宮野弦士×ヤマモトショウ インタビュー
これまでに比べて抜群に音がいい
──3rdアルバム「エクセルシオール」が完成しましたが、本作ができあがった今の感想を聞かせてください。
ヤマモトショウ ついに全曲作詞だけを手がけたアルバムができたなと、作詞家として感慨深いものもありますね。その分言い訳もできないし、やれることをやったという感覚です。あと、アルバムの音はこれまでに比べて抜群にいいと思います。
──確かにそれは感じました。これまでと何を変えたんですか?
ヤマモト ミックスやアレンジにかける時間なり、メンバーの歌唱力なり、すべてがアップしているのは間違いないですね。
宮野弦士 外部の参加ミュージシャンも増えたし、ほぼすべての要素が変わりました。僕はミックスでストレスがないようにアレンジ段階の音作りを見直して。機材をアップグレードしたし、よりいい音にするにはどうしたらいいかをこの1年で模索して、細かいところにこだわりを反映できたんだと思います。
──作曲では、宮野さんは収録曲のうち6曲を手がけていますね。
宮野 今までで最もバラエティに富んだアルバムになったと思います。これまでのアルバムはそのときに僕がハマっていた音楽とリンクして、ある程度の指標があったんです。例えば1stアルバム「FUNKY BUT CHIC」は80'Sの匂いが色濃く出ていて、2ndアルバム「ザ・ファウンダー」ではファンクにこだわらなくなって。でも今作は時代軸的に幅広くなって、「バイタル・テンプテーション」みたいな60'Sっぽい曲もあれば、80'S末期のバブリーな香りのする「ロジック・ジャンプ」も入ってるし、去年の夏以降に発表した「イッツ・マイ・ターン」「フリー・ユア・フェスタ」「スーパーヴィーニエンス」「ヒューリスティック・シティ」では今まで目を背けていた90~00'Sのテイストも取り入れています。これまでやってきたことからはみ出さずに、バリエーションをしっかり作れたんじゃないかな。曲順もスタッフ間で相当話し合って、紆余曲折を経て決まりました。
ヤマモト 実はアルバムから1曲外したんですよ。配信リリースされているクリスマスソングの「ネクスト・クリスマス」なんですけど。
宮野 アルバムのどこに入れてもおかしくて(笑)。どうやらクリスマスソングはクリスマスアルバムに入れることが多いらしいぞ、と気付いたんです(笑)。
──(笑)。そうだったんですね。
宮野 あと、このアルバム、ほかのCDと比べると音量レベルが少し小さく聴こえると思います。実は音圧を上げることによってロスしてしまうアタック音や低音がかなりあって、マスタリングの際に音量は極力ジェントルにしてほしいとリクエストしたんです。なので、ぜひ普段より目盛りを3、4上げて聴いてほしいです(笑)。
与謝蕪村の俳句のようなレベルに
──フィロのスの楽曲を制作するうえで、必ず設けているルールみたいなものはありますか?
宮野 基本的には洋楽的な趣向を下敷きにしています。歌詞は日本語なのである程度J-POPや歌謡曲の要素も必要とされてきますが、割合としては洋楽のテイストが多いです。
──洋楽のサウンドに日本語詞を乗せるのがフィロのスの音楽的な特徴だと。
ヤマモト 結果的にそうなりましたね。洋楽のテイストが強いものの、英詞は基本的に使わないです。最初からそういうルールが設けられていたわけではなく、仮歌を聴くと英語詞のほうが浮かびやすかったんですけどね。日本のアイドルである以上日本語じゃないといけないし、今は自然と作詞できるようになりました。
宮野 けっこう難題なメロディを投げることもあります(笑)。
ヤマモト 今回のアルバムだと宮野くん作曲の「ハッピー・エンディング」はチャレンジでした(笑)。日本語は文にするのにある程度文字数が必要なんですけど、この曲は歌メロが少ないんですよ。英語だったらワンセンテンス歌えるところが日本語だと主語しか言えないから、与謝蕪村の俳句のようなレベルを求められる。
宮野 (笑)。ライブに初めて来た人でも曲を覚えられるように、常にメロの字数を減らしたいと考えてて。この曲にはシンガロングを入れたかったし、アメリカのポップソングをイメージしました。
──宮野さんはバンドセットのライブに演奏で参加していますが、ライブのアレンジで意識していることはありますか?
