ナタリー PowerPush - Curly Giraffe
自宅スタジオ解説で探るCurly Giraffeの秘密
プリセットを使わないなんてもったいない!
──実は今回のアルバムですごく気になってることがあって。ドラムの音色が過去のアルバムとは違う気がしたんですけど、プラグインを変えたんですか?
そう、新しくドラムの音源を買ったの(笑)。スネアは生で叩いてるんだけど。
──やっぱり!
今回は新しく買ったBFD(※Media Integration社が発売しているドラム音源ソフトウェア)を使いましたね。
──ドラムの打ち込みって大変ですよね。1個1個クリックで打っていったり、一度叩いてから修正してみたり。高桑さんはどんな形で作るんですか?
僕ねえ、実はApple Loops(※Appleが販売しているドラムビート、リズムパート、およびその他の繰り返しパターンを簡単に曲に追加できる音楽ファイル)の打ち込みデータを使ってるんです。曲に合ったパターンのデータを最初にザクっと入れちゃうの。そのあとでパターンを組み替えたりして。ハットとか1個1個打ち込んでいくと、時間がかかるからもったいなくて。
──それは意外です。
絵と同じなんだけど、ドラムに関してはデッサンみたいな感じで完成させないまま、ほかの音を作り始めるの。1つのパターンを最後までループで使っちゃって、その上にギターとかキーボードとか上モノを入れて。最後に改めてドラムの緩急をつけていく。だから最初の段階のドラムはあくまでもクリック代わりで、自分のイメージと近いやつをApple Loopsから探して貼り付けるだけ。ハットとか1個1個打ち込んでたら、途中で「どんな曲だったっけな」ってなっちゃうから。でもそれを友達のミュージシャンに言ったら「外人」って言われる(笑)。
──あはははは!
なんでかって言うと、海外のアーティストってプリセットの音を躊躇なく使ってるから。VAN HALENの「Jump」のイントロって、OB-Xaっていうシンセサイザーの電源入れたときの音だもの。プリンスもプリセットの音源をたくさん使ってるし。でもその気持ちがすごくわかるんだよね。だって音色作ってる時間がもったいないから。
──アイデアを大切にしてるんですね。
ベードラ1つの音にすごいこだわる人もいるし、もちろん音楽によっては大事なことだと思うけど、僕の場合そこに労力を使うのがもったいないって思うタイプで。先に曲を完成させたいっていう気持ちがある。だから僕はApple Loopsを結構使ってますね。でも、なんでみんな使わないんだろう?
──出来合いの音に対する罪悪感があるのかもしれない。
僕はそういう考えがないんだよね。だって全部権利フリーだし、もったいないじゃない! インストゥルメンタルの曲だと、僕ほとんど演奏してないんですよ。それこそApple Loopsとか、サンプルの音源を使ってて。「FLEHMEN」に入ってる「Baron Nishi and Uranus」は、ベースすら弾いてないですから。
──ええっ! それでもCurly Giraffeの音楽になるっていうのがすごい。
どんな楽器や機材を使っても、にじみ出るものがあるんでしょうね。
弾き語りをして発見したこと
──ところで先程お話があったとおり、去年はCurly Giraffeとして弾き語りツアーを回られてましたが、何かきっかけがあったんですか?
本当はバンドでツアーをしたかったんだけど、東日本大震災があっていろんなことが一瞬止まったじゃないですか。そうするとバンドでライブをやるのは労力がかかりすぎちゃうから、1人でやってみようかなと思って。実は3年くらい前に弾き語りでライブをしたことがあったんだけど、自分が当時表現したかった音楽とかけ離れてたんでしばらく封印してたんですよ。でも震災があって、1人でもライブをしなきゃ、胸を張って1人でもCurly Giraffeだって言えるようにしなきゃって思って。修行だと思ってツアーを組んだんですけど、おかげでいろんな発見があったんですよね。
──先程おっしゃってたコード進行の類似点とか?
それもそう。あとは曲の中での緩急のつけ方を発見したり。バンドでライブをしてた頃は、そこまで意識が回ってなかったんだよね。別にライブに関してこうしなきゃっていう考えがあるわけじゃないんだけど、1人でも、バンド編成でもCurly Giraffeをできるようにしておきたいとは思ってる。だから弾き語りツアーをしたことで、すごく気が楽になったんです。あんまりバンドの形にこだわらなくていいんだって。考えてみたらソロプロジェクトなんだから、ライブはもっと自由でいいんだって。
CD収録曲
- VEDEM
- Rose between two thorns
- go now
- Rootless wanderer
- Enchanted road
- Midnight explorers
- Baron Nishi and Uranus
- Necessary evil
- Just barely
- a week
- seize and howl
Curly Giraffe(かーりーじらふ)
2005年10月にタワーレコード限定EP「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ノンプロモーションにもかかわらず外資系CDショップやiTunes Storeなどでロングヒットを記録した。2009年4月に3rdアルバム「New Order」をリリース。同年10月にはBONNIE PINK、新居昭乃、平岡恵子、安藤裕子、Chara、LOVE PSYCHEDELICO、Cocco、木村カエラという8組の女性アーティストがCurly Giraffeの楽曲をカバーする企画アルバム「Thank You For Being A Friend」が発売され、大きな話題を集めた。作曲、演奏、録音、アートワークなどを1人でこなし、ライブでは白根賢一、堀江博久、名越由貴夫、奥野真哉といった実力派アーティストとともにセッションを展開。これまで発表された楽曲はすべて英語詞で歌われており、海外でもリリースされている。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。
澤部渡(さわべわたる)
1987年12月生まれ、東京都出身。14歳より宅録活動をスタートさせる。これまでに、スカート名義でアルバム「エス・オー・エス」「ストーリー」などを発表。また、サポートメンバーとしてyes, mama ok?でベース、川本真琴のバックでサックス、昆虫キッズでパーカッションおよびサックスを担当するなどマルチプレイヤーとしても活躍している。