音楽ナタリー PowerPush - Curly Giraffe

高桑圭の音楽履歴書

“塗り残し”を出すスタイル

──Curly Giraffeは2作目まで匿名性を重視されていましたよね。

ええ。英語で歌うことを決めてたので、ユニットっぽい名前にして、ジャケットに僕の写真もない作品を出せば洋楽だと間違えて聴かれるかなとか。もしくは70年代に出た隠れた名盤の再発盤なんかに見えたら面白いなっていういたずら心から、しばらく高桑圭の名前を出してませんでしたね。

──それが2007年頃からインタビューを受けるようになって、表に出てきた印象があるのですが、それは何かきっかけがあったんですか?

Curly Giraffeとしての初めてのライブをやってからですね。初めて音源を発表した当初はライブをやることも想定してなかったんで、素性を明かさなくてもいいと思ってたんですけど。ライブをやってほしいという要望を受けて、Curly Giraffeとしてステージに立つ以上は出てもいいかなって。ただミュージシャンはプロフィールが大事なんじゃなくて、そのとき鳴らしてる音が一番大事だとは思うんですよね。

──キャラクターやバックグラウンドが公になっている音楽は興味がないですか?

高桑圭

いや、人のは興味があるんですよ(笑)。でも自分の場合は、あえて公表しなくてもいいかなって思ってた。

──自分の過去や性格が音楽と直結してると思われたくなかった?

ええ。もちろん自分の聴いてきた音楽が作っている音楽に影響してるとは思うんですけど、それをあえて出さなくてもいいかなと。

──なるほど。Curly Giraffeの始まりもそうですが、高桑さんはリスナーや周囲の意見を取り入れつつ活動を広げていく傾向があるんでしょうか?

そうですね。自分からガツガツ行くタイプではなくて。すべてに対しておこがましい気持ちがあるんです。そう言ってくれるのならやってみよう、みたいな。いまだにこんなに長くやってるのになんで自信持てないんだろうって思いますけど。と言いながら、がんばって前に出ようと思ってるんですけどね、今(笑)。

──(笑)。Curly Giraffeの音楽は、初期から“オーガニック”という表現をされていたと思うんですが、そのことについてご自身ではどう感じてますか?

よくオーガニックな音楽とか言われるんだけど、抵抗を感じるんだよね。それは僕自身の生活が全然オーガニックじゃないから(笑)。健康に気は遣ってないし、料理をするうえでも食材にこだわらないし。

──“オーガニック”と言われるならそこまで徹底しないといけないと。

そう(笑)。ただね、東京出身の人間なので、カントリーサイドに憧れがあるんですよ。そういう部分が音に出てるかもしれないですね。地平線が見える風景だったり、大自然だったり。

──幼少期にオーストラリアで暮らしてた頃に見た景色だったりも影響してそうですね。

僕の場合、風景から音が生まれるから。具体的な風景じゃないんだけど、色だったり匂いだったり、手触りだったり……そういうイメージから曲が生まれますね。逆に風景が浮かばないと、曲作りが進まない。音の構築だけを考えてると面白いアイデアが浮かばないんです。

──どんなときに曲が浮かびますか?

寝る直前が多いですね。一番リラックスしてるときに、頭の中に鳴るんです。その瞬間にiPhoneに鼻歌で入れて。家にいるときはギターを持って、コードを付けてって感じですね。

──作曲や楽器演奏は基本的にお1人ですが、作詞はデビュー作から一環してジーニー・クラッシュさんが手がけてますよね。歌詞は彼女にお任せだそうですが、歌うときは曲の世界に入り込んでいるんでしょうか?

高桑圭

実はね、レコーディングしてるときは曲の世界に入り込む余裕がなくて。譜割に歌を収めるので精一杯なんです(笑)。あと感情が入りすぎるものが好きじゃないんですよ、僕が。どっか涼しさや俯瞰した部分を残しておきたいんですよね。だから自分で歌詞を書かないスタンスだったりもするし。音もそうなんですけど、突き詰めすぎると暑っ苦しくなるんで。そういうふうにしたくないんですよね。

──リスナーとして聴くのも涼しさのある音楽が多いんですか?

歌が暑っ苦しいのは苦手ですね。例えばLed Zeppelinは嫌いじゃないんだけど、ロバート・プラントの歌が苦手なんですよ。それで好きになれなかったり。あと僕、キャロルも好きなんだけど、永ちゃんが歌ってる曲よりも、ジョニー大倉の歌が好きなんですよ。彼の懸命で素朴な歌にグッとくるというか。完成されてないほうがいいというか。例えば自分の彼女が、慣れない手つきで一生懸命ごはんを作ってくれるほうが愛情が伝わってくるじゃない? 自分の歌も決してうまくはないと思ってるんです。だからこそ、そうじゃないところを追求していく。アレンジもそうだけど、突き詰めればまた違う形ができると思うんです。でも、あえて“塗り残し”を出したいんですよね。

──聴き手が入り込む隙間みたいなものでしょうか?

