ナタリー PowerPush - Daft Punk
サカナクション山口一郎が語る Daft Punkのグルーヴとポップ
第56回グラミー賞で主要部門の「最優秀レコード」「最優秀アルバム」を含む5冠の受賞を果たしたDaft Punk。彼らの最新アルバム「Random Access Memories」が昨年のリリース以来ロングヒットを続けている。
クラブミュージックとポップスの境界を越え、世界的な支持を集める彼らの魅力はどこにあるのか。ナタリーではそれを解き明かすべく、Daft Punkをよく知る2人による対談インタビュー企画を実施。グラミー賞授賞式を取材した音楽ジャーナリスト・鹿野淳が、サカナクションのフロントマンである山口一郎に話を聞いた。
取材・文 / 鹿野淳(MUSICA)
山口一郎とDaft Punkの出会い
──本日はサカナクションとDaft Punkを語る機会なわけですが、一郎にとってDaft Punkはどういう存在なんですか?
最初に出会ったのはDaft Punkというよりは、Stardust(Daft Punkのトーマ・バンガルテルが所属していた別ユニット)ですね。
──「Music Sounds Better With You」という曲が大ヒットしたよね。
そう。あの曲を聴いたときに、レトロなのに、ダンスミュージックでありハウスでもあり……「なんだこの感覚は!?」ってなりました。それでStardustって誰だと思ったら、Daft Punkがホームの人がやってるっていうことがわかって。
──あの曲は90年代末期最大のイビサアンセムになったわけで。Daft Punkのヒストリーの中で言うと、1枚目のアルバム「Homework」と2枚目「Discovery」の間にあるもの。つまり、1枚目のシカゴハウス的なものから、2枚目の「One More Time」のようなエレポップに至る過程の中でツボをついたものでしたよね。
当時すごく映像に興味があって。ミシェル・ゴンドリーが撮った、「Homework」に入っている「Around The World」を観て、「このミュージックビデオすごい!」って思ったんですよ。Daft Punkっていう名前は知っていただけで、当時はそこまで引っかかってなかったんだけど、StardustでDaft Punkを知って。で、「Homework」を聴いて「これはなんだ? なんていうジャンルなんだろう?」って思ってハマっていきましたね。で、そこからの「Discovery」ですよね。「One More Time」ももちろんだけど、最初は「Digital Love」に反応して。
──非常にメランコリックなエレポップですよね。
うん。すごいなあって思って。アルバムのジャケットが松本零士だし……日本というマーケットを意識してのものなのかなあ?とか思ってて(笑)。あとで調べたら、松本零士のファンだったかららしいんですけど、そこに同じ感覚というか同時代性みたいなものも感じたし。
──あの当時からフランス、特にパリでは「ジャパニーズアニメ」がパリ風サブカルチャーのメインにあったりして。そこにあのDaft Punkの2人もいたっていう背景もあるよね。
Daft Punkを知ったことが、フレンチテクノ、フレンチハウスのシーンを一気に知るきっかけになったんですよ。同時にThe Buffalo Bunchとか、Daft Punkと一緒にバンドやってたっていうPhoenixも同時に知ったし。……あのシーンの人たちに共通している、キックのつぶれたコンプ感というか、サンプリング感というか……そこが僕の中で1個のブームになったというか。「Waves」っていう、フレンチハウスのコンピレーションアルバムが「I」「II」と2枚あって。で、Le Knight Club。これもStardustと一緒でDaft Punkのギ=マニュエル・ド・オメン=クリストが違う名義でやってるものだと思うんですけど、それがめちゃめちゃカッコよくて。その「Waves」は(サカナクションの)メンバーでも聴き倒して……2ndアルバム(「NIGHT FISHING」)のときかな、キックとか音色とかの感じを参考にしてましたね。
黒人音楽への憧れを大胆に導入
──Daft Punkの音楽と、「Homework」から「Discovery」の頃に出会ったということなんですが、そのとき一郎自身はどういう音楽をやっていたんですか?
その当時は、サンプラーを導入していったり、当時から一緒にやっていたギターの岩寺(基晴)にギターじゃなくて鍵盤弾かせたりとか……ロックバンドの中にダンスミュージックを取り入れていくことに挑戦していた時期でしたね。
──それはバンドでやってる音楽のスタイルを崩したかったのか、それとも当時クラブカルチャーとライブハウスカルチャーがミックスしてる感じの中に、自分ららしい新しいものをつけ加えたかったのか? どういう感じだったんでしょうね?
