ナタリー PowerPush - Daft Punk

サカナクション山口一郎が語る Daft Punkのグルーヴとポップ

歌を聴かせる音楽じゃない

──サカナクションは最初、フォークとロックと電子音のダンスミュージックの融合を自分たちなりに追求してきたわけですよね。そこでDaft Punkが、ひとつの指針になったところはあるんですか?

絶対に日本人は好きだなって思ったし、この感覚に日本語が乗ったときにどう聞こえるかっていうのがすごくイメージしやすかったんですよ。The Chemical BrothersとかUnderworldとは違ってすごくポップだし。これってロックの進化の過程として通れる道だなって思ったし、クラブミュージックで自分が無意識に手を挙げて叫んでしまう感覚。これはロックを観に来たお客さんにも届けられるんじゃないかなって思ったんですよね。それはバンドをやってる身分として、すごくヒントになったというか。ロックも好きな人が聴けるダンスミュージックっていうところでの新しさはありました。洋楽ロックが好きで、追っかけていくうちにたどり着いてしまうクラブミュージックっていう感じですかね。

山口一郎

──そして今回の「Random Access Memories」にたどり着くわけですが。

YouTubeで1曲だけ先行で聴けたときから聴いてましたね。

──「Get Lucky」ね。

とんでもない曲だなと思って。ちょうど自分たちもファンキーとかグルーヴっていうものを意識している時期だったんですよ。そこでメンバーに「(俺たちも)間違ってなかったろ」って言いましたね(笑)。今はグルーヴなんだと。昔からある、グルーヴィっていう感覚を現代でどう解釈するかっていうのが今のポップスなんだと思う。それがロックにもできるし、ダンスミュージックにもできるんじゃないのかっていうことのひとつの指針になったと思いますね。

──その視点から言うと、サカナクションはバンドなわけじゃないですか。ライブでバキバキのエレクトロなショーをやってたりもするけど、根本にあるのはバンドですよね。そこには生のドラムがあって、電子ギターがあって、歌心をダイレクトに投げかけるボーカリストがいる。Daft Punkの場合は、今言った3つは少なくともなくて。それをアメリカで、ナイル・ロジャース(G)やファレル・ウィリアムス(Vo)にゲストとして求めていったのは合点がいく話だったんですか?

そもそもDaft Punkっていうのは、歌を聴かせる音楽じゃなかったんですよ。でも今回のアルバムっていうのは、歌がすごくフィーチャーされていて。歌っている人とか、演奏しているプレイヤーとか……もちろんネームバリュー的な部分もあるけど、でも、その歌を聴くだけでは今回のアルバムは退屈なんですよ。そうじゃなくて、そもそもDaft Punkの聴き方っていうのは今もクラブミュージックと一緒でグルーヴだと思うんですよね。だから今回のアルバムは、もう完全にグルーヴ──リズムを追っかけていく中で、歌が、ギターがどう存在しているか? それが楽しいんですよね。そういった難しいことを、Daft Punkっていう世界的に知られている有名なミュージシャンが、ここまでわかりやすく世界に投げかけてるっていうことがやっぱりすごくて。「sakanaction」っていうアルバムを作るときにAOKI takamasaさんと一緒にやったんですよ。AOKIさんはDaft Punkを全然知らなくて……AOKIさんってメジャーなものは聴かないんですよ。EDMって言葉を知らないくらいで(笑)。そのAOKIさんとうちで一緒に遊んでて、お互いに曲をかけ合ったんですね。で、僕がかけたので引っ掛かったのがDaft Punkだったんですよ。「誰これ、めちゃめちゃカッコいいやん!」みたいになって(笑)。これを世界のメジャー規模でやってるっていうことにめちゃめちゃ驚いていて。つまり、クラブミュージックしか聴いてこなかった、クラブミュージックを作ってる、そしてクラブっていうフロアしか意識してない人に対してカッコいいって思うことを、ポップスとして聴き手に届けてるっていう感覚が素晴らしいなと思って。

