば三つ編みの女の子のビジュアルイメージが印象的です。このイラストの女の子には「小さな星に1人で住む少女」という設定もあるそうですが、それはどのように生まれたのでしょうか。
最初に「未知の惑星での恋人との死別」というキーワードを考えて、それで頭に浮かんだイメージが、ウエディングドレスを着て墓場に立っている女性でした。それが面白くて雰囲気があるなと思い、イラストにしてもらいました。
──オリジナル楽曲を増やすにあたり、歌いたいテーマやメッセージはなんですか?
愛とか恋愛の歌詞が気持ちを込めやすいので、愛について語りたいです。その中で、人間の感情にはネガティブとポジティブの両面があるということを表現したいです。
──どうしてそれを表現したいと思ったのでしょう?
人は平気なふりをするときってけっこう多いと思うんです。本当に思っていることは別にあるけど、なかなか言えなかったり。周りの友達と話していてもそういう悩みが多かったので、そのことについて歌うと面白いんじゃないかと。特に「アディオス」という曲がそんな主題の曲になっています。
次のページ »
完璧主義ゆえのプレッシャー