音楽ナタリー Power Push - 吉川晃司 meets 「DAVID BOWIE is」 最期まで本物だった僕のヒーロー

やっぱり、この人は“本物”だった

──ボウイは心臓病で倒れた後、長い沈黙期間に入りました。そして2013年に復活したものの、2016年に亡くなってしまいます。ボウイが亡くなったときは、どこで何を?

スタジオで作曲の作業をしていました。Webのニュースで知ったときは「冗談だろ?」と思いましたね。とにかく驚きました。だって、亡くなる2日くらい前に、アルバム「★(Blackstar)」を出したばかりだったし。ちょうど、そのアルバムのプロモーションにコメント参加しないかという打診を受けていたんです。まったく信じられない思いでした。本当だとわかったときは悲しかったけど、でも最後まで挑戦的な、永遠のロックスターでいてくれたことは、素晴らしいと思いますね。

──遺作となった「★(Blackstar)」はどうお聴きになりました?

「DAVID BOWIE is」を観覧する吉川晃司。

すごく実験的で、決してポップスじゃなかった。ピリピリした緊張感が漂っていて、彼が今、やりたいことを全部詰め込んだアルバムだった気がする。たぶん最後のアルバムになることを自覚しながら作ったんでしょうけど、とても挑戦的な内容でした。

──最後だから、なじみのミュージシャンと過去を反芻するようなノスタルジックな内容のアルバムを作っても誰も責めないだろうけど、あえてそれまでとはまったく違う、新しい、実験的とも思える音楽を、それまで一緒にやったことのない新しい人たちと作った。

それがデヴィッド・ボウイだったんですね。最後までアーティストであることをまっとうしたという。「ああ、やっぱりこの人は本物だったんだ」と痛感しました。自分の憧れた人物が思っていたような人と違っていた、ということほどショックなことはないと思うんですけど、デヴィッド・ボウイはやっぱり本物だった。自分自身はどうだろう、とやはり考えますよ。亡くなるとき、自分のやってきたことの落とし前を、ちゃんとつけられるような最期でありたいと。ボウイはしっかり落とし前をつけて、人生を締め括られたのだと。

──アルバムごとに変わり続けて、いつも周囲の期待をいい意味で裏切り続けてきた人だし、最後まで裏切り続けたいというのはあったかもしれません。それもアーティストとしての使命感でしょうね。

この人は、音楽家とかミュージシャンっていうのとは、ちょっと違うのかもしれないですよね。そこだけには括れない。音楽だけじゃなくて、ビジュアルや体を動かすことも含めて、大きな世界観で表現しようとしていたと思うんです。だから音楽性は決して一貫していないんだけど、すべての活動を通して、自分の生きざまや憧れなどを表現していたんでしょうね。

──外部から見て辻褄が合っていないように見えても、本人の中で辻褄が合っていれば、それでいい。

「DAVID BOWIE is」の模様。(Photo by Shintaro Yamanaka [Qsyum!])

そういうことでしょうね。それで大いにけっこうじゃないですか。自分自身も考えることがありますけど、ファンの人の要望や要求に応えるために自分を「演じる」ようになったら、それは違うな、と。僕も、そういうつもりではやっていないので。だから……僕がもっともデヴィッド・ボウイに影響を受けたのは、それこそ「生き様」なのかもしれない。ミュージシャンの人たちにとっては、きっと音楽的な面白さというのが大きいんだろうけど、僕はそこじゃないのかもしれません。

──現在開催中の「DAVID BOWIE is」をご覧になって、いかがでしたか?

楽しかったですよ。衣装を残しておくのもいいと思いましたね。手書きの歌詞や譜面もよかったし。歌詞をぐちゃぐちゃっと消して、書き直しているところとかね。ボウイでもこうやって歌詞を書いているんだなって、身近に思えました。ボウイは日本のことがお好きだったでしょう。三島由紀夫さんとか。改めて日本への造詣の深さもよくわかりました。あと俳優としても多くの映画に出ている。その業績の大きさも感じましたね。展示会のキュレーターの人の話を聞いて驚いたんですが、ボウイは10代の頃、ムービースターになりたかったらしい。でもチャンスがなかったので、まずは音楽活動から始めてチャンスをつかもう、と考えていたんですね。これは僕にとっては、1つの衝撃でした。

──音楽が好きで好きでミュージシャンになったというよりは、もっとトータルな表現を目指していたということかもしれませんね。

そうでしょうね。僕もよく「お前はミュージシャンなのに、なぜ芝居をやっているんだ?」「本業はどっちなんだ?」って言われることがあるんですよ。でも、これからはそういうときに「デヴィッド・ボウイも最初はムービースターを目指していたんだぜ」「そして、ずっと両方やっていたんだぜー」って言い返そうと思っています。そうしたら、どんなリアクションをされるのか……楽しみですね(笑)。

「DAVID BOWIE is」を観覧する吉川晃司。

「DAVID BOWIE is | デヴィッド・ボウイ大回顧展」

開催期間
2017年1月8日(日)~4月9日(日)
休館日
毎週月曜日(但し4月3日は開館)
開館時間
10:00~20:00
(毎週金曜日は21:00まで。入場はいずれも閉館1時間前まで。3月29日(水)は都合により17:00に閉館)
会場
東京都 寺田倉庫G1 ビル(東京都品川区東品川2丁目6番10号)
料金
一般:2400 円(2200円)
中高生:1200 円(1000円)
カッコ内は前売り価格。小学生以下は無料。
トワイライトチケット:毎日16時以降入場の会場当日券を一般、中高生ともそれぞれ200円引きにて販売
吉川晃司(キッカワコウジ)
吉川晃司

1965年広島県出身。1984年に映画「すかんぴんウォーク」の主役に抜擢。同時に主題歌「モニカ」で歌手デビューも果たし、楽曲のヒットと共に逆三角形の肉体とワイルドなキャラクターで人気を博す。その後もヒット曲を連発し、1988年には布袋寅泰とロックユニットCOMPLEXを結成。1990年に活動停止し、その後ソロとしての活動を再開する。近年は俳優としての活躍も目覚ましく、映画「るろうに剣心」で鵜堂刃衛役、NHK大河ドラマ「八重の桜」で西郷隆盛、TBSドラマ「下町ロケット」の財前道生役などで存在感を見せた。2016年には水球日本代表・ポセイドンジャパンからのオファーを受け、公式応援ソング「Over The Rainbow」を制作。同曲は2020年に行われる東京オリンピックへ向けても引き続き使用される。2017年7月より全国ツアー「KIKKAWA KOJI LIVE 2017 "Live is Life"」を開催する。