daisansei|何かを作ろうとするあなたにdaisansei

ちゃんと挑戦したやつは人のせいにしない

──アルバムの全体像について、何か考えていたことはありましたか?

安宅 どの曲もアルバムありきで作ったわけではないので、あくまで結果的になんですけど、並べてみたら四季感がちゃんと生まれましたね。あと、daisanseiは日常的な出来事を表現しているバンドだと思っていたんですけど、いざアルバムを作ってみると、予想以上にドラマチックな部分を切り取っていたことに気付いたんです。だからアルバムタイトルは「ドラマのデー」にしました。

──冒頭に少し話したリード曲「ラジオのカセット」は、曲の構成も歌詞もすごく不思議な曲ですよね。

daisansei

脇山 この曲の歌詞はちょっと印象派っぽいというか。ラジカセというアイテムをもとに大喜利をしている感じで、1つひとつの答えに安宅くんの描くふわっとした印象が乗っかって、それが節として集まった曲です。一貫性はあるけど、命題がないんですよね。1つの気持ちを歌うというよりは、ラジカセをモチーフにさまざまな感情を描いた文章が並んでいる。だから「なんかいいな」と思っても、ちゃんと歌詞の内容を理解するのは難しいかもしれないです。安宅くんの作詞の変化をステップで表すと、「北のほうから」がステージ1で「しおさい」がステージ2、「ラジオのカセット」はステージ3だと思う。

安宅 いいこと言った。ホントにそうだと思う。「ラジオのカセット」はわかりやすいテーマはあるけど、なぜかとりとめのない感じもあって、登場人物の心情に近づくのは難しい、みたいな感じですね。

──1曲目の「賛成するとき見える鳥」は短い曲ですけど、“賛成”というバンド名につながる重要なモチーフが表現されていますね。

安宅 この曲は僕と脇山くんがYouTubeで公開しているラジオ番組「大賛成の大反対ラジオ」のオープニングテーマとして作ったんです。だからコンセプチュアルに“賛成”という言葉が入っているんですよね。

脇山 この曲で所信表明というか、「ここに立っているよ」と宣言しているような気もします。応援でも共感でもなく賛成である、ということは僕らにとって重要なので。

安宅 daisanseiというバンド名は語感で決めたんですけど、名乗っている以上「自分たちは何に賛成しているんだろう?」と考えたことがあって。僕はどんなことにも無条件で賛成していると思ったんですけど、よく考えるとそれってすごく雑だし、賛成される側にとってもすごく失礼ですよね。で、いろいろ考えた結果、僕はもの作りをしている人たちに“賛成”したいんだと気付いて。形のないものでもいいんですけど、何かを作っている人が好きだし、それを始めるときのエネルギーはとても素晴らしいものだと思うんです。もしその気持ちが少しでも芽生えたのなら、それは絶対形になるまでやってほしいし、1回でいいからゴールまで行ってほしい。僕は人が何かを作ろうとする、その始まりの瞬間に生まれる気持ちに賛成します。「賛成するとき見える鳥」はその決意を示していますね。

──なぜ、そこまで「ものを作る」ことに執着するのだと思いますか?

安宅 僕自身がそれを制限しながら生きてきたからですね。「何かを作りたい」とか「何かをやりたい」と思ったとき、「いや、お前はダメだ」「お前ではうまくいかない」と言ってくるもう1人の自分がいたり、周りの人からそういうことを言われることもあったり。僕は今でも覚えてるんですよ、おじさんに「お前には人前に立つ仕事は無理だ」と言われたこととか……。でも、やりたいと思ったら絶対やったほうがいいんです。現に僕は「ほら、うまくいったじゃん」と思っているし。これは持論ですけど、ちゃんとやったやつは人のせいにしないんですよ。自分の手で作り始めた人は、結果的にうまくいかなかったとしても、絶対誰かに「責任を取れ」なんて思わないはずなんです。なぜならやり始めた時点で、自分自身との闘いが始まっているから。だからこそ僕は無条件で賛成したいんです。やることに意味があるので。「やりたいのならやるべきだ」ってみんなに言いたいです。

“平等”ではなく“対等”でありたい

──daisanseiはもともと安宅さんのソロユニットとしてスタートし、そこに脇山さんがパートナーとして加わって、今年に入って5人編成のバンドに固まったんですよね?

