ナタリー PowerPush - Curly Giraffe
自宅スタジオ解説で探るCurly Giraffeの秘密
高桑圭のソロプロジェクトCurly Giraffeが、ニューアルバム「FLEHMEN」をリリースした。前作「Idiots」から2年ぶり、ファン待望のオリジナルアルバムとなる本作は、Curly Giraffeにしか作り出せない風通しの良い名盤に仕上がっている。
今回ナタリーは、インディーポップユニット・スカートの中心人物として活躍する澤部渡をインタビュアーとして起用。自宅スタジオを訪問しているようなリラックスした雰囲気の中、レコーディングなどの手法を交えつつ、Curly Giraffeの世界を探ってもらった。
またこの特集の最後には、Curly Giraffeと親交の深い著名人たちによる愛情にあふれたコメントも紹介。待望の新作をさまざまな角度から味わってもらいたい。
取材 / 澤部渡(スカート) インタビュー撮影 / 中西求 文 / 中野明子
スタジオは普通の機材ばかり
ナタリー編集部 今回は「宅録」をキーワードに、スカートの澤部さんにCurly Giraffeの世界に迫っていただこうかと思いまして。
──ぜひレコーディングの舞台裏というか秘密を伺えたらなと。
そんな、秘密なんてないですよ(笑)。
──いやいや! 絶対あると思ってます。まず、今回リリースされる「FLEHMEN」の録音がすごくいいなと思ったんです。宅録なのにどうやってこんないい音を録れるのかすごく気になって。1曲目の「VEDEM」から、ウーリッツァー(※アメリカのオルガンメーカーが作っているエレクトリックピアノの種類)の空気感がすごく気持ち良くて。
ありがとうございます。でも、あの音はなんの加工もしてないんです。一応僕、MACKIEっていうミキサーを通して録音をしているんだけど、ミキサーにラインを直接つないでるだけ。コンプレッサーで音を揃えたりはするけど、特殊なエフェクトは何もかけないんです。ウーリッツァーは生の音に味があるから、なるべく元の音をいじりたくないというか。
──優しいけど、パンチが効いてる音ですよね。ウーリッツァーもそうですけど、持っている楽器も機材も、僕からしたらうらやましいものばかりで。
あはははは(笑)。でもね、僕のスタジオにある機材って、基本的にアマチュアユースと変わんないようなものばかりなんですよ。音響の雑誌が興味を示さないくらいの普通の機材ばかりで。メインで使ってるレコーダーはEDIROL(※ローランド社が販売しているレコーダー)だし、キーボードも堀江(博久)くんのお下がりだし。
──もっと凝った機材を使ってるのかなって思ってたんですけど。
全然! 基本的にアウトボードとか使いたくないんです。なんでかっていうと、曲を作りながらその場で録るから。機材トラブルがあると、作業が止まっちゃうじゃない。そうするとアイデアも忘れちゃう。だからなるべく余計なトラブルを避けたくて。
デモの空気をリスナーに届けたい
──僕、宅録の人って大きく分けると2種類いると思うんですよ。最初からしっかり録った上で、さらに本番でもう1回録り直すという場合と、作曲しながら録ってそれがどんな状態であっても作品とする人と。高桑さんは後者なんですね。
というか僕の場合、デモが存在しないんですよ。ある意味、デモがそのまま作品になっているというか(笑)。澤部さんはどっちですか?
──曲にもよるんですけど、一発で録ったものが完成しちゃう場合もありますね。ただ、宅録と並行してバンドもやってるんで、バンドの曲は1人で録ったあとでメンバーに渡して焼き直します。
僕もそう。バンドやってるときは、家で作ったものがいわゆるデモだった。それをメンバーに聴かせてアレンジしていくっていう方法をとってたんだけど、その頃から自分で作るデモの雰囲気が好きで。デモって最初に思い付いたアイデアが詰め込まれてるでしょ? だからもう1回焼き直したり、録り直したりすると全然違うものになっちゃう。
──純度が変わってきちゃうんですよね。
そうなんです。デモの純度ってすごいんですよね。僕はいろんなアーティストのサポートもやってるんですけど、レコーディングにあたってデモ音源が送られてくるんですよ。で、デモを聴くとすごくいいんです。思い付いた瞬間の音が記録されてて、音色が整ってるとかいう次元を超えてる。そういう空気感をリスナーに届けたいと思ったのがCurly Giraffeを始めるきっかけだった。初期衝動をどれだけ音に定着できるか、っていうのがテーマというか。それで僕、宅録派なんですよ。
──なるほど。僕もデモはすごいことになってるんですよね。あとで聴いてみるとどうやって押さえたのかわからないコードが入ってたりして(笑)。
そうそう! 思い付いたときに衝動でやってるから、あとから冷静に聴いてもどうやって弾いてたのかわからない。でも、それをあとから拾おうと思うと別物になってしまう。ケガの功名じゃないけど、たまたま録音した音が、部屋の中にあるほかの音と共鳴して化学反応を起こすこともあるし。そういう偶然も含めて宅録を楽しみたい。
CD収録曲
- VEDEM
- Rose between two thorns
- go now
- Rootless wanderer
- Enchanted road
- Midnight explorers
- Baron Nishi and Uranus
- Necessary evil
- Just barely
- a week
- seize and howl
Curly Giraffe(かーりーじらふ)
2005年10月にタワーレコード限定EP「Curly Giraffe e.p.」をリリース。翌2006年4月に1stアルバム「CURLY GIRAFFE」を発表し、ノンプロモーションにもかかわらず外資系CDショップやiTunes Storeなどでロングヒットを記録した。2009年4月に3rdアルバム「New Order」をリリース。同年10月にはBONNIE PINK、新居昭乃、平岡恵子、安藤裕子、Chara、LOVE PSYCHEDELICO、Cocco、木村カエラという8組の女性アーティストがCurly Giraffeの楽曲をカバーする企画アルバム「Thank You For Being A Friend」が発売され、大きな話題を集めた。作曲、演奏、録音、アートワークなどを1人でこなし、ライブでは白根賢一、堀江博久、名越由貴夫、奥野真哉といった実力派アーティストとともにセッションを展開。これまで発表された楽曲はすべて英語詞で歌われており、海外でもリリースされている。2012年3月にSPEEDSTAR RECORDSよりアルバム「FLEHMEN」を発表。
澤部渡(さわべわたる)
1987年12月生まれ、東京都出身。14歳より宅録活動をスタートさせる。これまでに、スカート名義でアルバム「エス・オー・エス」「ストーリー」などを発表。また、サポートメンバーとしてyes, mama ok?でベース、川本真琴のバックでサックス、昆虫キッズでパーカッションおよびサックスを担当するなどマルチプレイヤーとしても活躍している。