フィロソフィーのダンスが2ndアルバム「ザ・ファウンダー」をリリースした。2015年に結成され、「Funky But Chic」をキーワードにしたファンクやソウルミュージックを中心とした楽曲でアイドルファンのみならず、多くの音楽リスナーの注目を集めているフィロのス。「ザ・ファウンダー」は昨年11月リリースの1stアルバム「FUNKY BUT CHIC」以降に彼女たちが発表した楽曲と新曲「ダンス・ファウンダー」を収録した、彼女たちのここ1年間の集大成となる作品に仕上がっている。
今回音楽ナタリーではメンバー4人とプロデューサーの加茂啓太郎にインタビューを実施。アルバムのほか、グループの成り立ちや4人のパーソナリティについて話を聞いた。また特集の後半には全収録曲の編曲を手がけた宮野弦士、作詞を担当したヤマモトショウのコメントも掲載する。
取材・文 / 近藤隼人、臼杵成晃 撮影 / 塚原孝顕
アイドルのオーディションなのに、おじさんの写真が前面に
──音楽ナタリー初登場ということで、まず最初にグループの結成の経緯を簡単に説明してもらえますか?
奥津マリリ 佐藤まりあと十束おとはは加茂さんの始めたアイドルオーディションでグループに入って、私とハルちゃんは加茂さんに「アイドルをやらないか?」と声をかけられました。
──なるほど。加茂さんとしてはどのような思いでフィロソフィーのダンスを結成したんですか?
加茂啓太郎 寺嶋由芙ちゃんを手がけたあとに、グループアイドルをやろうと思いました。曲がよくて、ちゃんと歌を歌えるアイドルグループを作りたかったので、そのコンセプトに合わせて女の子たちを選んでいったんですよ。ダンス&ボーカルグループではなくて、アイドルグループとしてちゃんといい歌を歌ってアイドルの垣根を超えられるグループを作りたかったんです。あと最近の洋楽は面白くないなと思っていたところに、マーク・ロンソンやブルーノ・マーズ、ファレル・ウィリアムスが出てきて、彼らみたいな音楽をアイドルに取り入れたら面白いなと思ったんです。それをやるには歌がうまくないとできないので、歌を歌える人がほしかったんですよね。
──加茂さんが、アイドルシーンが面白いと思い始めたのはいつ頃なんでしょう?
加茂 BiSとでんぱ組.incが盛り上がってきた2011年の終わりから2012年の始めにかけてですね。「BiSが下北沢SHELTERでワンマンやるらしいけど、どういうこと?」「名前がでんぱ組.incってどういうことだ?」って。アイドルが僕のテリトリーに入りこんできたので、こいつは何者なんだろうと思ってチェックしてたら、ストリートカルチャーだし、インディペンデントだし、僕がやりたいと思うことにアイデンティティは近いなと思いました。
──日向さんと奥津さんはもともと別で音楽活動をやっていて、アイドルを目指していたわけではなかったんですよね。そのときBiSやでんぱ組.incなどのアイドルグループについてはどのように見てました?
日向ハル 名前を知ってたくらいで、どのくらいのライブハウスでやっていて、どのくらいの勢いがあるグループなのかは全然わかってなかったですね。
奥津 私も名前くらいしか知らなかったです。全然関わりがありませんでした。
──佐藤さんと十束さんはどうでした?
佐藤まりあ アイドルは好きだったんですけど、その時期好きだったのはアイドリング!!!さん、ももクロさんとか、王道のアイドルさんばかりでした。
十束おとは 私はその時期にモロにアイドルにハマっていて。BiSさんやでんぱ組.incさんの活躍をオタクとして見ていたんですけど、アイドルになりたいという気持ちはなかったんです。なので、まさか自分がアイドルシーンの渦の中に巻き込まれていくことになるとはという気持ちです。
──何がきっかけでアイドルになろうと思ったんでしょう?
十束 最初に芸能活動を始めたきっかけが、好きな格闘ゲームの応援団というゲームに関するお仕事で。その仕事が終わったときに、1歩踏み出しちゃったんだから好きなことを全部やって辞めようと思ったんです。で、加茂さんの顔写真が写ってるオーディションを見つけて。
加茂 そうだっけ?(笑)
十束 出てましたよ! 加茂さんのアー写みたいのが(笑)。「アイドルのオーディションなのに、おじさんの写真を前面に出してくるオーディションって面白いな。これは受けるしかない」と思ってオーディションを受けました。
日向 変なおじさんじゃなくてよかったね(笑)。
これは本当にアイドルの歌う曲なのか
──結成時と今とでは、メンバーのお互いの印象は違います?
日向 違いますね。今はくだらない話をずっとしているくらい仲がいいんですけど、私はもともとアイドルを目指そうと思ってなかったので聞く話すべてが新鮮でした。例えば佐藤は成人式の写真を男の子から離れて撮るくらい徹底がすごくて、「そういう子っているんだ!」と驚きました。「グラビアの仕事をやってみたい」という話を聞いて「あれって脱がされてるんじゃないだ! 自分からやりたいと思ってる子がいるんだ!」と思うくらいアイドルと離れた世界にいたので、自分がそっち側に行って大丈夫かなと不安だったんですけど、しゃべってみたらみんな普通の人たちでした。
奥津 私はシンガーソングライターをやっていたんですが、ほかのメンバーはコスプレ会場、秋葉原のアイドルの劇場など別の場所で活動してたので、それぞれの当たり前が違うんですよ。なので最初は「普通ってこうじゃないの!?」「そういうふうに考えるんだ」みたいな話がすごく多くて。それにかわい子ぶってたと言うか、アイドルってこうじゃなきゃいけないみたいな変な意識もありましたね。
日向 でも、すぐに化けの皮が剥がれたね(笑)。自分に嘘はつけなかったです。
奥津 しかも最初はみんなこんなに個性が出てなかったです。
──フィロのスはファンクやソウルに寄った楽曲を歌っていて、ほかの王道のアイドルグループとは音楽性が違いますが、結成時はそのことについてはどう思っていたんですか?