宮野 スタジオ音源をそのまま表現するのは極力避けていますが、曲中のアレンジはそんなに変わってないですね。自分で正解と思って作った曲たちなので、そのときの意図をバンドメンバーに伝えてお任せしています。一方で、ステラボール公演でやったようにメドレーを仕込んでみたり、イントロにオマージュを入れてみたり、曲間でライブに最適化した聴かせ方を意識しています。
──4月に行われるバンド編成の東名阪ツアーには、宮野さんが声をかけた20代のミュージシャンが参加するそうですね。
宮野 いろいろと演奏の仕事をする中で、同世代のミュージシャンのコミュニティができてきて。その中でも特に音楽の趣味が近くて信頼できて、何も言わなくてもイメージを汲んでくれる人たちを選びました。普段からフィロのスの音楽を聴いていてライブにも来ている人たちなので、いろいろと話が早いんです(笑)。
哲学はなんでもあり
──フィロのスの音楽の方向性は最初から定まっていたんですか?
ヤマモト 宮野くんと一緒にやっていくことが決まったときに方向性が見えてきたんじゃないかな。
宮野 おのずと僕が好きなものを追っていくようになって(笑)。ファンクを基調にする「Funky But Chic」という大枠は最初からあったんですけど、メンバーが成長するにつれ、そこまでジャンルを絞る必要もないんじゃないかといい意味で解釈を広げるようになりました。はっきり方向性が定まったのは結成2年目に発表した「アイム・アフター・タイム」のときですかね。
ヤマモト この曲を聴いたとき、思い切り自分の色を出してきたなと感じました。
宮野 それまでは洋楽っぽいポップスというイメージを要約して曲を作っていたんですけど、音だけ聴いたら完全にその当時の洋楽に思えるくらい、洋邦のバランスを振り切りました。
──なるほど。歌詞の面では基本的に哲学をテーマにしていますよね。
ヤマモト はい。でも、哲学と言っても幅広いのでなんでもありっちゃありなんですよね。2500年くらい西洋哲学の歴史がある中で、結局人間が悩んでいることって大きく変わってないんですよ。「アンチノミー」「スーパーヴィーニエンス」とか事象にいろんな名前が付いてるだけで、歌詞もかなり普通のことを書いてるつもりです。わけのわからない難解なことを彼女たちに歌わせても嘘っぽくなるじゃないですか。
──やはりアイドルの楽曲であることは意識しているんですね。
ヤマモト もちろん。でも、ちゃんと哲学を勉強して曲のエッセンスにしています。哲学の歴史的な大ネタをストックしていて、例えば今回のアルバムだと「イッツ・マイ・ターン」は「コペルニクス的転回」をテーマにした曲ですね。一方、宮野くんも攻めてくることがあって、ポイントが必ずサビではないと感じることがあるんですよ。もっとアイドルポップス寄りの曲にしたほうがいいのではと感じることもあるんですけど、そういう曲は普通に作れるからトゲを出せるんだと思います。
宮野 「イッツ・マイ・ターン」と「ライブ・ライフ」では、それが両端に出ました。「ライブ・ライフ」では自分の中にあるポップなものをファンクに落とし込もうとして、「イッツ・マイ・ターン」ではどこがサビかわからなくていいからとにかくサウンドとグルーヴにフォーカスしました。歌詞の内容も取り組み方もいい対比になったと思います。
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好きな音楽を自由にやって怒られないんだ
- フィロソフィーのダンス「エクセルシオール」
- 2019年4月5日発売 / PHILOSOPHY OF THE WORLD
-
通常盤 [CD]
3240円 / UXCL-198 -
初回限定盤 / CD
[CD2枚組]
3780円 / UXCL-200 -
初回限定盤 / DVD
[CD+DVD]
4320円 / UXCL-202
- CD収録曲(全形態共通)
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- イッツ・マイ・ターン
- ラブ・バリエーション
- スーパーヴィーニエンス
- ロジック・ジャンプ
- フリー・ユア・フェスタ
- パレーシア
- シャルウィー・スタート
- スピーチ
- バイタル・テンプテーション
- ヒューリスティック・シティ
