ナタリー PowerPush - 蝶々P

殿堂入りボカロP新作完成 ピアノで描く“現実の裏側”

最近はエレクトロスウィングをよく聴いてます

──では今回のアルバムについて聞いていきます。タイトルの「Fictional World」ですが、やはり前作「Glorious World」との関連が気になりますが。

「Fictional」という単語には「作り話の」「架空の」といった意味があります。前作の「Glorious World」が現実の話だとしたら、その裏側みたいな感じだと思ってください。

──アルバム冒頭の「Fictional World」では、静かなイントロから疾走感あふれるピアノとともに一気に蝶々Pさんの世界に引き込まれます。タイトル曲ということもありやはり特別な曲なのでしょうか?

そうですね。アルバムの中身を一番色濃く表している曲だと思うので、そういう意味では特別と言えるかもしれないですね。「見たくない、聞きたくないものをすべて投げ出した虚構の世界でも思い通りにはならないことがあって、現実をすべて受け入れて逃げずに向き合えば理想も現実になるんだよ」っていう、応援歌というかメッセージソングみたいな感じですね。

──「幻奏サティスファクション」「Black Board」「クランベリー」とここ1年の間に出された曲が前半に並んでいます。これらはだいたい同時期に作られたものでしょうか? それともけっこう時間は空いてますか?

「Black Board」と「クランベリー」はわりと近い時期に作ったような記憶があります。「幻奏サティスファクション」はかなり間が空いていますね。制作には波があるタイプなので、多いときは5曲くらい並行で作業したり、逆にまったく何も進まない時期もあったりします。

──「月見夜ラビット」はほかの曲と違いファンキージャズ風ですが、こういった音楽もお好きなんですか?

ジャズ系は独特のオシャレ感がけっこう好きです。普通の曲でもピアノでジャズっぽいフレーズを入れると艶やかになりますよね。最近はヨーロッパの方でメジャーになってきているエレクトロスウィングというジャンルの曲をよく聴いています。

旧曲もかなり手直ししてるので、違いを楽しんでほしい

──「Star Bright」も変わった曲調ですね。MAYU初オリジナルということで、ミク曲とは変えてみようと思われたのでしょうか?

普段はあまり意識していないんですけど、この曲はMAYUを使うことが前提だったので、MAYUを使いやすいような曲を意識してます。よく「使うボーカロイドはどういう基準で選んでいますか?」と聞かれたりするんですが、曲を描いているときのイメージとか気分で選ぶことがほとんどです。あと最近使ってないからたまにはこっち使おうとか、けっこう適当ですね。

──最近の曲に混じって「2つの恋,1つの歌」「星屑メソッド」「背中合わせの僕と君」など少し前の曲も収録されています。これらを入れた理由は?

もちろんアルバムの構成や雰囲気を考えて選曲しているというのもありますが、最近僕の曲を聴くようになった方にも昔の曲を聴いてほしいというのと、昔から応援してくれている方にも喜んでもらいたいという理由があります。今回再レコーディングするにあたって細かい部分の手直しをしています。イントロや間奏も投稿したときとは少し変わっていますので、そのあたりも比較して楽しんでもらえたらと思います。

──曲順はどのように決めたのでしょうか?

まずは通して聴いたときに違和感がないように。これは一番大事にしてます。基本的には最初に勢いのある曲を持ってきて、後半にバラードなどのゆったりした曲を選んでいます。ただ、これだけだと中だるみしたり後半で飽きてしまったりするので、バラードでもエモ寄りなものを入れたり、途中でテンポの速い曲を挟んだりして緩急をつけるようにしています。

──今回のアルバム全体でのテーマなどはありますか?

前作「Glorious World」の世界観を踏襲しつつ、また新たな物語が始まるようなイメージでアルバム制作に取りかかりました。あまりテーマというところまでは意識していないですが、前作の内容も大事にしながら制作しました。

全部ピアノでやっちゃえばいいじゃん

──新曲も5曲入っています。僕は「White Prism」のピアノに度肝を抜かれたのですが……。

あれはもう滅茶苦茶ですね(笑)。やりたい放題やってます。アルバムの中にすごく疾走感のある曲が欲しくて作りました。本当はギターも入れるつもりだったんですけど、あまりにもピアノを詰め込みすぎたせいでスペースがなくなってしまって諦めました。ほかの新曲もかなり気合いが入っていますよ。

──蝶々Pさんといえばやはりほとんどの曲に入っている歌うようなピアノが印象に残りますが、ピアノには思い入れがあるのでしょうか?