奥津 最初はここまでファンク寄りじゃなくて、「いい音楽を」というざっくりしたコンセプトで、「いい音楽ってなんなんだろう?」と思いながら探り探りやってました。最初はグループのコンセプトに関してわかってなかったのが正直なところで、加茂さんやみんなといい音楽を探していく中で今の形になりました。
──もともとアイドル寄りだった十束さんと佐藤さんとしては、どう思っていました?
十束 加茂さんがでんぱ組.incさんが好きと聞いていたので「かわいい音楽をやるんだろうな」と思っていたら、180°違う方向に連れて行かれて、どうしようと思っていました(笑)。方向性が決まるきっかけになったのが「すききらいアンチノミー」という曲で、その曲を聴いたときに価値観が違っていた4人全員が「あ、この曲はいい曲だ」と言い合っていたんです。こんな価値観がさまざまな人たちが聴いていい曲だと思うということは、きっといろんな人に認めてもらえる可能性を秘めた曲なんだと気が付いて。今は自分たちにしか出せない色を出せるようになったと思います。
佐藤 ファンクの曲についての知識がまったくなかったので、最初は「これは本当にアイドルの歌う曲なのかな」と思ったんですけど、だんだんそういう曲調が好きになってきました。
加茂 全曲の作詞を手がけているヤマモトショウくんはオーディションのときからプロジェクトに参加していたんですが、編曲を担当している宮野弦士くんとの出会いが大きかったですね。「将来は冨田恵一になるかもしれないですよ」と紹介されて曲を書いてもらったら、「すききらいアンチノミー」が上がってきて。そこからいろいろ見えてきた感じです。
──ハロー!プロジェクトのグループ、Tomato n'Pine、東京女子流、Especiaといった、楽曲派に刺さるソウルファンク、ディスコミュージック寄りの音楽を先にやっていたアイドルに対する意識はあったんですか?
加茂 ありましたね。でも既存のアイドルシーンにはユニゾンで歌を歌う文化があって、フィロのスの曲ではできるだけユニゾンはやりたくなかったんです。
ライブ会場がカオスなことになってる
──フィロのスはアイドルシーンの中で楽曲派アイドルとしての地位をすでに確立したように思えますが、人気を得てきている実感はありますか?
日向 大きな箱でライブをやるアイドルもたくさんいる中、私たちは極端に箱のキャパを広げるわけでもなく、自分たちの可能な範囲で徐々に大きくしているので、ちょっとずつ伸びていってるという感じですね。
奥津 でもフロアのグルーヴや会場全体の雰囲気はどんどんよくなっていっていると言うか、みんなの楽しさが充満して濃密になってきています。
佐藤 緩やかですけど、フィロのスの曲を聴いてくれたり、私たちのことをTwitterに書いてくれたりする人も増えてきていて。これからも新しいファンの方が入ってきやすい環境を作っていきたいです。
──フィロのスのライブ会場にはアイドルオタクとしてパフォーマンスを楽しんでる人と、ブラックミュージックを楽しんでる人が混在してますよね。
十束 カオスなことになってますね(笑)。この曲はアイドルオタクとして楽しむ、この曲はダンスを踊る、みたいな不思議な空間ができあがってきていて、その空間をもっと進化させていきたいと思います。
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マリチチが人格を持ち始めた
- フィロソフィーのダンス「ザ・ファウンダー」
- 2017年11月22日発売
PHILOSOPHY OF THE WORLD -
[CD]
3000円 / UXCL-140
- 収録曲
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- ダンス・ファウンダー
- ライク・ア・ゾンビ
- はじめまして未来
- エポケー・チャンス
- 夏のクオリア
- ニュー・アタラクシア
- バッド・パラダイム
- ミスティック・ラバー
- ドグマティック・ドラマティック
- アルゴリズムの海
- ベスト・フォー
- ジャスト・メモリーズ
イベント情報
- レッツ・スティック・トゥギャザー
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- 2018年2月4日(日)大阪府 Shangri-La
- <出演者>
フィロソフィーのダンス / callme - 2018年2月10日(土)愛知県 SPADE BOX
- <出演者>
フィロソフィーのダンス / callme - 2018年2月12日(月・祝)東京都 WWW X
- <出演者>
フィロソフィーのダンス / callme
- フィロソフィーのダンス
- 2015年に結成された、加茂啓太郎がプロデュースを手がけるアイドルグループ。「Funky But Chic」をキーワードに活動しており、宮野弦士が編曲、ヤマモトショウが作詞を担当するソウルフルな楽曲で注目を集めている。2015年12月に会場限定シングル「すききらいアンチノミー」を発売。2016年1月に定期公演「FUNKY BUT CHIC」をスタートさせ、11月には東京・原宿アストロホールにて初のワンマンライブ「Do The Strand VOL.1」を開催した。同月に1stアルバム「FUNKY BUT CHIC」を発表。2017年10月に東京・渋谷CLUB QUATTROにて4thワンマンライブ「Do The Strand VOL.4」を成功させ、11月には2ndアルバム「ザ・ファウンダー」をリリースした。