- ライブ・ライフ
- ハッピー・エンディング
- 初回限定盤付属ボーナスCD収録曲
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Live at Stellar Ball 2018/12/16
- ファンキー・バット・シック
- イッツ・マイ・ターン
- すききらいアンチノミー
- アイム・アフター・タイム
Funk Up Medley
- バッド・パラダイム~ライク・ア・ゾンビ~バイタル・テンプテーション~エポケー・チャンス~バッド・パラダイム(Reprise)
- アルゴリズムの海
- コモンセンス・バスターズ
- ラブ・バリエーション
- はじめまして未来
- ライブ・ライフ
- アイドル・フィロソフィー
- ベスト・フォー
- ジャスト・メモリーズ
- ダンス・ファウンダー
- 初回限定盤付属ボーナスDVD収録内容
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Visions of 2018
Music Video
- ダンス・ファウンダー(Re:Vocal&Single Mix)
- ライブ・ライフ
- イッツ・マイ・ターン
- 夏のクオリア(remixed by ikkubaru)
- ヒューリスティック・シティー
- ラブ・バリエーション WITH SCOOBIE DO
Bonus 映像
- Girls Are Back in Town Vol.1 転換映像1
- Girls Are Back in Town Vol.1 転換映像2
- ヒューリスティック・シティー メイキング映像
ツアー情報
- フィロソフィーのダンス「Bandwagon Vol,1」
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- 2019年4月16日(火)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2019年4月17日(水)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2019年4月23日(火)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 宮野弦士(ミヤノゲント)
- 1994年生まれ、東京都出身の作曲家。 2015年春に音楽専門学校を卒業し、音楽活動をスタートさせた。1970、80年代の音楽を主なバックグラウンドとして、楽器演奏、作編曲、ミックス、マスタリングと複数の分野での制作を行う。 フュージョンバンドでのギタリストを務めているほか、アイドルやアーティストへの楽曲提供も行っている。
- ヤマモトショウ
- 1988年生まれ、静岡県出身の作詞家、音楽プロデューサー。東京大学文学部思想文化学科を卒業したあと、バンド・ふぇのたすのギタリスト、作詞作曲担当として2012年にデビューした。バンド活動のかたわらシンガー、アイドル、声優などのプロデュース、楽曲提供を行う。2015年9月のふぇのたす解散後に本格的に作詞、作曲家として活動をスタートさせた。
- フィロソフィーのダンス
- 2015年に結成された、加茂啓太郎がプロデュースを手がけるアイドルグループ。「Funky But Chic」をキーワードに活動しており、宮野弦士が編曲、ヤマモトショウが作詞を担当するソウルフルな楽曲で注目を集めている。2015年12月に会場限定シングル「すききらいアンチノミー」を発売。2016年11月に東京・原宿アストロホールで初のワンマンライブ「Do The Strand VOL.1」を開催したほか、1stアルバム「FUNKY BUT CHIC」をリリースした。2017年11月に2ndアルバム「ザ・ファウンダー」を発表。2018年6月に東京・LIQUIDROOM で初の生バンド編成でのライブを行い、同月から6カ月連続で7inchシングルをリリースした。同年10月に東京・東京キネマ倶楽部でSCOOBIE DO とのツーマンライブを、12月には東京・ステラボールでホーン隊を加えたバンドセットライブを開催。2019年4月に3rdアルバム「エクセルシオール」をリリースし、全公演バンドセットの東名阪ツアーを行う。