ナタリー PowerPush - 蝶々P
殿堂入りボカロP新作完成 ピアノで描く“現実の裏側”
曲ごとに違う物語があって、主人公もそれぞれ別
──曲制作の手順を教えてください。作曲はギターで行うのでしょうか?
リズムから入ったりメロから入ったりコードから入ったり、手順は時と場合によっていろいろです。作曲するときはたいていギター、たまにピアノですね。何も使わずにDAWのピアノロールだけでやるときもあります。
──アレンジするときに心がけていることはありますか?
あまりないです……。いや、本来なら心がけるべきなんでしょうけど。前に音楽理論をしっかり勉強しようと思ったことがあったんですけど、余計にわからなくなってしまって。今でも理詰めでアレンジするっていうのができなくて悩んだりしてます。
──作詞と作曲、どちらが先ですか?
曲が先ですね。歌詞を先に書いても、それに合わせてメロディをつけるということができないので。作曲をしているときに歌詞が浮かんでくることがあって、そこから話を膨らませていくパターンが多いです。一生懸命搾り出した言葉よりも自然に出てくる言葉を大切にしています。
──「星屑メソッド」のようなストレートな恋愛の詩もあれば、「クランベリー」や「Black Board」のような、聴き手に考えることを要求するひねった歌詞もあります。どのように作詞をされているのでしょうか?
昔の曲はストレートで、最近の曲は複雑な歌詞の曲が多いと思います。作詞のやり方を決めているわけでもないんですが、前よりも「なんでこう思うんだろう」とか「こういうときってどんな気持ちなんだろう」というところまで考えて歌詞を書くようになりました。なので最近の曲はメタファーというか、比喩表現的な部分があったりするんだと思います。
──作詞に関して影響されたアーティストや作家などはいますか?
俗にロキノン系と呼ばれるアーティストの楽曲は中学、高校の頃によく聴いていて、作詞だけでなく作曲の面でも影響されていると思います。あと、音楽には関係ないですがマンガはけっこう読みます。特に歌詞を書くときってアウトプットの量が大きいので、常に曲を聴いたりする以外にもインプットは欠かさないようにしています。
──初音ミクやGUMIをイメージして書かれていますか? それとも別の主人公を想定しているのでしょうか?
別の主人公を想定しています。僕の中では曲ごとに違う物語があって、やっぱり主人公もそれぞれ異なります。
──「EXIT TUNES ACADEMY」ではステージにも立たれていますが、ライブはお好きですか?
ライブは好きですよ。会場の一体感というか、あの感じも。特にETAってすごいアットホームだと思うんですよ。普通にバンドを組んで対バンとかするとなんとなくアウェーな雰囲気とかあるんですよね。みんな別々のバンドさんを観に来るわけじゃないですか。でもETAってひょっこり出て行ってもみんな温かく迎えてくれて、一緒に盛り上がれて。ライブが終わるたびにまたやりたい、もっといい演奏をしたいって思いますね。あと控え室でほかのボカロPさんとかと話したりするのも毎回楽しみだったりします。
アルバム1曲目はNidy-2D-さんのイラストを眺めながら聴いてください
──アルバムにはすこっぷさん、ジミーサムPさん、Neruさんがアレンジしたボーナストラックも収録されています。それぞれの感想を聞かせてください。
すこっぷさんは得意のピアノを生かしたアレンジをしてくれています。僕とはまたちょっと違う感じのピアノの使い方が新鮮でした。ジミーサムPさんはもともとバラードだった曲をロックアレンジしてくれました。軽快なバンドサウンドは聴いていて気持ちがいいですよね。Neruさんのアレンジは4つ打ちでエレクトロ系の要素が強いと思います。僕はこういうアレンジを作るのが苦手なので勉強になりました。どのアレンジも原曲の面影は残しつつ、いろんな角度からのアプローチになっていて面白いと思います。
──ジャケットは前作に引き続きNidy-2D-さんです。依頼された理由は?
pixivなどでイラストを見かけていて、前々からぜひ依頼したいと思っていたんです。最初に見たときから繊細な線や色の使い方、全体的な質感がすごく好きで「Glorious World」のジャケットイラストは絶対Nidy-2D-さんにお願いしたいと思って。そのとき送ってもらったラフを見た瞬間は鳥肌でしたね。もうそのときから2ndアルバム作ることになったらまた絶対お願いしようって決めていました。実は今回のアルバム表題曲の制作では、なかなか全体のイメージや歌詞が決まらなくてかなり苦しんでたんですが、一番悩んでいた時期にNidy-2D-さんのジャケットイラストが届いて、そこからインスピレーションを受けて今の歌詞ができあがっています。なので1曲目の表題曲はNidy-2D-さんのイラストを眺めながら聴いてもらえたらと思います。
──最後にアルバムを購入された方、しようとしている方に向けてメッセージをお願いします。
いろんな方のご協力もあり、無事にアルバムを完成させることができました。できるだけ多くの方に手にとっていただき少しでも何かを感じてほしいと、それだけを考えて制作しました。僕の中では1stアルバムを超える作品になったと思っています。たくさんの言葉を音に乗せて「Fictional World」に詰め込んであるので、ぜひ楽しんでいただければと思います!!
- ニューアルバム「Fictional World」 / 2013年8月7日発売 / 2000円 / EXIT TUNES / QWCE-00284
- 「Fictional World」ジャケット
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収録曲
- Fictional World / 蝶々P feat. 初音ミク
- 幻奏サティスファクション / 蝶々P feat. 初音ミク
- Black Board / 蝶々P feat. 初音ミク
- クランベリー / 蝶々P feat. GUMI
- ウソツキツツキ / 蝶々P feat. GUMI
- Star Bright / 蝶々P feat. MAYU
- 2つの恋,1つの歌 / 蝶々P feat. 初音ミク
- White Prism / 蝶々P feat. 初音ミク
- 月見夜ラビット / 蝶々P feat. 初音ミク
- 星屑メソッド / 蝶々P feat. 初音ミク
- そういうこと。 / 蝶々P feat. 初音ミク
- it is / 蝶々P feat. MAYU
- 背中合わせの僕と君 / 蝶々P feat. 初音ミク
- 群青まで。 / 蝶々P feat. 初音ミク
- Black Board(Scop Arrange) / すこっぷ×蝶々P feat. 初音ミク
- 心拍数♯0822(Jimmythumb Arrange) / ジミーサムP×蝶々P feat. 初音ミク
- ラブアトミック・トランスファー(z'5 Arrange) / Neru×蝶々P feat. 鏡音リン、鏡音レン
蝶々P(ちょうちょうぴー)
2008年から動画共有サイトにボーカロイドを使ったオリジナル曲を投稿している、美しいピアノロックを得意とするボカロP。2009年に「ラブアトミック・トランスファー」が再生数10万以上となり初めてVOCALOID殿堂入りを果たす。2010年発表の「え?あぁ、そう。」「心拍数♯0822」の2曲はミリオンを達成し代表曲に。2011年に「Glorious World」、2013年に「Fictional World」という2枚のアルバムをEXIT TUNESからリリースしている。