ナタリー PowerPush - Curly Giraffe

自宅スタジオ解説で探るCurly Giraffeの秘密

不得意な楽器から録る

──レコーディングはどんな手順で進めてるんですか?

普段から思い付いたメロディをICレコーダーに鼻歌で入れてるんです。で、時間があるときにその鼻歌を聴き直して、気分によって「今日はこの曲作ろう」と思ってレコーディングしてますね。楽器を持つと、手癖で作っちゃうから持たないようにしてて。楽器を持つとすぐなんとなく形ができちゃうし、そこで満足しちゃうのがイヤで。鼻歌だとイメージだから無限なんですよね。まあ、結果的に曲のコード進行は同じなんだけど(笑)。

──鼻歌って無限な分とりとめがないし、不安にならないですか? 頭の中で鳴ってる音が定着できるのかどうかとか。

インタビュー風景

それが不思議なんだけど、自分が弾けないことは思い付かないの。メロディも歌えないものは浮かんでこないし、自分が歌える範囲で気持ち良くなれるものだけが自然と出てくる。

──メロディを元にそのあとはどういう作業を?

だいたいアコギか鍵盤でコードを入れて、次に仮歌をすぐに入れちゃう。その段階でハーモニーも全部録っちゃうんですよ。っていうのは鼻歌でメロディを思い付いたときに、頭の中でコードもハーモニーも鳴ってるから。そこまで作ってから不得意な楽器からアレンジを考えつつ録っていく。

──なんで不得意な楽器から録るんですか?

僕ベースが本業じゃないですか。最初にベースを入れちゃうと、専門だからそれなりにカッコがついちゃうんですよ。そうすると、ほかの音を入れるアイデアが浮かばなくなっちゃう。むしろ不得意な楽器から録っていったほうが、アイデアがどんどん出てくる。ベースを先に録っちゃうと、ベースの自己主張が強すぎて、モロにベーシストのソロっぽくなっちゃう気がしてイヤなんですよ。

──Curly Giraffeの作品って、一般的なベーシストのソロ音源みたいにベースを弾きまくってるっていう感じじゃないですよね。

ベーシストとして主張したいことがあるからソロをやってるわけではなくて、純粋に曲を聴いてほしいんですよね。その結果、ベースを録るのはいつも最後。ベースは僕にとって音楽を作るための楽器でしかないんです。むしろ僕、鍵盤がすごく好きで。自分がちゃんと弾けないからかもしれないけど憧れがある。だからちゃんと弾けもしないのに、音色が好きだからってウーリッツアー買っちゃったりね(笑)。

Logic Proは作曲する人に優しい

──高桑さんはソフトはLogic Pro(※Appleが開発、製造している音楽制作ソフト)を使ってらっしゃるんですよね。僕もLogic Pro派なんです。一時期Pro Tools(※Avid Technologyが開発しているDAWソフト)が欲しくなったんですけど、高桑さんもLogic Proユーザーってことで安心したんです(笑)。ずっとPro Toolsを買わないといけないなって思ってたんで。

だいたいそうやってPro Toolsを買った人は「買わなきゃよかった」って言ってますね。曲作る人にとっては優しくないから。ミックス作業とかやるんだったら必要になってくるけど。僕はミックスは南石(聡巳)さんにお願いしてるから、ソフトは曲を作るときにしか必要ないんです。

──曲を作る人に優しいっていうのはどういう部分だと思います?

Logic Proに比べて、Pro Toolsは音を録るってことに特化してる部分があって。ソフトなんだけど、ミックス作業もできるようなハードとしての側面もあるんです。だから曲を作る上では使いづらい部分があって。僕にはLogic Proのほうが合ってる。

──今ミックスの話が出ましたけど、ミックスの作業はいつも南石さんにお願いしてらっしゃるんですよね。どれくらいの割合の作業を依頼してるんですか?

僕はラフミックスだけやって、それを元に仕上げてもらいますね。で、南石さんもLogic Pro上でミックスしてるんです。なんでかって言うと、プラグインの部分も共有したいから、僕のためにLogic Pro買ってくれたんですよ。

リスニングCDにするために第三者を入れる

──宅録のアーティストってミックスも全部自分でやる人もいますけど、Curly Giraffeは専門の方に任せてるんですね。

音を録る作業が1人なんで、僕としてはひとりよがりになりたくないんです。第三者も多少は入れたいっていうか。だからミックスは南石さんにお願いしてるし、マスタリングはバーニー・グランドマンにいつも依頼してる。

──なるほど。

マスタリングは絶対バーニーにやってもらいたいんですよね。南石さんのミックスが終わった時点ですごくいいんだけど、ギターのバランスを整えたほうがいいかなとか、そういう耳で聴いちゃう。だけどマスタリングが終わると、普段自分が聴いてる大好きな音楽と同じものになる。バーニーのフィルターを通すと、そこでリスニングCDに切り替わるっていうか。それがすごい不思議なんですよね。

インタビュー風景

──マジックが起きる?