生演奏+プログラミングのグルーヴ

──音楽としての共通言語を持ってるってことですよね。

そうそう。これはすごく重要なことで……踊り慣れてる人も、踊り慣れてない人もひとつの音楽で踊れるっていうことを確立したことが「Random Access Memories」のすごさで。作品としての素晴らしさというより、音楽への貢献度っていう部分がすごくあると思うんですよ。だって、僕は今回のアルバムはたぶん今までの中でも相当難しい部類に入るアルバムだと思うんですよね。でも実は、どんな音楽を聴いてる人もカッコいいって言いやすい音楽なんですよ。「One More Time」のときって「『One More Time』がいいよね」ってすごくミーハーな人たちが騒いでたから、クラブミュージックとしてあの曲が本当に評価されたかというとちょっと違うと思うんですよ。でも今回のアルバムはクラブミュージックとしても認められたし、それ以外の解釈による成功が付加されてるぶん、さまざまな場所で、さまざまな人が批評しやすいアルバムになっている気がするし、Daft Punkがこの作品に至るストーリーを知れば知るほど今回のアルバムってすごく大きくて。別に昔の音楽を今リバイバルしてるわけじゃない。ロバート・グラスパーが「Black Radio」っていうアルバムで、ジャズっていうものを再解釈──黒人音楽としてのジャズの解釈とか、ヒップホップっていうものの消化とかを通して、今鳴らしているっていうことと同じですよね。まず感覚としてはDaft Punkはフランス人だと。で、フランスには黒人はたくさんいるし、土着のものが多国籍、多民族である中で、それを現代的な解釈で鳴らしたっていうところはあるのかなって思いますね。

山口一郎

──もうちょっと具体的に聞きたいんですけど。「Random Access Memories」っていうアルバムは、最先端の音楽をとても客観的に、批評的に描こうとしてる人が最先端の音楽として作ったのか、それとも古のディスコ、パンク、ソウルミュージックが非常に普遍的だからこそ、最先端の音楽になりえると思ってモチーフにしたのか、どっちだと思いますか?

そこ、難しいですよね(笑)。過去のファンクだったり、アフロビートとかもそうですけど全部一発録りなんですよね。人が実際に叩いて演奏してるぶん、人的な揺れ──プレイの粗さがあるんですね。でもそれが現代の僕たちにとってカッコいい揺れだったりするわけですよ。グルーヴってそもそもそういうものだから……人的なものがないとグルーヴを感じないわけで、隙間がないとリズムじゃないんです。今回のDaft Punkのアルバムは人的な揺れと、プログラミングで気持ちいいと思う揺れや歪みのツボをちゃんと押さえて作ったところはあると思いますけどね。こういうのって自然に生まれたというより、あえて生み出したと思うんです。そこが「わかってるな!」っていうところだったりするし、何も考えずに聴いても気持ちいいと思うところで。

Daft Punk 最新アルバム「Random Access Memories」 / 2013年5月22日発売 / 2520円 / ソニーミュージック / SICP-3817
「Random Access Memories」
収録曲
  1. ギヴ・ライフ・バック・トゥ・ミュージック
  2. ゲーム・オブ・ラヴ
  3. ジョルジオ・バイ・モロダー
  4. ウィズイン
  5. インスタント・クラッシュ
  6. ルーズ・ユアセルフ・トゥ・ダンス
  7. タッチ
  8. ゲット・ラッキー
  9. ビヨンド
  10. マザーボード
  11. フラグメンツ・オブ・タイム
  12. ドゥーイン・イット・ライト
  13. コンタクト
  14. ホライズン ※日本盤ボーナストラック
サカナクション 9thシングル「グッドバイ / ユリイカ」 / 2014年1月15日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 [CD+DVD] / 1890円 / VIZL-607
通常盤 [CD] / 1260円 / VICL-36857
CD収録曲
  1. グッドバイ
  2. ユリイカ
  3. 映画(AOKI takamasa Remix)
初回限定盤DVD収録内容
  1. 「ユリイカ」 MUSIC VIDEO
  2. Behind the scenes of SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction -LIVE at MAKUHARI MESSE-
サカナクション
サカナクション

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースし、全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction」を開催した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。