思い入れというか発想の転換ですね。ロックやるっていったらギターじゃないですか。でも楽曲制作を始めてすぐの頃はギターの録音機材なんかも全然そろえられなかったんです。それでもう開き直って、全部ピアノでやっちゃえばいいじゃんっていうのが最初の発想ですね。ピアノがメインのロックっぽい曲ってあまりなかったので、やってみたら面白そうというのもありました。

──ピアノプレイで影響を受けたアーティストはいますか?

WAGNER LOVEというドイツ出身のバンドには影響を受けているかもしれないです。全然関係ない話ですが作曲家のワーグナーといえばピアノソナタなんかが有名ですよね。

──ピアノは実際に弾いているのですか? それとも打ち込みメインですか?

ピアノは自宅で録音するのは難しいですし、あとからキー変更するのもけっこう大変なので、基本的には打ち込みです。ただ、一応物理的に演奏可能な範囲で作っています。過去にピアノ2台とエレクトーン2台でアンサンブル演奏なんかもやったことがあって、同じピアノでも複数台使っている想定で曲を作るときもありますね。

──ブログを拝見するとレスポールを2本、ビンテージセミアコも所持してらっしゃいますが、やはりギブソンはお好きなんでしょうか?

エレキギターが欲しくて楽器屋さんに行ったときにレスポールにひと目惚れしてしまいまして。それからギブソンのギターを好んで使うようになりました。カッティングなんかをやるときはテレキャスターも使いますけどね。セミアコはアルバム制作が始まった頃に購入したんですが、使い勝手がいいのでアルバムでもメインで使用しています。

──好きなギタリストはいますか?

カート・コバーンとSLASHが好きです。将来ギターの似合うおっさんになりたいです。

ニューアルバム「Fictional World」 / 2013年8月7日発売 / 2000円 / EXIT TUNES / QWCE-00284
「Fictional World」ジャケット
収録曲
  1. Fictional World / 蝶々P feat. 初音ミク
  2. 幻奏サティスファクション / 蝶々P feat. 初音ミク
  3. Black Board / 蝶々P feat. 初音ミク
  4. クランベリー / 蝶々P feat. GUMI
  5. ウソツキツツキ / 蝶々P feat. GUMI
  6. Star Bright / 蝶々P feat. MAYU
  7. 2つの恋,1つの歌 / 蝶々P feat. 初音ミク
  8. White Prism / 蝶々P feat. 初音ミク
  9. 月見夜ラビット / 蝶々P feat. 初音ミク
  10. 星屑メソッド / 蝶々P feat. 初音ミク
  11. そういうこと。 / 蝶々P feat. 初音ミク
  12. it is / 蝶々P feat. MAYU
  13. 背中合わせの僕と君 / 蝶々P feat. 初音ミク
  14. 群青まで。 / 蝶々P feat. 初音ミク
  15. Black Board(Scop Arrange) / すこっぷ×蝶々P feat. 初音ミク
  16. 心拍数♯0822(Jimmythumb Arrange) / ジミーサムP×蝶々P feat. 初音ミク
  17. ラブアトミック・トランスファー(z'5 Arrange) / Neru×蝶々P feat. 鏡音リン、鏡音レン
蝶々P(ちょうちょうぴー)
蝶々P

2008年から動画共有サイトにボーカロイドを使ったオリジナル曲を投稿している、美しいピアノロックを得意とするボカロP。2009年に「ラブアトミック・トランスファー」が再生数10万以上となり初めてVOCALOID殿堂入りを果たす。2010年発表の「え?あぁ、そう。」「心拍数♯0822」の2曲はミリオンを達成し代表曲に。2011年に「Glorious World」、2013年に「Fictional World」という2枚のアルバムをEXIT TUNESからリリースしている。