CHiCO with HoneyWorksのニューアルバム「iは自由で、縛れない。」が10月26日にリリースされた。
「瞬く世界にiを揺らせ」から約2年ぶりのアルバムとなる本作には、「鬼ノ森」(映画「樹海村」主題歌)、「冒険のVLOG」(テレビアニメ「EDENS ZERO」エンディングテーマ)、「我武者羅」(テレビアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」オープニングテーマ)など、既発シングル曲をたっぷりと収録。さらに、疾走系の応援ソング「リベンジゲーム」や友情物語をリアルに描いた「ハートの誓い」、チコハニ新機軸のラブソング「きっと別れるよ」「あなたは恋をしてない」という4編の新曲や、HoneyWorksがサウンドプロデュースを手がける可憐なアイボリーの「ハンコウ予告」のカバーも収められている。
多彩な楽曲群を通してさらなる成長を実感させる本作について、音楽ナタリーではボーカルのCHiCOにインタビュー。前作からの2年でのさまざまな変化を振り返ってもらいながら、本作の制作にまつわるエピソードをたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき
CHiCO、コロナ禍でDTMに挑む
──CHiCO with HoneyWorksのアルバムは毎回カラフルな楽曲が多数収録されているのが定番ですけど、ここにきて曲調や表現の振り幅がさらに大きくなっている印象です。
今回のアルバムはコロナ禍に入ってから作られた楽曲が詰まっていますけど、改めて全16曲を聴いて感じるのは、「本当にいろんな曲を歌ったな」ということで(笑)。自分でも「あ、こんな歌い方をしたんだ」という発見があったりとか、歌い方や声色のレパートリーを改めて見つめ直すことができたアルバムでもあると思います。そういう部分も含め、大満足の1枚になりましたね。
──コロナ禍での活動はいろいろな制限があったとは思いますが、その中で歩みを止めず、さらに進化するために何か取り組んでいたことはありましたか?
まずハニワ(HoneyWorks)のみんなが、足を止めずに動き続けようという思いでいてくれたのが大きかったんですよね。ちょっとでも動きを止めるとすぐに忘れられてしまう時代だからと、精力的に曲を書き続けてくれたからこそ、私もいろいろな曲を歌うことができていたので。ただ、そんな中、自分でも例えばゲーム配信を始めたりとか、いろんな刺激を自ら求めようとしていたところはあって。一番大きかったのは、自宅で仮歌を録る環境を作れたことだったと思います。
──へえ。DTMの環境をご自宅に整えたと。
はい。私は機械に疎いので今まであえて触れないでいたんですけど、いざ始めてみるとその作業はすごく楽しいものでもあって。アルバムに入っている曲で言うと、「それいけ!サラリーマン」と「ロボット」は自分で仮歌をレコーディングして、それをもとに「ここはもうちょっとこうしようか」みたいなやり取りをしました。そういったやり方をしたことが、アーティストとしての成長につながった部分はあったのかなと思います。
──自ら仮歌を録る作業を経験したことで、ご自身の歌に関して新たな気付きはありましたか?
自分で仮歌を自由に録ってみると、のっぺりした歌に聞こえてしまう部分がすごく多かったんです。そのときに、これまでのレコーディングで「もうちょっと大げさに歌って」と言われることがよくあったことを思い出して。「なるほど、自分が思っている以上にオーバーな歌い方をしないと聴いてくれる人をハッとさせられないんだな」ということに改めて気付いたというか。いろんなディレクションの裏にある意図をより深く理解できたのは大きかったなと思います。
──仮歌の段階から自分なりのアイデアをいろいろ試すこともできそうですよね。
そうですね。「それいけ!サラリーマン」ではちょっとコブシを使ったり、自分の中にあるいろんな引き出しをふんだんに使った仮歌を提出したんですけど、「その歌い方いいね」と言って採用してもらえた部分がすごく多かったんです。今までは、ある程度イメージをもらい、そこに自分の色を重ねていくやり方だったけど、最初から自分で提案できるのはやりがいがあるし、それが採用されれば大きな喜びにもなりますからね。自分なりに歌ったものをいいと言ってもらえたことで、これまでの活動の中で培ってきたものがちゃんとあるんだなって改めて思えたのもうれしかったです。アーティストとしての自信にもつながって、これからもっとがんばろうって思えましたね。
──今年でデビューから丸8年経ちましたけど、歌うということはまだまだ奥深いものだなと感じますか?
