カーリングシトーンズ 寺岡シトーン×トータスシトーンインタビュー|転がり続ける6人の“ならず者” 渾身の1stアルバム完成

理屈を超えたマジック

──そうして6人でガッツリとやることになり、それぞれが新曲を作って持ち寄ろうと?

寺岡 デビューライブの3カ月前……6月の時点ではまだ何も決まっていなくて、そこから「1人1曲ずつは書かない?」という話を僕がして。そうすると、マックス6曲。あとはそれぞれの持ち歌やカバーとかをやりつつ、世良公則さんにゲストで入ってもらえればそれでどうにか組み立てられるかなと思っていたんです。でも、バンド名まで決めたからには少しでも新曲が多いほうがいいんじゃないかという欲が出てきまして。トータスくんは結局3曲作ってきてくれたし、僕もリーダーの責任として4曲用意しました。

──今回のアルバム「氷上のならず者」には1人2曲ずつ作曲した曲が入っていますが、ライブではアルバム未収録の「カリフォルニア」という曲なんかも演奏していましたよね。

寺岡 そう。アルバムは1人2曲という縛りだったのでこぼれましたけど、そういう曲がほかにもあるんです。

──新曲を作る際、お題のようなものを出したりはしたんですか?

寺岡 いや、そこはもう自由に。

──そのわりには笑える曲もあるし、グッとくる曲もあって、すごくいいバランスだなと思ったんですよ。

トータスシトーン(Vo, G, Dr)

トータス 偶然が重なっていいバランスになったんやろな。僕はバンドの1stアルバムに駄作なしって思っているんやけど、そういう1stアルバムならではのよさが出ているなってすごい思う。

寺岡 マジックだと思うんですよ。ノーコンセプトで始めたけど、できるべくしてできた新曲であり、できるべくしてできた1stアルバムで、そこにはいろんな理屈を超えたマジックが起きていたんじゃないかなって気がするんです。

──なんといっても皆さんが自由に楽しみながら作っている。それが大きかったんでしょうね。

トータス そうそう。それと、アルバムのためじゃなくてライブから始まった音源作りだったことも大きいと思う。本来、バンドマンはライブで演奏するために曲を作るわけじゃないですか。いつの間にかそれが逆転して、アルバムを作るために曲を書いて、それから発表会をするっていう順番が普通になったけど、アマチュアの頃は僕らも誰に頼まれたわけでもないのに曲を作ってライブで演奏していたからね。そういう順序で作った曲たちやから、アルバムも生き生きしてるんちゃうかな。

──ちなみにトータスさん、カーリングシトーンズの曲を書くにあたっては、当然このメンバーで演奏することをイメージしながら書くわけですよね。ウルフルズのために書くのとでは、脳の使い方も違ってきますか?

トータス これはウルフルズ用、これは発注受けた誰々用というふうに器用に分けて作れるほうではないから、方法としてはウルフルズの曲作りのときと一緒やったけど、ウルフルズの曲を作るよりも気が楽やなっていうのはあった。僕が細かく作り込んでアレンジはこうしたいとか言わんでも、あれだけのメンツがおれば、ポンと投げただけでうまいこと形になる。だから歌詞もメロディも楽に作ったところはあったね。

寺岡 意外とそういうほうがいい曲に仕上がったりするんだよね。

トータス そうなんよ。僕の場合、ウルフルズとしてシングル用の曲を作るとかタイアップの曲を作るとなると、肩の力を抜いてやろうと思っていてもどうしても“ウルフルズの”ってことを意識してしまって出口が狭くなる。出口が狭いと細い水しか出えへんけど、広げとけば水はドバーっと出るじゃないですか。シトーンズの場合は出口が広いんよ。出口がユルユルに開いてる。だから思いついたことをそのままザバーっと出す感じで書くことができた。

寺岡 トータスくんに限らず、おそらくみんながそんな気持ちで曲を書いていて、その結果として言葉がシンプルで覚えやすい曲ばかり集まった気がするんです。そんなに深く考えないで曲を作っている。でもテキトーかというと、テキトーではない。普段思っているようなことがシンプルな言葉として出てきて、だからこのアルバムは覚えやすい曲ばかりになっていると思うし、ちょっとふざけた感じでも意外とメッセージが刺さる曲になっていったんじゃないかな。

“テキトー”な合宿レコーディング

──レコーディングはどういった感じで進んだんですか?

寺岡 アルバムを出そうという話になったのは今年に入ってからなんですけど、じゃあどうやって作るかってなったときに、ここ(寺岡のスタジオ)で録ったデモテープの音源があるんだから、それを基本にすればいいじゃないかって話になって。使えるものは使おうと。だから6、7割くらいはデモテープの音源で、残りの3、4割を今年6月の終わり頃にみんなで3日間合宿レコーディングして、そこで仕上げた感じですね。

──合宿レコーディングはどうでしたか?

寺岡 いやもう、すごい楽しくて。去年のライブのリハーサルでも6人そろわなかったし、デモテープ作りのときもそろわなかったので、全員集まってレコーディングしたのは本当にその3日間だけなんですけど、3日間寝食を共にしたので。大人の修学旅行みたいな感じでしたね(笑)。夏休みに友達の家に行って好きなレコードを夜まで聴くとか、そういうことって昔はよくしたけど、大人になるとなかなかできないでしょ? でもそういう夏休みの残り香みたいなものを感じられるうれしさがあった。この歳になってこんな経験ができるとは思ってなかったですからね。

──皆さん、ちゃんと朝から起きて作業に没頭したんですか?

トータス 全然! テキトーです。起きてこない人とかいたし。

──誰ですか?

トータス わはははは(笑)。まあ誰とは言わんけど。あと、ずっと風呂入ってる人もいたな。昼寝する人とか、飲んでる人とか。

寺岡 そんな幸福な3日間がギュッと凝縮されて、いいアルバムになったということですよ。

トータス そう。ただ勘違いしてほしくないのはね、テキトーと言っても、根っからのテキトーとちゃんとやれる人のテキトーとは違うわけですよ。世間の人は「奥田民生ってなんだかテキトーっぽくやってるな」と思ってるやろうけど、めちゃめちゃ音にこだわりを持ってちゃんとやってる人が、ああやってテキトーそうにやるからカッコいいんであってね。そういう感じなんですよ、カーリングシトーンズって。みんなユルいんだけど、基本はピリッとしてるわけよ。

──なかなか起きてこなくても、朝から風呂入ってても、楽器を持ったらピリっとなる。

トータス そうそうそう。それをわかっているから、安心してみんなのことを見ていられるというかね。