そうですね。最近のヒットチャートに登場する曲って、洋楽、邦楽問わずみんな味が濃くて、密度が高い気がして。簡単に音の味を濃くできる技術があるからなんでしょうけど、情報が過多な気がする。だから時代の流行に逆行している部分はあるかもしれないですね、Curly Giraffeは。

ジャケット写真から生まれた「Fancy」

──そんなCurly Giraffeの新作「Fancy」ですが、前作から少し期間が空きましたね。サポートや高橋幸宏 with In Phaseとしての活動が忙しいからなのかなと思ったのですが。

それもあるんですけど、全然曲が浮かばなかったんですよ。

──過去のインタビュー(参照:Curly Giraffe「Idiots」インタビュー)で、「作曲が趣味みたいなものなので、曲はまだまだ売るほどありますよ」っておっしゃってたのでてっきり順調に制作されたのかと。

高桑圭

ずーっとアルバムを作ろうと思ったんだけど、本腰を入れる気にならなくて。素材もあったんだけど、納得できる形に作れず。今まではストックの曲を入れたり、昔作った曲をブラッシュアップしてたんですけど、今回はほぼ今年に入って作った曲ばかりなんですよ。

──それはCurly Giraffeとしてはかなり珍しいのでは?

そうなんです。で、全然曲ができてないのに先にジャケット写真を撮って(笑)。去年の夏にハワイのマウイ島で撮ってきたんですけど、このジャケットのイメージをもとに曲を作っていったんです。

──それは面白いですね。そのジャケットですが、全体的にナチュラルですけど、構図だったり、高桑さんのたたずまいはどこか“非日常”な印象を受けました。

うん。地元の人からすると日常の風景なんだろうけど、僕からすると白昼夢っぽい雰囲気だったんですよね。で、今回はそういうタイトルを付けたいと思って、ジーニー・クラッシュさんに相談したら「Fancy」がいいんじゃないかと。最初「Curly Giraffeが『Fancy』ってタイトルのアルバムを出すのはどうなんだろう?」って思ってたんだけど、ちゃんと意味を調べてみたら「気まぐれで自由な空想」とかそういう意味もあって。まさに僕がジャケットで感じたことだったり、アルバムで表現していることに近いと思って採用したんですよね。自分がそもそもファンシーって言葉の意味を間違えて捉えていたことも含めていいなって。

──恐らくアルバムの制作時期だと思うんですけど、昨年の12月に高桑さんがTwitterで「ソロだから今ひとつピンと来る曲が出来ない…。 自由すぎるのも問題だ。 そもそも自由とは…。 自分がOKだからOKという環境に飽きた。 独りよがりは孤独なのです。」と呟いていらっしゃって。かなり難産だったからこそ、手応えもあったのかなと。曲調もこれまで以上に多彩で、音の作り方もより細やかな印象を受けました。

なるほど。今回、初めてアルバム完成しないかもって思ったんですよね。これまでは1曲を1~2日で完成させて、それをアルバムにまとめていたんですけど、今回は全体の構成を考えながらちょっとずつ作ってたんです。だから数日かけて1曲を仕上げて、さらにアルバム制作の最後にさらに調整してみたり。僕としてはそういう手法で作品を作ったことがなかったんで、面白くもあって。だから今回のアルバムを作ることで、自分の中の“新しいページ”をめくれた気がするんです。今、Curly Giraffeとしてやりたいことが止まらないんですよね。

Curly Giraffe - Fake Engagement Ring 【MUSIC VIDEO short ver.】
ニューアルバム「Fancy」/ 2014年8月6日発売 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64192
[CD] 3132円 / VICL-64192

iTunes Storeにて配信中!

収録曲
  1. Fake Engagement Ring
  2. The Two of Us
  3. My Beautiful Creature
  4. Goodbye My Chocolate
  5. Not in a Million Million Years
  6. Mosman1974
  7. People Are Strangled
  8. Strange World
  9. Women Are Heroes
  10. Road
  11. Manassas
  12. Blue Ocean (Album mix)
Curly Giraffe(カーリージラフ)
Curly Giraffe

2005年10月にタワーレコード限定盤「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ノンプロモーションにもかかわらず外資系CDショップやiTunes Storeなどでロングヒットを記録した。2009年4月に3rdアルバム「New Order」をリリース。同年10月にはBONNIE PINK、新居昭乃、平岡恵子、安藤裕子、Chara、LOVE PSYCHEDELICO、Cocco、木村カエラという8組の女性アーティストがCurly Giraffeの楽曲をカバーする企画アルバム「Thank You For Being A Friend」が発売され、大きな話題を集めた。作曲、演奏、録音、アートワークなどを1人でこなし、ライブでは白根賢一、堀江博久、名越由貴夫、奥野真哉といった実力派アーティストとともにセッションを展開。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。2014年8月に2年5カ月ぶりとなるアルバム「Fancy」をリリースした。