本当にそう思います。今回、Cubase(音楽制作ソフト)を使って仮歌を録ってみたことで、さらにもっと先があるんだなってことに気付きました。PCのモニタ上の波形を見れば、ここでブレスして、ここではビブラートを使っているといったことが一発でわかるんですよ。しかも、波形の形でビブラートのかけ方の良し悪しもわかってしまうし。
──ご自身の歌が視覚化されるということですもんね。
そうそう。まだすべてを理解したわけではないですけど、わからないながらにも画面を通して自分の声に向き合うことでいろんな気付きが得られますからね。機械をもっと使いこなせるようになれば、また自分の歌が変化することもあるんじゃないかなって気がします。ホントにもっとがんばろうって思いますね。
素顔を見せたCHiCOに訪れた変化
──もう1つ、ここ2年での変化で言えば、「THE FIRST TAKE」への顔出し出演や実写でのミュージックビデオが制作されるなど、チコハニの見せ方にも変化が現れましたよね。その流れが本作の初回限定盤Bでの撮り下ろしジャケットにもつながったと思うのですが。
2020年に「THE FIRST TAKE」へ出演させていただいたことが大きな影響を与えてくれて、活動の幅がまたグッと広がった実感がありました。それ以降はSNSの使い方もちょっと変わって、チコハニのことを見てくれる方が今まで以上に増えたりもして。そんな流れの中、今回の撮り下ろしジャケットを発表したときは、「わ、ついに実写ですか!」って喜んでくれる方が本当に多くて。デビューからの8年間、ずっとイラストでアプローチをかけていたので、ライブ以外で顔出しをすることに需要があるのかなってドキドキもあったんですけど(笑)、みんな好意的に受け入れてくれています。それは私自身、ずっと挑戦してみたいことでもあったので、今の状況はうれしいですね。
──YouTube公式チャンネルの「チコハニ通信」でも素顔で配信されていますよね。そこで見える素のCHiCOさんの姿に、より距離の近さを感じている人もきっと多いと思います。
「チコハニ通信」は公式だからこそできる内容ではありますけどね(笑)。私が付けているネイルとかアクセサリーに注目してくれる方もけっこう多いのが、自分としてはすごくうれしいんですよ。「見て見て! 今日のピアスかわいいでしょ?」ってみんなに言うのがずっと夢でもあったんです。自分から何かを発信できることの楽しさは、顔を出せるようになってからより感じるようにはなりましたね。
──今まで以上にチコハニとして理想の活動ができているということでしょうね。
はい、本当にそう思います。
また違った視点で皆さんを鼓舞したい
──ではアルバムのお話を伺いましょう。新曲で言うと、まず1曲目に疾走系のロックチューン「リベンジゲーム」が収録されています。いいオープニングですね。
これは甲子園をイメージした曲なんです。以前、アニメ「ハイキュー!! TO THE TOP」のエンディングテーマとして「決戦スピリット」(2020年リリースの12thシングル)という曲をリリースしたんですけど、その曲をここ1、2年、バレーボールの世界大会やニュースのスポーツコーナーで使っていただく機会がとても多いんです。アニメを飛び越えて、スポーツシーンで幅広く認知していただいているというか。なので、今回はまた違った視点で皆さんを鼓舞できるような応援ソングを作りたいね、という話から「リベンジゲーム」が生まれました。
──「リベンジ」をキーワードとするストーリー性のある歌詞にグッときました。
この曲では野球部の先輩と後輩という関係性を描いている感じで。先輩の晴れ舞台の日に、後輩である自分がミスをしたことで試合に負けてしまった。だから来年こそは、先輩の思いを背負って自分たちが夢を叶えるんだっていうスポ根的なストーリーですね。自分も昔スポーツをやっていたけど、大きな大会に出場することはできなかったので、そこへの憧れを込めつつ、みんなの背中を押せるようにカッコよく歌うことを意識しました。
──サウンドに負けない力強いボーカルが響いていますよね。
レコーディングでは「『決戦スピリット』のようなゴリゴリのカッコいい歌い方でよろしく!」ってハニワメンバーから言われて(笑)。当時の歌い方も覚えていたし、自分としても得意な歌い方なので、仮歌の段階から気持ちよく歌うことができました。ただ、サビの「研ぎ澄ませろ」のところは裏声で歌うべきなのか、それとも地声で歌うのかで迷う瞬間もありました。結果的にハニワの皆さんと相談しながら、一番いい形で歌うことにして。1番と2番で少し聞こえ方が変わる歌になっているところが面白いポイントだと思います。
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