ええ。でも、ロサンゼルスのスタジオに行って何度も作業してるところに立ち会ってるけど、つまみをチクチクチクチクいじってるだけにしか見えないの(笑)。アメリカって担当が分かれてるから、例えばバーニーが14:00にスタジオに来て、音を決めてシートにつまみのマークを書いてアシスタントに渡して。そのあとの作業や曲間を決めるのはアシスタント。だからバーニーは音だけ決めて2時間くらいで帰っちゃう。

──曲間の長さについて高桑さんの意見は伝えるんですか?

日本だと「何秒にしますか?」って訊いてくるから答えるんだけど、バーニーのスタジオだとアシスタントが決めてくれるの。作業してる間はスタジオにいなくていいからって言われて、夜に呼び戻されて聴くんですけどちゃんとアルバムの形になってる。1回聴いて意見くれって言われるんだけど、僕が何を伝えたいかってわかってくれてるくらい完璧なんですよ。

──だからクレジットにバーニー・グランドマンとアシスタントの名前を入れてるんですね。

アシスタントも一緒に作ってるからね。今回は時間がなくてマスタリングの現場に行けなかったんで、データだけ送ったんですけど、戻ってきたデータはいつもと変わらず完璧だった。

──厚い信頼を寄せているんですね。自分の作品に他人の手が加わったり意見が入るのは、気にならないですか?

僕の音楽家としてのエゴっていうのは、曲が完成したときに終わっちゃうんですよ。だからアルバムの曲順を自分で決めたこともないし。今回の「FLEHMEN」は収録曲も曲順もディレクターに決めてもらっちゃった。曲が完成したら僕は満足なんで、あとは聴いた人に委ねる。「これがいいよ」って言ってくれる人の意見を信頼するっていうか。1人で作っちゃうとあんまり面白くないからね。

──面白くない?

全部自分でやっちゃうと、客観的に聴けなくなっちゃうんです。自分の中にリスナーとしての気持ちも残しときたいから。だから曲順をディレクターに決めてもらって、マスタリングとミックスをやってもらうと、普通のリスニングCDとして聴ける。自分の好きな音楽に仕上がるんです。

──でもアルバムのアートワークは高桑さんご自身が手がけてるんですよね。そこはこだわりが?

ビジュアル面でもアイデアがあるから、自分でやっちゃう。昔グラフィックデザイナーを本職としていた時期があったから、デザインも得意だし。自分の中にアイデアがあるのに、人にお願いすると伝言ゲームになっちゃうから。だったら自分でやったほうが間違いがないし、純粋に楽しいんですよね。

ニューアルバム「FLEHMEN」 / 2012年3月7日発売 / 3045円(税込) / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-63852

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CD収録曲
  1. VEDEM
  2. Rose between two thorns
  3. go now
  4. Rootless wanderer
  5. Enchanted road
  6. Midnight explorers
  7. Baron Nishi and Uranus
  8. Necessary evil
  9. Just barely
  10. a week
  11. seize and howl
Curly Giraffe(かーりーじらふ)

2005年10月にタワーレコード限定EP「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ノンプロモーションにもかかわらず外資系CDショップやiTunes Storeなどでロングヒットを記録した。2009年4月に3rdアルバム「New Order」をリリース。同年10月にはBONNIE PINK、新居昭乃、平岡恵子、安藤裕子、Chara、LOVE PSYCHEDELICO、Cocco、木村カエラという8組の女性アーティストがCurly Giraffeの楽曲をカバーする企画アルバム「Thank You For Being A Friend」が発売され、大きな話題を集めた。作曲、演奏、録音、アートワークなどを1人でこなし、ライブでは白根賢一、堀江博久、名越由貴夫、奥野真哉といった実力派アーティストとともにセッションを展開。これまで発表された楽曲はすべて英語詞で歌われており、海外でもリリースされている。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。

澤部渡(さわべわたる)

1987年12月生まれ、東京都出身。14歳より宅録活動をスタートさせる。これまでに、スカート名義でアルバム「エス・オー・エス」「ストーリー」などを発表。また、サポートメンバーとしてyes, mama ok?でベース、川本真琴のバックでサックス、昆虫キッズでパーカッションおよびサックスを担当するなどマルチプレイヤーとしても活躍している。