脇山 そうですね。

──メンバーの皆さんは安宅さんと出会ったときにどんなことを感じ、今はどんな思いでこのバンドに向き合っているのでしょうか。

脇山 正直、出会った頃はあんまり深くは考えていなかったですけど(笑)、安宅くんにとって一番の他人って、きっと安宅くん自身だと思うんです。自分という他人とのかかわり方に悩んでいるというか。だからこそ安宅くんは自分以外の他人に対して、いい意味で期待していない。要は平等ということで。人に対しての距離感が平等だし、そういうところが彼の書く曲の、等身大で隣に立ってくれているような安心感につながっていると思うんですよね。

──なるほど。“平等”という観点について、安宅さん自身はどうでしょうか。

安宅 僕は平等についてはあまり考えていないんです。むしろちょっと気持ち悪いものだと感じていて、どちらかというと“対等”でありたいと思っているんですよね。例えば見た目とか年齢、性別とか、そういうことに関する議論には一切参加したくないんですよ。そういうことで人を判断したくない。「そんなことはどうでもいいから、とにかくものを作ろうぜ」って感じ。それが僕にとっての“対等”で、それを前提にしたうえで僕は勝ちにいきたい。

川原徹也(Dr)
小山るい(G)

──川原さん、フジカケさん、小山さんは安宅さんをどのように見ていますか?

川原 安宅くんは音楽家としての能力が高いと思うんです。曲作りもそうですし、アレンジに関してもいろいろ知識を持っていて。コードもすげえ詳しいから感覚的ではなく、ちゃんと頭で考えて音楽を作っている。そこはすごいですね。

安宅 うれしいっす!

フジカケ 脇山さんが言うように、他人との距離感がフラットですね。誰に対しても態度を変えることがないし。安宅さんにとって一番の他人は自分自身であって、ずっと自分と闘っているような人だと思います。

小山 基本的にはいい人ですけど、めちゃくちゃ自分に呪いをかけている気がするんですよ。

──呪いというのは?

小山 さっき言っていた「自分はものを作ってはいけないんじゃないか?」と考えてしまうこととか、自分に制限をかけているところですね。だからこそ安宅さんは自分の内面に深く潜れたのだろうし、「普通、そこまで考えないでしょ」という視点も出てくる。そういう視点とか呪いは、daisanseiの音楽に深みを生み出すために必要なものだと思うんです。その経験を通して、いい音楽を作っていく姿を見ているのは楽しいです。

daisanseiは丁寧な「これでいいのだ」

──こうして5人そろっているときの空気感も独特だと思うし、不思議な距離感のバンドですね、daisanseiは。

安宅 そうなんです。このバランスが少しでもズレたらdaisanseiは終わりです。

脇山 距離感は変なバンドだと思います。メンバー同士の距離が近いわけでもないんですけど、我々は安宅くんのことを賛成しているし、安宅くんも我々のことを賛成してくれるし。聴いてくれている人に対しても、そういう距離感でありたいんですよね。

安宅 リスナーとの距離感がもっと近い音楽を作る人もいると思うんです。聴いていると抱きしめてもらえるような音楽もあるけど、僕らの場合は「daisanseiの音楽がなければ死んじゃう」みたいな気持ちにならないほうがいい。「なんか、daisanseiっていたらいいな」くらいの距離がいいんですよね。

──今日いろいろお話を聞いて思い出したのですが、マンガ家の赤塚不二夫さんが亡くなったとき、タモリさんが弔辞を読みましたよね。あの中で「天才バカボン」の「これでいいのだ」というセリフは、時間的な前後関係を断ち切る肯定の言葉だとタモリさんは言っていて。そういう時間感覚も含めて、バカボンの「これでいいのだ」ってまさに「大賛成」だよなと思いました。

安宅 ああー、なるほど。「なんでもいいから大丈夫」は雑だからイヤだけど、前にあったことや先のこともわかったうえで「これでいいのだ」と言えるのが一番いいですよね。「これでいいのだ」という言葉を発したとき、複雑に絡まっていたものがバサッとなくなるとして、そのなくなったものが、言葉を発する側がちゃんとわかっていればいいというか。そう考えると、daisanseiは丁寧な「これでいいのだ」でありたいのかもしれないです。

公演情報

daisansei「ドラマのデー」発売記念ツアー
  • 2020年11月17日(火)愛知県 CLUB UPSET
  • 2020年11月18日(水)大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
  • 2020年11月24日(火)東京都 新宿LOFT
daisansei