90年代から2000年代にかけて飽和状態になっていたギターロックブームっていうものがあって。で、自分たちもそこの一員と勘違いされるような音楽をやってたんですよ。でもそこじゃ勝負できないっていうので、自分が好きな音楽──クラブミュージックをうまく織り交ぜられないかなって思ってて。その中でどこか引っ掛かる要素が作れないかなってやり始めたのがきっかけですね。
──当時、例えばThe Chemical BrothersとかUnderworldとか、テクノ発のロック感あふれるユニットが世界を席巻しました。その中でDaft Punkが一番自分にフィットしたのはどんな部分ですか?
それは完全にファンク的な部分ですよね。The Jackson 5みたいな黒さをフランス人なのに持っているというか……ネイティブに自分の中にファンクなものがある人がやっているファンクと、そうじゃない人がやるファンクって根本的に違うじゃないですか。日本人がやるファンク──例えばフィンガー5とか(笑)、ウルフルズの「ガッツだぜ」とか──そういったネオファンク的なものをDaft Punkからも感じてすごくビビビっときたし、その音楽がポップスとしていい形で自分たちの前に現れたこともびっくりしましたね。
──昔、The Rolling Stonesのミック・ジャガーが「生まれ変わったら黒人になりたい」って言っていたのは、黒人ミュージシャンが持っている先天的なファンク感やソウルへの憧れとコンプレックスから来るものだったよね。で、時を経てテクノ、エレクトロクラブミュージックの中で、黒人音楽に対しての憧れを無邪気かつ大胆に導入した初めてのメジャー電子音楽グループがDaft Punkだとも言えるわけで。それが今回のアルバム「Random Access Memories」にもつながっているんですよね。
今のシーンに対してDaft Punkが作り上げたカルチャーっていうのがあると思うんですよ。バンドシーンにもすごくそれは作用したし、例えばベースラインに“黒いもの”が乗ってるポップスを彼らが作った感じがありますよね。そこから、ディズニーの映画のサントラの「TRON: Legacy (Original Motion Picture Soundtrack)」でまた違うところに行ったなと思いましたけどね。あのアルバムはクラシックがベースにあると思うんですよ。「ああ、今度はこっち行ったんだ」って思いましたね。あれもすごくカッコよかったし、音質的にも相当でしたよね。だけどグルーヴに関しては、今までのアルバムの感じほどは全然感じなくて……もっと高尚なものとして僕は聴いてました。あとは単純に、ディズニーと一緒に仕事するなんてすごいなって感じでしたね(笑)。クラブミュージックって、世界的に見ると日本では遅れてるんだなって。ディズニーが求めるほどクラブミュージックっていうものはすごく進化してきてるけど、そこに日本は対応できてないんだなって思いました。
──クラブミュージックがエンタテインメント化していく様を、Daft Punkはアルバムを出すごとに体現していったわけだからね。
そこに対する劣等感みたいなものも「TRON: Legacy」を聴いて感じたし、複雑な気持ちになりましたけどね、正直。
- Daft Punk 最新アルバム「Random Access Memories」 / 2013年5月22日発売 / 2520円 / ソニーミュージック / SICP-3817
- 「Random Access Memories」
収録曲
- ギヴ・ライフ・バック・トゥ・ミュージック
- ゲーム・オブ・ラヴ
- ジョルジオ・バイ・モロダー
- ウィズイン
- インスタント・クラッシュ
- ルーズ・ユアセルフ・トゥ・ダンス
- タッチ
- ゲット・ラッキー
- ビヨンド
- マザーボード
- フラグメンツ・オブ・タイム
- ドゥーイン・イット・ライト
- コンタクト
- ホライズン ※日本盤ボーナストラック
- サカナクション 9thシングル「グッドバイ / ユリイカ」 / 2014年1月15日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1890円 / VIZL-607
- 通常盤 [CD] / 1260円 / VICL-36857
CD収録曲
- グッドバイ
- ユリイカ
- 映画(AOKI takamasa Remix)
初回限定盤DVD収録内容
- 「ユリイカ」 MUSIC VIDEO
- Behind the scenes of SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction -LIVE at MAKUHARI MESSE-
サカナクション
山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースし、全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction」を開催した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。