「NEXT GENERATION NEXT CREATION」特集 箭内道彦×アタル(ハシリコミーズ)×有馬彩創(東京藝術大学)×福井尚基(サンヨー食品)インタビュー|「大人みたいなことはやらないでほしい」カップスターが若い才能たちに託す音楽&映像プロジェクト

カップスターもムシャクシャしている

──そしてハシリコミーズによる「本当の綺麗がわからない」という楽曲が生まれました。アタルさんとしては、この話が来てすぐに楽曲のイメージが湧いたんですか?

アタル そうですね……ちょっと失礼な言い方になるかもわからないですけど、僕は勝手にカップスターの置かれている立ち位置みたいなものに共感する部分があったというか。モヤモヤした気持ちを日々抱えていたので……。

──それは「一番になれない」ということに対するモヤモヤ?

アタル うーん……ちょっと失礼になっちゃいますけど……。

福井 大丈夫、大丈夫(笑)。

アタル ちょっとムシャクシャしてるわけじゃないですか。カップスターも。

一同 あははは。

アタル(ハシリコミーズ)

アタル 一番になれなくてムシャクシャしてるかもしれないけど、「周りからはあまり気付かれていない、隠れた部分の魅力みたいなところが俺ならわかるぞ」っていう気持ちがあって。

──なるほど。つまりそのモヤモヤを自分の歌として書けば、それがそのままカップスターの歌としても成立する確信が最初からあったんですね。

アタル 最初はもっとひどい歌詞だったんですけど……。

箭内 ひどくはないよ(笑)。確か最初の段階では歌詞の中に「お腹が痛くなる」みたいな表現があって、「それは食品の広告では使えないよね」という、広告業界特有のお作法からちょっと逸脱していた程度の話で。

福井 それも、別に「何かを食べてお腹が痛くなった」という文脈ではなくて、一般的な心情表現としてそういう言葉が使われていただけでしたから。「お腹が痛い」という1個の表現だけを切り出しちゃうと広告業界の常識として「ちょっとまずい」とどうしても思ってしまうんですが、個人的には「ちゃんと文脈を読み取りさえすれば、別に問題のある表現ではないのでは?」という気持ちもありました。

箭内 とはいえ、きちんと文脈で判断してくれる世の中ではなくなっちゃったし、今は切り出しの社会ですからね。でも、そういう「普通は言っちゃダメだよね」と最初からはじかれるようなものが上がってきてこその「NEXT CREATION」だから、そこが一番大事なところだと思うんですよ。「あれやっちゃダメ、これやっちゃダメ」で萎縮したものを作るのでは意味がない、と福井さんも先ほどおっしゃいましたけど、まさにそれが体現された形というか。

福井 そういう意味では、ちょっとジレンマがありますね。せっかく自由な発想でいいものを作っていただいても、大人の都合でどうしても直しを入れなければいけない場面というのは出てきてしまうので。

箭内 それでも、この歌詞はすごく深い真髄を捉えたものですよね。多少の修正は入ったとしても、全体の方向性を「それでいいよ」と言ってくれた福井さんたちは本当にすごいなと思います。普通だったら、まずこういう曲は通らないから(笑)。

“本当の綺麗”とは

福井 実際のところ、この「本当の綺麗がわからない」というテーマはどういう気持ちから生まれたものなんですか?

アタル そうですね……僕、喫茶店でバイトしてるんですけど、そこにやって来るお客さんの中に、きれいで優しそうな見た目なのにすごい乱暴な口調で接してくる人がいたり、逆に一見すごく怖そうな風貌の人が帰り際に食器を片付けやすいようにまとめておいてくれたりとか、そういうことがけっこうあるんですよ。学校でも、コミュニケーションが苦手であまり誰ともしゃべらないような子が話してみると実はめちゃくちゃ面白かったりすることがあるんですけど、周りからは「変なやつ」という印象だけで終わっちゃってたり。それってすごくつまんないなと思って。「絶対に響く場所があるぞ」という気持ちで書いたと思います。

福井 なるほど。僕らの世界で言うと、「本当の“おいしい”ってなんだろう?」と考えてしまうことがよくあるんです。「おいしい」という価値観も意外と相対的なもので、例えばカップスターにはカップスターなりの「おいしい」と言ってもらえる場所というのがあるわけです。一般的には“ごちそう”とは捉えられにくい商品ではあるんですけども、人によっては「あのときにすごく助けられた」というようなお言葉をいただくこともありまして。それに近い感覚なのかなと個人的には感じました。

アタル そうですね。同じような感じだと思います。

左から有馬彩創(東京藝術大学)、アタル(ハシリコミーズ)、箭内道彦、福井尚基(サンヨー食品)。

──そんな「本当の綺麗がわからない」をはじめ、今回制作された4曲はすべて尺がカップスターにお湯を注いでからできあがるまでの時間と同じ3分ちょうどに統一されていますよね。そもそも「3分ちょうどの曲を作れ」と言われたとき、アタルさんはどう思いました?

アタル 「マジか」と思いました。

一同 あはははは(笑)。

アタル そんな作り方をしたことがなかったので。でも、そう言われたからにはなんとかするしかないと思ってがんばりました。

──この4バンドの中で、一番そういうことが苦手そうなバンドだなと思ったんですけど。

アタル おっしゃる通りです(笑)。

箭内 実際、レコーディングでも最後ちょっとはみ出したりしてたよね。

アタル そうなんですよ。テンポを変えて演奏してみたり、いろいろ試行錯誤はしたんですけど、やっぱりベストなテンポでやりたいじゃないですか。だから終わり方を無理やりバツッと切れる感じにして……ちょっと強引だったかもしれないですけど。

箭内 3分間という縛りを設けたのはなぜかというと、例えば制服を着てたほうが人それぞれの個性が見えたりするじゃないですか。なんでも自由にするよりどこかは縛ったほうがいいと思ったし、その縛りに対して苦しんでる姿も面白いだろうと思ったんですよね。

福井 カップスターとのタイアップソングということで、どこかにガイドとしての統一感は持たせたいという思いがこちらにもありまして。そこに箭内さんから「3分間縛り」というご提案をいただいた流れでした。